獣化なんてイヤッ!2 |
私の家系はご先祖様が妖怪を退治した際に受けた呪いのせいで、「体の特定の部位」を「他人に触られる」と「動物に変身」してしまう不幸過ぎる体質を持っている。いや、この体質を不幸だと思っているのは私だけだ。私以外の家族はこの獣化体質を楽しんでいる。
去年のクリスマス。私が初めて人と獣の中間の姿――獣人に慣れた日、私は人生で初めて失恋した。今まで自分の獣化部位のことを考えると恋愛に積極的になれなかった中で、初めてできた彼氏だったのに……私は自分のこの体質が憎い。ずっと憧れていたキスという行為が、失恋の引き金を引いたという事実は、今後、私の人生の中でトラウマになりそうだった。そう、私の獣化部位は「唇」。他人に唇を触れられると私は獣化してしまう。キスなんてトンデモナイ事だ。私はこの獣化部位のせいで、きっと普通の女の子よりもキスに対する憧れが強い。でももう、しばらくは恋人はいらないと思った。
あれから三カ月。今は春休み真っ只中。私は無事大学受験に合格し、高校を卒業した。苦い思い出の残る高校生活を一刻も早く忘れたかった。しかし、まさか卒業式にイベントが起こるなんて思ってもみなかった。これは神様の悪質なイタズラかもしれない。私は卒業式の後、同じクラスの男子に体育館裏に呼び出され、告白を受けた。私は突然のことでうろたえ、冷静な判断ができなかったが、彼は「少しの間考えて」と言葉を残して去っていった。
告白から二週間が経った。今日はその答えを出さなければならない。彼からデートの誘いが来たのだ。私はあまり乗り気じゃなかったが、このままウジウジしていては新しい大学生活を始められそうになかった。
「おひさ」
「おひさ……」
待ち合わせ場所で彼と会う。私は内心すごく驚いていた。クラスでは真面目で地味だった彼が金色に髪を染め、カジュアルな服を着ていた。何というか……結構カッコ良かった。私は断るつもりでこのデートに臨んだのに、先制パンチを喰らわされた。何だかドキドキする。
私と彼は一緒に歩き出した。デートは遊園地。ジェットコースター、お化け屋敷、観覧車、機関車、鏡の館、メリーゴーランド……彼が積極的に乗り気でない私を引っ張り、私は付いていくだけだったが、様々な乗り物を乗っていく中で私は純粋に楽しみ始めた。
「ひゃー、ウルトラサンダーコースターは怖かったよぉー」
「あはは。あれは俺も目を開けてられなかったよ」
会話が弾む。気が付くと私は笑顔で彼に話しかけていた。楽しい。私はそう感じていた。
時々休憩を挟みながら次々とアトラクションを攻略していく。この状況は誰がどう見てもデート中で、私と彼の関係は恋人だろう。心がくすぐられる。失恋の痛みが和らいでいく。私は自分の心の変化に戸惑いながらもそれを受け入れていこうかと思い始めていた。
「いいのかな?」
「ん?」
「な、何でもないよ」
自分に対する問い掛けを口に出してしまい、慌てて両手で口を覆った。彼はそんな私を不思議そうな目で見ていた。
「まだ、時間ある?」
「えっとぉ……うん」
太陽が沈み、すっかり夜になった。彼は帰る時間のことを気にしてくれているようだ。断るなら帰らなければいけないと思う気持ち半分、このまま帰らなくてもいいと思う気持ち半分。私の心の中で二つの思いが拮抗していた。
「それじゃあ、最後のパレードまで見ようか。付いて来て。いい場所を知っているんだ」
彼はそういうと私の手を掴んで引っ張りだした。手を繋ぐ形になる。でも、彼は私の方を振り返らなかった。私は彼の下心を見せない接し方に好印象を覚えた。繋がれるままに手を握り返す。彼は私が握り返したのに気付いたのか、一瞬ピクッと肩を震わせた。しかし、振り返らずに前を向いて私を導いていく。
「やっぱり、葉山(はやま)君だぁ」
私はこういう行為に慣れていないだろう彼の頑張る姿が何だか可愛く思えた。
彼は手を繋いだまま人気のない場所へ私を連れて行った。ちょっと私は不安を抱いたが、彼のことを信頼することにした。
「ここは穴場なんだ。少しパレードの来る時間が遅れるけど、ここを必ず通るから」
「何でそんなことを知っているの?」
「それは……その……」
彼は面を食らったような顔になった。そう言えば今日のデートのスムーズな流れは、まるでここを知り尽くしたかのようだった。
「いろいろ……調べたから……」
私は遠慮がちに言う彼の言葉を聞いて、胸が高鳴った。葉山君なら、私のこの体質を受け入れてくれるかもしれない……
「あの――」
その時、賑やかな音楽が聞こえてきた。
「ほらね」
「う、うん……」
満足そうに微笑む彼。私は言いそびれてしまった。
夜のパレードはキレイだった。夜に光輝く装飾はよく映えた。私は目の前のキレイな光景に夢中になった。でも、それがいけなかった。
彼は私にそっと近付き、スッと短く私の唇にキスをした。これまでのデートの中でそういう素振りを全く見せていなかったから、私は油断しきっていた。
「ウソ……」
私はウソだと思いたかった。しかし、体は正直だった。
――ドクン
心臓が大きく跳ね、私の体が変化し始めた。耳が小さく丸くなりながら頭の上方へと移動していく。お尻の方がムズムズし始め、黄色をベースに黒い縞が入ったしっぽが伸びていく。手の内にはムクムクと肉球が出来始め、手が丸く太くなる。
「はぁ……はぁ……」
息が漏れる。初めての感覚。一体何に獣化してしまうのか。
鼻先に白いヒゲが無数に生え、鼻と口先が少し前に突き出る。鼻は肌色の三角形になり、口の中で牙が伸びてくる。
「いやぁ……はぁ……ぁぅ……」
獣化したくないと思いながらも初めての動物種への獣化を自ら制御できない。足の指も手と同様の変化を遂げ、靴は無残にもボロボロに引き裂かれた。彼がキョトンと目を丸くしている前で、私は獣化していってしまう。
体全体の骨格がメキメキと変化し、私は手を地面に着いて四つん這いの姿勢になった。もう二本足では立てそうにもなかった。体中から黄色をベースとした黒い縞模様の獣毛が伸びてくる。同時に体が大きくなっていき、着ていた服が悲鳴をあげる。
彼は何も言葉を発さない。何が起こったのかわからない様子で私を見つめている。
見ないで! 獣化する私を見ないで!
パレードの装飾された車が通るたび、人から獣に変わっていく私の姿が照らされて浮かび上がる。
「ガアアァァァ」
着ていた服をズタズタに引き裂いて獣化を終えた私は、彼に話かけようとしたが、それはただの獣の鳴き声だった。
「千寿さんがトラに……これは夢……?」
彼は徐々に後退し、最終的には腰を抜かしてその場で意識を失ってしまった。
トラになった私は彼に近付く。前足で優しく擦ってみたが彼が目覚める気配はなかった。
「カキュゥゥゥ」
私は泣いた。前足で顔を覆って、しっぽを丸めて、できるだけ人の目に付かないように小さくなって。しばらくして獣化が解け、人の姿に戻ると私は全裸だった。彼はまだ意識が戻らなかった。何になるかわからないが、私は小動物に獣化することを願いながら倒れている彼にキスをし、イタチに獣化できた。イタチになった私は物陰に隠れ、倒れている彼が人に発見されるのを見届けてからイタチの姿のまま家に帰った。
その後、彼からの連絡はなかった。デートもしばらくはいい。私の春はまだまだ遠いみたいだ。
説明 | ||
「獣化なんてイヤッ!」の続編です。 ググるとたぶん出ます。 |
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タグ | ||
transfur 変身 獣化 動物化 | ||
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