真・恋姫†無双 外史 〜天の御遣い伝説(side呂布軍)〜 第九十七回 第五章B:御遣い奪還編L・恋は負けない
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曹操兵1「申し訳ありません郭嘉様!お気を確かに!」

 

郭嘉「―――痛・・・私なら大丈夫です・・・それより、御遣いは・・・?」

 

曹操兵1「徐庶、臧覇様と共に隠し通路から脱出した模様!」

 

郭嘉「そうですか・・・」

 

 

 

宋憲の攻撃によって吹き飛ばされた兵士に巻き込まれた郭嘉は、そのまま壁に激突し、

 

軽い脳震盪を起こし気絶していたが、同じく吹き飛ばされた兵士に声をかけられ、何とか目を覚ました。

 

しかし、その時にはすでに北郷たちは隠し通路から脱出した後であった。

 

 

 

曹操兵1「今すぐ部隊を編成して追いかけます!決して許からは出しません!」

 

 

郭嘉「いえ、そう急ぐ必要はありません。あと、あの隠し通路はもう使わない方が良いでしょう。恐らく、ロクなことにはなりませんよ。

 

今はあの馬鹿どもを始末することを最優先に考えましょう」

 

 

曹操兵1「え?」

 

 

 

すぐさま兵士は北郷を追いかけるべく立ち上がるが、しかし、郭嘉はその必要はないと止めた。

 

追手を防ぐために何か細工がしてあるはず。

 

途中で穴が開いているとか、何かが詰まっているとか。

 

とにかく、不用意に隠し通路に飛び込み、取り返しがつかなくなるのは避けるべき。

 

その考えは一定納得がいくが、しかし、だからといって北郷や徐庶を追いかけるということはせず、

 

魏続宋憲の相手をすべきという主張になる意味が兵士には分からなかった。

 

 

 

郭嘉「こういう時のために公明を隠し通路の出口に配したのです。杞憂で済めばと思っていましたが、幸いでしたよ」

 

 

 

しかし、郭嘉は北郷が隠し通路を使って脱走を図る、という最悪の事態を想定して、

 

現在城にいる曹操軍の戦力の中でも最大の徐晃を、南の守りに付かせることなく、わざわざ隠し通路の出口に配していたのである。

 

下手をすれば全く無意味な、戦力の無駄遣いとも言える配置だが、しかし、見事の郭嘉の先見は当たったのである。

 

ただ一つ、そこに高順と呂布が現れるというイレギュラー中のイレギュラーさえ起こらなければ問題なかったのだが。

 

 

 

郭嘉「臧覇と公明の力量差は歴然。御遣いは城から出られません。なら、御遣いは公明に任せ、私達は私達にできることをするまでです」

 

 

 

しかし、当然郭嘉にはそのようなイレギュラーが起こっているなど知る由もなく、

 

ただ徐晃を信じ、目の前の障がいに集中することしかできなかった。

 

 

 

曹操兵A「伝令!南方より紫紺の曹旗を掲げた一団を確認!」

 

郭嘉「来てくれましたか!」

 

 

 

そのような折、郭嘉の元に一人の伝令が曹操軍の援軍到来を知らせにやって来た。

 

郭嘉はその報を待ってましたと膝を打つと、安堵の表情を浮かべた。

 

 

 

曹操兵2「おぉ、いつの間に援軍の要請を!さすがは軍師殿ですな!しかし軍師殿、以前、本隊には迷惑はかけられないと仰っていたの

 

では・・・?」

 

 

郭嘉「確かに、華琳様には孫劉同盟との戦いに集中していただきたいのは事実です。よほどのことでもない限り余計な情報は与えまいと

 

思っていました。ですが、それは許城に攻め込まれるまでの話です。城まで攻め込まれてしまっている今となっては事情が異なります。

 

今は緊急事態と判断し、後で首が飛ぶことを覚悟で私が援軍を求めました」

 

 

 

現在置かれている未曽有の危機は、元をたどれば北郷拉致を提案した自分が全ての元凶であるため、

 

南征している曹操軍本隊には負担をかけまいというのが当初の方針であり、函谷関が攻められたというときも、

 

特に本隊に報告するということもせず、烏丸族や劉表軍に援軍を求めてきた。

 

もちろん、今現在もその基本方針は変えておらず、城に残っている者だけで賊を追い出すつもりである。

 

しかし一方で、常に最悪の事態を想定するのが軍師の役目であり、たとえそれが自身の失策が発端であろうと、

 

本拠が陥落するくらいなら、恥も処分を顧みず本隊に援軍を求めるべきであると判断したのであった。

 

 

 

郭嘉「それで、援軍には誰が?規模はどうですか?」

 

曹操兵A「それが――――――」

 

郭嘉「――――――ッ!?そんな馬鹿な・・・!?」

 

 

 

しかし、郭嘉が援軍の詳細を聞いたその時、伝令兵の口から出てきたのは、誰もが予想だにしない答えであった。

 

 

 

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【豫洲、許城西部】

 

 

呂布と徐晃の一騎打ちは、想像を絶する激しいものとなっていた。

 

呂布の放つ方天画戟による重撃を、徐晃は一対の両刃斧で受け止め、はじき返す刀で上段下段両方からの攻撃を叩き込むが、

 

呂布は一方は方天画戟で受け止め、もう一方は体裁きで躱す。

 

そのような攻防が達人が目で追うのもやっとなほどの高速で行われているのである。

 

さらに、二人の放つ規格外のプレッシャーのぶつかり合いによって、

 

張りつめた空気が今にもスパークしてしまいそうな、極限の空間となっていた。

 

 

 

高順「信じられません・・・まさか、恋様とこれほど長い時間まともに打ち合える将がいるなんて・・・不敗将軍徐公明・・・ただ戦術が

 

長けていることによる不敗だけではない・・・彼女もまた軍神関羽や燕人張飛と同類の規格外の怪物というわけですか・・・」

 

 

 

そのような次元の違う怒涛の攻防を、高順はただ息を飲んで見ていることしかできなかった。

 

 

 

高順「・・・・・・はっ、見とれている場合ではありません。恋様が徐晃を止めているうちに、私だけでも先に進まなくては・・・!」

 

 

 

そして、何度目かの激突の瞬間鳴り響いた甲高い金属音と飛び散る火花によって我に返った高順は、

 

時間が少しでも惜しい中、呂布が徐晃を止めてくれている今の内にと、地下牢を探すべくその場を離れようとした。

 

しかしその時、高順の視界の端に何かが飛来する影が見えたかと思った次の瞬間、

 

 

 

高順「―――ぐはっ!?」

 

 

 

それが徐晃の投げた両刃斧と分かった時にはすでに遅く、一直線に高順を襲った両刃斧は見事に両刃の間の峰部分が高順の首にかかり、

 

そのまま城壁に突き刺さり、高順を縫い留めてしまった。

 

 

 

高順「かはっ・・・しまっ・・・く、う、動け・・・!」

 

徐晃「・・・すいません、ここから先には誰も進ませません、すいません」

 

 

 

徐晃の前髪の隙間から垣間見えた重く冷たい殺気に襲われ、高順の背筋は凍った。

 

徐晃は残り一本となってしまった両刃斧を本来の使い方である両手で持ち直すと、再び呂布との怒涛の攻防を繰り広げ始めた。

 

そもそも呂布とサシで渡り合える人間など高順は今まで見たことがなかった。

 

かつて虎牢関で関羽・張飛がまともに渡り合ってはいるが、それでも劉備を合わせての三人がかりなのである。

 

あるいは、絶体絶命の最終防衛ラインという状況が、徐晃の潜在能力を極限まで高め、

 

一時的に呂布と渡り合えるだけの力を発揮しているのだろうか。

 

しかし、

 

 

 

呂布「・・・・・・甘い」

 

 

 

それはあくまで徐晃が最高の状態、つまり、一対の両刃斧が揃っている場合の話。

 

一本を高順の足止めに使った隙を、呂布が見逃してくれるはずもなかった。

 

 

 

徐晃「く、そんな・・・重―――きゃ!?」

 

 

 

この時、初めて徐晃は体勢を崩し、そして更に続けざまに振るわれる呂布の猛攻を防ぎきれず、

 

何度も地面をバウンドしながら弾き飛ばされてしまう。

 

 

 

呂布「・・・・・・お前は、強い・・・でも、恋は負けない・・・恋は天龍・・・天は、恋にとって、みんなにとって、大切な存在・・・

 

だから、天を・・・一刀を、返してもらう・・・!」

 

 

 

状況が人の潜在能力を極限まで高めるというのなら、それは呂布にとっても同じこと。

 

北郷の奪還。

 

奪われた大切な存在を助ける。

 

今の状況は、呂布の戦闘能力を高めるのに十分すぎた。

 

 

 

徐晃(・・・これが・・・天下無双の・・・飛将軍・・・・・・まだまだ・・・遠い存在ですね・・・!)

 

 

 

明滅する視界を何とか押し広げた徐晃の瞳に映ったのは、堂々と仁王立ちする呂布の姿が、陽光の逆光によって影となったもの。

 

そして、炎竜の放つ灼熱の炎の如く激しく燃え盛る深紅の眼光。

 

その闘気は昇竜のごとく天に向かって立ち込めていた。

 

しかし、そのような激しい攻防が続き、呂布が押し気味になったその刹那、

 

この張りつめた空間に、思いもよらぬ闖入者が舞い降りてくるのであった。

 

 

 

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【豫洲、許城side北郷】

 

 

北郷は臧覇に蹴落とされ、もとい、促され、隠し通路をひたすら滑り落ちていた。

 

後ろからは徐庶、臧覇が追いかけるように滑ってきている。

 

 

 

北郷「おい、臧覇!いつまで滑ればいいんだ!?」

 

 

 

滑れど滑れど一向に終わりが見えないのに業を煮やしたのか、北郷は地方の緩いジェットコースター並みの風圧を顔面に受けながら、

 

後ろの臧覇に聞こえるように大声で尋ねた。

 

 

 

臧覇「出口までだぜ!」

 

 

 

対して、臧覇は誰でもわかる当たり前の回答をした。

 

 

 

徐庶「わわわわわわ!?」

 

北郷「じゃあその出口にはいつになったら着くんだ!?」

 

臧覇「その内着くはずだぜ!」

 

北郷「は、はずぅ!?」

 

 

 

何だか聞いてはいけないようなワードを耳にしたような気がして、

 

しかしそれが揺るがぬ事実であることも分かっているため、北郷はただその言葉を鸚鵡返しした。

 

 

 

臧覇「こんなの使うのは今日が初めてなんだぜ!」

 

北郷「そんな馬鹿なぁあああああああ!!??」

 

徐庶「わわわわわわわわわ!?」

 

 

 

そして、臧覇が決定的な言葉を口にしたため、北郷は頭を抱えて絶叫した。

 

徐庶に至っては滑り始めからわわわとしか言っていないが、今の臧覇の言葉を聞き、さらに口元がおぼつかなくなっているようである。

 

 

 

北郷「おい、なんかお前キャラ変わってなくないか!?」

 

臧覇「きゃら?なんだぜそれは?」

 

北郷「えーっと、性格っていうか雰囲気だよ!なんだかすごく馬鹿っぽくなってるぞ!」

 

 

 

先ほどまでの、頼りになる曲者っぷりが嘘のような臧覇の残念ぶりに、

 

北郷は今のような一応緊迫した状況にもかかわらず、思わずキャラがブレブレであると突っ込まずにはいられなかった。

 

 

 

臧覇「まぁ、男としてこういうのはやっぱ気分が高揚するのは否定できないぜ!俺は男だから当然だぜ!」

 

北郷(何だか絶叫マシンに乗ってテンションの上がっている女の子みたいだよ見た目も雰囲気も!)

 

 

 

臧覇の理不尽な返しに、北郷は臧覇の可愛らしいドヤ顔が目に浮かび、

 

今のアンタは見た目もノリもハイテンションな女子高生そのものだよと、

 

口にしては首が飛びかねないので、心の中で絶叫するにとどめた。

 

 

 

北郷「おい、なんか外の光っぽいのが隙間から漏れ出てる感じなんだけど、あれが出口なのか!?」

 

臧覇「ああ、たぶんそれが出口だぜ!」

 

北郷「・・・・・・なんか閉まってるっぽいんだけど!?」

 

 

 

すると、北郷の進行方向に、ぼんやりと光が見えてきたが、

 

普通であればちゃんとした光が見えるはずなのに、今見えているのはわずかな隙間から漏れ出る光。

 

つまり、何かによって光がさえぎられているわけであり、出口が閉じていることを意味していた。

 

 

 

臧覇「たぶん誰も使ってないから閉めているんだぜ!」

 

 

 

そして、その受け入れがたい事実も、臧覇は何でもないと言った様子で普通に答えた。

 

 

 

徐庶「わわわわわわわわわ!?」

 

北郷「・・・・・・・・・おい」

 

 

 

その刹那、北郷の顔から表情が消える。

 

 

 

臧覇「そのまま蹴り破れば行けるぜ!ここは御遣いの奇跡の御業の出番だぜ!」

 

北郷「そんなものはねぇええええええええええええええ!!」

 

 

 

そして、追い打ちをかけるような臧覇の無茶ぶりに、北郷はついに珍しくブチ切れてしまい、怒りの内を絶叫に乗せてぶちまけた。

 

 

 

徐庶「わわわわわわわわわわわわ!?」

 

北郷「こうなったらヤケクソだ!北郷キィィィィィィィィィック!!!」

 

 

 

ドカァァァァァァァァン!!!!

 

 

 

結果、キレたことによってテンションのメーターが降り切れてしまい、頭のネジが数本吹っ飛んだ北郷は、

 

あたかも陳宮を憑依させているのではと思えるほどの完コピでちんきゅーきっく改め北郷キックを出口目掛けて繰り出すのであった。

 

北郷の渾身の蹴りを受けた扉は、速度と位置エネルギーも相まって、見事に吹き飛ぶのであった。

 

 

 

北郷「よし、外に出――――――あれ?」

 

 

 

しかし、いざ外に出たその刹那、北郷は異様な感覚に襲われていた。

 

突然暗闇から光の下に出たことにより目を閉じる中、感じたそれは、

 

まるで超高度から落とされる系の絶叫マシンに乗った時に感じる浮遊感と同じであった。

 

体全体で感じる重力という名の自然の脅威。

 

 

 

臧覇「そういえば言い忘れていたぜ。出口と地面は少し距離があるから着地に要注意だぜ!」

 

 

 

その異様な感覚の原因を簡潔に教えてくれたのは臧覇であった。

 

北郷が目を開けてみると、視界に映ったのは、青々と生い茂る巨木の葉と、遠くに見える地面、そして、人と思われる影が三つ。

 

 

 

徐庶「わわわわわわわわわわわわわわわ!!??」

 

北郷「それは一番最初に言っとけよこの男の娘野郎ぉおおおおおおお!!!!」

 

 

 

もはや徐庶が目をぐるぐる回し泡を吹いて気絶する寸前の中、

 

北郷は最後の呪いの言葉を吐き捨てながら自然の力に身を任せるのであった。

 

そして・・・

 

 

 

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【豫洲、許城西部】

 

 

 

バリバリッバリバリッドッシャーーーンッッッ!!!!!!

 

 

 

呂布が徐晃に追い打ちをかけようとゆっくりと歩きだそうとしたその刹那、

 

突然、何かが空から城に整然と植えられている楓の木に飛来し、バリバリと枝葉を折りながらもその勢いはとどまらず、

 

そして、そのまま呂布を巻き込む形で墜落してきた。

 

 

 

北郷「いてて、い、生きてるのか・・・」

 

徐庶「わわわ〜、しゅ、しゅごかったでしゅ・・・」

 

臧覇「何とかうまくいったぜ・・・」

 

 

 

そして、その飛来物の正体が露わになったその瞬間、この場の時が止まった。

 

 

 

呂布「・・・・・・」

徐晃「・・・?」

高順「あ・・・」

 

 

 

呂布は無言のまま珍しく目を真ん丸と見開き、徐晃は倒れ伏したまま状況が理解できずにおり、

 

高順には両刃斧によって城壁にはりつけられたまま口をあんぐりと開けている。

 

落ちてきたのは曹操軍の兵士なのだが、その中身が誰なのか、呂布と高順には一発で見抜くことができた。

 

それは心を許した大切な存在だからこその直感か。

 

 

 

北郷「・・・・・・・・・ん?何だか凄く柔らかいものが―――」

 

 

 

そして、何がどうしてそうなったのか、地面に落下した後、北郷だけが見事に呂布を押し倒し、

 

胸に顔面から突っ込むような形でうずまっていることに北郷が気づくよりも早く、

 

呂布がほぼ反射とも言うべき速度で逆に北郷を押し倒し返しそうな勢いで北郷に抱き付いてきた。

 

呂布のあまりの勢いに、北郷がかぶっていた曹操軍の兜が吹き飛ぶ。

 

 

 

北郷「ふがふが!?れ、恋!!??」

 

 

 

北郷は呂布の豊満な胸に押し付けられるように抱きしめられ、息苦しそうにもがきながら、

 

目の前にいる人物が呂布であることを認識し、驚きの声を上げた。

 

 

 

呂布「・・・一刀・・・無事で・・・よかった・・・!」

 

 

 

そして、呂布は噛み締めるように安堵の声を漏らし、もう一度強く、そして優しく北郷を抱きしめた。

 

 

 

北郷「ごめん恋、心配かけたな・・・」

 

 

 

そして北郷もまた、呂布を優しく抱きしめ返した。

 

 

 

高順「か、一刀様・・・」

 

 

 

そのような北郷と呂布の抱擁の様子を、高順は遠くからぼんやりと眺めていた。

 

目の前に北郷がいる。

 

高順の脳裏には北郷がさらわれ、そして偽物が処刑され、さらに生きていることが分かり、

 

と、これまでの苦難の道のりがフラッシュバックしていた。

 

自分も一秒でも早く北郷の元へ。

 

しかし、両刃斧がしっかり城壁に刺さってしまっているため身動きが取れない。

 

 

 

臧覇「感動の再会は後で、と言いたいところですが、さすがの俺も空気を読みますぜ」

 

高順「え――――――ぞ、臧覇なのですか!?下?以来ではありませんか!今までどうしていたのですか!?」

 

 

 

すると、気づけば高順の隣に臧覇が立っていたものだから、高順は驚きにより回想の世界から舞い戻らされた。

 

 

 

臧覇「お久しぶりです高順殿。賊は奉先様たちだろうとは思ってましたが、まさかこんなところまで侵入しているなんて予想外でしたぜ。

 

まぁ、俺の話はいずれしますぜ。けど、今は他にすることがありますぜ?」

 

 

 

しかし、臧覇は手短にあいさつを済ませると高順の質問には答えず、

 

高順の気持ちを察した臧覇は高順の枷となっていた両刃斧を壁から引き抜き、高順を解放した

 

 

 

高順「ありがとうございます」

 

 

 

臧覇の気配りに高順は感謝し、北郷の方を改めて見た時、北郷と視線が交錯した。

 

 

 

北郷「なな・・・」

 

高順「一刀様・・・」

 

 

 

自然、呂布がすっと北郷の放し、ゆっくりと離れていく。

 

北郷と高順は一瞬、しかし本人にとっては悠久の時にも思えるほど長い時間、お互いに視線を交わし続けていた。

 

 

 

北郷「ごめんなな、心配―――」

 

 

 

そして、北郷が謝罪の言葉を口にしようとしたその刹那、高順が目にもとまらぬ速さで北郷の胸の中に飛び込んできた。

 

 

 

高順「一刀様・・・一刀さまぁ・・・かずとさまぁ・・・ぐすっ・・・お守りできず・・・本当に・・・えっぐ、すみませんでした・・・

 

わぁああああああああん!!」

 

 

 

そして、高順は北郷の胸の中で思いきり泣き崩れた。

 

普段の高順のクールで落ち着いた姿を知っている者が今の高順を見れば卒倒しかねないほど、とにかく思いきり声を上げて泣いた。

 

まるで子供のように泣きじゃくり、周りなど一切気にせず感情を爆発させる。

 

理性で本能を抑えることができない。

 

いや、抑えるつもりもない。

 

二度と手放してなるものか。

 

高順は北郷の服をぎゅっと握りしめた。

 

 

 

北郷「・・・いいや、謝らないといけないのはオレの方さ。本当に心配かけてごめん。助けに来てくれてありがとう」

 

 

 

一瞬戸惑う北郷であったが、すぐさま高順の頭を優しく撫で、そして、その小さな体を優しく包み込んだ。

 

謝罪と謝辞。

 

相反する言葉を紡ぐ。

 

 

 

臧覇「あの高順殿がこんなに情熱的に・・・御遣い、噂通りの誑し野郎だぜ・・・」

 

徐庶「わわわ〜」

 

 

 

高順の今まで見たこともないような姿に、臧覇は驚くよりもむしろ、高順をそのようにしてしまった北郷に対してため息をつき、

 

徐庶は顔を真っ赤にし、手で顔を覆いながらチラチラと二人の様子を見ていた。

 

しかし、忘れることなかれ。

 

ここは戦場のど真ん中・・・。

 

 

 

徐晃(あれは・・・天の・・・御遣い・・・)

 

 

 

徐晃は倒れながらも徐々に思考力が戻っていき、ゆっくりと状況を理解していく。

 

 

 

徐晃(そして・・・臧覇と・・・兵士が一人・・・空から飛来・・・)

 

 

 

そして、両刃斧を杖代わりにふらふらと立ち上がる。

 

 

 

徐晃(・・・なるほど・・・稟さん・・・そういうことでしたか・・・)

 

 

 

そして次の瞬間、徐晃から禍々しいほどの重たい闘気が辺り一面に噴出される。

 

 

 

呂布「・・・!?」

 

臧覇「な、徐晃だと!?なんでこんなところにいるんだぜ!?」

 

徐晃「なら私に課された任はただ一つ・・・天の御遣いの脱走阻止ということですね・・・すいません・・・!」

 

 

 

そして、前髪の切れ間から赤光が放たれたのではと錯覚するほどの鋭い眼光を覗かせたかと思うと、

 

地を蹴り、一直線に北郷目掛けて突進した。

 

 

 

北郷「―――ッ!?」

 

高順「させません!」

 

 

 

ちょうど北郷の背後から迫っていたため、北郷は徐晃の放つ重たい気にあてられ反応が遅れるが、

 

北郷の胸に顔をうずめていた高順はすぐさま危機を察知し、泣きはらした顔のまま袂に手を突っ込むと、

 

玉状のものを取り出し地面に叩き付けた。

 

その瞬間、大量の煙が辺り一面に吹き荒れる。

 

 

 

北郷「ケホッケホッ・・・け、煙玉?」

 

高順「一刀様、今の内に徐晃から距離を―――」

 

 

 

しかし・・・

 

 

 

徐晃「・・・絶対に逃がしません、すいません」

 

 

 

大量の煙によって完全に視界が奪われたにもかかわらず、徐晃は的確に北郷の位置を把握しており、

 

鈴が鳴るような小さな声が北郷の耳に届いたときには、すでに北郷の目の前で両刃斧を振りかぶっていた。

 

 

 

高順「そんなっ―――!?」

 

徐晃「・・・多少手荒でもやむを得ません。一度眠ってもらいます、すいません・・・!」

 

 

 

そして、予想外の徐晃の動きに高順も反応が遅れ、徐晃の一振りが北郷の意識を吹き飛してしまった。

 

そのようなイメージが高順の脳裏によぎった、しかしその時、

 

 

 

呂布「・・・させない」

 

 

 

あと数センチのところで呂布の方天画戟が徐晃の一撃を阻んだ。

 

お互いの獲物と獲物がぶつかり、甲高い金属音がこだまし、二人を中心に衝撃が輪となって広がる。

 

 

 

徐晃「呂奉先・・・いくら相手が格上のあなたでも、ここは絶対に敗けるわけにはいきません、すいません!」

 

呂布「・・・なな、恋が止める・・・一刀を連れて、先に行け」

 

 

 

徐晃と呂布の力のぶつかり合いにより、ミシミシとお互いの獲物が悲鳴を上げる。

 

純粋な腕力は五分といったところか。

 

徐晃の蚊の鳴くような小さな声にもかかわらず他を威圧する気勢に対して、

 

呂布は正面から受け止め、高順に北郷を連れて先に行くよう促した。

 

 

 

高順「分かりました」

 

 

 

対して、高順はノータイムで了解した。

 

まさに呂布と高順の信頼関係がなせるワザであった。

 

 

 

臧覇「俺もやりますぜ奉先様!」

 

高順「臧覇!」

 

 

 

すると、今度は臧覇が呂布を援護する形で徐晃目掛けて双戟を見舞い、徐晃は辛くも避け、

 

先ほど高順を封じていた両刃斧が捨ててある場所までとっさに跳び距離をとった。

 

 

 

臧覇「高順殿!ついでにそこのチビ兵士も頼みますぜ!借りがあるんだぜ!脱出経路は何も考えず西門を目指せば大丈夫ですぜ!すでに

 

協力者によって脱走の段取りは済んでいるはずですぜ!」

 

 

高順「・・・分かりました!決して無理はしないように!」

 

 

 

普段の高順であれば呂布は許しても臧覇はちょっと待てと言いそうなものだが、

 

ここは北郷の安全を最優先し、素直に臧覇の言葉に従った。

 

 

 

高順「行きましょう一刀様!」

 

北郷「あぁ、恋、臧覇、気をつけろよ!」

 

呂布「・・・(コクッ)」

 

臧覇「すぐに追いつくぜ!」

 

高順「何ボーっとしているのですか!あなたもですよ!早くして下さい!」

 

徐庶「わわわ!?しゅ、しゅみましぇん!!」

 

高順(わわわ?)

 

 

 

そして、高順は北郷と徐庶を伴い、一直線に西門へと直行した。

 

 

 

【第九十七回 第五章B:御遣い奪還編L・恋は負けない 終】

 

 

 

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あとがき

 

 

第九十七回終了しましたがいかがだったでしょうか?

 

さて、落下系ヒロイン?北郷一刀。ついに恋、ななと再会を果たせました。

 

まだ戦いの最中ですが、ななのとった行動については許してやってください。

 

一刀君を目の前で拉致され、処刑されてからの再会なのですから。(ねねと再開したらどうなるんだろう 笑)

 

隠し通路のくだりは気付いたらあんなことになってました臧覇君ごめんよ(真面目な話ばっか書いていた反動かもです、、、汗)

 

 

それでは、また次回お会いしましょう!

 

 

 

北郷キックの威力やいかに

 

説明
みなさんどうもお久しぶりです!初めましてな方はどうも初めまして!

今回はようやく再会の時が、、、!


それでは我が拙稿の極み、とくと御覧あれ・・・


※第七十二回 第五章A:御遣処刑編@・御遣い殿は真正の大馬鹿者と言えます<http://www.tinami.com/view/799206>
※第八十五回 第五章B:御遣い奪還編@・適材適所<http://www.tinami.com/view/850145>
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コメント
>未奈兎様  少なくとも単なる援軍ということではなさそうですしね。(sts)
>nao様  徐晃の強さは状況における潜在能力の底上げのようなもの。今回の場合は本城防衛における単騎死守。通常であれば当然春蘭の方が強いです。(sts)
>神木ヒカリ様  一騎打ちとなってしまえば臧覇の出る幕はないでしょうね(sts)
>Jack Tlam様  一刀君一定関わってしまった人間は軟化していく傾向にありますよねこのお話は 汗(sts)
この曹操なら下手したら直に戻ってくるんじゃなかろうか(未奈兎)
やっと再会出来たな!よかったよかった、徐晃が強すぎるぜ〜恋と対等に戦えるって春蘭より強くね?w(nao)
恋を押し倒す形になったか。それもまた良し。 さて、恋と臧覇で足止めになったけど、二人の闘いに臧覇はついていけるのかな?(神木ヒカリ)
抑々一刀は物語の始まりからして「落ちてきた男」なので、落下系主人公なのは事実ですね。しかし、白熱するバトルの横で途轍もなく緊張感に欠けた御遣いの周辺。そのうち徐庶まで落ちそうだから手におえない。でも、それは後々のために良いかも?徐庶が戻れば、劉備軍も利用された見返りになるから文句は言わないだろうし。(Jack Tlam)
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