【一発】BLOOD side-after【ネタ】 |
真夏に雪降る奇跡の夜。
闇すら紅く染める一夜限りの惨劇。
本来なら、蒼眼の少年が幕を引き、ひっそりと夜明けに消えていくだけの道化芝居。
しかしながら、そこへ正史には在りえざる特別出演者(ゲスト)が参加したことで、物語はifへと分岐する。
そのゲストは、未熟ながら魔道を知る者だった。
赤銅の髪に鉄錆色の瞳を持つ少年。
ただ巻き込まれ、だというのに見知らぬ誰かの為に血を流す。
他人の幸福の為に、己が身を削る事を是とする歪んだ思想の持ち主。
叶うことない、届くはずのない理想を得ようと直走る愚か者。
人外の脅威に曝されながらも悪運強く生き残り、雪原に辿り着いた想定外(イレギュラー)。
名を、衛宮士郎という。
亡き義父の後を継ぎ、正義の味方を目指す魔術使い。
その彼は今、満身創痍……否、半死半生といった有様で、学生服の少年の前に立っていた。
少年は片手にナイフを携えており、士郎の両の手には極端に柄の短い剣が一振りづつ握られている。
全身傷だらけの士郎と違い、少年の方は衣服にすら傷の一つも無い。
が、ナイフを弄ぶ少年の身体は半透明に透けて、僅かに昇ってくる朝焼けが向こう側に滲んで見えていた。
「チッ、もう時間切れか」
不意に、少年が不服そうに呟く。
そして、鋭い視線を士郎の“後ろ”に送りながら皮肉気な笑みを浮かべた。
「まぁいい。狩る予定の獲物を逃したのには不満が残るが、それなりに楽しめた。
元々が夢幻の存在だ。このまま無残に千切れて消えるさ」
僅かな未練を吐き出して、少年は言葉通りに霧散し消え去ってしまった。
後には、融けて消えいく雪原に立つ士郎と、その背に庇われていた白い少女だけが残る。
そう、士郎の背後には、銀髪紅眼の白いコートを纏った少女がいた。
先ほどの少年に殺されかけていた所に偶然出くわした士郎が割って入り、現在の状況へとなったのだ。
身を切るような殺意が目の前から失せ、朝日が昇ってくるのを視界に収めた士郎は、ようやくと息を吐いてその場に倒れこんだ。
剣はいつの間にか消えてなくなっていて、最早何処にも見当たらない。
「…………」
白の少女が無言のまま、倒れ伏して荒い呼吸を繰り返す士郎に近づく。
しばしの間、ボロボロの士郎を眺めていた彼女だったが、士郎の呼吸が落ち着いてくると徐に口を開いた。
「貴方、莫迦よね」
一応は命の恩人ということになる士郎に対し、あまりにもあんまりな台詞。
だが、その辛辣な一言には字面通りの侮蔑は含まれていないようで、士郎は特に不快とは思わなかった。
「事の元凶を庇うなんて、何を考えてるのかしら?」
心底わけが分からない、と疑問符を浮かべる少女の問い。
それを聞いた士郎は、しかし答えるべき言葉を一つしか持っていない。
「何をっ、て……女の子が襲われてたら、助ける……だろ、普通……」
途切れ途切れになる言葉で、なんでもない事の様に伝える。
例え、悪夢の夜を作り出した当事者だったとして。
士郎にとって、その命を救わない理由にはならない。
「普通じゃないわ、それ」
常識の適応されない状況では異質な士郎の善意に呆れ。
けれど僅かに嬉しそうに少女は言う。
そんな少女へ士郎はもう一つの、自分勝手な想いを告げる。
「それに……」
それに、知っていたから。
白い少女の目的。
鏡写しの黒い少女。
行動原理。ただ一つの願い。
そして、気付いたから。
モノの死を視る魔眼の少年。
吸血鬼になってしまった少女。
アトラスの錬金術師。
想い人の平穏を守ろうとする代行者。
幸せに暮らす真祖の姫。
一度は滅んだらしい死徒二十七祖の第十位。
紅い鬼。
狂気の血脈に抗う年若い当主。
魔眼の少年の姿をした殺人鬼。
一夜にして様々な出会いと死線があり、士郎はその中で己の非力と現実の無常を突きつけられ。
目を逸らし続けていた自己を認識した。
災害で焼け落ちた■■士郎の全て。
ガランドウの心。
満たしていたのは罪悪感と借り物の理想。
ただ綺麗だと思い、憧れた義父の笑顔。
自分も。そう考えて構築された継ぎ接ぎだらけの人間性。
劣悪な模造品。それが衛宮士郎の本質。
それでも。
たとえ借り物でも。
自分が偽物でも。
その理想だけは本物だから。
贋作はどうやっても贋作だけれど。
真作に迫り、超えることだってできるのだから。
だから、それを彼女にも知ってほしい。
成り代わる必要などないと。
キミはキミのまま生きていいんだと。
士郎はただ、それを伝えたかった。
「……少し、共感する所も、あったから」
「共感? 紛い物の私に?」
不快気な呟きと自嘲の色濃い疑問。
それらを一切無視して士郎は頷く。
「ああ、中身なんてないハリボテの心。憧れたものの真似をするただの贋物。
そんな俺だから、少しだけ、思うところもあった。
でも、キミはキミだから。あの子を消してその枠に収まるなんて、意味がない。
キミがキミとして生まれた時から、キミは自分の為の場所を、もう持ってるんだから」
黒い少女の使われていない部分。
それを元に、惨劇の脚本“タタリ”の残滓を利用して形を成した個。
それが白い少女の正体。故に、少女は己を紛い物という。
「私に……私の居場所なんてないわ。だって、私には主がいないもの。
いくら別個の存在になったからって、所詮は使い魔……それの残り滓のようなモノ。
楔がなければ、この雪原と一緒に消えてしまう儚いとも言えない化生なんだから」
士郎の言葉に強く反発することはせずに、諦めを口にする。
未練も後悔もあれど、士郎が殺人鬼の少年の前に立った時にはすでに力の殆どを失っていた。
今も辛うじて姿を維持しているだけ。
広大だった雪原も、その面積をもう僅かにしか残していない。
消えるのは時間の問題なのだ。
それでも、魔が差したと言うべきか。
白い少女はこの短い会合で、士郎の事を自分で思うより気に入っていた。
しかし、きちんと理解することはできなかったのだろう。
だからほんのちょっとの好意と、九割以上の冗談で言った独り言が存命に繋がるなど、思ってもみなかったはずだ。
「まぁでも、貴方みたいな人を主(マスター)にしてみても、良かったのかもしれないわね」
もう今更ではあるけど、と口にはせず呟いた少女はしかし。
「……いいのか?」
「……は?」
間の抜けた士郎の言葉に、こちらも少々間抜けな声を出してしまう。
「俺はてっきり、アイツ以外はマスターにしないもんだと……」
思い浮かべるのは少女が成り代わろうと狙っていた居場所。
黒い少女の主。蒼い魔眼の少年。
「ちょっとまって。
なに、貴方。まさか私と契約する気なの? 大した規模でなかったとはいえ、タタリを起こした私と?」
「そりゃ、キミがやったことは許されることじゃないかもしれないけど……だからって死ぬことはないだろ?」
「あ、貴方って……本当、莫迦みたいにお人好しなのね」
呆然と呟き、肩を落として溜息を吐く。
その姿は、見る人が見れば「ダメだコイツ、早く何とかしないと」と言っているように感じただろう。
ややあって、白い少女は士郎の頭を持ち上げるとそこに腰を下ろし、持ち上げていた頭を自分の膝の上に置く。
「それで、契約の仕方は知ってるの?」
「え? あ、いや……そういえば、知らない」
突然に膝枕をされてうろたえた士郎は、よくよく考えてみると肝心の知識がないことに愕然となった。
そんな士郎を、少女は意地悪な笑みを浮かべて眺める。
「だと思った。見るからに無知そうだものね、貴方。
いいわ。私から繋ぐから、貴方はただ私を受け入れてくれればいい」
「ん、わかった」
士郎が素直に頷くと、少女はその頬を両手で挟みこんで瞳を見合わせ。
「これからよろしくね、マスター」
慈しむような口付けを一つ、落とした。
説明 | ||
思いつきで書いたifモノ。 続きません。 |
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