艦隊これくしょん とある島の戦闘目録(バトルインデックス)〜死神の再来〜 |
「それじゃあ美桜さん、早速テストをはじめるわ。準備は良い?」
「こっちは全く問題無しよ、女神さん」
妖精島より東に10km地点。私は戦闘空母 草薙となり停泊していた。太陽は真上から少し傾いているが、普段と変わらずギラギラと照り付けてくる。
「私が指示を出すから、その通りにお願いね」
私の艤装に乗っているのは、応急修理女神さんと色んな計器を担いでいる応急修理妖精さん達の数名だ。艤装自体は私自身が意のままに(多分?)操れるから妖精さんが乗り込む必要は無い。それでも、誰かが乗ってくれていると言うのは安心するものだ。
「了解。……それにしても、今朝のアレは何なんですかね?」
「一応戦闘機らしいけど、完全に出来上がってみないと分からないわね」
それは遡ることお昼前の事。ボクの艤装から出てきたコンテナを解析していた妖精さんに呼び出されて、工厰に向かった時の事。
「工厰長さ〜ん。来ましたよ〜」
「おお〜、待っとったよ、提督殿」
出迎えてくれたのは、工厰長を務める妖精さん。厳つい顔をニカッと綻ばせ笑う。
この工厰長さんは元からこの島に住んでいた妖精さんで、女神さんでも頭が上がらない方だ。
「早速ですけど、どうしたんですか?艦載機がどうこうって言われて来たんですけど…」
「そうじゃな、見てもらったほうが速いじゃろうて」
ついてきな、と言われ工厰内へ足を進める。艦娘達を癒すドックの方ではなく、その隣に併設されている主に装備等を製造・開発する方である。
「これなんじゃよ」
工厰長さんの示す先にあったのは、一機の異形とも言える戦闘機であった。
機体自体は粗方組上がっており、その周囲には操縦管やその他の機器が置かれ、妖精さんがクレーン等を巧みに操って作業していた。
先ず目に付くのはプロペラが無いことだ。彩雲や零戦といったレシプロ機ではない。機体後部にノズルが見える辺り、ジェット機なんだろうと思う。次に主翼の位置であり、機体の前部ではなく後部寄りにV字型について、全体は濃紺に塗装されておりレシプロ機よりスマートに見える。
「工厰長、これは?」
「コンテナの中の資料と材料で組み上げとる、提督殿専用の艦載機じゃな。名は『ASF-X 震電U』じゃ」
「『ASF-X 震電U』………」
「震電U……震電改なら横須賀、舞鶴、佐世保、呉の第一鎮守府の提督がそれぞれ所有しているとは聞いた事があるのだけれど……」
「でもでも、それはあくまで“れしぷろき”です。いまこうしょうでできているのは、どうみたって“じぇっとき”です」
「そうなのよね」
ヴヴゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーー
背中に備え付けられている対空砲群がうねりをあげて弾幕を張っている。これでテストの半分は消化した。
「ジェット機が艦娘の装備として開発されるのは前代未聞だわ。それに、私が元の鎮守府に居た時に見た資料では、元大日本帝国海軍の空母はおろか元海上自衛隊の航空護衛艦装備にもジェット艦載機が配備された資料なんて無かったわ………あ、左舷高射砲の弾幕一寸薄いわよ」
「了解、調整するわ」
────左舷第四・第八高射砲仰角調整。弾幕散布面積拡大。面積拡大により弾幕密度低下────
艦載機について話ながらも、テストは終わっていない。左舷の高射砲の散布面積を拡大しつつ、女神さん達の話に加わる。
「はりねずみみたいですね」
「ふつうのはりねずみのほうが、よっぽどましですけどね」
艤装に乗っている妖精さん達は手元のボードに挟んだ紙に様々な情報を書き込みながら言う。
「ふむふむ……めがみさん、こんなものですかね?」
「ええ、そうね。」
書き込まれた資料に目を通す女神さんは概ねと言った感じに頷く。
「一応、解除された機能は調べられたわ。まだまだ未知数の部分は有るけど、それは後々解析しましょう」
「了解。島に戻るわ」
延びていたアームを畳んで島に戻ろうと進路を取った時───
<<提督!!聞こえますか、提督!!>>
「ッ!?……こちら草薙 美桜よ。どうしたの?」
<<こちら彩雲3。現在、提督の地点から50kmの地点で深海棲艦艦隊を視認!!編成は空母ヲ級flagshipが1隻、軽空母ヌ級eliteが3隻、戦艦ル級eliteが2隻の航空機動艦隊です!!現在、ヲ級ヌ級より艦載機の全力出撃と思われる行動を確認!雷装と爆装を施した艦載機の大編隊が提督の方面に向かい進行中です!!>>
「なんですって!!?」
彩雲3からもたらされる情報に女神さん達は騒然となる。空母4隻の誇る全力出撃での攻勢、高々1隻の艦に対して行う攻撃では無い。
「私達の情報が漏れていた?……いえ、そんなことは無いわ。……でも、どうして?……………」
顎に手を当て考え込む女神さん。そこに、双眼鏡で対空警戒をしていた妖精さんが空を指す。
「美桜さん、女神さん!!いちじじょうほう、きょりおよそ800にてきえい………ていさつきです!!!」
「ッ!!右舷対空戦闘!!対空機銃、高角砲並びに対空噴進弾、放てーっ!!」
────右舷対空戦闘開始────
畳まれていたアームが再度展開され、敵偵察機に向かって対空砲群がうねりを上げる。忽ち、敵の偵察機は蜂の巣にされ、落ちていった。
「これでこちらの情報は途絶えたわ。でも、恐らく………」
「ええ、間違いなく来る」
ここで逃げれば、もしかしたら島の方へ敵の脅威が伸びてくるかもしれない。退くことは出来ない。だが、支援を受けられる状態でもない。
「女神さん、もしもの為に後部格納庫に大発動挺とそれ用の増槽を積んである。それを使って急いで島まで戻って」
「ッ!?美桜貴女何言ってるの!?」
「このまま私がここに残って敵を足止めする。その間に島に戻ってもしもの時の準備をしていて欲しいの」
「そんなこと出来ないわ!!貴女を一人置いて行くなんて!!」
「もしも、の為よ。こんな所で沈むつもりは無いわ。でも、もし万が一にでも私に何か有って女神さん達まで居なくなったらあの島は成り立たないわ。だから、戻って」
「でも!!」
私の説得に中々同意を示さない女神さんの頭にそっと指を乗せ撫でる。
「言ったでしょ?沈むつもりは無いわ。だから、待ってて。ね?」
俯き、服の裾をギュッと握り締めている女神さん。島を仕切っていたと言っても、やはり不安は不安なのだろう。
「島に戻って、皆に万が一の準備をさせて。資材類は持たなくていいわ、設計図関連と食料類を桜島に積んで出港の準備を。多分翔鶴達が近海の哨戒任務から帰ってると思うから、翔鶴達には桜島の護衛を頼んで、お願いね」
「……わかったわ、でも必ず帰ってきて。私達には提督が…貴女が必要なの」
「わかってるわ。皆をお願い……彩雲ちゃん、女神さん達を安全に島まで誘導してあげて!!」
<<……りょうかいです……どうか、ごぶうんを>>
大発動挺が発艦するのを確認して前を向く。
────敵機捕捉。距離およそ6500。会敵までおよそ三分────
「両舷前進、第一戦速!敵部隊と島から離すわ!!両舷対空戦闘用意!!主砲砲身一番から三番に三式弾、四番から六番に羽衣弾装填!!副砲対空炸裂弾頭装填!!対空砲並びに対空機関砲、対空噴進弾用意!!距離2000で第三戦速へ変更、それと同時に対空迎撃開始!!」
────了解。一番から三番に三式弾装填。四番から六番に羽衣弾装填……完了。副砲対空炸裂弾頭装填……完了。両舷対空砲所定区画へ仰角調整………完了────
艤装に指示を出し終え、前方へと視線を向ける。水平線の向こうにちらほらと黒い影が現れ始め、いつしかそれは雷雲のごとき黒雲となっていた。
「さあ、始めるわよ!!」
私は空で死んだ。
悔いが無かったと言えば嘘にはなるが、死に様は悪くない。
任務を終え、部隊の仲間の気が弛んだ一瞬の事。僚機にミサイルアラートが鳴り雲を突き抜けて来た。
迷いなんて無かった。
僚機とミサイルの間に入る様に機体を操作し、一瞬後にとてつもない衝撃に襲われた。
鳴り響く警告音と仲間の叫び、ぼやける視界で僚機が健在であることを見届け、私の意識は途絶えた。
短い人生だった。それでも部隊の仲間やライバルの隊の奴等、基地のオペレーターや整備兵達と過ごせた時間はかけがえのない物だった。
大きな作戦の半ばで落とされてしまったが、アイツ等なら成し遂げてくれる。
暗闇に沈んだ意識の中、上方の彼方にある蒼い蒼い大空に手を伸ばす。
出来れば、まだ─────────────────
「翔んで…いた……かっ…た…………な……………」
ポツリ………
ポツリ………
「……?………………」
死んだ筈の感覚の端に微かな冷たさを感じる。
「────!!…………──!……………」
聴覚には怒声と慌ただしい足音が聞こえる。
「っ…………」
意識が暗闇の底から浮上し、より鮮明に周囲の情報が五感に伝わってくる。
「『桜島』へのぶっしはんにゅうはあとまらしにするです!!」
「こうくうたいはまだあがれないのですか!?せいびができているきはすべてあげるです!!」
「提督は絶対に沈まん!!翔鶴達の補給作業急がせろ!!最優先だ!!」
小さな小人があちこちで慌ただしく走り回っている。どうやら、戦闘に入っている様だ。
「艦載機の燃料補給急いで!!弾薬には余裕がありますから、補給が完了次第出ます!!」
「僕の艤装に25mmの三連装機銃を積んで!!主砲を外して対空防御艦で出るよ!!」
「余ってる魚雷全部持ってきて!!詰め込めるだけ持っていくっぽい!!」
「ダメコン妖精さんは私の艤装に乗って!提督さんに横付けで乗り込んで修理してもらうから!!」
中でも大きな女性達は背中に背負った機械の塊の整備を急いで貰っている。
ふと、自分の身体に目を落とすと、自分も妖精と呼ばれる小人達と同じ様になっている。
パイロットスーツの上に対Gスーツを着込み、側にはヘルメットも置いてある。容姿は人間だった頃と変わらず銀色の髪が掬った指の間を抜ける。
ズキリ──────
瞬間、頭に鋭い痛みが走ったかと思うと一気に情報が流れてくる。
妖精島。提督。艦娘。世界の情勢。そして深海棲艦。
先程の彼女達の言葉を信じるなら、我らの提督は一人で戦っている。
行かなければ、提督の元へ。………何故、そう思ったのかはわからないが、何故かそうしなければならないという衝動に駆られた。
何か……何か出来る事は、………………
「……あ………………」
視線を巡らせた先に有ったのは、嘗ての相棒、勝利の翼、ASF─X 震電U。落ちた時の傷だらけの姿ではなく、新品同然の様に輝いていた。
その翼のマウントアームには四発の青い塗装のASM(空対地ミサイル)が懸架され、開かれたウェポンベイには二発のノーマルミサイルが懸架されている。
思考は一瞬だった。私は相棒に駆け寄り、コックピットが開かれるのと同時に飛び乗った。
「ちょ!!なにしてるですか!?」
異変に気付いた一人の妖精が近付いてくる。それに反応した様に出撃の準備をしていた艦娘や妖精達が何事かとこちらを見る。
「提督を援護しに行く。格納庫の扉を開けて欲しい」
「!?なにいってるですか!?いっきだけじゃむぼうです!!」
「関係ない。幾ら深海棲艦の艦載機と言えど、所詮元はレシプロ機。ジェット戦闘機の私の相手ではない」
絶句する妖精達。だが速く提督の元へ向かわないと手遅れになってしまう。
焦りが少しずつ上がってくる私に一人の妖精が近寄ってくる。
「良いでしょう、許可します」
「めがみさん!?」
一人の風格の違った妖精が告げる。私を引き留めていた妖精は驚いた様に女神さんと呼ばれた妖精を見ている。
「現状、美桜さんの元へ一番速く行けるのは、唯一のジェット戦闘機の貴女だけ」
レシプロ機がどれだけ頑張ろうとも、ジェット戦闘機の私には敵わない。
「お願い。彼女を、私達の提督を助けて」
「元より、そのつもりです。だから速く格納庫の扉を開けて」
キイイイイィィィィィィィィィィン………………………
「機体チェック。……機体に異常なし。燃料、バッテリー満タン。……兵装チェック。……ガン装薬ベルト接続確認。FCS(火器管制)異常なし。」
日の光を浴びて尚、濃紺に輝く相棒の調子は万全。
「管制塔、指示を請う」
『こちらかんせいとう。めがみさんのようせいはうけているです。だいいちかっそうろへのしんにゅうをきょかするです』
「了解。第一滑走路へ」
エンジン出力を調整しながら、滑走路(エプロン)へと進入する。
『えーっと……震電U妖精さん、コールサインとさくせんコードをおしえてもらえますか?』
一瞬何にしようか迷ったが、昔の、元の名を名乗ることにした。
「コールサインは“ボーンアロー1”作戦コードは“リボンの死神”」
機体の側面と主翼、垂直尾翼に描かれたリボンを着けた死神がうねりをあげる。
『りょうかいです。ボーンアロー1りりくをきょかするです!!』
「了解。ボーンアロー1、テイクオフ!!」
スロットルを全開にし機体を走らせる。全身に掛かるGを感じながら、機体を空へ舞い上がらせる。
「アフターバーナー点火」
アフターバーナーの点火スイッチを押すと共に更なるGが身体に掛かる。それでも尚、蘇りし死神はただ、一点の目的の為に翔ぶ。
「待っててください提督」
そう言うと蘇りしリボンの死神は大空へと羽ばたいていった。
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第六話〜死神の再来〜 | ||
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