双子物語73話 |
双子物語73話
【雪乃】
夏休み以来、久しぶりに再会した私と叶ちゃん。
お互いに何から話していいかわからず、しばらく二人で見つめあった後に
以前嘉手納先輩に良い感じの喫茶店を教えてもらったことを思い出して
二人の用事を終わらせた後、そこのお店へと向かった。
「先輩、元気にしてましたか?」
「うん、それなりに。昔ほど不安定な感じはなくなったかな」
とはいえ少しでも管理を怠るとすぐ眩暈やら貧血やら起こすから油断はできないけど。
叶ちゃんのその言葉から少しずつ私達はお互いのこれまでのことを話しあった。
居心地のいい雰囲気のお店でゆっくりと穏やかに過ごしている内にいつの間にか
辺りが暗くなりはじめていたから二人で店を出ると叶ちゃんが思い出したように
私に笑みを浮かべながら言ってきた。
「そうだ、私…これから先輩が住んでいるところに住むようにしたので、
よろしくおねがいします」
「え…、そうなんだ」
「あれ、少しはびっくりしてくれると思ったんですけど。普通の反応ですね」
「そ、そんなことないよ。すごく驚いた」
本当に。本当に驚いたから反応できなかっただけなんだよね…。
そして驚きの直後に嬉しさがすごい勢いこみ上げていくものだから。
「その割にはニヤニヤしてますよ!」
「だって、嬉しくて…」
「え、それは私もですけどぉ…」
「だー!目の前でイチャイチャするなし!」
叶ちゃんの同じ所に住む発言からいつの間にか話題にしていたアパートに着いていた
みたいで私達が時間も場所も忘れてイチャついているのを見た彩菜が涙目で
訴えてきていた。
いつの間に私達はバスに乗ってここまで歩いてきたのだろうっていうくらい
相手に夢中になっていたようだった。
「お久しぶりです、お姉さん!」
「よっ、後輩ちゃん」
叶ちゃんも我に返ると頭を深々と下げて彩菜に挨拶をしていた。
本当に礼儀正しい子だなぁって毎回思う。体育会系ってみんなこんな風なのだろうか。
でも前と比べて他の人とも積極的にコミュニケーション取れてるのを見て
安心したような、少し寂しいような。でもこれでよかったんだと私は思っている。
そして叶ちゃんは大家さんと話をした後、鍵をもらって書かれている番号の部屋まで
行くのを私も何となくついていくことに。
中は暗くて灯りを点けると中は何もなく広く感じられた。
「荷物は後で届くんですよ」
「そっか」
にしてもベッドも何もない状態だから今日は私の所で一緒に泊まってもらうことにした。
「じゃあ今日は同じベッドで寝ようね」
「えぇ…!? 別に床で何か引いて寝てもいいですけど…」
私の提案に顔を真っ赤にしながらもじもじしながら言う叶ちゃん。
でもそれで風邪でも引かれたら困るし…何より、久しぶりに近くに感じたかったから。
「嫌?」
「い、嫌じゃないです。本当はそうしたいんですけど」
「ならいいじゃない。私達、恋人同士だし」
「んふぅっ…!何だかこそばゆい響きですね…!」
恋人という単語に目を輝かせながら鼻息混じりにすごい反応をしてから
「先輩がいいなら…」と言ってくれて私もホッとした。
そして叶ちゃんの手を握って顔を近づける。
「よかった…。これから叶ちゃんも楽しい大学生活が送れるといいね」
「はい…」
お互いにキスしそうなくらい顔を近づけて囁いて、かかる息が少しくすぐったい。
そして、すごく幸せな気持ちでいられた。
この日、叶ちゃんが入居の記念として大家さん達が多めにご飯を用意してくれたのを
ほどよく緊張が解れた私と体育会系なりの胃袋を持った叶ちゃんによりあっという間に
たいらげてしまった。
その食べっぷりに他の人たちは圧倒されていたと後で彩菜に報告されて少し
恥ずかしかった。でもすごい楽しそうに食べてたよ、と彩菜にフォローされたけど
それはフォローになっているのだろうか…。
**
夜、私の部屋。二人で寝る準備をしていた時のこと叶ちゃんの髪を軽く梳いていた時、
その後ろ姿を見ていたらふと県先生のことを思い出した。
「そういえば叶ちゃん。どこか県先生に似てきた気がする」
叶ちゃんのお母さんの…親友に似た関係。先生からしたら恋愛感情に近いのかも。
精神的に追い詰められた叶ちゃんのお母さんを先生は支えながら叶ちゃんの面倒を見て
更に良い先生をしてきて、考えれば考えるほどどこまですごいのかと驚かされる。
「そう言われたのは初めてかも…。でも嬉しいな、県さんはすごく私のこと
考えてくれてたし、優しいし、かっこいいし…。憧れていたんです」
どれだけ辛い思いや寂しい思いをしても決してお母さんのことを悪く取らず
ずっと二人で支えてきていた。
「母は自分に厳しすぎるんです…もう次の幸せを見つけてもいいのに」
「そうね…」
叶ちゃんのお母さんも先生やっていて私が小学生の頃よくお世話になっていた。
その頃から少し様子がおかしかったけど、体の弱い私に優しく接してくれていたのを
今でも覚えている。
「県さんは母のこと好きで母も…県さんのこと好きなはずなんです。
だから私に気にしないでくっついてくれればなぁって思ってるんですが
まだ亡くなった父のことが忘れられないみたいで」
「でも少しずつ克服してるって聞いたよ」
「そうですね…」
「なら大丈夫、叶ちゃんの気持ちもわかってるだろうから。後は待つだけ」
そっと後ろから叶ちゃんの手を握って耳元せ囁いた。
はい、と叶ちゃんが呟くと私はその小さな体をぎゅっと後ろから抱きしめた。
普段力強そうな彼女もこうしているとすごく小さくて、それでもここまで歩むのに
相当苦労したんだろうなって頑張ったんだなって感じられた。
そう思うと…すごく愛おしくなった。涙が出そうになるくらいに…。
昔を思い出しながら話をしていたらかなりの時間が過ぎていることに気付いて
私達はベッドへ潜りこんだ。そして二人向かい合って見つめてから眠りに就いた。
**
次の日、引越しの業者さんと一緒に県先生が私達の目の前に現れて叶ちゃんの
荷物を運んでいるのを見て私と叶ちゃんは同じような感じに固まってしばらく
反応に困っていると。
「よっ、二人共久しぶりだね!」
あらかた運び終えてから先生から私達に声をかけたことにより私達は我に返る。
「ど、どうしてここに…?」
「そりゃ叶が引っ越すというから手伝ってるんだけど」
「あ、ありがとう。県さん…」
私に続いていきなりすぎて戸惑うも本当に感謝している顔をして言う叶ちゃん。
そんな叶ちゃんの頭に手を乗せて少し乱暴にくしゃくしゃと撫で回した。
「遠慮しないの。私達家族みたいなもんでしょ」
長い付き合いなんだろうなぁと二人のやりとりを見て微笑ましく思えた。
そして先生も相変わらずでホッとした気持ちになる。
「高校まで追いかけてたけど、雪乃は中学までだっけ。
ずいぶん雰囲気変わったね、いい女になってるよ」
「あ、ありがとうございます」
すごく良い笑顔でいきなりそんなことを言われてドキッとした。
頼りになりそうで優しくて美人で…モテそうだなぁと思った。
相変わらず服装は全身真っ黒だけど。
「二人は付き合ってるんだよね。雪乃、叶のことよろしく頼むね」
「あ、は、はい!」
「叶はこう見えてもけっこう繊細だからね、ちょっとめんどくさいんだよ」
「ちょっ、県さん!?」
笑いながら言う先生に照れる私達。何か二人きりでいるときに親がいきなり
介入してくるような恥ずかしさに似ているかもしれない。
そこは先生もわかっているのかあまり長くは触れないでくれた。
久しぶりに会ったのに引越しの準備だけでお別れするのは寂しすぎる。
私はみんなに連絡を取って県先生がいるから集まれる人は来て欲しいと打ったら
少ししてから全員集まってくれた。当時、先生と関わった人全員が。
「おお、みんな勢ぞろいだねぇ。彩菜に春花に大地かぁ」
荷物を運んでから配置まで先生と叶ちゃんの二人で済ませ、先生が外に出ると
ちょうどみんなが先生の前で笑顔で迎えていた。
先生は懐かしむようにみんなの名前を呼んだ後、爽やかな笑顔を浮かべた。
昔から変わらないかっこよくて綺麗で強くて頼もしい先生の姿にみんなも
昔のことを思い出してそれぞれ話しかけていた。
どこでじっくり話をしようかとみんなで話し合ってると先生はすかさず。
「カラオケいこうよ!みんなの歌声聞いてみたいな〜」
目を輝かせながら私と彩菜の間に入って両方の腕を回してくる先生。
そして少しばかり歩いた先にある大きなカラオケ店を案内する春花。
それを見て新鮮な感じに見えて楽しそうにしている叶ちゃん。
そして存在感のない大地。
まるで小さい時に戻ったような感覚になってみんな楽しそうにはしゃいでいた。
私はむしろ今の方が素直に楽しめている感じだった。
「大地は相変わらず消極的だよね、歌にも性格が表れていて面白いわ」
「ちょっ、先生!?」
そういえば彩菜たちは高校まで一緒だったっけ。未だに思うけど小学校から
高校までまるで私達を追いかけるように先生してたけどあれってどうやっているのだろう。
だけどその謎はあまり追求しないほうが身のためのような気がしたので考えるのをやめた。
長い時間取っていたのにもかかわらずあっという間に時は過ぎ去って終了の合図が鳴る。
今流行りの歌を歌いまくっていた先生は清々しい表情で外へと出て私達を見て微笑んだ。
「ありがとうね、付き合ってもらっちゃって」
「いえ、私達も楽しかったですし」
その言葉に私は本心から楽しいと思えたからそう答えると安心した顔で。
「それにみんなの充実している姿を見て安心したし…大地を除いては」
「余計なお世話ですよ!」
先生の言葉に傷ついた大地は半泣きでそう答えると先生は面白そうに笑いながら
大地の肩を叩いた。
「もっと自信が持てればだいぶ違うのになぁ、顔はいいんだし。積極的にならないと」
「そうはいいますけどね…」
「あ、後。相手を選ぶのも下手だな。これまでの恋心は捨てて大学で知り合った子とかに
アピールしていけばいいのに」
「ぐぬぬ…」
何も言い返せない大地に先生はがんばれよって少し強めに肩を叩いた。
これから先は先生に頼れないから私達は私達で何とかしなくちゃいけないことを
頭では知っていたけど、今回のことで段々と実感みたいなものを味わっていた。
そしてそろそろ帰る時間となった先生と別れようとしたその時…。
先生は私と叶ちゃんの方に向かってきて両手いっぱいに二人を抱きしめた。
「先生?」
「二人を見て思ったよ。私も一歩を踏み出さないとね」
「え?」
「二人共しっかりしていて安心だ。私も見習ってあの人に告白してくるよ」
私達がきょとんとしていると手を離した先生はその後何を言うこともなく
私達に軽く手を振って帰っていった。
**
今思えばあれは叶ちゃんのお母さんともう一歩、関係を深めていこうという
決意の表れだったのだろう。何でもできる、完璧超人かと思っていたけれど
人並に怖さとかあったんだ。
それは好きな人に近づくこと。物理的な距離ではなく心の距離。
これが普通の人で普通の関係だったらとっくに迫っていただろうけど、
それが許されないほど繊細で、少しでも扱いを間違えると壊れてしまいそうで。
だから怖かったのだろうか。と想像してみるも実際にはどうなるかはわからない。
でも…。
「先輩…」
「叶ちゃん?」
「県さんなら大丈夫です」
「うん、わかってる」
「もう母のこと幸せにできるの。あの方しかいませんから」
「わかってる」
目が潤んでいる叶ちゃんをそっと抱きしめ引き寄せたまま膝の上に乗せた。
そしてすぐ目の前にある叶ちゃんの頭に軽く顎を乗せると叶ちゃんを励ました。
「大丈夫。私の直感ってけっこう当たるんだよ」
「直感ですか…」
「うん」
「…でも不思議と本当に大丈夫そうで少し安心できました」
「ふふっ」
「どうしました?」
急に笑う私に驚いて振り返る叶ちゃんに囁くように言った。
「叶ちゃんって本当に良い子で…かわいいなって」
「えっ…その…」
「あ、もうけっこう遅くなっちゃったね。一緒に寝る?」
「あ…でも荷物はもう届いたし…悪いかなって」
「遠慮しなくていいんだよ」
「はい…じゃあお願いします」
少し赤くなって口を尖らすようにしながら言うのがほんとに可愛くて可愛くて。
この先大変なこともあるかもしれないけれど二人一緒なら大丈夫だと思った。
「おやすみ」
「おやすみなさい、先輩」
そして二人手を握りながら灯りを消して目を瞑る。
私は今ある幸せに感謝をしながら叶ちゃんの温もりと匂いに囲まれながら
眠りに就いたのだった。
続
説明 | ||
叶と雪乃再会→荷物が届くまで雪乃の部屋でイチャイチャグッスリ→ 翌日荷物届く→業者と共にあの人が…!!←イマココ 完璧超人も悩むことはあって気分転換に教え子の様子を見に行くのだった。 |
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