艦隊 真・恋姫無双 119話目
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【 激震(笑) の件 】

 

? 司隷 洛陽 都城内 予備室 にて ?

 

三人が近付くと、その緊張感溢れる様子に一瞬だけ怪訝な顔を見せながら、すぐに営業スマイルになり、微笑をたたえる鳳翔。 

 

そんな鳳翔に、能面のような無表情な顔で華琳は答える。 それと同時に、華琳の後ろへと詠と冥琳が並んだ。

 

ーー

 

華琳「──ええ、貴女の策謀は全て白日の下に晒された。 この件は後ろの二人にも語り、既に理解して貰っているわ」 

 

詠「………華琳の掌で踊らされた感が、ものすごぅ〜く癪に障るんだけど………だいたいは、ね。 あっ、紹介が遅れたけど、ボクは天水太守『董仲穎』の臣、賈文和。 月……じゃない、我が主『董仲穎』の補佐を務める者よ」

 

冥琳「こちらの御遣い様には、お初にお目をかける。 孫家の君主『孫策符』に仕える周公瑾と──ん、失礼。 貴女の国では、此方の挨拶が日常だったのだな。 ううぅん、ゴホンッ!」

 

鳳翔「……………?」

 

華琳「ちょ……冥り──」

 

詠「──どうしたのよ?」

 

ーー

 

あの謹厳実直の冥琳が、珍しく初対面の鳳翔に言葉を詰まらせる。 側の二人は心配して冥琳に声を掛けようとすると、ある言葉を流暢に紡ぎだした。

 

ーー

 

冥琳「 How do you do ? 」

 

鳳翔「────え、英語っ!?」

 

「「 ───!?!? 」」

 

冥琳「むっ、金剛殿に教えて頂いたのだが……まだ、発音に難があるのか? ん、んん………あ、ん。 ハゥ、How do you do ? 」

 

鳳翔「あ、あわあわあわっ! わ、私、英語……判らないです! No English なんですぅ!!」

 

華琳「冥琳………貴女、何を………」

 

詠「………まあ、あの国の上と下に挟まれば、心労も溜まるわよ」ウンウン

 

ーー

 

冥琳が挨拶を始めると、鳳翔が右往左往し始め、華琳が口を大きく開けて唖然とする。 詠は冥琳の様子に勘違いして、自分と同じ苦労人だと納得した。

 

そして、その原因となった冥琳は、自分の発音が悪いから意味が通じないと心配し、金剛の発音に近い状態にと更なる調整を行う。

 

その混乱は、冥琳が付近を見渡し始めて気付き、普通の言葉使いにすると、ようやく静かになるのであった。

 

ーー

 

冥琳「も、申し訳ない! 金剛殿より……天の国の正式な挨拶だと、伺ったのだが。 そうか、全員が全員……この言葉を使うわけではないのか……」

 

鳳翔「えぇ、ええ……そうなんですよ。 基本的には提督と同じ言葉なんです。 だから、無理に使わなくても大丈夫ですから……」ドキドキ

 

華琳「………新たな天の知識ね。 なかなか……興味深いじゃない……」

 

詠「相手の聞き取れない言語で会話、か。 う〜ん、一考の余地はあるけど、霞や恋達が使えるかどうかよねぇ。 でも、月との会話には都合がいいわ。 何かの機会があれば、羌族の言葉とか使って会話してみようかな?」

 

ーー

 

冥琳の挨拶により、緊迫感が一挙に薄れた。 

 

しかし、空気を変える為に華琳が咳払いし本題に戻す。

 

ーー

 

華琳「コホン! とんだ邪魔が入ってしまったけど、私の話はこれからが本題よ。 私達は漢に仕える臣下ゆえ、この件を詳細に報告するつもりよ」 

 

鳳翔「………………はい?」」

 

華琳「────天の遣いが行う謀から……漢王朝を護る為に!」

 

ーー

 

大音声で発する華琳の言葉に鳳翔は立ち竦む。

 

給仕をしていた他の艦娘が思わず手を止めて華琳達を注視し、恋姫も驚いて注目し始める。 

 

華琳は周囲の目が集まるのを肌で感じると、更に声を上げて鳳翔を糾弾した。

 

ーー

 

華琳「これにより……貴女の謀は完全に阻止される。 如何に武力で秀でようとも、知に関して私の方が一日之長あったようね? 私達を力尽くで封じこめようとしても、人命を奪えない貴女達から逃走するなど、簡単だわ!」

 

鳳翔「お、落ち着いて下さい。 話を聞きますと、何か思いを違いされていると身受けられるのですが…………」

 

華琳「………思い違い? それは、覇王である私の目が節穴だった……と言う意味かしら?」

 

ーー

 

ようやく華琳の言葉を理解した鳳翔は、困惑しながらも他の情報を得ようと質問するが華琳は応じず、露骨に嫌な表情をあらわした。

 

華琳としては、自分の考えを即座に不定されたので、機嫌が悪くなったのが原因。 多少………先程の事で羞恥心も入っているが、とりあえず置いておく。

 

ーー

 

鳳翔「どのような理由で、そのような御判断をなされたのかは、私達は存じません。 ですが……そのような恐ろしい事を企てる為に、この饗宴を催した訳ではなく、あくまで慰労と感謝が主であり──」

 

華琳「私だって思いもしなかったわ。 その料理が漢王朝を滅亡の淵へと落とそうとするなんてね。 流石は一刀に付き添う天の御遣い、考える事が奇抜過ぎて、皆に理解させるのに多大の手間が掛かりそうだわ………」

 

鳳翔「……………どう意味ですか?」

 

華琳「貴女が振る舞った甘味。 あれは漢王朝を骨抜きにする為の布石なのでしょう? 私達が無知な事を利用し、甘味で誑し込み美味さを喧伝。 その実績を背景に王朝へ広め、極官達を糖尿病に罹患させ滅亡を早める謀を……ね」

 

鳳翔「そ、そんな──!?」

 

華琳「違うとでも言う気でも? だけど、裏付けは既に取れているのよ」 

 

鳳翔「では、その説明を求めます。 この宴席の責任者は私になりますから、私が改めて誤解を解くのが筋ですから………」

 

華琳「そう──ならば、説明をさせて貰うとしましょう……」 

 

ーー

 

そう話を一旦区切ると、華琳は自分が見破った謀を説明。 鳳翔の一挙一動を注意深く監視するのであった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 掩護 の件 】

 

? 同都城内 予備室  にて ?

 

《 赤城、桂花 別行動中 》

 

 

桂花「よいしょ、よいしょっ……と! ほらぁ、赤城! 少しは自分の足で歩きなさいよ!」 

 

赤城「ぅううう………お腹がぁ、頭がぁ〜」

 

桂花「そもそも、なんで、私が! こんな真似しなくちゃ、いけないの、よぉっ!! 全く、もうっ!!」

 

ーー

 

気分が悪いと言う赤城に肩を貸し、口で嫌悪感を示しながら、それでも揺らさないよう静かに歩を進める桂花。 

 

そんな桂花に多少の罪悪感を抱きながら、安心して身体を預ける赤城。

 

多分、この物語で一番心を通わせた恋姫と艦娘だと思われ── 

 

ーー

 

桂花「───ねえ、ちょっと、赤城!」 

 

赤城「う〜ん、桂花さんのネコ耳……触り心地ぃ最高ぅでぇすぅ〜〜」

 

桂花「ば、馬鹿ぁ! 私の大事な……ちょと、止めなさい! 被り物が取れちゃうじゃないの! こ、こらぁ──髪まで撫でるなぁ!!」

 

赤城「フワフワでサラサラ……う〜ん、潮風の匂いがしない髪も久々。 お日さまの香りがしまぁ──うわぁあああっ!?」

 

桂花「──ふん! い、いい加減にしなさいよ! 誰が、こ、恋敵に好き放題触らせておくもんですか! アンタなんて、その床に這いつくばって居る方が、アンタらしくてお似合いよ!」

 

赤城「──ひ、酷い!」

 

桂花「ふん! それは兎も角、赤城が余りにも重くて、私の華奢な身体が軋みのよ。 誰か、赤城の仲間で手伝ってくれる者は居ないの……って、どうも無理そうね。 何やら集まっているから、手が空かないようだし………」 

 

赤城「なんですかっ、その言い方は!? まるで私を──ボッチでデブと遠回しで貶めているだけじゃないですかぁ!!」

 

桂花「あのねぇ、私はアンタみたいに大食漢じゃないし、文官として華琳様にお仕えしていたから、腕力だって無いのよ! そんな私が苦労して介抱してあげたのに、わざわざ変な難癖を付けるなんて被害妄想も甚だしいわ!」

 

赤城「それなら重い重いなんて言わないで下さい! 私だって、私だってぇ……自分の体重の軽重には気を使う、立派な乙女なんですからっ!」

 

桂花「普通の乙女は主賓を招く宴席で、私用の食器を準備して代わりを要求する厚顔無恥な真似なんかしないわよ! あの春蘭でさえ華琳様を立てる事を知っているのに、一刀の名を汚すような事して何をほざいているの!」

 

赤城「宴席に並べらる料理は、残れば残飯で処分されるんです! 私の目の前に料理があれば、その食材に感謝して平らげるのは当然! 命を大事にする提督が聞けば──よくやったと、手放しで褒めてくれますよっ!!」

 

桂花「はぁっ? 何を馬鹿な事を言ってるの? 幾ら優柔不断で女の子に甘い一刀でも、来賓の顔を潰す行為に褒め言葉を掛ける訳ないじゃない。 甘い物を食べ過ぎて、頭の中まで甘くなったの?」

 

赤城「桂花さん、天の国では『据え膳食わぬは男の恥』と金言があるんですよ? この言葉を提督に語れば、きっと御理解して下さる筈です! 私の世界を知らずに提督の名で知ったか振るのは、止して貰いませんか!!」

 

桂花「その前にアンタは乙女なんでしょ!! それとも、彼処で仁王立している漢女とでも言いたいの!?」

 

赤城「幾ら何でも例えがひどぃ──きゃあっ! ひ、卑弥呼さん、ごめんなさいっ!! そんな怖い顔して睨まないでぇえええっ!!」

 

ーー

 

───なかった。 

 

その後も、虚しい言い合いを数回を繰り返し、桂花が睨み付けた。

 

ーー

 

桂花「ふん! そもそもねぇ、アンタと違って身体も胸も態度も慎ましい私が、こうやって馬車馬の様に働くのが、どうしても納得いかないわ!」

 

赤城「ボソ(………十分、態度は私より、大きいですけど……)」

 

桂花「…………何か文句でも?」

 

赤城「いえいえっ! な〜んでも、ありましぇん!」ブンブン

 

桂花「…………………ふう。 さてと、赤城……」ニヤッ 

 

赤城「───うぇっ!?」

 

ーー

 

勢いよく顔を左右に振る赤城を見て、桂花は───ニヤリと笑う。

 

その笑顔に若干腰を引いて構える赤城。 

 

ーー

 

赤城「───な、なんですか、桂花さん?」

 

桂花「……………アンタ、やっぱり元気じゃない」

 

赤城「────ぶふっ!?」

 

ーー

 

桂花の指摘に、興奮していた赤城の顔が青褪める。 

 

何故なら、その指摘は的を得ていたのだ。 赤城は、桂花だけを集団から離して、この場所まで連れて来る役目を背負っていたのだから。

 

だから、体調不良の演技までして連れて来たが、またしても看破されてしまう事になる。 自分の演技が大根だから駄目なのか、桂花の軍師として才覚が凄いのか判らないが、何とか誤魔化さねばならない。 

 

ーー

 

桂花「ねえ、一体……その元気そうな身体で、どこが具合が悪いのか教えてくれる? 癪と言う名の病って、天の国の病気なんでしょ? 非常に興味深い話なんだけど………結局どこが痛む病なの?」

 

赤城「へっ? あっ、あう! あうぅぅぅ………お、お腹が減りすぎて……」

 

桂花「お腹減ったって………さっき汁粉を五杯食べたって言ったじゃない! アンタが手に持ってる、その大きな食器を示して!」

 

赤城「───はうっ!?」

 

ーー

 

回避行動を起こしたものの、桂花は苦もなく弱点を突いて逃げ場を無くす。

 

赤城の背中に冷たい汗が流れた。 

 

本来、この地点には支援艦隊が来る予定なのだが、まだ見えない。 

 

もし、姿を見せれば、桂花の追及を擦り付けようと画策して赤城にとって、痛恨の出来事。 単独で桂花の相手をしてしまった事を激しく後悔した。

 

ーー

 

桂花「ねえ、どう意味? 答えなさいよ!」

 

赤城「─────あ、あう、あぁぁ………」

 

ーー

 

詰め寄る桂花に対して、どうすればいいのか?──残された時間も少ない赤城は考えた。 

 

しかし、相手は王佐の才を謳われる桂花。 生半可な行動では動じないだろう。 歴戦の修羅場を突き進んだ一航戦は、前に佇むネコ耳軍師にミッドウェー海戦以来の危機を思い起こされた。

 

だが、幸運にも──これが反攻する奇策を思い付かせた。 当時、轟沈の原因になった『装備換装』から『発送転換』に思案が移り実行した。

 

ーー 

 

『このまま普通に謝罪しても怒られてしまいます。 それなら、桂花さんの琴線に触れるような頓知が効いた謝罪をして、赦して貰えばいいのではないでしょうか?』

 

『これが気に入られば、謝罪が通って怒らる事はないかも。 ううん、寧ろ実行しないと──間違いなく説教にっ!? 加賀さんと山城と霞ちゃんや満潮ちゃん達を合わせた言葉使いで長時間………ヒイィィィッ!!」

 

ーー

 

そんな事を考えた赤城は、今も睨み付ける桂花へと話し掛けた。 

 

桂花もまた、先程まで自分の顔を直視しない赤城が、急に真面目な顔で対峙するので、一瞬ビックリしたのだが……真っ直ぐに見つめ直す。

 

ーー

 

赤城「け、桂花さん……こんな名言……ご存知ですか?」

 

桂花「な、何よ? 急に改まって………」

 

赤城「『反省はいい。 後悔するのも勝手だ。 だが過去の過ちをただ否定的に捉えて自分を責めるのはやめた方がいい。 それは何も生み出しはしない』と。 ある天の国の英雄が……そう、語っていたそうなんですよ!」

 

桂花「ふ〜ん」

 

赤城「どうです、桂花さんっ! この言葉の意味、判りますよねっ!?」

 

ーー

 

赤城の期待した視線が、桂花に向けられる。

 

赤城が考えたのは、更に踏み込んで説教を受ける構えで入り、逆に説教を躱す方法。 当意即妙な答えを出して、相手の怒りを受け流すやり方だった。

 

そんな馬鹿なと思われるが、教科書にも掲載される有名人物さえも、同種の考えを示しているのだ。

 

 

 

「山川の 末(さき)に流るる橡殻(とちがら)も

 

 身を捨ててこそ 浮かむ瀬もあれ」

 

 口称念仏の祖 空也上人 

 

 

「斬り結ぶ  太刀の下こそ地獄なれ 

 

 身を捨ててこそ 浮かぶ瀬もあれ 」

 

 新陰流  柳生 宗厳

 

 

「切り結ぶ 太刀の下こそ地獄なれ  

 

 踏みこみ見れば 後は極楽」

 

 二天一流 宮本 武蔵(内容、読み手共に諸説あり)

 

 

「生を必するものは死し、死を必するものは生く」

 

 戦国武将 上杉 謙信

 

 

 

そんな名言を知ってか知らずか、赤城は言葉の弾幕に敢えて身を晒したのだが、桂花は──甘くはない。

 

加賀を彷彿させる無表情の顔で、冷たく言い放つ。

 

ーー

 

桂花「──それで、この状況と立場を踏まえて……何が言いたいの?」

 

赤城「……………騙して……御免なさい……」

 

ーー

 

赤城の起死回生に懸けた奇策は、こうして不発に終わった。 

 

言っておくが、別に名言が悪い訳ではない。 

 

勿論、その考えも的確だった。

 

ただ、失念していたのは、赤城自身の行動。 己の態度が桂花に、どう見られていたか? それが最大の要因。

 

全ては──赤城の行動より出た錆、である。

 

ーー

 

??「………………………」ヒョッコ

 

赤城「あっ! や、やっと来てくれた! 遅いじゃないですか!!」

 

桂花「まさか………アンタも……赤城と手を結んでいたの?」

 

??「…………………」コクッ

 

ーー

 

こうして、赤城の回避行動は全て外れ、素直に謝罪として深々と桂花に頭を下げるしかなかったのだが、そんな二人に近付く影がある。

 

物陰に隠れ、二人のやり取りを黙って覗き……ゲフン、見守っていたのだが、自分の役目が訪れた事を覚り、静かに桂花達に向かい歩を進め接触。

 

赤城は喜びに満ちた笑顔を、桂花は不思議そうな顔を浮かべる。 

 

 

それは───

 

 

 

◆◇◆

 

【 一刀への想い の件 】

 

? 洛陽 都城内 予備室 にて ?

 

 

華琳「───これが、貴女の料理から推測して私が見破った、漢王朝を崩壊へと導く謀の全貌。 人面獣心の貴女に相応しいやり方だわ」

 

鳳翔「………私の料理は持て成しを第一とする物。 この様な醜い権力闘争の道具として扱うなど、考えも致しません!」

 

華琳「名医華陀の助手より『糖尿病』の発症条件と症状、その対策を聞いたわ。 しかも、貴女から伝授されたという付加価値。 これらを組み合わせれば十分に可能性はある。 いい加減……認めてみたらどうなの?」

 

鳳翔「そもそも、この宮廷内には料理で名を轟かす方など、指で数えても足りない程いらっしゃる筈です! それなのに、在野で手慰みから初めた私ごときの料理が、そんな簡単に持て囃(はや)される訳がありませんっ!」

 

華琳「…………頑固ね。 ここまで証拠が揃っているのに、まだ白(しら)を切るつもり?」

 

鳳翔「それは全て憶測により生じされた疑念! 確かな物品や証人が無ければ、私達を冤罪で訴えて出た曹孟徳殿の責となります! その様な事、私達は致しません! どうか、ご一考ください!」

 

ーー

 

鳳翔は、華琳からの疑惑を──真っ向より不定した。

 

華琳の推測した謀には、鳳翔の出された料理と一刀より得た病の知識、漢王朝の現状を前提とした物。 その裏付けとして卑弥呼の説明が補完され、しかも冥琳から切り札なる情報も得ている。 

 

華琳としては………確かな手応えを感じているのに、関わらずにだ。

 

───ギリィ!

 

華琳の口から歯ぎしり音が響き、口許より一筋の赤い線が流れ落ちる。 ー時的に頭へ熱が集り、顔も朱色に染まった。 

 

だが、華琳は自分の意思で暴発しそうな感情を押さえきり、冷静に鳳翔と対応する。 相手は華琳の追及の手から難なく逃れる、天の御遣いなのだから。

 

ーー

 

華琳「貴女達は………自分が思っている以上に有名ってこと、知らないの?」

 

鳳翔「───えっ!?」

 

華琳「益州の内乱、そして洛陽内外の争乱。 あれだけ激戦を行うも被害が軽微だった貴女達。 正に天の御遣いに相応しき活躍だもの。 そんな貴女達の一挙一動は、かなり注目されているのは間違いないわ」 

 

鳳翔「………………」

 

華琳「逆に言えば、それだけの実力を持つ天の御遣い達を──特に昨夜の夜戦で活躍した貴女を脅威と捉える者も居る。 現に貴女達と接触を試みたのでしょう? その力を自分達へ取り込めたい愚か者達の使者が?」 

 

ーー

 

ここで、冥琳より貰った情報を小出しに流して、様子を伺う。 

 

これで反応が無ければ別の手を考えるつもりだったが、鳳翔の頬に悩ましい影が差すのを華琳は見逃せなかった。

 

ーー

 

鳳翔「…………そんな……訳が……」

 

華琳「どうかしら? だけど、思い当たる節……あるのでしょう?」

 

鳳翔「………確かに、私達が調理している間、厨房に居た料理人達から注目されていました。 ですが、それは調理方法に関心事があって………」

 

華琳「大体の話は聞いたけど、貴女達は接触後に、文官達を卒倒させたそうね? 何をして御遣いの逆鱗に触れたのか知らないけど、私としては好都合だったわ。 だって、その証拠を得られる貴重な機会だもの!」

 

鳳翔「───!」

 

華琳「捜すのは、貴女達と極官達が交わした『起請誓紙の証』よ。 それに、上手く口を割らす事ができれば、証人として立ち会わせるつもり……」

 

鳳翔「………………?」

 

華琳「まだ、誤魔化す気なの? この国の極官は、横柄な態度の割りには小心者。 口約束なんてしないで、絹の起請誓紙を交わし約束を履行するように迫る筈よ。 それが見つかれば確実な証拠となり、貴女達は断罪される!」

 

鳳翔「……………ですから、それは──」

 

ーー

 

何か言い淀む鳳翔を見て、華琳は嗤う。 

 

華琳にとって、今は最大の好機。 弱った獲物に慈悲を掛ける聖人君子では無い。 彼女は史実で『子治世之能臣、亂世之奸雄』と評価された──曹孟徳、その人なのだから。

 

ーー

 

華琳「私達が貴女の謀を陛下に奏上しても、証拠と言える物は何も無い。 貴女のいう通り、推察を重ねただけの疑念と言われて終わり。 それに、曖昧な産物、壮大な謀、これを説明しても理解できる能臣が、この洛陽に居ない」

 

鳳翔「───!?」

 

華琳「それに──極官も貴女達も……逃走するのに幾つもの道を用意しているわよね? 極官なら陛下の信頼、組織との繋り。 貴女達なら……益州での民の支持、洛陽での戦い振りによる畏怖。 そして──北郷一刀からの守護!」

 

鳳翔「────!」

 

ーー

 

一刀の名前を出すと、寂しげに俯く鳳翔を見て、華琳の抑えていた感情が首をもたげる。 それに、鳳翔の様子も、先程の抵抗が嘘の様に弱くなるのが判断できた。 

 

その様子を確認した華琳は、更に情報を開示して鳳翔を揺さぶる。 

 

そして同時に、抑えていた感情も露に───

 

ーー

 

華琳「ならば………この状況をどうするのか? ふふ、そう考えていたら……ある情報を手に入れたのよ。 貴女の名声が、畏怖が……利に聡く用心深い極官共を動かし接触したという──最大の好機を知ることがねぇ!!」

 

鳳翔「……………」

 

華琳「本当に貴女は……天の遣いよ。 汁粉の情報を密かに渡せば、貴女達が余計な動きをする必要もないし詮索も受けない。 それに極官共と手を結べば、原材料の大量運搬、流通経路の選択、追跡調査の後始末と自由自在よ!」

 

鳳翔「……………」

 

華琳「他にも極官を手懐けた後、色々できるわ。 豪華絢爛な生活、贅沢三昧の食事、私の夢見ていた大陸制覇も、果ては──漢王朝からの禅譲まで!!」

 

鳳翔「………そんな儚き物など……えっ?」

 

華琳「ようやく……よ。 ようやく、証拠が手に入れれる。 漢王朝を崩壊に導く、貴女達の証拠が…………」

 

ーー

 

感慨深げに華琳が呟き、その時に一筋の涙が零れた。

 

その様子を見た鳳翔は、先程の弱気な態度を一変して華琳に詰め寄る。

 

ーー

 

鳳翔「………失礼は百も承知していますが、お尋ねします。 曹孟徳殿、貴女の目的は私達の排除……では、ありませんね?」 

 

華琳「…………それが、どうしたの?」

 

鳳翔「不自然なんです、貴女の態度が………」 

 

華琳「これが……どう不自然なのよ。 貴女達が排除され、漢王朝は延命する。 臣なら涙を流し喜ぶところだわ。 寧ろ、これで不機嫌な顔になれば、その者こそ裏切りを秘める異心あり、と疑われるわ。 一体、何が変なの?」

 

鳳翔「普通の臣なら、確かに喜びましょう。 ですが、結論に時間が掛かる事も存じている筈です。 私達の罪状を挙げて、直ぐに判断が決まるなどありません。 何故なら……私達を畏怖していると……先程話されましたから」

 

華琳「………………!」ギュッ

 

鳳翔「城内及び周辺で起きた戦いで、私達の実力を余すことなく望まれたと思います。 ならば、評定は紛糾し私達の扱いに考え込むでしょう。 鼠が猫に鈴を付ける方法で悩むが如く……延々と………結論が出せないまま」

 

華琳「……………それで?」

 

鳳翔「だから、貴女の上申先は漢王朝の方々では御座いません。 すると、誰に指示を頼むのか? 貴女に関係し、私達を抑制する力を持つ者。 その様な方は、私達には一人しか思い付きませんっ!」

 

華琳「────ええ、あの者よ。 私を救ってくれた……最初の……天の御遣い!」

 

鳳翔「私達を従わせる唯一無二の人物──『北郷一刀』提督。 彼に顛末を報告し、私達を御限らせて引き離す。 そのおつもり………でしたね?」

 

華琳「…………………」

 

ーー

 

鳳翔の指摘に華琳の目が大きく見開き、鳳翔に注がれる。

 

たが、直ぐに軽く笑顔を作り、鳳翔を一瞥した後で理由を説明した。

 

ーー

 

華琳「ふふふ……今の私には正直……漢王朝に興味は無いわ。 例え、王朝が滅んでも、今の平和を守る事ができれば、貴女達の傘下に入っても問題は無かったの。 勿論、為政者としての務めは果たすし、これからも力を尽くすわ」

 

鳳翔「……………」

 

ーー

 

鳳翔の問いに、淡々と答えた華琳の言葉は───漢王朝の存続を無視する言葉。 しかも、艦娘達の支配下に参入をしても構わないという、今までとの逆の言葉。 しかも、傍で聞いている冥琳も詠も口を出さない。

 

だが、次の言葉を発する時は、明確な殺意を込めた視線を鳳翔へ向ける!

 

ーー

 

華琳「だけど、貴女達は…………一刀を何だと思っているの!?」

 

鳳翔「────っ!?」

 

華琳「貴女達が、一刀を利用して何をさせるのかは判らない。 だけど、私の目には──貴女達は、一刀の優しさを利用して、自分達の野望を成し遂げようとしているしか見えない! あの馬鹿を、底無しに優しい……大馬鹿を!!」

 

鳳翔「…………………」

 

華琳「私は──それが許せない! そして、そんな貴女達と意見を合わす桂花に憎しみを覚えるのよ! 私は、曹孟徳の名に掛け一刀を奪う! 私の大事な想い人を──これ以上利用されたくないっ!!」

 

鳳翔「………………」

 

ーー

 

華琳は両眼に涙を湛え、身体を震わせて語った。 周囲の恋姫も、華琳の言葉を聞いて顔を俯けたり、鳳翔を睨む者、涙を流しつつ耳を傾ける者……と色々な反応を見せる。

 

艦娘達も声を掛けるわけにもいかず、その場に佇むしかない。

 

しかし、鳳翔は……数歩を進んで華琳の前に立つと───

 

 

───パァン!

 

 

ーー

 

華琳「────なっ!?」

 

鳳翔「…………………」

 

ーー

 

華琳の頬を………平手打ちしたのだった。

 

 

説明
話の辻褄があっているか、少し心配。
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コメント
一番の問題は、この争いを北叟笑(ほくそえ)んで見ている深海棲艦側。 この争いの結果は次回へ。(いた)
雪風提督 コメントありがとうございます! 実は作者さえも、こうなるなんて思わなかった展開。 結果は………?(いた)
恋姫が知る北郷一刀と、今の提督の北郷一刀。この違いに覇王が気付けるか・・。そして恋姫・艦娘の仲違いを期待してる深海側がいるのを気づいて欲しい覇王よ。(雪風)
覇王と、艦娘の母との舌戦?これによって得られるのって恋姫・艦娘の互いの信用・信頼損失なりや・・(雪風)
mokiti1976-2010提督 コメントありがとうございます! 次回こそは復活させます!(いた)
次回は、鳳翔さんとのやり取りの終了、一刀の復活まで出したいと思います。 まあ、一刀が出れば拗れるのは確定?かも。 とりあえず、今年中には今の話を終わらせて、天和達やスネ○クを出したいですね。 (いた)
Jack Tlam提督 コメントありがとうございます! どうしても艦娘と比べると恋姫側には力の差で余裕と言うものがありません。 そんな背景もありますが、御覧のように鳳翔さんから罰を貰ってしまいました。 (いた)
一刀が何時までも寝てるから話が段々とおかしくなっているような気が…とりあえず早く起きろ、一刀!!(mokiti1976-2010)
鳳翔が華琳を殴ったのもわかる気がします。さて、乱世の奸雄は「全ての空母の母」相手にどんな表情を見せてくれるのか……というか、一刀が復活すればここまで拗れ……るか。どうあがいても拗れますわこれ。ここは一刀がちゃんと態度で示さなくてはいけませんね。「一緒にするな」って。まだ復活してないですけど。(Jack Tlam)
あら……嫉妬丸出しじゃないですか。気持ちは分からなくもないですが、寧ろ利用しようとしているのは恋姫達の方では?恋姫達は一刀を基本は配下・同僚、或いは庇護対象として見ている。一方の艦娘達は一刀を上官・指揮官として配属され、それに従っている。この違いは大きいですよ。華琳の言葉は、鳳翔達艦娘の軍人・兵器としての矜持を傷付けるものです。(Jack Tlam)
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