魔術士オーフェン異世界編B〜キリランシェロの実力、暗躍する者〜 |
『泣く子と地頭には勝てない』ということわざがある。
『泣いてしまって聞き分けのない子供や横暴な地頭には従っておけ』という意味だが、キリランシェロは今まさにその状態だった。
(どうしたもんだか・・・)
キリランシェロを逃がすまいとしてか、キャロはキリランシェロの右腕を抱きかかえて歩いている。はっきり言って歩きづらい。
「あの〜、キャロ?」
「はい」
「別に逃げないからさ・・・放してくれない?」
「(ふるふる)」
(断固拒否されてしまった・・・)
がっくりと肩を落とすキリランシェロ。帯を握りしめて先行するキャロの小さな背を眺めてふと思った。
(この子も機動六課・・・って事は戦闘にも出ているってことだよね)
その事についてはキリランシェロには何も言う事はない。機動六課がどんな任務をしているのかは知らないが、キリランシェロもキャロくらいの年齢の頃にはすでに現在のチャイルドマン教室に在籍し、『塔』執行部―――エルダーの命で文字通り命をかけた任務を何度もこなしていたからだ。
(ここから逃げたところで行くあてがあるわけじゃないし・・・)
キリランシェロは一つの事を心に決めた。
「おお、キリランシェロ君。キャロ、お帰り」
結局キャロは、部隊長のはやての仕事部屋までキリランシェロを連行してきた。部隊長室ではやてに再会したキリランシェロだが、彼女の顔がニヤニヤしているのに気がついた。
「・・・なんですか、はやてさん」
「いや〜。キリランシェロ君、すっかりキャロになつかれてるやん。お姉ちゃん嬉しいで〜、そんな恋人みたいに腕組んじゃって」
「え?」
「あ、あわわわ・・・!」
キョトンとするキリランシェロとは対照的に『恋人』とからかわれたキャロは頬を赤くしてばっとキリランシェロから離れた。
(ま、恋人って言うよりは『カッコいいお兄ちゃん』やろけどなー。しっかしまーよく懐いとるわ)
「んで、キリランシェロ君。戻ってきたって事は、答えは出たって考えてもいいんやな?」
「はい・・・僕を、この機動六課に入れてください」
「キリランシェロ君には入局試験を受けてもらう事になるねん」
そう言って分厚い資料が手渡されて、5日後に指定された筆記及び実技試験に備えた。
筆記試験はなのはやはやてが忙しい合間を縫って勉強を見てくれたこともあったが、キリランシェロが優秀だったことも手伝って、なんの問題もなく通過した。
問題は同日に行われた実技試験で起きた。
「キリランシェロ君、初めまして。私は機動六課『ライトニング』分隊長を務めているフェイト・T・ハラオウン執務官です」
敬礼してきたフェイトは、今回の実技試験の内容についてキリランシェロに説明する。
キリランシェロには屋外訓練場でガジェットを模した敵と戦ってもらい、これを撃破してもらう。その戦闘時で格闘能力などを判定し、合否を決めるというものだ。
「これはウチの子達も普段から実践している訓練なんだ。キリランシェロ君も合格したらこの訓練も受けてもらうよ」
キリランシェロはこの世界に来た時の戦闘服を身にまとっていた。実技試験と言う事で、この世界で買った服を着ようとしたのだが「破っちゃいかんよな」と、ただでさえ着づらい戦闘服に着替えたのだ。
訓練場のグラウンドに入ったキリランシェロは、コントロール室から流れてくるフェイトのアナウンスに耳を傾けた。
『いまからガジェットタイプの敵を10体出現させます。制限時間は5分です・・・スタート!』
彼女の声とともに現れたのは―――
10体をはるかに超える300体の敵だった。
「んなっ・・・!」
圧倒的と言えば圧倒的な数に思わずぎょっとし、抗議の声をあげる。
「ちょっと!これ絶対10以上いるでしょ!フェイトさん!どうなっているんですか!?」
するとフェイトの方からも慌てた声が返ってきた。
『す、すみません!原因が全く分かりません!間違いなく10と入力したはずですが・・・キリランシェロ君、戦闘は中止です。引き上げてください!』
「いいえ」
キリランシェロは逃亡をあきらめざるを得なかった。光線と言う飛び道具を持つガジェット相手に逃げ切れるような魔術はキリランシェロには無かった。
「逃げる時間は無い―――」
スッと右手を掲げて魔術を構成する。
「これを全部叩きのめす!」
その言葉を呪文にして熱衝撃波を放ち、敵の前衛を打ち砕く。すかさず走り出すと、懐からスローイングダガーを取り出して敵に向かって投げつける。刺さったところで敵は痛みを全く感じないが、牽制程度にはなったようで刺さったガジェットが少し動きを止める。
キリランシェロを相手にその隙は致命的である。
「我掲げるは降魔の剣!」
掲げた右手に不可視のプラズマを伴った剣が発生し、それを振り下ろす。不可視の剣は敵をなぎ倒して効果を終える。
「ちぃっ!」
不可視の剣の効果が終わった後、隙をついて光線を放ってきたガジェットの攻撃を横っ跳びで回避。すぐさま立ち上がると、キリランシェロを囲むように展開してくる敵。脱出を図るキリランシェロは切り札を行使する。
「我は踊る天の楼閣!」
疑似空間転移。チャイルドマン教室の三大秘奥のひとつであるこの魔術を行使し、ガジェットの群れの中央から消え失せ、その一瞬後、キリランシェロは包囲網の外に現れた。
「すごぉい・・・」
コントロール室で観戦していたなのは達機動六課の面々は、キリランシェロが縦横無尽にガジェットの群れを飛び回り、打ち砕き、時には魔法陣を敷かぬまま転移をして見せる姿に目を奪われていた。
「彼・・・何者なの?デバイスを使わないで魔法を行使したり・・・あの戦闘センス、ただものじゃない・・・!」
フェイトも初めて自らの目で見たキリランシェロの実力に目を奪われていた。唯一キリランシェロの実力を生で見た事があるなのはもモニターに目を奪われていた。その姿はまさに―――
戦闘芸術品。
そう呼ぶにふさわしい物だった。
「我は放つ光の白刃!」
何発目かわからないが放たれた熱衝撃波がガジェットを打ち砕く。さすがにキリランシェロも大魔術を幾つか行使したせいか、肩で息をしている。
「ったく・・・いい加減多すぎるっての・・・」
ようやく残数も100体をきり、そこらへんに黒く焦げたり粉々になったガジェットが転がっているが、自分の体力もあまり余力はないことも自覚していた。
(決着をつけるか・・・)
再度大魔術を行使して一気に決着をつける決意を固め、複雑な構成を編み始める。
ちなみにキリランシェロは呼吸を整えるため訓練場のグラウンドに置かれた大岩に隠れており、(キリランシェロは制限時間5分と言うのを律儀に守っていた。時間に余裕があったから少し休んでいたのだ)周囲を窺いながら、岩陰から飛び出す。キリランシェロを発見したガジェットたちは一斉にこちらを向く。
「遅い!」
左手を掲げたキリランシェロは、魔術の効果を引き出すべく、叫ぶ。
「我が左手に冥府の像!」
その呪文と共にキリランシェロの左手に黒い物質が浮かび上がった。
(チャイルドマン教室の最秘奥の一つ―――『物質の崩壊』)
左手を振り下ろすと、黒い物質はガジェットたちに向かって進みだした。ガジェットたちはその黒い物質を何の脅威もないと判断したのか、回避策を取らずにそれを無視してキリランシェロを攻撃すべく光線を放つ。
しかしそれが致命的になった。
その物質はガジェットの一体に触れると消失し、物質が消えた瞬間、前触れもなくそのガジェットの体がほとんど抉り取られた。そして周囲が帯電し火花が空間で散り始める。そして、爆発。
「くぅっ!」
爆風にキリランシェロも巻き込まれる。爆風に転がされた彼は壁に叩きつけられる事で止まった。
「痛った〜・・・」
したたかに頭をぶつけ、こぶは出来ていないかと頭をさすりながら立ち上がる。そしてガジェットが存在していないのを確認すると、満足げに呟いた。
「狙い通り、かな」
「まじかよ・・・ガジェット300体が全滅だと・・・?」
スターズ分隊副隊長にして八神はやての守護騎士であるヴィータ三等空尉は攻撃対象全滅の報告に我が目を疑った。左右で別の映像が映し出されている大型モニターの右には粉々になったガジェットたち。左の画面にはフェンスにもたれかかっている自らの主よりも年下の少年の安堵の笑み。自分が指導しているスターズの2人と同い年ぐらいの少年が、この圧倒的な状況を生み出したというのか―――?
「ありえねぇ・・・」
なのはの話によると、この少年は本物のガジェットとの戦いでもAMFを無視して魔術の行使を行い、またたく間に蹴散らして見せたらしい。ヴィータは半信半疑だったが、この圧倒的な実力を前にしては認めざるを得なかった。この少年は強いと。そして―――
(なぜ300体も出てきたんだ?)
フェイトは確かに10体と入力したという。それなのになぜ―――?
「失敗したか・・・」
「うむ。あの魔王を異世界に追いやったのはいいが、戻ってくる確率もゼロではない。早々に手を打っておかねばな・・・」
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第三弾です。 | ||
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キリランシェロは十三使途の試験を受ける直前位ですかね?完成っぷりからみて。(sion) | ||
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