模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第49話 |
「なんて……なんてことだ……」
チーム『エデン』リーダー、マスミは自分の置かれた状況を受け入れられずにいた。『Gガンダム』に登場したネオフランスの夕日に照らされる街、パリ。
赤く太陽に染められるのはエッフェル塔と、マスミの搭乗機であるユニコーンガンダム4号機・デュラハン。仲間のゼデルとヨウコの搭乗機、ブルデュエルとヴェルデバスターはすでに撃墜となってしまっていた。夕日により逆光となった敵チーム『ライオン・ハート』が悠然とデュラハンに歩いてくる。こちらは三機とも健在だった。
「なかなかの腕だったけどさ、僕達を相手にするには今一歩なんだよね」
逆光により出来た大柄なシルエットがライフルを構えて言った。
「……既に勝利は確信してるってわけか!だけどボクはこんな所で終わるわけには!!」
マスミの叫び、そして感情によりデュラハンの目が、そして全身を走るサイコフレームが赤く強く輝く。全エネルギーを右手のハイパーメガライフルに込める。幸い敵は正面に三機とも並んでいる。高出力のライフルの威力ならうまくいけば三機纏めて倒せるかもしれない……。いや、何としても仕留めてみせる。そうマスミは瞬時に考えを巡らせ、それとは別に操縦桿を動かす。
「いかないんだっ!!!!」
デュラハンはフルチャージのハイパーメガライフルをライオン・ハートの三体に向ける。相対する三体は特に回避行動も取らない。
「動かないだとっ!!舐めるなぁぁっ!!!」
だがマスミにとって相手が動かないのは好都合だった。マスミは三体まとめて消し去ろうとトリガーを弾く。
「インフィニートゥム・ルーメン!!!!!!」
叫びながらマスミはライフルを放つ。三体纏めて簡単に飲み込む程のビームだ。巻き込んだ建築物は爆発と蒸発を起こしながら敵へと向かう。
「……酔狂だな」
ライオン・ハートのビルダーの一人がボソッと呟く。と、同時にビームがライオン・ハートの三機を飲み込む。しかしそれでマスミは安心しない。デュラハンのライフルのビームを撃ち続ける。これで終わる……この出力で防げるはずがない。そうマスミは思った。だが……。
「……なんだ?!あ!あれは!!」
ライオン・ハートの機体のいた地点からビームが避けるように分かれるのが見えた。ビームの光によって見えないがマスミは理解出来た。敵はこの出力のビームを弾いてる。と。そう判断した直後、その機体が高速でこちらに迫ってくるのが見えた。突撃してくる。
「なっ!!」
「だが嫌いじゃねぇよ」
敵が間近に迫った瞬間。マスミの目には……炎を纏った巨大な拳が見えた。
「……手だと?!」
直後、その機体はデュラハンに激突しデュラハンを砕いた。夕日の影になって見えないその機体は攻撃手段すらハッキリさせずにデュラハンの胴体を粉々に砕いたのだ。
「終わる……こんな所で……ボクが?!」
胴体を砕かれてマスミは、残った頭部で砕いた相手を見る。変形を解き影を炎が照らしながら、拳から人型のガンプラへと戻る様が見えた。
「……ガンプラ十箇条、その1、『ガンプラは火気厳禁』。俺の方が火力は上だったな」
「……レム……!」
そのままデュラハンは光を失い、マスミの無念の声と共にデュラハンは爆発。かつてアイ達と時にぶつかり、時に協力したチーム『エデン』はここで敗退となった。
そしてライオン・ハートのメンバーは同じくAブロック決勝へと勝ち上がったアイ達と相対する事となった。
「久しぶり、と気安く言っていい関係かな?」
ツチヤは二人に対して慎重に問いかける。
「微妙な所だな。俺達がガリア大陸を去るきっかけみたいなもんだからな」
天然パーマの男、サイトウ・ジロウがそっけなく答えた。険しいツチヤに対して、サイトウの方は表情に変化があまり無い。冷めた印象がある彼は、ツチヤに対してどんな感情があるのかいまいち読めない。
「それにしてもさっきの試合。結構いい試合だったけど、勝って良かったじゃない?僕らも観戦し甲斐があるよ」
その後方であっけらかんとした表情で眼鏡をかけた少年、シンパチが声を上げた。その言葉にアイ達は疑問を上げる。
「観戦?俺達の試合を見ていたんスか?」
「まぁな。さっきの奴らも凄腕だったかもしれないが、俺達はあの女以上の自信はあるな」
「そういう事です。アイさん。俺はあなた達とこんな場で戦ってみたかった。そしてあなたを越えたかった。次の試合は俺達と俺の挑戦なんです。受けてもらいますよ」
そしてケンもまた、真剣な表情でアイ達を見つめる。気合十分といった感じだ。
「ケン君……いいよ。それ位の方がこっちもやりがいがあるもの」
「いい顔だ。コンドウさんが見込んだだけの事はあるな。いいバトルになる様期待してるぜ」
フッとサイトウがニヤリとした笑みを浮かべる。さっきまで仏頂面だったが見てる方のイメージが少し和らいだ。
「あれがコンドウさんの言ってた二人か……」
と、こちらはアイの後方にいたムツミとタカコ、次の対戦相手の感想を漏らす。
「第一印象はちょっと怖そうなイメージだったけど、そうでもないみたいだね〜」
「コンドウさんの友達だもの……、悪い人とつるむ人じゃない筈だよ……」
その会話にシンパチが反応する。
「お!僕らを見てそう判断するとはセンスいいですね!!コンドウさんから聞いてたヤタテさんだけど!その友達も見る目があるなぁ!しかも皆揃ってこんなに美人揃いだなんて思いませんでしたよ!」
「!?」
目を輝かせながらシンパチはタカコとムツミに詰め寄る。突然の行動に「え゛?」と唖然とするアイ達、対して「またか」と呆れた表情のサイトウとツチヤ。
「ぇ?あ、ありがとうございます。美しいだなんて……」
こういった褒め方は慣れてないのだろう。まんざらでもなさそうな風に返すタカコ。反面ムツミの方は冷めていた。
「駄目だよタカコ……こういうのは社交辞令なんだから真に受けちゃ……」
「わぉ!そう返すとは!素直な温もりある彼女もいいですが!クールに返すあなたの美しさも勝るとも劣りませんよ!その一筋縄じゃいかない所!並の男じゃ釣り合いませんね!そうですね……あなたに釣り合うと言えば……そうですね、国民的アイドルグループ『SGOC』のコウジ・マツモトでもなければ釣り合いはとれないでしょうね」
その瞬間、ムツミの体がピクリと震えた。そして目の色が変わった。というか目が一気に血走り始めた。そして一気にシンパチにムツミは詰め寄る。
「……それ……本当ぉぉぉぉぉぉ!!!!!?????」
「え?!」
「ボクがコウジ君と釣り合うって!!??そんな事言ってくれるなんて初めてだよぉぉ!!そう言ったってそう心の底から思ってるってことだよね!いや皆まで言わなくていいの!本心なんだって分かるから!
君の言った通りボクはSGOCの大ファンでファンレター出したりとコンサート行ったりグッズ複数買いは当たり前なんだけどね!!本当はもっとSGOCの為になる事をしてあげたいって思ってるの!
思い返せば10歳の時!流行だからって友達に合わせる形でバラエティ番組のSGOC×SGOCを見始めた口だけどその日からボクの人生は決定づけられた様な物だよ!たかがアイドルと高をくくっていたボクの心は木端微塵に打ち砕かれて!その日からボクはSGOCの!いやコウジ君の為に生きる愛の戦士になろうと誓ったわけだよ!!
君に言われるまではただ遠くで見守るファンの一人で充分だってボクはずっと思っていたんだ!!ボクら一人一人の応援する気持ちがSGOCの支えになって!!ボク達ファンはSGOCの方からは元気を貰う!そんな距離はあっても共生みたいな関係でボクらはいいとずーーーっっと考えていたんだよ!!!!」
ムツミは詰め寄り続け超早口でまくし立てる。シンパチは困惑した表情で後ずさり。アイもナナもタカコもこんなムツミを見るのは初めてだった。
「い!いや言ってません!ただの予想で言っただけですから!」
「ムツミ……さっき社交辞令だから本気にするなって言ったじゃん〜」
「」
ムツミは間もおかずに凄いスピードでタカコの後ろに回り込む、そして瞬く間に手足をひっかけタカコにコブラツイストをかけた。
「ぎぇぇ〜!!ちょっと!さすがに今回はあたし悪くないよぉぉ!!」
アイ達は止めようとしたが、ムツミから出てる異様なオーラについ躊躇してしまう。そしてムツミはコブラツイストかけたままシンパチに再び詰め寄る。ついにはシンパチの背中は壁についてしまいムツミは壁に張り付いたシンパチの間近でまくし立てる。
「最近はアイドルを襲ったりネットで暴力的なつぶやきをする様なひどいファンと呼ぶのもおこがましい様な連中がいるけどボクらは違う!!だってそうでしょ!!アイドルっていうのは遠くから応援するからいいのであって自分で独り占めしようっていうのはおこがましいったらないよ!
それでもアイドルだってリアルに生きる人間である事には変わりはない!!隠して結婚していたり隠し子がいたりするのは当然だよ!そう!誰か選ぶのは十分に有り得る!!ボクはそれでも応援し続けようって考えていたんだよ!!!!
だけどボクもリアルに生きてる以上もしかしたらボクが選ばれるかもしれない!!!!選ぶとしたら距離は縮まる!!さっきも言ったけどリアルで生きる者同士!距離が縮まったらきっと人間的に悪い所も見えてくるかもしれない!!それを突き付けられたとしてもボクは全部それを受け入れるつもりだよ!!
コウジ君が隣にいてくれるなら痛い事だって苦しい事だって笑顔で耐えられるから!!コウジ君になら地雷原を走れと言われたら笑顔で受けて全力疾走するし!!誰か暗殺しろってんなら笑顔でボクはするよ!でもコウジ君ならそんな事はしないってはっきり分かるよ!だってコウジ君の優しさは全部理解してるつもりだもの!!
あぁでもそういう関係になるってなら寝起きのコウジ君も入浴シーンのコウジ君も見放題って事だよね!!あぁぁ!!!駄目だよ!不純な事考えちゃ!ファン失格!でもでもボクが特別な人になるっていうならそういう事に対する慣れも必y(ry
直後、ムツミを背後から掴んだアイとナナはそのままムツミをシンパチからはがして引きずって行った。
「分かったから!ムツミちゃんの気持ちは彼に伝わったから!!」
「怖がってるんだから向こういくわよ!」
「ちょ!待ってよ!ボクはまだ伝えたいことは全体の100分の1も伝えてないのにぃぃ!!!」
そのまま離れていったアイ達を見ながら男達は固まってしまった。
「えーと……言いたい事は色々あったけど、なんかそんな気分じゃなくなっちまった……」
「……そうだな。ま、まぁビルダーなら言いたい事はバトルで伝えるでいいんじゃないか?」
「そ、そうだな!じゃあ続きはバトルで!」
「ジロさん……中々個性的な人でしたね……」
「シンパチ、無理すんな」
怯えるシンパチをなだめながらサイトウ達はその場を後にした。ムツミの剣幕に周囲の人はなんだなんだとこちらを見ている。
「おいおい、なんかこっちは暗い気分でいたのに馬鹿らしくなっちまったなぁ〜」
と、そう言いながらゼデルとヨウコ、そしてマスミの三人がツチヤ達の所へ歩いてきた。さっきのやりとりを見ていたらしい。ヒロにとってはかつての仲間の敗北だ。すぐにでも様子を見に行きたかったが好都合だった。
「ゼデル、皆」
「悪ぃな。負けちまった」
たはは、と苦笑いしながらゼデルは言った。
「皆はAブロックの決勝まで勝ち上がれたわね。悔しいけど後はお願い」
ヨウコが続く。あっけらかんとしてるがそれが悔しさをまぎわらす物だというのはヒロもツチヤも分かっていた。
「……分かった。後は任せてくれ」
「……出来るのかよ」
安心させようと言うヒロに対してマスミはボソッと呟く。
「マスミ?」
「さっきの試合!!!ボク達は一分もしない内に負けたんだぞ!!それなのにヒロ達はあんなに時間がかかって勝った!!それであいつらに勝てるっていうのか?!!ボク達が!ボク達が圧倒されたんだぞ!!絶対助けようって決めたのに!!あれだけ血の滲む様な努力をしてきたって言うのに!!」
助けよう……それは違法ビルダーに走ってしまったヒロ達の仲間『フジミヤ・レム』を救おうという決意だった。その為にマスミ達は牙を研いできたが圧倒されての敗北、屈辱と自分の無力さでマスミは打ちのめされていた。
「マスミ……。でも、僕達はここまで来れた。アイちゃん達の力のおかげもあったろうけどここまで来れたんだ」
「それはアイちゃん達に頼ってると言うことか?!!お前は!!」
「マスミ!八つ当たりはよして!!」
ヨウコが止めに入る。ゼデルも「悔しいのはお前だけじゃねぇ!!」と続いた。二人の剣幕にマスミはハッとする。
「ヒロ、悪ぃな。ちょっとこっちはボロボロだ。負けちまった以上は仕方ねぇが当分応援しかできそうにねぇ」
「それだけでもありがたいよ。ありがとう」
「……すまない。ヒロ、頭に血がのぼってしまって」
「気にしてないよ。……さてと、こう言われたからにはいつも以上に気合入れてかないとな」
「応援してるからね」
ヒロ達に想いを託しながら、同時にマスミ達は自分の気持ちの整理の準備を進めていた。ヒロもそれは察していたのだろう。だからこそ負けられないと闘志を燃やしていた。
「ヒロ、ヤタテさん、皆応援ついでだけど、ちょっといいか?さっきボクがバトルで経験した事なんだが……」
その頃、他のチーム達も次の試合への気合を入れていた。
「ノドカ、アイ先輩達も無事決勝へ進めたみたいですよ」
ある控室、こちらはノドカ達のチーム『オベロン・ティターニア』、ノドカのいる模型部のメンバーではないが付き添いの爆乳少女マトイ・マコトが控室に入ってくるなりノドカに報告した。
「あ?そうかよ。……当然だよな。ここであいつが負けたら受けねぇよ。アイツはアタシが……」
ベンチに座ったノドカはむくれた表情のまま答える。どうも今日はノドカの覇気がない。
「どうしたのかね?ノドカ。今日はずっとふくれっ面だな。どうせふくれるなら胸の方に「黙ってろ副部長、こっちゃ真剣なんだ」
副部長のユメカも問いただそうとするがノドカはこれを一蹴、普段からユメカのセクハラ発言に関しては不快そうな顔をしていたが今日はいつにも増して嫌そうに答えた。
「ノドカ、今日は調子が悪いの?Bブロック決勝は休むかい?」
部長のノゾムが今度は恐る恐る聞いた。今度は対照的に少し落ち着いた顔で答える。
「部長、大丈夫だよ。アタシはやれる」
「でも、今度の相手はかつてアイちゃんが煮え湯を飲まされたというチーム『前世代』だよ。どうも今日のバトルは君は荒っぽくなってる感じだ。言い方はキツイだろうけど、ベストは尽くせるのかい?」
「なおさらだよ。そいつらに勝てなきゃアイ達には勝てねぇ。アタシらは全国に行かなきゃ意味がねぇんだ。アタシにとっても部長達にとってもチャンスじゃねぇか。任せてくれよ」
そのままノゾムは少し間をおいて「そうか」と答えた。ノドカの調子に少し不安はあったが、ノドカはノゾム達の中で最強のビルダーだ。少し調子が悪いとしても他の模型部員でノドカや自分達に敵うビルダーはいない。これ位では替えようが無かった。
「ケンモチさん。なんか……様子が変ですね。今日のノドカ」
「私が胸を触ろうとするといつもあんな顔だがね」
「あなたには聞いてません魔女」
マコトは疑問に感じる。いつもはアイの事になるともっと嬉しそうに話すのがノドカだ。今日のノドカはどんな事があってもムスッとした表情のままだ。
「どうもいきなり今日あんな感じになったんだよ。こっちも心配だな」
「だが見た感じバトルでの強さに影響はないな。あの態度の理由は今日のバトルが終わってから調べても問題あるまい」
「……態度だけじゃないんです。分かるでしょう?」
マコトはノドカの髪を見ながら不安げに呟いた。今日のノドカは、アイがつけてるヘアゴムは外していたからだ。
そして少ししてバトルが始まろうとしていた。今アイ達は、アリーナのフィールドに設置されたGポッドへ入る直前のミーティングをしていた。
「おさらい、いいかな?今回は事前に水中戦っていう情報があったから、水中でも使える改造で行くよ。サブは今回ツチヤさんでお願いします」
「任せておいてくれ。僚機はハガネ君とハジメさんだな」
「あぁ、今回は僕にとってもツチヤさんにとっても重要なバトルになります。頑張りましょう!!」
「これでアタシらが勝ったらブスジマさんかノドカの奴が相手ってわけね。頑張りましょう」
「そういうユミヒラさんのバトルも同時進行か」
ヒロは別方向を見ながら呟いた。フィールドにはBブロックの準決勝も同時進行となっていた。ノドカ達やブスジマ達も同様にミーティングをしていた。
「ノドカ!ブスジマさん!」
どちらも自分にとって思い入れのある人だ。アイは一言声をかけておこうと近寄って声をかけた。どちらのチームも反応する。
「アイ……」
「よぉアイちゃん!準決勝まで来るたぁ流石だな!」
「ブスジマさんにレクチャーしてもらったからですよ!」
「御上手だねぇ。エアブラシとか使わせたけど、バトルとかは儂らの仕事との時間が合わなくて自力でやったんだから謙遜するなよ!アイちゃん達も頑張れよ!」
「はい!ここで負けたら格好悪いですから!じゃぁね!ノドカ!」
そのままアイはナナ達の方へ戻っていった。それを見ていたノドカはただ黙っていた。
「ノドカ……?」
それを観客席で見ていたマコトはなおさら違和感を感じていた。やはりアイが絡んでも反応がない。と。
マコトの疑問をよそにアリーナの熱気は増すばかりだ。次のバトルの熱気に、観客達は様々な想いでそれを見ていた。……しかし、ある通路付近でそれを面白くなさそうに見ている男女が数人いた。
「クソッ!面白くねぇな!よりによってサブロウタとあの女のチーム、そしてサイトウ達のバトルかよ!」
吐き捨てた男はかつてツチヤの親友だった男。カモザワ・セリトだ。そう、その男女はカモザワ、フジミヤ・レム、そしてリンネの三人、違法ビルダーのブローカー達だった。
「マスミ達は負けたんだ……ヒロ達、どうなっちゃうのかな……」
「腹立たしぃぜ!新世代ビルダーは全滅!せめてサブロウタ達もサイトウ達も負けてくれねぇと気が済まねぇな!」
「それなら心配はいりませんよ」
余裕の表情で、リンネは呟いた。
「ヤタテさんは、ここで負けた方が幸せかもしれませんよ?フフフ……」
そしてバトルが始まる。今回のバトルは『連邦軍北極基地』『ポケットの中の戦争』に冒頭に登場した基地で『サイクロプス隊』という部隊が襲撃した基地である。といってもアイ達がいるのは水中で、母艦はユーコンという潜水艦だ。潜水艦故にカタパルトは存在せずハッチが開くとそのままそれぞれの機体がゆっくりと海中に落ちていく。と、同時に起動すると推力を頼りに海の中を進んでいった。
「AGE−3Eの水中用装備は動かしてみてどんな感じよ?」
「コアファイターは重くなっちゃったけど悪くないよ」
今回のチームはリーダー機にアイとツチヤの機体。AGE−3Eのオリジナルウェア『ウンディーネ』、ナナのフリーダム・アルクス、そしてヒロのウイングガンダムノヴァの三機だ。三機は視界の悪い海中を警戒しつつ進む。
「随分静かね。水中に北極だから殺風景だと思ってたけどこうも暗いんじゃ……ん?」
「上か?!!」
言葉を言い終える前にGポッドに警告音が走る。直後上空から大型のビームが二条水中を襲った。突然降ってきた光の柱にとっさに回避をする三機。狙ったのは後方のユーコンだったらしい。ビームの直撃を受けたユーコンはそのまま轟沈。
「こっちをおびき出そうってわけ?!乗ってあげますか!」
「断る理由はないな!」
「ヒロさん!ナナちゃん!!」
「あいよ!」と言葉を返してナナとヒロは撃たれた方角へツインバスターライフルを、そしてハイマットフルバーストを放つ。それに続く様にアイはウンディーネを水上へと飛び出していく。ただ飛び出していくよりは安心できる。
「こっちもアイに続くわよ!ヒロさん!」
一瞬アイへの援護として撃ち続けようと思案するナナだったがここからでは水上がロクに見えない。
「いや!こっちにもいるみたいだ!!」
ヒロが別の方向を見つめながら言う。直後先端にビームサーベルのついたコーン状の物体が六つ飛んでくるのが見えた。
「ソード・ファンネルだ!!やはりマスミの言った通り!!」
一方こちらは水面から飛び出したアイのウンディーネ。海と氷の陸の高低差は100メートルを超えていた。岩山の如き高さの氷の大地。
予想した通り迎撃としてウンディーネへの歓迎の様に射撃が放たれる。敵は空中にいた。薄い霧のかかった曇り空に佇むはケンのビルドスペリオルガンダム、そしてもう一機、『0083』に登場したGP−02の改造機だ。核弾頭搭載のバズーカは外されライトニングガンダムフルバーニアンのハイビームライフルを構えてる。
「アイさん!」
「ケン君か!予想通りの迎撃!!」
「だがこれ位恐れる攻撃じゃないな!!!」
ウンディーネは撃たれる中を飛びながら回避してゆく。敵機はこちらを狙いながら迅速に撃ってくる。が、ウンディーネは機体を突撃させながらもくるっと器用に回し射撃を回避。と同時に右腕の二連ビームガンを撃ちながら迎撃。ウンディーネのマニューバはアクロバティックな動きはしていない。ほぼ直線だが最小限の細かい動きで回避。淡々とながら高速でスペリオルに迫る。
ウンディーネのベース機、AGE−3オービタルは、本来宇宙空間での戦闘と仲間との連携を想定した機体だ。元々単独の空中戦はあまり得意ではない。その上改造は水中戦を想定した物だ。が、アイは機体を器用に回しながら撃ち返していく。機体の相性を操縦でカバーしてるわけだ。
「やるな!ヤタテさん!水中戦用の改造で、しかも最小限でこれ程の動きを!」
ツチヤが関心の声を上げる。
「さすが!コンドウさんの見込んだ人だ!でも甘いんじゃない!?」
シンパチのサイサリスが横のスペリオルとの距離を開けながら飛び、そしてウンディーネに撃ちまくる。先述のオービタルの弱点を彼は知っていた。あの水中用の改造ならなおさら複数相手は辛いだろうと判断したのだ。だがウンディーネはそれに対して驚いた素振りは見せない。
「やれると思って別れたね。でもこれ位、こっちもやれると思わなきゃ!!」
アイは右腕の実体剣を展開、回避ついでの勢いでサイサリス目がけて剣の投擲を行う。大型の剣にも関わらず投げナイフの容量だ。剣は空気を切り裂く音を上げる程の勢いだ、真っ直ぐサイサリスに向かう。
「ナッ!」と焦った声を上げたシンパチは剣を大型シールドで防御。本編では大型の冷却装置としての意味合いの盾だったが、ガンプラバトルでは普通に堅牢な盾として機能している。しかしその盾にも剣は深々と突き刺さりサイサリスの持ち手のすぐ下を剣が掠めていた。
「あれだけの質量をあんな勢いで!!」
「AGE−3のパワーを利用すればこれ位出来るよ!」
「やっぱり!!俺の目標の人はこれ位大きくないと意味ないですよね!!アイさん!」
直後ケンのビルドスペリオルがビームサーベルで斬りかかる。アイはウンディーネ左腕のビームサーベルでこれを受け止めた。鍔迫り合いの体勢になる二体だがパワーはウンディーネの方が上だ。ケンもアイもそれは解っていた。
「スペリオルのパワーは大したもんだけど!こっちのパワーだって!!」
「敵わないでしょうね!!だからパチさん!!」
「お任せあれっ!!」
ビルドスペリオル目がけてサイサリスはハイビームビームライフルを連射する。どうしたとアイ達は思ったが即座に理解出来た。撃たれたのはスペリオルの左肩部。アブゾーブシールドのある部位だ。ケンはシールドを展開させビームを吸収。すぐさま自分のエネルギーに変換。
「来た来た来たぁっ!!」
エネルギーが溜まるとスペリオルの目の輝きが増す。と同時に背部から四隅の尖った四角のゲートが出現し、スペリオルの前にせり出す。ゲートにぶつかったウンディーネは後方に弾かれた。
「し!しまった!!プラフスキーパワーゲート!!」
「出鼻くじかれたみたいに言わないで下さいよ!こうしてもあなたとの差はまだあるんだ!!」
驚愕するアイ達に反して冷静かつ謙虚なケン、ゲートをくぐると同時にスペリオルの背中に青いプラフスキーウイングが出現、スピードモードだ。青い光の翼を纏ったスペリオルの機動力は格段に上がる。スペリオルはウンディーネに高速で斬りかかる。
ウンディーネはビームサーベルとビームガンでどうにか迎撃しようとするがスペリオルは早い。ウンディーネにガンブレードとビームサーベルですれ違いざまに切り裂こうとヒットアンドアウェイを繰り返す。
「考えたね!それでも!」
アイのウンディーネはそれにしっかり対応できていた。すれ違いざまにバルカンを撃ちながら斬りかかるスペリオル、しかしウンディーネはバルカンは避けず斬りかかってきたガンブレードをビームサーベルで弾く。最小限の動きを駆使して攻撃を弾く。そして通り過ぎたスペリオルが反転する隙を狙ってビームガンで狙い撃つ。
「くぅっ!切り札を使っても楽して勝てるとは思わなかったけど!」
ウイングで機体を覆いビームを防ぐスペリオル。その時、ウンディーネの背後にサイサリスがシールドを突き出して突撃するのが見えた。
「女性に2対1をするのは気が引けるがね!!」
「っ!?」
サイサリスのシールドにはビルダーズパーツのバーニアが埋め込まれていた。その四つのバーニアからビームのパイルが突き出された。ビームラムだ。
「遅い!つらぬけぇぇっ!」
「ヤタテさん!!」
ツチヤの叫びが聞こえた。ウンディーネはサイサリスの目の前だ。これで倒せると確信するシンパチ、しかしシールド越しにシンパチは手応えを感じない。直後、分離したウンディーネがシールドの上下からサイサリスの後方に飛んでいくのが見えた。
コアファイターと分離したウンディーネ用ウェア『Gダゴン』だ。すぐさまサイサリスの真後ろにウンディーネは合体。ビームサーベルを振りかざす。
「落ちなよ!!」
「しまっ!!」
やられると確信するシンパチ。ケンもすぐさま向かおうとするが間に合わない。その時だった。ゴゴゴゴ……という地響きと共に北極の大地に亀裂が入る。直後。亀裂の中から巨大な拳が炎を纏ってウンディーネ目がけて突っ込んできた。
「なっ!!」
思わず回避するアイとツチヤ。その所為でサイサリスへのとどめはし損なったが、それはいわゆる両手の指を組んだ様な形の紫色の拳だった。
「ジロさん!!」
「だらしねぇぞシンパチ、ケン」
拳に乗ったビルダー、サイトウ・ジロウが気怠そうに呟きながら拳の指を解く。指は背中に移動し翼の様な形になった。
「やっぱりジャイオーン!マスミさんの言った通り!」
ジャイオーン『Gのレコンギスタ』に登場した機体だ。翼とも手とも取れる形の『ビッグアーム』という装備が特徴である。この機体には通常のビームライフルが装備されていたが代わりにカレトヴルッフ炎という遠近距離に対応できる複合兵装を装備していた。
「ジロウ!ハジメさんとヒロ君をどうした!!」
ツチヤの問いかけに答える間も無く、水中からナナのフリーダムとヒロのウイングノヴァが飛び出して来る。一部破損しているがまだ健在だった。
「見りゃわかんだろ。シンパチ達がピンチだったんでな」
「ナナちゃん!大丈夫?!」
「アイ……アタシは大丈夫。でも強いわあの人……」
「にしてもケンとシンパチ相手にしてこうも押すたぁ予想以上だ。……面白れぇ」
ジャイオーンの顔面が笑ったように歪む。ガンダムに近い顔つきのジャイオーンだが、顔面はモニターな為表情を変えることが可能だ。カレトヴルッフ炎を左肩に担いでいたジャイオーンだが、すぐさまそれをライフルとしてウンディーネに向け、上部のガトリングガン炎、中央部のビームライフル炎、株のグレネード炎、これらを一斉に連射する。
「ケン。シンパチ。俺がやる。ショウゴさんが気に入った女だ。相手してみたくなったんでな」
「いきなり勝手な!!」
かわしながらビームガンで反撃するアイとツチヤ、サイトウはビッグアームをシールドとして使いそれを防御、そのままソードファンネル6基を全て射出、ウンディーネを追い詰めようとする。さっきまでの相手とは違うとアイは判断。すぐさま得意フィールドである水中へウンディーネを突っ込ませた。すぐさま後を追うジャイオーン。
「アイが!アイ一人じゃ心配だわ!アタシ等も追いかけなきゃ!」
「おっとそうはいかないぞ!」
北極上空でフリーダムとウイングノヴァの行く手を残りの二体が阻む。
「ちょっと不満はあるけど!僕達はあなた等に相手してもらいますよ!!」
「なら俺はナナさんの相手をしたいですパチさん!あの人だって俺の目標の一人だったんだ!」
そう言うとケンのスペリオルはナナのフリーダムに突っ込んでいく。ナナもまたそれに応える様に飛んでいった。
「あーあ、僕が相手したかったのに。まぁ贅沢は言ってられませんか!!」
そういうとシンパチはヒロのノヴァに盾を構え突っ込んでいった。
「こっちも敵討ちとして無視できないんでね!!かかってこい!!」
※後半へ続く。
お待たせしました。少し身の回りの環境が変わったので今後はもう少し早く投稿できる様になりたいなと思う今日この頃。
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第49話 『極寒の決死圏(前編)』 見事チーム『グラン・ギニョール』に勝利したアイ達、そして次の試合はかつてコンドウやツチヤ達と同じチームにいた『ライオン・ハート』だった。そしてその中にはあのケンも…… |
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