提督の恋愛と欲求に関する事例 〜若しくは艦娘との愛ある日常〜 |
《1:如月》
僕が如月と出会ったのは提督として鎮守府に着任した当日、初めて目の当たりに
した艦娘が彼女だ、第一印象は「頭の回転が早くチャーミングな駆逐艦娘」だった。
そのとき、彼女に女性としての魅力を感じながら、そこから目を逸らしたのは当時の僕としては宜なるかなと思う。
通過儀礼としての警備兵の誰何が終わった。
あれが彼らの任務なのは認めるが、もう少し紳士的に振る舞えないものか。
憤慨しながら鎮守府の正門をくぐるとそこは予想より広く、幾重にも連なるスレート
屋根とクレーン、強い潮の香りが僕を迎えてくれた。
同時に徒歩で闇雲に歩き回るのはかなり厳しいと感じる、警備兵の案内を勢いで断ったのを後悔し始めた。
【「まいったな…案内はともかく自転車でもないかな」】
辺りを見回しながらそんな事を考えたが、自転車は警備兵のところにある。
【「うーん、まいったな、今さら彼らに頭を下げるのはな」】
頭を掻きながら方策を練るというか、正確に言えば途方に暮れていた。
「何か、お困りかしら?」
背後から少女の声、慌てて振り向く。
背丈は僕の胸の辺りだ130センチ程だろうか、細身の躰、大きな瞳、腰まである
ロングヘアーには可愛い髪飾りが目立つ。
その少女が僕の境遇と心中を見透かしたように話しかけてきた。。
「よろしければご案内しましょうか?」
もう出たのか…僕は『心の声』を本当に声に出してしまう癖がある、ごく希にだから
日常生活に不都合はないのだが困った癖だ。
「もしかして、みんな声に出てた?」
「はい、はっきりと、ふふふ」
「まいったな」
「これで三回目、あはは」
「怪しい人だとは思わなかったのかい?」
「警備兵さんが検分したんでしょ、なら安心よ」
「お仕事はちゃんとする人達だから」
「もう少し、人当たりが柔らかくてもいいかなとは思うけど」
「それに新任の司令官がいらっしゃる事も知ってます」
小首を傾げて人差し指を立てて答える仕草と的を得た意見、可愛さと怜悧さを
兼ね備えた少女だ、ならば…
「君は艦娘かな?名前は?」
「睦月型駆逐艦2番艦、如月と申します。お側に置いてくださいね?」
スラリと伸びた手脚、可愛らしい雰囲気、柔らかい物腰、そして甘い口調で紡がれ
る『お側に置いてくださいね』という言葉に少しドキドキしながら挨拶をした。
《2:比叡》
案内をしてくれた如月はその後も色々と世話を焼いてくれた、それに甘える形で
そのまま秘書艦に起用した、彼女は飲み込みが早く勘の良い艦娘で秘書艦と
して有能と言えた。
そんなある日、朝から如月の姿が見えない。
執務に不都合はないが、何か落ち着かない感じがして僕は散歩替わりに彼女を
探す事にした。
すぐに廊下でチェックのミニスカートに白い着物、頭には彼女が「電探カチューシャ」と呼ぶ髪飾り、
それを良く似合うショートカットに載せた艦娘を見つける。
「比叡、如月を見なかったかい?」
そう言って呼び止める。
「司令はいつも如月ちゃんを探してますよね」
「ええ!そんな事ないだろ!」
「冗談ですよ、そんなに慌てなくても」
アハハと笑いながら電探を起動する彼女は金剛型戦艦2番艦「比叡」
金剛4姉妹の先鋒として着任した。
作戦海域の万能選手である高速戦艦、だがそれを鼻にかけることがない気さくさと
面倒見の良さから今ではすっかり鎮守府の「頼りになるお姉さん」役だ。
「…演習海域にいますね、これ」
「あぁ、思い出した」
午前中は水雷戦の演習要員として駆り出されたんだ、届けも出ていた。
「へぇ〜、じゃあ寂しいですね〜」
悪戯っぽく微笑む比叡に真面目に問いかける。
「なぁ、僕ってそんなに如月ベッタリに見えるのか?」
「可愛がってるって感じですかね」
空気を読んで、比叡も真面目な顔になる。
「忌憚のない意見を言ってくれ、艦隊運営に不都合は出ていないか?」
「出ていませんね、公平性にも問題ありません」
「分析が早いね」
「分析は霧島の本分です、私は直感に頼ってます」
「分析の霧島、直感の比叡か」
「はい、その直感が言ってます『お二人はお似合いだ』って」
「如月は駆逐艦だよ?」
「はい、それが何か?駆逐艦も立派な艦娘ですよ?」
比叡の意見が聴きたくなり「続けて」と先を促す。
「金剛お姉様や榛名を見てると思います 『恋って良いなぁ』って」
「誰かを好きでいるって良い事ですね、その想いっていうか、それ自体が力になる
気がするんです」
「私の場合は金剛お姉様です」
「姉が対象なのは、どうかっていう人もいますけど、好きなものは好き、それでいい
と思います、相手が誰かとか立場がどうとか関係ないんです、大事なのは『好きだ』
っていう気持ちです」
「だから、司令も『誰かを好きでいる事』から逃げないでください」
「それがもしお互いに想い合ってるなら尚更ですよ」
なんだか話が変な方向に向かい始めている気がして口を挟む。
「いや、僕はそこまでは…」
「ごめんなさい、少しお節介でしたね」
「意見を求めたのは僕だ、気にしないでくれ」
「ありがとうございます、では失礼します」
比叡が一例して立ち去るが、廊下の途中で振り返って微笑みながらこう言った。
「司令は気が付いておられないだけだと思いますよ」
《3:五十鈴》
「では演習終了!お疲れ様!」
おつかれさまでーすの声、いそいそと帰り支度を始める駆逐艦娘たち。
「慌てなくても間宮が看板なんてことはないわよ、ふふ」
駆逐艦の厳しい上司にして教官役、優しい姉役でもあり、事が起これば自ら現場
の先頭にたって指揮を執る。
この鎮守府の水雷戦隊長を預かる、長良型軽巡2番艦 「五十鈴」、それが私。
「五十鈴さん」
声をかけてきたのは久しぶりに演習に参加した如月だ。
「どうだった?久々の実戦形式は」
「楽しかったです」
「秘書艦、頑張ってるけど、訓練も大事よ」
「はい」
「もしかして提督が見てなくて物足りない?」
「そんな事ないです…」
軽いからかい言葉にも正直に反応するのが微笑ましい。
「実は聞きたい事があるんです」
「私に?砲雷撃戦?それとも対潜哨戒?」
「あのぅ、司令官のことなんですけど…」
…嘘!なに、この恋バナの雰囲気!私には無理、無理!長良と名取は遠征中
だし、鬼怒と阿武隈と由良は未着任じゃないの、あなた達のお姉ちゃんはいま
大ピンチなのよ!
「お願いです!他の駆逐艦の娘には聞きづらいんです」
「あぁ、なんとなく理解したわ」
帰り支度が終わった村雨の背中を見て納得した。
如月の姉妹艦で着任済みの艦娘を思い出す、睦月、文月、望月、菊月…あとは
最近来た長月だっけ…睦月型にも適役がいないようね。
「解ったわ、帰り道でもいいわね?」
「はい!ありがとうございます!」
後方警戒の名目で隊列の後ろに二人で付く、これなら大丈夫だろう。
「で、なぁに?提督の事って?」
「みんな、どう評価してるのかしらって」
「どうって、上司としては…」
あぁ、そういう事じゃなくてか!
「大丈夫よ、あなたより提督を好きな艦娘はいないから」
カァァァって感じで耳まで赤くなった、図星だ。
「なんで…解るの?」
「バレてないと思ってたの?」
「はううう」
「執務中も楽しそうだし、休憩でお茶したりお食事してる時だって、ねぇ?」
「やあああ」
「一番の問題は当の提督本人が気が付いてない事かしら」
「うう…いえ、それは色々とまだ早いのかなって」
「なぁに?色々って何よ?」
如月がジトッとした視線を私の胸に向ける
「や!あんたねぇ!」
同じ艦娘とは思えない視線に反射的に胸を覆う。
「私も軽巡くらい欲しいなぁ」
「如月だって小さいほうじゃないでしょ、それに恋愛には関係ないじゃない」
軽空母の誰かさんが脳裏に浮かぶが、それは言っちゃいけない。
「『お金なんか邪魔なだけですよ』って言ってるお金持ちみたいです」
「なぁに?じゃあ提督は聳え立つ大山脈を求める登山家さんなの?」
「いえ、実は一度聞いたことがあります、思い切って」
「やるわね、あんた」
「火から顔が出るくらい恥ずかしくって」
両頬に手を当てて真顔で言う如月、この娘…素で間違ってる?
「逆よ、逆! でなんて?」
「『考えた事なかった、好きな女の娘のサイズが好みのサイズだ』って」
「なんだ、じゃあ心配する事ないじゃない」
「でも…色々と如月で良いのかしらって、駆逐艦が司令官を好きになっても…」
そういう事か、ちょっと解った。
駆逐艦コンプレックスとでも言えばいいんだろうか、自信が持てないんだ、胸の事
はともかく『色々』と自信がないから踏ん切りがつかない、悪く言えば理由をつけて
逃げているんだろう、おそらく。
「大丈夫よ、いつも言ってるじゃない、自分に自信を持てって」
「自信ですか?」
「そう、それが勝負では肝心だし勝利の秘訣」
「もちろん簡単じゃないのは解るわ、それに戦闘と違って訓練でカバーできるもの
でもないわよ、でも可能性を追求する事に関しては同じよ!」
「可能性…かぁ」
私は如月の両肩を正面からがっしりと掴む。
「そう!提督の秘書艦に相応しいのは如月しかいないんだから!」
「わかりました、頑張ります!」
《4:鳳翔》
先日の演習以来、如月が変だ。
いや、変というより距離感が近くなったというのが正解か、午前中の執務が推した
ため遅くなった昼食時間、貸切状態になった食事処間宮のテーブルで僕の向か
いに座って楽しげに鼻歌を歌う如月を眺めながら改めて思い出してみる。
パスタやシチューなどは大皿に盛り直して僕の分をよそってくれようとする。
カレーでやろうとしたときは慌てて止めたものだ、さすがに間宮が見かねて、
その手のメニューはかなり減った。
僕の好きな食べ物や嫌いな食べ物を逐一、メモに取る。
僕が「美味しい」といった料理のレシピを間宮に詳しく聞く。
先に済ませるように言っても僕と食事時間を合わせようとする。
そんな如月の行動は当然、一部の艦娘たちの好奇心を刺激した。
さっきも退席する村雨に「提督、そんなに仲良しなら『あーん?』してもらえばぁ?
ふんふ〜ん♪」と、からかわれる始末だ。
そんな事を考えていると昼食がやってくる。
「お代わりありますからね」と間宮が声をかけてくる、時間が時間なだけにまかない
料理に近いが、肉じゃがは味が染みてて美味そうだ。
あとはドミ抜きのメンチカツとコロッケにコールスロー添え、お新香に味噌汁。
「うん、やっぱりそれね!」
「如月?」
如月が肉じゃがを器用に一口分とり、手を添えて僕の口元に運んでくる。
「はい、あーん?」
「いや、村雨のあれはね…」
「あーんして?」
「いや、だからね…」
「あーん?」
如月の笑顔に不退転の決意と辞退を許さない妙な迫力を感じる、僕が食べるま
で「あーん?」を続けるだろうし、断るとなんだか取り返しがつかなくなりそうだ。
間宮が笑いをおしころして視界の端でこちらを見ているのは解っている。
ギャラリーが一人しかいないのが幸いだ、覚悟というか腹をくくる、ままよとばかり
に差し出された肉じゃがにパクリと食いつく。
「きゃん?」
「やった!」
「…間宮、あとで話があるから」
「えぇ〜?」
間宮が抗議と不満の声を聞えよがしに上げるが、これは箝口令を敷くべきだろう、
異論は認めない、固く決意する。
しかし、その光景をこっそり見ていたのは間宮だけではなかった。
「へぇ、如月ちゃんがねぇ」
「ふぅん、提督がねぇ」
居酒屋鳳翔で杯を重ねる比叡と五十鈴がそれぞれの話に相槌を打つ。
まだ大所帯とはいえない鎮守府、風通しを良くしようと有力艦同士が意見交換を
するのは珍しい事ではない、議題の方は…まぁ、あれだが。
「如月ちゃんの積極策は五十鈴隊長の指導でしたか」
いつもはビールの比叡だが今日はお銚子と御猪口だ。
「なぁに?その言い方」
いつもどおりビールの五十鈴、二人とも手酌だが自分の酒量は弁えている。
「からかってませんよ、私もあのくらいでちょうどいいと思います」
「比叡だって!ずいぶん派手に背中押すわね」
「でも、効果出てませんから」
「ねぇ、鳳翔さんは何か知らない?」
五十鈴に声をかけられ仕込みの手を止めたのは鳳翔型軽空母「鳳翔」、居酒屋
鳳翔の経営者、歴戦の強者にして心優しい全ての空母の母、他の艦娘にとって
も「お母さん」といって良い存在だ。
「提督と如月ちゃんですか?お似合いだと思いますよ」
「そうじゃなくて提督がさぁ」
「そうですねぇ…」
「何かあるんですか?鳳翔さん」
「いえ、村雨ちゃんも良いアシストだなと」
「あれがですか?」
「今の提督にできる精一杯があれでしょうから」
「あぁ、なるほどね」
「やるわね、あの娘」
「それも出来ないとなると、ただの甲斐性なしですけどね」
鳳翔らしからぬ辛辣な意見だ。
「二人の関係をすっきりさせたいのはみんな同じでしょう」
「荒療治になるかもしれませんが一計、案じてみましょうか」
「…荒療治って?」
五十鈴と比叡の問いには答えずに再び仕込みを始めた鳳翔が言った
「よかったら私に一切、任せてもらえませんか?」
『お母さん』にこう言われては比叡も五十鈴も、うんというしかなかった。
《5:出立》
「提督、お渡ししたいものがあります」
そう言って鳳翔さんから渡されたのは温泉への1名様4泊5日優待券だ、早秋の今の時期は閑散期なので手に入ったという。
鎮守府を空ける事に躊躇いはあるが着任以来半年、まともな休暇は取っていない。
「休める時に休まないのは軍人としても男性としても如何なものかと」
「手厳しいな、まぁ言い分に一理あるのは認めるよ」
「プレゼントだと思って、のんびりして来て下さい」
執務は心配だがもうそうそう教える事もない、最近は鎮守府も落ち着いて以前の
騒然とした感じはもう無い、小旅行気分で温泉に4泊5日でのんびり、旬の食べ物
と名物か…少し息抜きしても罰は当たらないだろう。
「わかった、久々に羽を伸ばしてくるよ」
大本営への休暇申請もあっさり通った、段取りが良すぎて引っかかるようにも思え
たが、久々の長期休暇と保養にあまり気に留めないうちに、出立の日が来た。
「司令官、お寝坊すると切符が無駄になるわよ?」
そう言って如月が起こしてくれる、私服に着替えながら衝立越しに荷造りをしてく
れている如月に留守番を頼む。
「困ったら比叡に相談しなさい」
「はーい」
「何かあったら遠慮なく携帯に電話してくれ」
「司令官も何かあったらお電話ちょうだい」
「うん、そうするよ」
如月や数名の手空きの艦娘の見送りで出発する、道中、何度か鎮守府に電話す
るが異常は特に無い、最後は鳳翔さんに「しっかりお休みするのが、今の提督の
お仕事ですよ」と窘められる。
到着後、すぐチエックインしてタクシー任せで観光へ。
初日こそ楽しめたが、二日目の昼過ぎくらいから一人で起床、一人で食事、一人
でお茶と本当に一人なのを実感すると不思議に寂しく思えてきた、最初は小さな
棘みたいなものだったが、大きな針になり、いまは釘のように刺さりっぱなしだ。
熟慮して出た結論は一つだけだ、そこから導き出された答えとそれが意味するも
のを否定したが無駄だった。
艶やかな長い髪。
大きなつぶらな瞳。
ラインの整った手脚
程よく肉感的な躰
耳に残る甘い声。
柔らかい仕草。
いつからか脳裏に焼き付いた如月の姿、気が付くと如月を探している。
比叡の「直感」が指摘する僕が気が付いていない事、僕が如月をどう思っている
のか、それを理解…というよりは再認識した。
その晩はよく眠れず、三日目は何をしても如月の事を考えていた。
早々にホテルの部屋に戻り、上着を脱ぐとポケットから携帯電話が落ちてきた。
鳳翔さんに言われ電源を切っていたのを思い出す。
着信は無い、メールはスパムだけ、留守電にも連絡はない。
やっぱり僕からか…しばらく迷ったが考えても仕方がない、どんな事でもいい、
如月と話したい、如月の声が聞きたい、思いきって電話をかける。
呼び出し音を5回ほど待つが誰も出ない。
「如月…」彼女の名前を呟いて電話を切ろうとしたとき、ノックとともにドアの向
こうから微かに電話の呼び出し音。
誰だろう?…まさか、ここにいるわけがない、だけど急いで扉を開ける。
そこにはポロポロと涙をこぼし、呼び出し音を響かせる携帯を握り締めた私服の
如月が立っていた。
「とりあえず部屋に入って、如月」
司令官は私を部屋に招き入れドアを閉めると嬉しくて泣いている私をギューって
抱きしめる、「如月…」って私の名前を愛しそうに呼んでくれる、私は胸いっぱい
で「うん、うん」ってお返事するだけ、少し息苦しいけど心地いい。
司令官の匂い、司令官の温もり、司令官の声、今はみんな如月のもの、側に司令
官がいるんだって思うと嬉しくなって、また泣き出しちゃう。
「まったく、可愛い顔が台無しだ」
「だっでだっで嬉じがっだの!」
微笑みながら司令は如月の涙を拭いてお鼻をかんでくれる、赤ちゃんみたい
で恥ずかしいけど悪くない、とっても大事にしてくれてるのが解る。
それに初めてちゃんと可愛いって言ってくれた、それが嬉しい。
「でも、どうしてここが?」
如月が落ち着いたところで何故ここにいるのかを尋ねる。
「えーっとねぇ…」
バツが悪そうに上目使いで親指と人差し指を合わせながら答えるには全て鳳翔
さんの発案らしい。
「二の句が継げないとはこの事だ、軍規違反の疑いもあるぞ!」
「お願い司令!鳳翔さんはそんなつもりじゃ」
「うん、それは解ってるよ、如月」
「もし…旅行中、電話が来なかったら…如月…司令のこと…」
そこまで言って涙ぐむ如月、もう一度彼女を抱きしめる。
「ごめん、責めるつもりはなかったんだ」
耳元に口を近づけてゆっくりとはっきりと告げる、伝えるなら今しかない。
「如月、君のことが好きだ、君に出会えた事を感謝してるよ」
如月が感極まったように息を呑むのが解る。
「君も同じなら僕を抱きしめてくれるかい?」
その言葉が終わらないうちに彼女の手が背中に廻って僕を抱きしめる。
「如月…」
「司令官、好きよ?大好き?」
如月が顔を上げ、そっと目を閉じる。
人差し指を彼女の顎に添え、軽く持ち上げて長いキスを交わす。
息が止まりそうな長いキス。
永遠かと思うくらい長い、長いキス。
剃り残しのおヒゲがちょっと痛いけど、それも嬉しい。
唇が離れると司令官の優しい笑顔、なんだか恥ずかしくってもう一度司令官に抱きつくと如月を胸の中に抱き寄せて頭を撫でてくれる、司令のナデナデは私達には
ご褒美だけど今はとても情熱的、片手が頭を撫でながらもう片方の手が背中から
お尻に下がっていく、司令の呼吸が少し荒くなっているのを感じる。
如月で興奮してるのね、嬉しいけどちょっぴり怖い。
「司令官…ちょっと待って」
「す、すまん!急いてるよな」
慌てて手を離す司令官。
「違うの、何ていうかお食事でもして落ち着かない?」
「如月も司令官となら構わないわ、だから勢いみたいじゃなく落ち着いて、ね」
「司令官、大好き?如月は何処にもいかないわ?」
《6:睦みあい》
夕食は二人の希望で向かい合わせではなく隣同士に配膳してもらう、その食事
は今まで食べたどんな食事よりも心に残った。
「はい、司令官 あーん?」
如月が差し出したお刺身を素直に頂く、昨日のものよりも絶対に美味しい。
「今度は司令官が如月にあーんして」
「はい、あーん」
「え!してくれるの?」
「そりゃあ、如月がして欲しい事ならね」
「司令官、大好きぃ?」
「でも鎮守府じゃ勘弁してくれよ」
「はーい」
食事が下げられて満腹感と満足感に伸びをすると、いつの間に如月がベッドに
ペタンと座って手招きをする。
「如月、司令官に膝枕してあげたかったの…良いかしら?」
「願ってもないね」
「ほんと!じゃあ、はやくぅ?」
自分の膝をぺちぺちと叩いて如月が催促する。
一瞬、ドキリとしたが…そりゃぁそうだ、早合点を恥ずかしく思いながら如月の膝に
頭を乗せ、力を抜いて頭の重さを預ける、如月の柔らかさを堪能しながら彼女の
香りに包まれる膝枕。
恋人よりも一歩だけ踏み込んだこの距離感が何とも心地良い、こういうのを至福の
ひと時と言うのだろう、微笑みながら如月の指が僕の髪の毛を梳く。
良かった、喜んでる、今まで見た事のない表情の司令官がとても可愛いわ。
「ねぇ、耳掃除いかがかしら?」
「…大丈夫なのかい?」
「失礼ね、睦月ちゃんで練習したんだから」
「睦月はなんて言ってた?」
「『怖いにゃしぃ』って」
おなかを抱えて二人で笑う、緊張が一気に溶けたみたい。
「じゃあ頼むよ」
「待って…、まだ…おさまん…ない」
クスクス笑ってると司令官が真剣な顔で如月を見上げる、キスされちゃうって何故
か解った。
少し頭を上げて如月に近づく司令官を髪をかきあげて迎えてあげる。
キスすると暖かいものが胸に流れ込んでくる、今は春の小川みたいにゆっくりした
リズム、でも司令官の次の言葉がその流れを一気に早くする。
「如月、一緒にお風呂に入らないかい?」
唇を離すと司令官が如月の頬を撫でながら、そう聞いてきた。
「どうかな?」
どうって言われても…
「イヤ?」
イヤじゃない、首を横に大きく振る。
一緒にお風呂…憧れる、でもお風呂って服を脱いで…そのぅ…裸になるのよね、
当然だけど。
水着で入ったり湯浴み着ってのがあるらしいけど用意がないし。
司令官のお願い叶えてあげたい!
私も本当は一緒に入ってみたい!
でも、でも…
如月、どうしたらいいの!
思い切ってお風呂に誘ったが…如月は困っているみたいだ。
正直に言えば、僕も人並みに女性経験はある。
初めての女の娘との経験はないが、そちらの知識もあるつもりだった、でも、まだ
急いているのだろう、今日は腕枕で眠るくらいで良いんじゃないか、そう思った。
「ごめん如月、無理しなくていいからね、じゃあお先に頂くよ」
タオルを肩にかけ浴室へ、大浴場でも良いのだが、いまは少しでも如月の近くに
いるべきだと思った。
浴室はゆったりとしている、バスタブも十分に大きく人造大理石で豪華だ、様々な
アメニティも気が利いている、情緒ある木製の手桶が温泉を主張してて面白い。
バスタブにぬるめのお湯を贅沢に満杯に張る、気兼ねなくお湯をこぼしながら
手足を伸ばす、しばらくするとカチャッと音がして、浴室のドアがうすく開く。
《続く》
説明 | ||
・サブタイトル「如月の電探(上)」 ・初めての二次創作にして初投稿作品です、その割に18,000字を越える分量になったため上下に分割しました。 注1:時間軸としては2014年2月14日以前 平たく言えば「ケッコンカッコカリ」実装前となっています。 注2:この「艦これ」世界では外見の如何に関わらず艦娘は「成人」と見なされます。 至らぬ所も多々あると思いますが、ぜひご一読をお願いします。 なお、某イラストSNSにも同名で投稿済みです。 |
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