みつくり小話3本
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保護者な二人

 

 

(小夜ちゃんと歌仙さんの立場が逆転しているようで萌えました)

(審神者視点)

 

江戸は新橋に出陣してもらっていた大倶利伽羅と歌仙兼定らが帰陣したことは、報告を受けずとも知れた。

複数人による騒々しい足音や声が響いてきたからである。

 

普段よりも騒々しい、その理由は、出陣先からの伝令を受けて知っている。

端的に言えば、大倶利伽羅と歌仙兼定の間で揉め事があったのである。

 

「……少しばかり、二人を離して様子を見てみるか」

彼らと近しい間柄である燭台切と小夜を内密に呼びつけ、事のあらましを伝え、二人を近づけさせない配慮と経過報告を頼んだ。

尤も、燭台切も小夜も事のあらましについては既に知っていたが。

血気盛んな状態なら出陣させてスッキリさせた方が良い、との進言を得て、別々の部隊を組ませ、出陣時間が被らないよう(門等で鉢合わせしないように)見計らって出陣させた。全く、主にこれだけ気を遣わせおって……。

 

その晩、歌仙が夕食の片付け当番をしている隙に、と小夜が報告をしに来た。

「……うちの、歌仙兼定、一日中不機嫌でした。風流じゃない、雅じゃないと、」

「敵を手打ちにしてばっかりか?」

横から口を挟んできた鶴丸に、小夜は頷いた。

 

「審神者君、今いいかい?」

「ナイスタイミングだ、燭台切」

内密の話であるからか(但し、歌仙と大倶利伽羅の間に何かしらがあったことは皆に知れ渡っている)、燭台切は気配を忍ばせてやってきた。

「さっきの出陣で伽羅ちゃんが中傷を負ったから手入部屋に運んできた。暫くは出てこれないから今のうちに報告を、と」

小夜ちゃんも報告かい? なるほどナイスタイミングとはこのことだね、と燭台切は続けた。

 

「そちらはどうだ?」

「馴れ合いはしないって誰にともなく言っては、八つ当たりのように敵を斬っていたよ」

八つ当たりに違いない、と一同で唸る。

 

「似た者同士、だなあ」

誰と誰が、とは言わずもがなで、我々は無言で首を縦に振った。

「本人たちの目の前で言ったら怒るね」

「たぶん、もっと、手が付けられないくらいに」

「さすがにそんな地雷は踏まんなあ」

燭台切は苦笑し、小夜は眉を顰めて息を吐き、鶴丸はおどけた。

 

「まさかここまで相性が悪いとは思わなかったよ」

「歌仙は初期刀で近侍、大倶利伽羅は初日に顕現した刀で、ずっと共に出陣させていたのになあ」

「僕もすぐに顕現して一緒に出陣していたから、緩衝材になっていたのかもしれない」

 

「ふむふむ。俺はちょいと来るのが遅かったから最初期のことは知らなかったが、なるほどな」

燭台切と共に考察していたら、鶴丸が口を挟んできた。

 

「所謂六面の時は歌仙に伽羅坊、長谷部のカンスト組と、鍛え途中の打刀や脇差の混合部隊だったろう? 何故その時は何もなかったんだ?」

「長谷部君が恐かったんじゃないかな。それかまだ緊張感があったとか」

「ああ、伽羅坊も打刀に変更されてすぐだったからな。流石に歌仙も気を遣ったか」

「ここにきて、ひょんなことから……ってことかなあ。僕が着いていれば良かった」

 

「燭台切光忠さんのせいじゃないです……僕が、歌仙兼定の手綱を握っていなかったから」

おおい。燭台切と鶴丸が考察を引き継いだと思いきや、燭台切と小夜の懺悔大会になっているじゃないか!

「二人のせいではない。私の浅慮だったのだ。片や初期刀で近侍、片や主力の一人の刀剣男士の内面の把握を怠っていたのだ」

「いやいや、全てきみのせいとも言い切れないだろ……何だ何だあ、この空気は。もっと前向きな話をしなきゃあ駄目だろ」

鶴丸の言い分も尤もだ。だがしかし、審神者の私に責任があるとは認めるのだな……微妙に慰めになっていないぞ。

 

「とはいえ、もう少し様子見をして、彼らの頭が冷えるのを待つのが最良だろうか」

「まあ、ひとまずは審神者君の意見が妥当かな。今の所は伽羅ちゃんたちに直接働き掛けず、準備だけ、かな」

「僕も手伝います。何とかしたいですから」

 

そろそろ夕食の時間だといい、小夜は歌仙の元に戻っていった。

 

「それにしても、小夜も光坊も保護者だなあ」

小夜を見送った鶴丸は微笑ましげで、何だかんだ皆を見守る年長者らしさがあった。

 

「僕は伽羅ちゃんの恋人だけどね」

伽羅ちゃんにお夕飯を持っていくね、と燭台切も去っていった。

 

「ははは、光坊は隠さないなあ」

「まったくなあ。鶴丸よ、お前もかなり楽しんでいるなあ」

「勿論だ。そういう君も楽しんでいるだろう」

「ああ、皆と過ごす日々は楽しいよ」

彼らは解決してくれると信じている。

さて、皆の積極性に任せて、審神者が何も動かないというのもどうだ。

私も出来る限りのことをしよう。

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大倶利伽羅がいないと駄目駄目になる光忠

 

 

(現パロ)

(広光表記)

 

駅からマンションへ歩き、入り口からホールを通ってエレベーターに乗り込む。

二週間より以前は毎日歩んでいた道のりだ。およそ二週間振りとなる今、こうしてまた訪れるとは……些か早過ぎる、と思う。せめて数ヶ月経過していれば、懐かしさもあっただろうが。

感慨に耽ってはみたが、実際のところ、あの家で過ごしていたのは高校生の三年間だ。三年間も、と捉えるか、三年間だけ、と捉えるか。

 

「あの家」の家主は光忠という、そろそろ三十になる男だ。俺の従兄弟に当たる。

俺は高校生の間、光忠の部屋に間借りしていた。一人暮らしの従兄弟の部屋に間借りする、という特殊な状況に陥った理由は、俺の両親の海外への転勤である。かといって、俺の両親に「息子を従兄弟の部屋に住まわそう」という発想ができたとも思えない。

 

両親の海外転勤と、俺の間借りを取り仕切ったのは、両親の会社の社長である鶴丸国永だった。

俺の両親も光忠も国永の会社で働いているのだが、それ以外にも何らかの縁があるのか、国永は俺たち一族と親しいらしい。子供という立場でしかない俺には、話の全貌は未だに分からないが。

 

両親の転勤が決まった時点では俺は中学三年生だったが、自宅から通学できる高校に既に合格していた。

光忠宅が、高校に無理なく通える範囲にあることも、国永は知っていたのだろう。両親への転勤話と同時に、俺を光忠に預けてはどうかと提案してきたという。光忠には事前に許可を得ていたらしく、国永の根回しは抜かりが無かった。

 

そこまで気を遣われては、両親は首を縦に振る以外に無かった。それは仕方の無いことだと思うし、両親を責める気持ちは今も昔も全く無い。

親戚付き合いで時折会っていた光忠のことは、「面倒見の良い従兄弟の兄さん」と認識していたから、まあ何とかやっていけるだろうと思った。

 

かくして、俺は光忠の部屋に間借りすることになった。

 

 

光忠と俺の同居生活は良好であった(と俺は思う)。

両親からの十分過ぎる額の仕送りが途絶えたことは無く、俺も特に素行が悪いかったりして学校から呼び出しを喰らうことも無かったから、大きな迷惑を光忠にかけたことは無かった(はずだ)。

部活には、元々入るつもりが無かったから、帰宅時間が遅くなったりすることも無かった。遠慮せずやりたいことをやって良い、と光忠はいつも言っていたが。

 

ただ一つ、光忠の手を煩わせたと思えることは、「格好を整える」ためにあれやこれや注意させてしまったことだ。

光忠の言う「格好」とは、世間の言う「カッコイイ=イケメン」とは異なり、「身だしなみを整える、しっかりしている、ちゃんとしている」という意味のようだ。

外出の際は勿論、家の中でもしっかりするのが光忠のモットーだった。

俺とて、間借りしている身分上、光忠の前や共用部分では整理整頓、散らかさない、汚さない、をできるだけ心掛けていた。

だが、貸してもらった部屋なら――壁や床を汚したりしなければ、少しぐらい物を床に並べたままにしてもいいではないか、と気が緩んでいた。ドアを閉めてしまえば光忠には見えないのだから。どうせ毎週使うのだから、教科書やノートを床に積んだりしてもいいではないか。友人から借りたマンガも、部屋にあるのは返すまでの一時に過ぎないのだし。どこに何を置いたか把握しているのだから。

 

光忠は「いつ何時、誰に見られてもいいように、常に整えておくべきだよ」と嗜めてきた。

光忠ではない者に言われたら、口煩い、と一蹴しただろう。

整頓を持続できていた時や、家事を速やかに終えた時など、光忠は褒めてくれるのだ。光忠に褒められ、頭を撫でられると、無性に嬉しく、もっと頑張ろうと思えてしまう。冷静に考えると、高校生にもなってその態度はどうなんだ自分と思う。

また、休日には時々のんびりとだらけさせてくれた。ラフな格好の光忠と二人でベッドやソファに寝転んでのびのびと過ごすのは、とても楽しかった。

 

光忠の飴と鞭――飴が何倍も甘いそれは、俺をやる気にさせるのには十二分だった。光忠の指導のお陰で、同年代の男子よりも家事は得手なはずだし、大学生になり始めたばかりの一人暮らしに心配は無い。

 

 

「……それが今や、あんたが心配される羽目になってどうするんだ……」

 

インターフォンを押したが、応答が無い。部屋にはいると思うが……。

何故か持っていていいと言われた合鍵でドアを開けることにする。

 

ドアノブを回すと、見たことのない光景が広がっていた。脱ぎ散らかされた靴、半開きの靴箱。ゴミ日に捨て忘れたらしい縛ったゴミ袋や、帰宅してすぐに脱いだらしい上着までもが、玄関から続く廊下に転がっていた。

訪れた者の好感度を上げる綺麗さっぱりとした玄関は、今や見る影も無いものに成り果てていた。

 

「光忠、いるのか?」

廊下の先に向かって問い掛ける。声による応答は無かったが、代わりにガタ、バサ、といった物音が返事をした。

「何故返事をしない。上がるぞ」

いちおう断りを入れ、靴を脱ぐ。靴下越しに懐かしいフローリングの感触が蘇る。物を踏まないように若干忍び足になりながら、どうにかこうにかリビングへの扉に辿り着く。

 

少し躊躇われたが、光忠から開けてくれるとも思えない。

よし、と意気込んで扉を開くと、立ち上がりかけていた光忠が、いた。やっぱりいるんじゃないか。

 

「……すまない、勝手に上がり込んだ」

いちおう、面と向かっても謝罪の言葉を入れておく。

 

「見られたく……無かった、かな」

「あんな電話を寄越しておいて、どの口が言うんだ」

歯切れの悪い光忠や、俺が会話のイニシアチブを握っているらしいのは珍しい。

「あー、まあ、そう、だよね……」

『広光がいないと、駄目みたいだ』とだけ一方的に告げられて、気にならない程冷たい仲では無い。

「訊き返そうにも、あんたはすぐに電話を切ったし、俺から掛け直しても出てくれない。なら、翌朝こうして訪ねるしかないだろう?」

「はい……」

 

「……ところで、酒臭いんだが、」

リビングのドアを開けた途端に、むわっと臭ってきた酒の臭いに躊躇したのだ。ドアを開けはしたが、今まで足を踏み入れずに光忠と会話をしていた。

証拠は視界に入るだけでかなりあった。

座卓の上や付近の床に放置された、開いたビール缶。光忠が手に持っている缶……恐らく俺が来たことで反射的に証拠隠滅を図ろうとしたのだろう。

光忠は何とも決まりが悪そうに苦笑いしていた。

「とりあえず……まずは酒類を片付けたらどうだ?」

 

 

少しの後、リビングの座卓周辺は一通り片付いた。

光忠は酒類や惣菜のケースを水でざっとゆすいでゴミ袋にまとめ、俺はその間に部屋の窓を開けたり机を水拭きしたりして手伝った。

 

この部屋に住んでいた時の定位置に座り、座卓を挟んで光忠と向かい合う。

「……それで、どうしてこうなった」

静寂のなかで茶を啜り、話を切り出す。向かいの光忠は、「しまった」という顔のままで、いつまでも喋ってくれなさそうだったから、俺がきっかけを与えることにした。

 

「……広光がいないと、寂しくて」

やっと光忠が返事をした。

が、答えになっていない気がして、俺は首を捻ることしかできなかった。

 

「光忠は俺が来る前からちゃんとしていただろう?」

どうして俺がいないと、光忠の生活が荒れるのだ?

「帰宅した時に広光が出迎えてくれない、一緒にご飯を食べれない、何気ない会話を交わせない……それが、どうしようもなく、寂しいんだ」

そんなことを言いながら、光忠はふらりと立ち上がり寄ってきた。

 

――光忠の言葉を理解することに脳みそを総動員させていたから、反応が遅れたのだ。

いつの間にか、光忠の身体によって俺の顔に影ができる程に近付かれていて、顎に手を掛けられていた。上を向けさせられ、気付けば光忠の顔がこれ程無く間近で――

視界が無くなった。

知覚できるのは、唇に触れる、生暖かい感触と、仄かな酒の匂いだけ。

 

「――――ッッ」

何が起きたのか分かった時には、床に背中を打ち付けていた。

押し倒された、のだ。

背の痛みの波が過ぎる頃には、光忠が完全に俺に覆い被さっていた。

 

――光忠は、酒に酔っているのだろう。

 

だめ、だ

何とか、何とかしなければ

 

勢いに流されてしまいそうになる意識を掻き集めた末に、俺は光忠を振り払って脱出することに成功した。手が先に出たのか、足が先だったのか、光忠のどこかを殴ったのか蹴ったのか、何も分からなかったし、振り返って確認する余裕も無かった。

辛うじて自分の斜め掛けバッグを引っ掴み、片付きつつあるリビングを、いまだ物の転がる廊下を、障害物の多い玄関を、つんのめり、躓きながら駆け抜ける。

そのままの勢いで階段を駆け下り建物を出たところで、よく今まで転ばなかったと、酸素を求める頭でぼんやり思った。

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検非違使燭台切光忠

 

 

 

「あ! 前方に人影が見えます!! 燭台切さんかな」

秋田藤四郎が指差した先には、確かに刀剣男士と思しき人影が複数あり、俺たちの方に近づいてきていた。

 

「……いや、全員止まれ。味方ではない」

隊長である俺は、皆を止めて一歩前に出る。いつでも刀を抜けるよう準備をする。

 

味方ではない、と判断したのは直感だった。

奴らからは凡そ友好的と言える雰囲気が感じられない。むしろ、殺気――そう、強者を求める検非違使のような、好戦的で冷徹なものが肌を掠めた。

 

動かない俺たちに対して、奴らは構わず距離を詰めてきた。

そうして、互いの姿形がはっきりと認識できるようになった時、悔しくも、俺の瞳は驚愕に見開かれていた。

 

敵は、光忠の姿形をしていた。

瞳と刀から検非違使特有の青い光を放っていなかったら、真偽を見極めるのは困難だっただろう。

 

「姿形を似せて惑わせるにしても、その光を隠しきれなくては意味が無いな」

驚きはしたが、躊躇うことは無い。

奴に従う五体の人影も青い光を放っており、検非違使であることは一目瞭然だ。俺たちは迷わず武器を構える。

 

 

「――運がいいなあ。一番に出会えたがのが伽羅ちゃんだなんて」

 

予想できなくも無かったが、奴は声までそっくりだった。

舌打ちだけに止める。敵の癖にその呼び方をするのは止めろと言ってやりたかったが。

 

「まずはお手並み拝見させてもらおうかな」

敵の光忠――と表現するのも癪に障るが、そいつが軽く手を振ると、脇差の検非違使が二体走り出てきた。こいつらは普段の検非違使と変わりなく、俺と太郎太刀が難なく一撃で仕留める。

 

仕留めた、が、消滅する検非違使の先に、迫り来る光忠の姿があった。

「ッ!!」

速度を落とさず突っ込んでくる剣先を、咄嗟に振った刀で弾く。

 

お手並み拝見とか言って配下を戦わせておいて、早々に自らが出向いてくる奴があるか。

敵の、光忠の意図が読めないままに、何撃か刃を撃ち合わせる。

 

「互いの実力を計るには、直接撃ち合うのが一番だよね。もう分かったと思うけど、僕の練度は――」

「九九、生憎と俺も同じだ」

当然ながら、ステータスの数値も上がりきっていることだろう。打撃力に優れた光忠の一撃一撃が重い。全く、厄介な相手だ。

 

「うん。ははは、悉く僕の理想通りの展開だ。僕の相手に相応しい伽羅ちゃんに最初に出会えるなんて」

光忠は心から嬉しそうに嗤うが、俺たちにとっては邪悪なものにしか見えなかった。見た目は美丈夫だが、存在は歪。ちぐはぐなそれの笑みは、とても禍々しく、見た者の体温を奪っていく。

 

飲まれては、いけない。

大倶利伽羅として。刀剣男士として。練度もステータスも所謂カンストしている者として。隊長として。

飲まれる訳にはいかない。

 

そうだ、隊長として、俺が下すべき決断は――

「お前らは撤退しろ。俺が喰い止める」

 

「え、大倶利伽羅さん、」

「いけません、そのような無茶は」

皆が一様に反論する。それぐらは想定済みだ。続ける言葉も用意してある。

 

「今の部隊は検非違使戦向きではない。本丸に戻り、審神者に報告して態勢を整えさせろ。くれぐれも軽挙妄動は慎むようにと伝えろ」

「私も残ります。二人の方が生存の確率が高まりましょう」

「いや、太郎太刀、あんたが代わりに隊長を務めて全員を帰還させろ。短刀を守るには大太刀が必要だ」

 

隊長命令として具体的な役割を指示すると、太郎太刀は反論できないようだった。この部隊の編成は、大太刀である太郎太刀と、太刀である三日月宗近の他は短刀や脇差であり、短刀や脇差を守り撤退するには太郎太刀も三日月宗近もどちらも必要だ。どちらかを俺に着けては、もう片方が危うくなる。

 

「もし光忠の部隊と合流しても、共に撤退しろ。俺もこいつらを倒したら帰還する」

締めの言葉を言い放つと、太郎太刀は渋々と頷いた。

「……分かりました。御武運をお祈りします」

 

太郎太刀は皆に後退を促し、自らは殿について検非違使に睨みを効かせながら、素早く撤退させていった。

追おうと躍り出た一体の前には俺が立ちはだかり、袈裟斬りに仕留める。これで残りは、光忠の姿をした者含め三体だ。

 

 

「俺は一人で行く、とか言う伽羅ちゃんが、皆の身を案じて撤退させるなんてね。意外なものが見れたよ。さて、伽羅ちゃんは無事に戻れるのかな」

「あんたを倒して、光忠の部隊を探し出して、俺は帰還する」

俺の仲間の光忠は、俺たちの部隊に先行して出陣し、行方不明となっている。この状況から見て、恐らくあちらも検非違使に手間取っているのだろう。

 

「そっちの僕は今頃、こっちの伽羅ちゃんが相手をしているよ。そっちの僕も強いみたいだね。伽羅ちゃんの思惑も上手くいっているみたいだ」

ニヤニヤと嗤うあいつの言葉から、検非違使の大倶利伽羅の存在、あいつ同様に強いこと、光忠に執着しているらしいことが分かった。

 

「ねえ、どうして僕が検非違使になったか知りたくない?」

光忠は俺に比べてお喋りな奴だが、この検非違使はよりいっそうお喋りらしい。

「情報収集しておけば、もしも万が一、伽羅ちゃんが本丸に帰還できた時のとても有益なお土産になるよ」

 

「……あんたが余程喋りたいのは分かった。……が、こいつらが邪魔だ」

残りの検非違使に向かって指先を軽く振ってやる。見事に挑発に乗ってきた二体のうち、一体をまず屠り、残る敵の攻撃を避けてカウンターで斬りつける。

見え見え、だ。

 

「さすが伽羅ちゃん、鮮やかな手捌きだ」

光忠はついに拍手までしてきた。率いてきた味方を全滅させられた自覚はあるのだろうか。”光忠”らしからぬ態度だ。

 

 

「僕らの本丸も、至って普通の本丸だったんだ」

拍手を止めた光忠は、不意に郷愁の表情を浮かべて語りだした。恐らく、俺が検非違使を倒さずに放っておいても、勝手に話し出していただろう。

 

「ある時、審神者が不正を行ったんだ。呪(まじな)いによって僕らのステータスを故意に上昇させた。本丸にいる内は良かったんだけど、出陣して戦闘結果が政府に知られると、そりゃあバレてしまうよね」

ククッ、と、光忠に似合わない嘲笑を浮かべてきた。

 

「政府が派遣してきた役人と刀剣男士によって、僕らの審神者は捕えられた。僕らはイレギュラーとして消される予定だった。だけどね、せっかく得た身体だ。ただ消されるのは惜しかったし、戦闘に負けるのも癪だろう?」

光忠は語りを止めて俺の目を射抜いてきた。光忠らがどうしたか答えてみろ、と言っているのだろう。

 

「……それで、政府の役人と刀剣男士を斬ったのか。あんたに付き合ってやるのはそれこそ癪に障るんだがな」

皮肉を加えて返してやると、光忠は口の端を上げて挑発的に笑んだ。

 

「そう、それで僕らは罪人となり、検非違使になった。どう? 検非違使の謎が一つ解けたような、深まったような気がしない?」

「興味ないな」

くだらない話は終わったのか、それともまだ続くのか。溜息を吐いてやる。

 

 

「そうだ、君と、君のところの僕は、恋仲なのかい?」

「……は?」

唐突に何を訊くんだ、こいつは。

 

「そっか、その方が好都合かな。僕、寝取り寝取られはあまり好きじゃないし、どうせ僕のものにするなら処女の伽羅ちゃんがいいしね」

俺を置いてけぼりにして、奴はうんうんと頷いて喜んでいた。

 

 

……とりあえず、少し時間が経ってから意味を飲み込んだ。

「……あんたたちは、そうなのか」

こんな話を持ち出すぐらいだから、と。

不必要に乗っかってしまっていた自分に後々気付く。俺はこいつとお喋りにきているのではないと、流れに飲まれそうになる自分を内心で叱咤する。

 

「うーん、恋仲ではないかな。検非違使になってから高揚しちゃって、一度シたけどね」

俺のどうでもいい言動を拾った光忠によって、聞きたくもない(いや訊いたのは俺なんだが)情報を与えられた。

 

もう俺は話に乗らないからな。と、心の中で誓いを立てていると、光忠の方から口を開いてきた。

「僕の方の伽羅ちゃんはね、僕と本気の斬り合いをしてみたくなったんだって。でも、僕らは検非違使になってしまっても仲間だし、カンストしている燭台切光忠を他に求めることにするって。どうやらそっちの僕は先に出陣してるみたいだし、今頃斬り合ってるのかな」

 

俺であって俺でない”大倶利伽羅”の所業を聞かされるのは、むず痒い気持ちにさせられる。光忠(勿論、仲間の)も似たような状況に置かれているのだろうか。

 

「僕も当初は伽羅ちゃんと本気で戦いたいとか思って無かったんだけどね。今なら伽羅ちゃんの言う事も分かる気がする」

一呼吸置き、一度瞬いた後の光忠の隻眼は、獰猛な色を湛えていた。

 

「強く育った伽羅ちゃんと真っ向勝負をして、君を滅茶苦茶にしてみたい」

低音を響き渡らせ、舌なめずりをする様は、まるで獲物を前にした猛禽類の姿だった。

 

発された殺気に気圧されそうになり、地を踏み締める。乾いた砂のざりざりとした音が、俺の焦りを表しているみたいだ。

 

こいつは、危険すぎる。

 

そう思っている時点で、俺は奴に圧倒されている。

それを自覚すると悔しくて、怒りが沸騰したような熱で以って身体中を駆け巡り出した。

頭の中まで燃えてしまいそうな程熱いのに、思考だけ冷えているような、研ぎ澄まされた感覚。

 

「お前なんかの勝手にされる筋合いは無い。死に場所は俺が決める!」

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回想・内番のネタバレがあります
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刀剣乱舞 みつくり 

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