紫閃の軌跡
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〜王都グランセル 遊撃士協会 グランセル支部〜

 

休業中とはいえ、折角ということなのでグランセル支部の建物に入ったアスベル。すると、受付にいる青年―――エルナンがアスベルの姿に気づいて声を掛けた。

 

「おや、アスベルさんではないですか。先月のエレボニアでの活躍は聞きましたよ」

「お久しぶりです、エルナンさん。というか、活躍って……サラ教官にでも聞いたんですか?」

「ええ。正直アスベルさんやシルフィアさん、レイアさんが抜けた穴は大きいですが…エステルさんやヨシュアさんがクロスベル支部から戻りましたし、それにレンさんも協力してくれていて、助かっています」

「ま、あの三人は何だかんだ修羅場は潜り抜けてますからね」

 

現状、リベール王国所属のS級遊撃士三人が国内にいない穴は大きいものの、カシウス・ブライトの身内ということで先程エルナンが挙げた三人…とは言っても、遊撃士協会が定めた年齢条項の関係でレンは協力員ではあるが、忙しいということはその言葉からも伝わった。

 

「それで、レンさんに関してはアスベルさんやシルフィアさん、シオン―――シュトレオン王子の前例から鑑み、国内八支部の同意を経て近々正遊撃士の申請を行うつもりです。そのあたりは総本部からもいい返事が頂けましたので」

「準遊撃士をすっ飛ばしてですか…総本部も大分破格の対応ですね」

「一人でも有能な人材を確保したい、ということなのでしょう。現状、エレボニア帝国の活動状況は壊滅的ですので。それに、レンさんの技量は私自身経験したようなものですから」

 

『お茶会』事件もそうだが、総本部としては過去の経歴がどうあれ、有能な人材を確保したいという意図が見え見えであり……リベールの全八支部の意向としても過去の特例を鑑みた上で近々打診を行うとのことに、アスベルはため息を吐いた。尚、エステルとヨシュアに対してS級昇格の打診が来ていたが、それを嘘は言っていない理由で固辞したことも耳にしているが、その理由にはどう反応したものか困ったアスベルだった。

 

「それはともかくとしまして……偶然とはいえ、アスベルさんに来ていただいたおかげで、手間が省けました」

「? カシウス中将が無理難題吹っ掛けたとかですか?」

「そういうことではありませんが……実は、ジェニス王立学園の在学生にエレボニア帝国出身者がいまして、『実家の都合』もあってトールズ士官学院に転校ということになるらしいのです」

「……まさか、Z組に転学するってことですか?」

「えと、カシウスさんから聞いた話からすると、そうなるみたいで」

 

エルナンがカシウス中将から聞いた情報がそれが精一杯のようで……ただ、この時期に転学ともなると十中八九平民とは思えない。平民の可能性は0ではないにしろ、現在のエレボニア帝国の情勢―――“貴族派”と“革新派”の対立を鑑みれば貴族の可能性がかなり高い。何故だかそれがまた新たな問題を呼び込みそうで不安に思うアスベルであったが、息を整えた後でエルナンの方に向き直る。

 

「で、どこに迎えに行けばいいんです? まさか直接学園に行けとか言いませんよね?」

「流石に実質休業中のアスベルさんにそれをお願いするのは酷だと解っています。なので、皆さんがリベールを出発する日に合わせて、『カレイジャス』に同乗してもらう運びとなっています。その際の同行は別の方に既にお願いしてあります」

「……珍しいですね、向こうから迎えを寄越すのは」

「どうやらオリヴァルト皇子殿下の意向だそうです。それに、先月の礼もあるのかもしれませんね」

 

その当人と合流するのは出発日の朝―――つまり明日となる。それを聞いたアスベルとしては、心配事が先延ばしになったことを喜ぶべきなのか困惑する心境であった。それもそうだが、エレボニア帝国に譲渡したアルセイユ級巡洋艦『カレイジャス』での迎えということには流石に目を見開いた。まぁ、何度もリベール側に迷惑をかけた以上下手なことはできないというトールズの現理事長の意向もあるのだろうが。

 

 

〜グランセル城 客室〜

 

トールズ士官学院へ帰るのが翌日へと迫った……夕食の後、アスベルはZ組の面々を集めた。流石にサラ教官のような意地悪をするわけにもいかないし、自分の所属するクラスの雰囲気を壊すような事態になるのも困るという思惑もある。無論、呼ばれたこと自体解っていない面々が圧倒的に多く……最初に口を開いたのは、アリサであった。

 

「アスベル、皆を集めてどうしたのよ? いつもならこんなことをしない貴方が珍しいじゃない」

「珍しいって……まぁ、そうしてる自覚はあるけどな。もったいぶるのは性分じゃないから話すけど、Z組に新しい面子が増える」

「え……」

「ひょっとして、サラ教官から?」

「いや、今回は王国側というか、ジェニス王立学園にエレボニア帝国出身者がいてな……」

 

アスベルは現状伝えられた情報をZ組の面々に話す。ただ、その詳細の情報はアスベルですら知らされておらず、限られた情報では困惑する人間が出てくるのは当然の流れであり

 

「情報がそれだけって……でも、Z組に入るってことは<ARCUS>の適性が高いってことだよね?」

「無論そうでないと話が合わないからな……俺の推測だとすると、多分貴族の可能性が高い。流石にシオンあたりに聞かないと解らないことではあるんだが」

「フン、そこまで情報を隠すとなると、俺やリィンの様な格式の高い貴族の子息という可能性もあるな」

「ははは……」

「また貴族が増えるのか……」

「あくまでも可能性だよ、可能性」

 

とはいえ、そこら辺の情報をキッチリと言わないあたり、現状リベールにとって無視できない存在に関わっているのかもしれないと思うと、アスベル自身冷や汗が流れた。それはルドガーや一部の面々も同様の様子であった。

 

「しかし、そういうことならば真っ先にサラ教官に伝えるべきことだとは思うが……アスベルに伝えたということは何かあったりするのか?」

「ラウラ、それは俺も思ったけど、その言葉自体嫌な予感にしかならないから…」

「で、大体そういう時に限ってフラグになったりするよね。アスベルの場合」

「フ、フィーちゃん!」

 

つくづくあの家系に生まれたことに、気苦労が絶えないのは解っていてもため息を吐きたくなるアスベルだった。そんなこんなで翌日の朝……

 

 

〜グランセル国際空港 国際線〜

 

国際線の乗り場には既に深紅の飛行艦―――アルセイユ級巡洋艦『カレイジャス』が停泊し、Z組の面々を待っていたかのように姿を見せたのは、今やエレボニア帝国にとっては話題の人物の一人でもあるオリヴァルト皇子その人であった。

 

「やあ、リィン君にZ組の諸君。バルフレイム宮以来だね…ああ、ちなみに今回宰相殿はいないからリラックスしてくれたまえ」

「はは……」

「あの、流石にそう言われましても」

「やれやれ……ところで、殿下は今回の同乗者―――転入生の件については?」

 

いつもの調子で話すオリヴァルト皇子にZ組の面々は畏れ多いような心境を抱えているため、これでは話が進まないと判断したのか、アスベルがエルナンから聞いた転校生に関して尋ねる。すると、オリヴァルト皇子は疲れたような表情を浮かべた。

 

「いやー、正直僕自身もその子には驚いたさ。ARCUSの適性は問題なかったから無碍に断るわけにもいかなくてね。サラ君やラグナ君らには既にその話を通してあるよ…でも、それだけだと不安だったから、カシウス殿を通じてアスベル君に話をしたというわけなんだよ」

「……ちょっと待て。その言葉で大体の予測がついたんだが……まさか<五大名門>の子ってことか?」

「―――すみません、お待たせいたしましたオリヴァルト殿下」

 

彼の言葉を聞いて問いかけたアスベルであったが、その答えが返ってくる前に聞こえてきた透き通るような少女の声。その声にオリヴァルト皇子のみならず、アスベルやリィンらも振り返ると……まるで清廉さを形にしたかのような雰囲気を纏いつつも、スタイルは同年代の平均以上―――この中だとエマに匹敵しうるほど。そして黄金を思い起こさせるような長い金髪を持つ少女は静かな足取りでオリヴァルト皇子の前に立った。

 

「おや、約束の時間より15分早かったね。もうすこしゆっくりしていてもよかったのだよ?」

「いえ、流石にこれから共に学ぶクラスメイトの方々を待たせるわけにはいきませんでしたので」

(ユーシス、知ってるか?)

(いや、見たことはない……そう言うということは、リィンですら知らないのか?)

 

先程の歩き方一つとっても、紛れもなく貴族の格式が高いことは見て取れたが、リィンはおろかユーシスでも知らない人物というのには、流石に首を傾げる。そしてオリヴァルト皇子とその少女のやり取りが一段落すると、少女はリィン等の方を向く。

 

「そうか……さて、せっかくだから自己紹介するといい」

「はい。アーシアレイン・ド・カイエンと申します。流石にフルネームは長いので“アーシア”とお呼びください。Z組の皆さん、宜しくお願い致します」

「え、カ、カイエンってことは……」

「リィンやユーシスと同じ<五大名門>の……!?」

 

その少女―――アーシアの自己紹介を聞いた面々は驚きに包まれている。そんな中、アスベルはオリヴァルト皇子の隣に移動し、小声で話しかける。

 

「……成程、どうにも戸惑いがちだったのはこれが理由という訳ですか」

「察しが良くて助かるよ。ああ、それと学院に帰ったらさらに転校生が増える運びとなっている。まぁ、理事長の立場としては仲良くしてくれたまえ…という他ないが」

「あー……『そういうこと』ですか」

 

“原作”の事からすればこの後の流れは予想できていたものの、彼女という要素からしてZ組という存在を双方の派閥が気にかけているということにため息が出そうであった。ともあれ、彼女も自己紹介したのだから他のZ組の面々も自己紹介する運びとなったのだが………最初に自己紹介したリィンの時に

 

「え、ひょっとしてエリゼさんの身内の方ですか?」

「ああ、義理の兄妹にはなるんだけど……」

「―――お会いできてうれしいです、リィンさん!」

「ええっ!?」

「む……」

 

満面の笑顔を浮かべてリィンに抱きつくアーシア。これには流石のリィンも困惑の表情を隠せず、ラウラも思わずジト目でリィンとアーシアのやり取りを見ていた。まぁ、流石にエレボニアの皇族がいる前で剣を取り出すのは宜しくないと思いつつ、婚約者の側としては面白くないといった様子だ。

 

で、そういう行動に至った理由はというと……端的に述べれば『一目惚れ』。どうやらエリゼとはルームメイトの関係で、エリゼがリィンに宛てて手紙を書いていたところをアーシアに見られ、その流れで家族の写真やらリィンの人となりを聞いていた、とのことらしい。その過程でエリゼがため息をつく光景が目に浮かび、思わず心の中で祈りたくなったほどだった。

 

「す、すみません。実際にお会いできてあまりにも嬉しかったので……改めて、宜しくお願い致します」

「あ、ああ。こちらこそよろしくな、アーシア」

「―――で、ラウラ。貴女はどうするの?」

「まぁ、エリゼが渋々認めたのだとは思う以上、どうこう言うつもりはない…エリゼの苦労が偲ばれるが」

「リィンの奥さんになる人は苦労するだろうね」

「フィーちゃん、それは最早遅いと思うよ」

「あははは……はぁ」

 

現状片手どころか両手になっているであろうリィンの花嫁候補……『英雄色を好む』とはよく言ったものだが、正直笑いごととは言えない人も中にはいる。その候補というか確定事項に近い人物達の感想は

 

「で、アスベルさんや。君の感想を聞こうっ」

「他人事じゃないから、ノーコメントで。そういうルドガーだって人の事は言えないだろうに」

「……はぁ、いつかあの上司、本気ではっ倒す」

「やれやれ、ルドガー君のことはあの時に聞いたけど、本当に大変だと思うよ」

 

互いに上司とも言える人間から外堀を無理矢理埋められている以上、その状況に対して厳しいとは解っていても足掻きたい。人並外れた実力者でも悩み位はあるのだと、彼らの様子を見たオリヴァルト皇子は率直にそう思った。かの御仁にも悩みがあるのかどうかは甚だ疑問に思ったのだが……

 

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というわけで、唐突にオリキャラでございます。流石にあの御仁に跡継ぎなどがいないと話が釣り合わないと思ったので……で、このキャラの事に関しては次回にて語りますが、色々キーポイントを抱えている子でもあったりします。

現在の懸案は、この子の得意武器決めてないこと(ぇ

説明
第89話 悩みの種はまた一つ
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コメント
感想ありがとうございます。 ジン様 カイエン公だけトールズに関わりがないのもアレかと思ったのでw 武器に関してはしっかり吟味したいと思います。 リィン絡みは何とかして頑張ります。(kelvin)
おお!セリカの代わりにリィンのヒロインになるのがまさかのカイエン公の娘とはビックリですね!さてはてあとはリィンの覚醒?進化?が楽しみですね^^あとは武器に関してはレイピアでSAOのアスナのような戦い方でいいんじゃね?(ジン)
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閃の軌跡 神様転生要素あり ご都合主義あり オリキャラ多数 

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