異能あふれるこの世界で 第四話
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【長野・龍門渕系医療グループ某療養所】

 

 

善野「そうか。私のとこへ来させんのか。ゆうても、今の私自身はなんもしてやれんけどな」

 

 

善野「はは。まさか郁乃がこんなにも真面目に監督をやってくれるとは。私より向いとるとは思っとったけど、ちょっと悲しいもんがあるわ」

 

 

善野「それはどうやろ。恭子にはやけに好かれてもうてたからなあ。出会う順番が悪かったとしか」

 

 

善野「なんなんやろな。恭子には教えたくさせる何かがある。性質の悪い私や郁乃を落としてまうあたり、指導者殺しの打ち手なのかもしれん」

 

 

善野「教えきらんかったんは悪かったと思うてる。打ち方の改善をしとったから、スランプに陥るのもわかっとった。そんな大事な時に倒れるとは、本当にダメな監督だよ私は」

 

 

善野「そうやな。実は郁乃の方が役にたっとるはずなのに、なんでそんな慕われてないんやろ。性格やろか」

 

  

善野「私は誤解されやすいからな。園城寺とかもそうちゃうか。世のやつらは病気しとる奴が健康な奴らより真っ当な精神で過ごしとる、とでも思うとんかな。どう考えてもおかしいやろ」

 

 

善野「……誤魔化せんか。まあ性根の悪さは自覚しとる。表に出難い分、郁乃よりもええ印象になるんかもしれん。どう考えても指導者とか向いてへんのになあ」

 

 

善野「心残りは、正直ある。でも、こういう失敗をしてもうたら、次はせん方がええかもしれんとも思う。恭子のこともな、打ち方を洗練させて大会で自信を付けさせて、ほんまにこれからってとこやった……」

 

 

善野「そりゃあな。目をかけた子は自分で育てたかったよ。ああ、そうか。郁乃に恭子をお願いしたんも悪かったんかもなあ。特別になってまうきっかけに」

 

  

善野「そうか。失礼なことをゆうてしもたな。じゃあ恭子は私らを落とすほどの打ち手、ゆうことで。なら、今の私にもできることくらいはやるとしようか」

 

  

善野「恭子も会いたいゆうてくれてるんやろ?なら会うよ。いくつか思いついとる案はあるから、下準備を整えたらまた連絡入れるわ」

 

  

善野「うーん。そんなに時間はかからんと思う。ゆーか、恭子と話し合ってから決めたいってのがあるからな。成長した今の恭子に、これからどうなりたいかってとこから聞いておきたいんや」

 

  

善野「私自身はそんな役に立てそうにない。結局は誰に任すか、になると思う。けど、ええ相手は交渉も難しい。早あがりを極めたい言うんなら瑞原はやりにでも話をつけてやりたいけど、あんなん捕まえて何か月も定期的に拘束するんは不可能や。一回だけならまだしも」

 

  

善野「いや、私らが直接動けんのは、確かに悔しいけどな。私らよりも教えるんに向いてる奴を充てたったら、恭子の将来にとっては大きなプラスになる。それでええやないか。改めて考えてみたら、良さそうな人材が近くにおったん気付いたし」

 

 

善野「直やないけど、貸しのある奴を経由すれば落とせそうな奴、おったわ。しかも、本気で教えてくれるなら、恭子の麻雀は一気に伸びると思う。あいつの特技を広く深くしてくれるという点に関しては、最高の教師になれるかもしれん。ああ。これ、恭子との話はその方向でええかどうかを確かめるのが本線になりそうやな」

 

   

善野「決まったら郁乃にも教えたる。話してみて、あかんようなら他の人か、他の手か。まあ何かはせんといかんし、せっかく恭子が来てくれるのに、用意した手がダメならごめんなってのは格好がつかんやろ」

 

  

善野「恭子に手ぶらで帰れとは言えんよ。事前に話を聞くこともできん。話を聞きながら、こういうんはどうやと提案して、納得して受け入れてもろて、確実にええ方向に進んでもらう。で、私は慕われたまま、世話になった人として記憶に残るわけやな」

 

   

善野「それは郁乃の決断やろ。私は振られる気なんかないで。……ああもう、泣くな泣くな。やっと泣きやんで話ができるようになったのに、また泣かれたらたまらんわ。恭子、待たせとるんやろ」

 

 

善野「私が恭子からの相談を受けて困っとる、とか思われるかもしれんやないか。善野さんはさっと受けてくれたけどつい雑談しとった、って言うときや」

 

 

善野「ええやん。郁乃は今まで恭子の役に立ってきた。私は大したことはなんもできんかったから、せめて記憶の中だけでもええ指導者でいたい。そんでな、もしこの後も何かあって頼ってきたら、またスパッと解決したるんや。んでいつか、やはり最後に頼れるのは私、って立場になったんねん。今回のはその初手。絶対に外せんし、外さん」

 

  

善野「なんとでも言うたらええ。指導者やってみてわかったけど、目をかけとる子から本気で慕われるいうんはヤバいわ。ひょっとしたら私は、ときめきすぎて倒れたんかもしれんって思うくらい、たまらんもんがある」

 

 

善野「ははっ。まあ、郁乃も続けとけばいつかそういう子と出会うやろ。とりあえず、恭子にはええように言うといて。たぶん数日以内には連絡入れるわ。ずっと暇しとるから、恭子が来る日だけ教えてくれたら、あとはこっちで調整する」

 

  

善野「そうやな。恭子一人がええ。一応、他の部員にも言わんように。どんだけの子らが来たがるかわからんけど」

 

  

善野「そうやとええなあ。でもな、たまに思う。私は姫松に何かを残すことができたんかな、とか。結局、邪魔してもうただけのような気もする。麻雀が強いだけなら、その都度プロ呼んだらええ。強いだけの私でなくてもよかったはずなんや」

 

 

善野「うん。まあ現監督の郁乃が嫉妬するくらいは、慕われとったゆうことか。ようわかったわ」

 

 

善野「すまんすまん。ああもう、大きな声は体に障るから切るで。恭子によう言うといてな」

 

 

 

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 麻雀 善野一美 赤阪郁乃 

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