模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第50話 |
曇天の北極の空を光の翼を広げたスペリオルがフリーダムを襲う。青い翼は薄くかかった霧の中で氷の様に輝いていた。
「クッ!は!早い!!」
ウンディーネと戦った要領、高速ですれ違いざまにガンブレードで切り裂くヒットアンドアウェイをフリーダムにも仕掛けるケン、ウンディーネの方には見切られていたがナナのフリーダムの方は十分通用していた。
「いける!ハジメ・ナナさん!あなたを倒して俺は次のステップに行かせてもらう!一対一では無いけれど!アイさんを倒してあの人を越えるんだ!!」
「アイを越えるですって!?」
今の斬撃でフリーダムの右腕が舞った。ビームサーベルをにぎったままだった。ナナは左腕のシールド内蔵三連バルカンでどうにか対応しようとスペリオルに狙い撃つ。が、スペリオルのスピードは速く三連バルカンの連射でも当たらない。
「させやしないわよ!アタシはアイには及ばないけど!自分で出来る事はやるって決めたから!」
「……無理だよ!あなたに俺は止められない!」
「なんですってぇ!!」
フリーダムは残った武装全てを展開し、一斉射撃を放つ。その中を掻い潜りスペリオルは迫る。
「あなたは遠慮してる!!アイさんを越えるのは無理だって思ってる!」
「っ!余計なお世話よ!!」
どんどんフリーダムに距離を詰めつつあるスペリオル、ケンが機体の左手に力を込めるとスペリオルの左手が青く輝く。ガンプラ魂を込めた拳、ビルドナックルだ。
「そんな気持ちで俺は負けるわけにはいかない!!俺はアイさんを越えたい!そして全国で俺と俺の相棒を知らしめたい!そのためにそんな気持ちに!!」
「くっ!!」
どうにか距離を取ろうとするナナ。しかしスペリオルの拳はもう目の前だ。左手を振りかぶるスペリオル。
「負けてたまるかぁぁ!!!!」
そのままスペリオルのビルドナックルはフリーダムの腹部を貫通、拳を引き抜かれたフリーダムはそのまま落下し爆発した。それを見届けるとスペリオルはそのままアイとサイトウのバトルに介入すべく海中に突っ込んでいった。
「そんな事……アタシが一番よく解ってるわよ……」
ブラックアウトしたGポッドの中でナナはうつむきながら呟いた……。涙とある感情を抑えるように歯を食いしばりながら。
「いやぁ、あっはっは。まさかエデンの方もこちらにいらっしゃるとは思いませんでしたよ」
一方こちらはヒロとシンパチの方である。こちらは氷原上の連邦軍基地で地上戦を行っていた。お互いが高速で並走しながら銃を構える。ウイングノヴァの方は普通の低空飛行だが、サイサリスの方は中腰体勢でホバーによる移動の為、雪煙を巻き上げながらの移動だ。
「君達がいた時にコンドウさんとは戦ってはいなかった気がするんだけどね!!」
両肩のマシンキャノンでサイサリスの牽制を行うノヴァ。しかし重装甲のサイサリスにそれは通用せず、盾を前に押し出して突っ込んでくる。ウンディーネの時と同じ要領でシールドからのビームラムでノヴァの意表を突こうとするシンパチ。
しかしヒロはノヴァをサイサリスの左側面にとっさに移動させる。ノヴァの右手にはビームサーベルが握られていた。そのままサイサリスを切り裂くつもりだ。
「スピードならこっちが上だ!」
「あーやっぱ重量級のサイサリスじゃあ相性が悪い……かな!!」
そのままシンパチはサイサリスのシールドをノヴァに力任せにぶん回す。サイサリスは重量級な分、パワーはノヴァを大きく上回っていた。シールドをぶつけられたノヴァの方もシールドで防御。しかしさっきの衝撃でシールドは大きく歪んでしまった。
「ただで起き上がるものか!!」
ふっとばされていながらもツインバスターライフルを構えサイサリスに発射するヒロ。ハンガーや管制塔をまき込んでビームは基地もろともサイサリスを蒸発させる。しかしそこにサイサリスの姿はない。どこだとヒロは試案しながらも仰向けに倒れる。と、相手の姿が見えた。ノヴァの視界の先、真上である。
「上か!」
「一応元のサイサリスより軽量化はしてるんですよ!!」
サイサリスは落下しながらシールドを下に向ける。ビームラムでノヴァを押し潰すつもりだ。すかさずバーニアを全開にしてその場から離れるノヴァ、ノヴァの足元をサイサリスが轟音を立てて
落下する。サイサリスは再び立ち上がり盾を構えようとするも、その前にノヴァはバスターライフルを向けようとする。が、サイサリスの方が早くハイビームライフルを向けた。
「ちぃっ!!」
すかさずヒロはマシンキャノンを発射しライフルの先端部に命中。
「うわっ!あぶなっ!!」
狼狽するシンパチ。ガガガッと音を立ててライフルは爆発。その隙をついてヒロのノヴァはバスターライフルを放った。
「間に合うかなっ!?」
回避行動をとろうとするシンパチだったが間に合わない。とっさに盾を構えるがそのままサイサリスはバスターライフルのビームに飲まれた。
そしてこちらは水中のアイとサイトウの方である。
「水中戦なら!!」
ウンディーネが左腕のビームサーベルでジャイオーンに迫る。食い止めようとジャイオーンはカレトヴルッフ炎のライフルモードで迎撃しようと連射する。しかしウンディーネはそれらを難なくかわしジャイオーンにへと迫る。さっきとは打って変わって正に水を得た魚だ。
「そっちの本領発揮ってか?だがな」
ジロウは慌てた様子もなく、ビッグ・アーム左側のビームサーベル三本を交差させて、ウンディーネのサーベルを受け止めた。「ならば」とアイは右腕のビームガンで迎撃しようとするが、すかさずジャイオーンは右側のソード・ファンネルを三本射出、更にカレトヴルッフ炎をウンディーネに向ける。
「こいつは元々早いんでな。水中だからって多少減速したところで」
「チッ!!」
「ヤタテさん!離れるぞ!!」
ウンディーネはスクリューを全開にし、ジャイオーンから一時後退、同時にジャイオーン目がけて両肩の魚雷を六発発射。水中用の弾頭はスクリューによって高速でジャイオーンに向かう。
しかしジャイオーンはビッグ・アームの親指部、板状の大型クローを魚雷に向け、内蔵ビームキャノンを発射。水中の為出力は下がってはいるが魚雷を巻き込み爆発させるには十分だ。しかし全ての魚雷を爆発させるには至らず、残りの魚雷は爆発の中を突っ切ってジャイオーンに迫る。
「やれやれ。ぶっちゃけ安全に勝ちたかったんだけどな」
ジロウがそう言った直後、魚雷はジャイオーン付近で爆発。遠くで見ていたアイとツチヤはジャイオーンがどうなったかは確認はできない。元々暗い海だ。確認できるのは爆風と大量の泡だけだった。
「あれで終わるわけないでしょうね!」
「あぁ!来るぞ!!」
ツチヤの言う通りだった。魚雷の爆風の中から炎を纏った物体が突っ切ってきた。それは先程地上で北極を砕いてきたビッグ・アームを両手の様に合体させたジャイオーンだった。
「やっぱこいつを使わなきゃ勝てねぇって事か」
「ジロウ!!」
ジャイオーンは親指のビッグ・アームからビームを連射させながらウンディーネに迫る。巨大な炎の拳となったジャイオーンの周りには高温となって周囲の温度が沸騰の泡を立てまくる。水中なのに炎は衰える事はない。
「水中の中で炎を維持するなんて!!」
「我ながら非常識とは思うがね」
「冷めてる人と思いきや!!熱い人って事ですか?!」
とはいえウンディーネの方が早いのは変わらない。射撃をかわしながら魚雷を撃ち返す。がジャイオーンは意にも介してない。魚雷と衝突しながら突っ込んでくるが、爆発を物ともしないで突っ込んでくる。
「ビッグナックルにこんなちゃちな手は通用しねぇよ」
水中で炎を纏った拳。という非常識な光景だが、それに乗っているジロウは冷静だった。ウンディーネ目がけて突っ込んでくるジャイオーン、しかし突っ込んできたビッグナックルを右側にかわす。その際にジャイオーンは親指部、板状のビッグ・アームをウンディーネに向け、そのままビームサーベルを発生。
板状のビッグ・アームからのビームサーベルは両脇部から一枚二本ずつビームサーベルが伸びる。しかも長さは調整可能で最大出力はジャイオーンの身長以上だ。そのままウンディーネを串刺しにしようとするつもりだろうが、アイのウンディーネは再び分離、さっきまでウンディーネのいた地点をビームサーベルが貫いた。
「おっ!?」
すぐ後方へとカレトヴルッフ炎を向けて上部のガトリングガン炎を連射する。そして振り向くジャイオーン。後方で合体していたウンディーネがジャイオーンの背中を狙っていたのだろうが、それをジロウは見抜いていた。ジャイオーンの後方に合体していたウンディーネは慌ててカレトヴルッフのビームを回避する。
「クソッ!引っ掛かったと思ったのに!」
「テメェの作ったガンプラだ。脇腹くれぇ把握してるさ」
そしてまたビッグナックルとなったジャイオーンはウンディーネに突っ込んでいく。
「ここまで腕を上げていたなんて!!」
「うざったい奴相手にしょっちゅう練習してたんでね。サブロウタ。お前が責任を放棄した奴だよ」
嫌味ったらしく吐き捨てるジロウにツチヤはすぐピンと来る。アイもすぐ理解できた。ジロウの口調から嫌ってる人物なのは解ったし、サイトウとツチヤのお互いが知ってる人物は一人しか浮かばない。
「セリトの事か!」
「あぁそうさ。……解っててほったらかしにしたのかねぇ!お前は!!」
「解っててだと?!」
先程の様な攻防が続く中、Gポッドの警告音がアイとツチヤの耳をつんざく。ウンディーネ目がけて上から一機のガンプラが海中へ突っ込んできた。
「サイトウさん!こっちは終わりましたよ!」
「ビルドスペリオル?!ケン君か!それじゃナナちゃんは!?」
「倒しちゃいましたよ!」と強気な発言に反して一旦後退するビルドスペリオル。阻止しようとするウンディーネだが、ジャイオーンがビッグナックルで妨害する為、後退を許してしまう。すぐさまケンはスペリオルのモードを切り替えた。
再びパワーゲートを発生させ、突っ込むと今度は背中からウイングではなく、熱帯魚のベタの様なヒレが現れた。
「これがスペリオルのアクアモード!!覚悟!!」
アクアモード。ビルドスペリオルのユニバースブースターに搭載された機能の一つで水中用のモードだ。しかし元ネタのビルドファイターズでは使われなかったモードであり、どんな姿になるかはビルダーそれぞれの想像次第となっている。(スタッフのつぶやきではゲートをサーフィンの様に使うとか……)
アクアモードとなったビルドスペリオルはウンディーネに猛スピードで迫る。
「二対一か!!」
「卑怯かもしれませんがね!!俺もこの人達に拾ってもらって鍛えてもらった恩義がありますから!」
「そして俺達は全国に行きたいんでね!!」とジャイオーンも加わる。
「どっちも早いけど!水中用の武器は無い!!」
アイは二体を引き離そうと全身のスクリューを全開にしてその場から離れる。それを追いかける二機。アイはウンディーネを二体に向かい合わせながら逃亡。
かつ魚雷を発射していく。(逃亡には尻のハイドロジェットを使用)しかし水中のスピードに優れるアクアモードにはかわされるかガンブレードによる迎撃。ジャイオーンの方は攻防一体のビッグナックルで気にせず突っ込んでくる。決定打にはならない。
ジャイオーンのスピードは水中用ではない為ウンディーネとアクアモードのスペリオルには劣る。スペリオルとジャイオーンの距離は徐々に広がっていった。ウンディーネとスペリオルのスピードはほぼ同じだ。
「どうしますツチヤさん?!このまま向こうの息切れを待ちますか?!」
――動きはビルドスペリオルの方が早いな……ならば!――
「いや!ヤタテさん!考えがある!ここは俺の言うとおりに!!」
「!お願いします!ツチヤさん!!」
そう言うや否や、ウンディーネは逃げるのをやめて停止。直後左腕のビームサーベルでスペリオルに立ち向かう。
「正面から来る?!上等!!」
スペリオルの方もガンブレードでウンディーネに斬りかかる。すれ違うように斬り合う二機。その場にビッグナックルで向かうジャイオーンからは、闇の中緑と青の光の筋が何度もぶつかる様に見えていた。そしてジャイオーンが二機の姿を確認出来る程に近付くと、ぶつかり合いはやめて二機が鍔迫り合いをしている様に見えた。(ジャイオーン視点ではスペリオルの背中が見える)
「ケンの奴に手こずるとも思えねぇが、このまま一気に畳みかける!!」
そのまま一気にジロウはビッグナックルでウンディーネの側面に突っ込むべく大きく旋回する。その時、ケンの悲痛な叫びが通信で聞こえた。
「!ジロウさん!来ないで!!こいつは!」
「っ!?」
ジロウに通信が届いた時だった。ウンディーネは鍔迫り合いの体勢だったスペリオルをジャイオーンの盾にした。見ればスペリオルのボディはワイヤーアンカーでぐるぐる巻きとなり、動きを封じられていた。
「うぉっ!!」
慌ててビッグナックルを解除し停止するジャイオーン。その場で『ばっ』と音を立ててビッグ・アームを開く。その時だった。ジャイオーンの背中に爆発の衝撃が走る。直撃だ。その際にビッグ・アームのバックパックが破壊されビッグナックルは使用不可となる。
「ビ!ビッグ・アームがっ!!なんだ?!!三機目か?!!」
「やった!成功!」
振り向いたジャイオーンの目の前にはアイのコアファイターがいた。後方からサブロックガンを撃ってバックパックを破壊したのだ。
「コアファイターがこっちに!?じゃあ!あれは!」
スペリオル越しのウンディーネは分離したGダゴンだった。
「すいませんっ!我ながら!まだ未熟っ!!」
ケンが叫んだ瞬間にGダゴンはビームガンを連射しスペリオルのコクピットを何度も撃ち抜く。沈黙したスペリオルは海底に沈んでいった。これによりスペリオル撃墜。
一方観客席の方、チトセとマツオの席では……、
「あぁっ!ケン!!」
「ははは、やっぱり心配か。アイツが」
「っ!んなこたぁないわよ!!むしろザマーミロだわ!!」
顔を真っ赤にしながら否定するチトセ、「なんで顔を赤くするかねぇ」とマツオは喉に出かかった言葉を飲み込む。これ以上藪蛇でうるさくされて試合を見れないのは困るからだ。
「ケン……すまねぇ……あそこで分離を気づいていれば……」
後悔するが既に遅い。もうスペリオルは撃墜となった。と、同時に再合体したウンディーネが斬りかかってくる。
「このまま一気に畳みかける!!」
「っ!!このぉ!!」
ジャイオーンはカレトヴルッフ炎でビームサーベルを凌ぐ。しかし向こうの方が水中用な為、動きのキレがいい。流れはアイ達の方に流れている。
――このままではまずい……。負けるのか?俺達が――
そうジロウは心の中で焦り始めていた。どうするか。と考えた時だった。シンパチから通信が入った。
「あー、生きてます?ジロさん」
「っ!!何呑気に通信入れてんだお前!!試合はどうなっている!!」
呑気そうなシンパチの声につい苛立ってしまうジロウ。
「いやはや、駄目っぽいです」
その頃地上ではボロボロのサイサリスが尻もちをついていた。盾を失い。背部のライトニングバックウェポンもブースターとビームキャノンを片方が破損。ウイングノヴァに追い詰められていたのだ。右腕のライフルは後生大事に持ってはいるがもはや満身創痍である。
「僕は駄目ですけど、ジロウさんの方は大丈夫ですよね。僕らには……全国行ってコンドウさんに再会、そして全国にライオンハートありって知らしめる目標がありますからね」
「……シンパチ!俺の方は!」
「言わないでください。こっちはこっちでどうにかしますから。後はよろしく」
そう言って一方的に通信を切るシンパチ。直後、サイサリスのコクピットをノヴァのビームサーベルの貫く。通信にかまけて無防備だった為ノヴァはこの隙を逃さなかった。
「棒立ちとは!覚悟を決めたか?!」
「……いやー、お強いですね。確かヒロさんはお仲間が違法ビルダーになってしまって、その人を説得すべく全国を目指しているのだとか。ただ僕らとは覚悟が違うかなぁ」
いや、わずかにコクピットをそれた。とっさにかわしたのだ。ヒロはそのまま横に薙ぎ払おうとするがシンパチはサイサリスの左腕でノヴァのビームサーベルを握った拳と腕をしっかりとつかむ。元々パワーに優れたサイサリスだ。ガッチリとノヴァを抑え込む。
「一体何を!」
「でも僕らだって気概は負けてないつもりですよ。野郎なのは嫌ですけど、一緒に地獄へ行ってもらいますよ!……これなーんだ」
直後、サイサリスが先端部を切り落としたライフルを見せた。ハンドガンタイプになったライフルの先にはバズーカの弾頭がついていた。しかしただの弾頭ではない。その正体をヒロは察しがついた。
「核弾頭!!」
「そう!サイサリスは元々核攻撃用の機体ですからねぇ!!とっておきの武器ですよ!!」
その弾頭目がけてサイサリスは頭部バルカンを撃ち込む。直後、弾頭は点火、ヒロの視界は一瞬だけ真っ白に輝く。
「ぅ!うおおおっ!!」
直後にブラックアウト。あっという間の撃墜扱いとなる。フィールドでは通常の爆発とは比較にならない爆発が、そして衝撃波と熱が北極の大地を覆った。観客席のモニターでも画面が真っ白になる程の光だ。そしてその影響は地上だけではなかった。
「くぅっ!何なの!これは!!」
海中のアイ達も核爆発の衝撃波に身をさらされていた。凄まじい海流だ。その上砕かれた流氷が幾つも隕石のごとく海中に流れてくる。その場にいられない。
「シンパチが!!アイツがやったのか!!うぉぉ!!」
「んぎぎぎ!!負けるもんですかぁぁ!!!」
必死にこらえる二機だが、まずジロウのジャイオーンが海流に流される。
「どうにかしてやりすごす方法は!!っ!いかんヤタテさん!!」
「えっ?!」
水中用のウンディーネも必死にこらえるが、直後、非常に大きな氷塊がウンディーネの背中に衝突する。その際にハイドロジェットとスクリュー部を破損。そのまま海の中へ流された。
「うわー負けたーっ!!」
暫くして海流と衝撃波は収まる。落ち着いたウンディーネは海中を見回しジャイオーンを探す。水中用の推進機能は損傷したがそれ以上の損傷は無かったのは不幸中の幸いか。周りは流されてきた氷塊だらけだ。まるでアステロイドベルトの様である。
「向こうも探してるはずだけど。どこにいるんだ。ジロウの奴」
「地上にいるのかもしれませんけど……とにかくスクリューとジェットがやられたのは痛手ですよ!早く上がった方が!!」
「そうだな。……あぶない!!」
「えっ!」
突如鳴り響くGポッドの警告音。同時に下部、海底から何かがキラリと光る。巨大な三日月状の衝撃波が進路上の氷塊を粉々に砕きながらこちらに迫ってきているのだ。
「斬撃波!戦国アストレイの使っていた!?」
剣を衝撃波として飛ばす。それは以前アイも使っていた技だ。しかし大きさと存在感が桁違いだ。真っ直ぐ剣を振り降ろした斬撃波ではあるがウンディーネが10体縦に入りそうな巨大さだ。
「残ったスラスターでもこれくらいは!!」
横に回避しながら誰が放ったか見当がつく二人。かわした後の斬撃波はそのまま進路上の物体を全て砕いていく。そして陸地に当たった瞬間、アイの背後に凄まじい光と、先程の核爆発程ではないにせよ大爆発が起きた。
「くっ!また?!」
「これがお前の最後の切り札か!ジロウ!!」
「やれやれ。こうなっちゃ俺達も勝てる自信は無くなっちまったよ。だけどさ……!!」
ジロウの声がヘルメットに響く。海底からボロボロになったジャイオーンが現れた。残った武装は赤く輝くカレトヴルッフ炎のみ。この状態はカレトヴルッフ全体にプラフスキー粒子を纏わせて斬撃の威力を上げたバスターソードモードだ。(ただこちらのガンプラバトルではエネルギーを纏ってる程度の物だが)あれを使って放ったのだと言うことは容易に想像できた。
「ジロウ!!」
ジャイオーンはそのままカレトヴルッフ炎を左腰に仕舞う。居合切りの動作だ。そして少し間を置くと一気にそれを横に振るう。その際に出た斬撃波が猛スピードでウンディーネに向かう。得物の振るう範囲とに比較して飛び出す斬撃波は余りにも大きい。
だが直線的だ。ウンディーネは残りのスラスターを全て使い斬撃波を回り込む様に回避。ジャイオーンへとビームサーベルを構えて向かう。
「名付けて『((太陽風牙|たいようふうが))』出来ればこいつは使いたくなかった……まだ未完成だからな。だけどよ、シンパチがあんな必死になったんだ!」
そして次第にジロウの言葉の語気が強くなっていく。
「ここで使わなかったらしめしがつかねぇだろ!!」
「なら使わせない!!」
叫ぶジロウとアイ、満身創痍の機体同士がぶつかり合う。だがカレトヴルッフ炎とビームサーベルで鍔迫り合いをした瞬間。『ピシッ』という音がアイとツチヤの耳に入る。二人は気付いた。ジャイオーンとカレトヴルッフ炎に亀裂が入ってる。それがどんどん広がってるのだ。
「ジロウ!その亀裂!反動か!?」
「言ったろうが!未完成だって!!おいそれと使えるもんじゃねぇ!!」
二体の剣戟は続く。カレトヴルッフを打ち付ける度にジャイオーンの亀裂は大きくなっていく。しかしジロウは攻撃をやめようとしない。
「!もうやめろジロウ!!熱くなり過ぎだ!」
「熱くなり過ぎ?!そうだな!お前はカモザワの奴を止めもしないで冷静に無関係を装ったよな!」
「何だと!」
「カモザワが!あのバカが違法ビルダーになった時!なんでお前は止めなかった!あの後に違法ビルダー共引き連れてこっちまで襲う様になりやがったんだぞ!!」
「セリトが?!」
気迫の差か、いつの間にかウンディーネの方が押される流れになっていった。
「くっ!俺はアイツとの縁は切ったつもりだ!!関係ない!」
「元々あいつを連れてきたのはお前だろうが!!責任放棄してるだけじゃねぇか!逃げてるだけだ!!」
「待ってくださいよ!ツチヤさんはその後でカモザワさんに愛想を尽かしたから!」
「アイちゃんだっけか!でもよ!」
ひときわ力強くカレトヴルッフを振るうジロウ。その威力にウンディーネは吹っ飛ばされる。
「ぅあっ!!」
「あいつが、カモザワが一番心を許していたのもツチヤだったんだ!あいつがショウゴさんに殴られて追い出された後に、少しでもフォローしてればもっとマシになってたかもしれない!そう思うとやりきれねぇんだよ!!」
距離を取ろうとするウンディーネ、それをジャイオーンはライフルモードでの射撃で追いかける。
「あいつらが暴れた時!俺達の拠点の店でビルダーも辞める奴は何人もいたんだ!俺はお前を許せねぇ!!」
「……!」
「それは結果論です!違法ビルダーになるなんて誰が予想出来ましたか!」
「だが一度カモザワはサブロウタの前に現れた!あの時だって止めるチャンスだったハズだ!……おい!サブロウタ!」
再びバスターモードへ切り替えたカレトヴルッフ炎をジャイオーンは打ち付けてくる。ビームサーベルで受けるウンディーネだが、向こうの気迫は攻撃の事しか考えていない。カレトヴルッフの負荷を全く考えてない動きだ。
「お前こんな時までこんな女の子に言わせて自分じゃ言わねぇのか!!テメェでケジメもつけねぇのか!!」
「……ヤタテさん、コントロールをこっちに」
「!ツチヤさん!」
「手は出さないでくれ……!」
ツチヤにコントロールが渡った瞬間、ツチヤは右腕のビームガンをジャイオーンに連射する。とっさにかわすジャイオーン、
「!!」
「逆恨みじゃないのは分かるが、正直全部納得出来たわけじゃない。だがこれだけは言える!!」
離れたジャイオーン目がけてウンディーネがビームサーベルを構えて突っ込んでいく。
「ここでうだうだ悩むつもりは無いって事だ!!」
「そうかよ!!!」
再び居合切りの体勢でウンディーネを待ち構えるジャイオーン。ジロウはわずかな時間でツチヤの動きを予想する。
――こっちが切り札を使うのは向こうも予測しているはずだ。そしてサブロウタの得意分野は分離のかく乱。恐らくこっちの居合を分離でかわして、そのまま分離後こっちを集中攻撃……なら居合の動作を利用して、どちらか近い方へカレトヴルッフを向け、そのままライフルでコクピットを狙う!――
そう予想しジロウは構えに力を込める。ウンディーネはそのまま突っ込んでくる。
「よけてみせろよ!!」
そう言ってジロウは居合の衝撃波を放った。衝撃波は目の前のウンディーネに迫る。かわすと予想したジロウだったがウンディーネは意外な行動に出た。そのままビームサーベルで衝撃波を受け止めたのだ。
「よけずに!止めただと!?俺の切り札を?!」
目の前で鍔迫り合う機体は強烈なスパークを放つ。
「くぅっ!」
アイは眩しくて思わず手で目を覆う。
――これが……ツチヤさん一人のガンプラ魂?!一人でこれだけの物を受け止めるようなパワーを!――
「ジロウゥゥ!!!」
ツチヤの叫びに応えるかのようにウンディーネのビームサーベルはどんどん大きくなっていく。出力が魂に応じて上がってきてるのだ。そしてビームサーベルが衝撃波の中に食い込み始める。
――まさか!あいつのガンプラ魂が俺より勝ってるだと?まだだ!もう一撃居合を!――
再び居合の構えに入るジャイオーンだが、その瞬間にガンプラ魂で出力が強化されたビームサーベルが衝撃波を真っ二つに切り裂いた。そしてその後方にいたジャイオーンを襲う。
「くそっ!!」
粒子を張ったカレトヴルッフで受け止めようとするジャイオーン。しかしボロボロの剣で受け止める事は敵わず。ビームサーベルを受けたカレトヴルッフは砕け、ジャイオーンも同時に真っ二つになってしまう。
「なっ!!」
「解ってもらえたか」
「チッ!気合い入れたってのにこれかよ。……大声出して疲れた」
そう言ってジャイオーンは爆発。チーム『ライオン・ハート』は全滅。これにより準決勝はアイ達の勝利となった。
「アタシ個人としてはやられちゃったのは悔しいけど、どうにか決勝までこれたわね」
「あぁ、これで後は決勝。ユミヒラさんとブスジマさん。どっちが相手になるかだ……」とツチヤ。
バトルが終わった後、アイ達は集まり、来週の決勝の相手が誰になるのか気がかりになっていた。無論気になるのはそれだけではないが。
「おいおい。さっき言った事は無視して次の事考えてんのかよ」
「あ、サイトウさん」
サイトウ達三人がこちらに歩いてくる。ツチヤに対しての気に入らなそうな表情はそのままだった。
「別に無視してはいない。セリトに関しては……やるさ。俺、友達に戻るかは解らない。だが俺が原因でこじれたってんならな」
一応気にはかけていたらしい。とはいえ余り動揺とかは見えない。そのそっけなさがジロウは真剣に見えない気がして気に入らない。
「そうかい。その割にはドライな反応だな」
「意地悪ですね〜ジロさん」と苦笑いしながら言うシンパチ。「うるせーな」と返すジロウ。
「今は選手権だから俺個人の問題を入れるわけにはいかないと思っただけさ。大体セリトは選手権出てないだろう。予選でハッキングして集団で襲ってきたけど」
「お前……違法ビルダーがあれくらいで手を引くと思ってんのか?セリト含めてあいつらはまた必ず来るぜ」
「でもだからってアイさん達に任せっきりにするつもりはないですからね!俺!必ず次は勝ちますから!」
目を腫らしたケンがアイに向けて言い放つ。負けたことはかなり悔しかったらしい。
「え〜でも負けちゃったんでしょ?もうどうしようもないじゃん」とナナ。
「あ、知らないんですか?負けたチームは一度バトルロイヤルで敗者復活戦やるんですよ」
「え?そうなんだ。知らなかったわ」
「まぁ全国規模での敗者復活戦になりますからねぇ。これまた激戦になりますよ」
「そういう事だ。俺たちは必ず勝ちあがってみせる。もっともっと強くなってだ。『ガンプラ十箇条その2、ガンプラは日々精進』ってな」
「?なんですかそれ」
「俺達の師匠の言葉ですよ。遠くに住んでるからたまにしか会えないんですけどね。とにかく強い人ですよ」
ケンはそのビルダーを思い出しながらその人への尊敬の念を言葉にする。最もどんな人か知らないアイ達にとってはその気持ちも気づくことはないだろうが、
そしてジロウ達はアイ達より早くその場を後にした。通路を通り玄関に向かう三人。
「それで、どうするんですか?技はもちろん機体だって強化しないと」
負けたのは悔しいが、チャンスがある以上いつまでもクヨクヨしてるわけにはいかない。さっきのバトルでそれぞれが自分の機体の弱点や足りない所が見えつつある。三人はそれぞれの操縦や機体強化のプランを考えつつあった。
「そうだな。どうするか」
次は負けない。そうジロウは、三人は心で誓う。その時だった。一人の男がジロウ達の前に躍り出た。
「だったら!敗者復活戦にはボクを加えてくれないか!?」
「ん?お前……!」
「それにしても……アイちゃんとツチヤさん、二人のガンプラ魂とはいえ、まさかあの気迫を押し返すとはね……」
「ん?違うよムツミちゃん。あれはツチヤさん一人で」
「!ツチヤさん一人で?!」
ムツミは声を荒げる位に驚愕する。以前ツチヤがコンドウとソウイチでチーム組んでアイとバトルした時、アイは三位一体となったコンドウの気迫を押し返した。あのコンドウの気迫は恐らくツチヤとソウイチの物も加えていたとムツミは思っていた。少なくともツチヤのガンプラ魂はコンドウ程ではないとムツミは考えていたのだ。
――アイちゃんの気迫以上の物をツチヤさんが持っていたの……?それとも……やっぱりそれがアイちゃんの……――
ムツミはアイを見ながら今までガンプラに関するアイの笑顔を思い出す。アイはいつだって心から楽しそうだった。コンドウさんも言っていた。「本当に楽しそうにやる者は他人にも影響を及ぼす」と。もしかしたら、ツチヤさんもアイちゃんの影響で……そうムツミは考えていた。
当のアイはソウイチ達と話し込んでる。ノドカ達の試合結果が分かったらしい。
「やっぱりノドカが勝ったんですね!やった!」
「おいおい。ワシらが負けたってのにやったはねえだろアイちゃんよ〜」
敗北したブスジマ達がやってきた。来て早々に遠回しながら自分の敗北を喜ばれたのに少々複雑な心境だった。ブスジマ・シンジ50歳。複雑なお年頃である。
「あ!ブ……ブスジマさん……すいません」
バツが悪そうに頭を下げるアイ達。今のアイの心境はシンジをビルダーの仲間として見て無く。ついバイト先の上司としての反応をしてしまった。
「ワハハ!冗談だよ!ともかくアイちゃんの幼馴染だけあってつえぇのなんの!決勝はアイちゃんもうかうかしてらんねぇぜ!」
そしてノドカ達の試合も終わったようだ。結果はノドカ達の勝利、これにより一週間の時間を置いて決勝戦となる。
「だがな、どうも不安だ……」
割って入ったのは軍服とロングのウィッグを付けた男、ツクイ・クニヒコだ。どうも彼の方は腑に落ちないところがあるらしい。
「なんですか?」
「バトルしてた時だったんだが、どうも彼女からガンプラバトルを楽しもうって気が感じられなかったんだよ。まるで勝つ事だけに無我夢中になってる様に思えたぞ」
「そりゃ試合なんだから必死になるだろう?」とヤナギがツッコミを入れる。「それはそうだが……」とツクイはのどにつっかえがある様にどもる。
「じゃあ本人に聞いてみます」
そう言ってアイはノドカ達の方にかけていく。ノドカ達がGポッドから出てきて部長達と話し込んでいたようだ。
「ノドカ」
軽快な笑顔とテンポでアイはノドカに話しかける。アイの声を聴いた途端、ノドカの体がビクッと萎縮した。
「?ノドカ、凄いよブスジマさんに勝つなんて、私なんてまだ勝ったこともない人だよ」
ノドカの反応に疑問を持つアイ。しかし話し続ける。
「う……あぁ」
「どうしたの元気ないよ?調子悪いの?」
「いや……別に」目をそらしながら応えるノドカにますますアイは違和感を持つ。
「ねぇ、変だよ。風邪ひかないのがノドカの自慢だけど、熱でもあるんじゃないの?」
体温を確かめようとノドカの額に手を当てようとするアイ、しかし……
「……な」
「え?」
「さわんなって言ってんだろ!!!」
突然怒りと泣きが混じった表情でノドカはアイの手を払いのけた。
「ノ……ノド……カ?」
突然の事にアイは茫然とする。
「なんだよ……。あの時、お互い自立しようって約束したのに……これじゃ全然ダメじゃねぇか……アンタと一緒じゃ……ダメなんだよ……アタシは……ミジメなんだよ……」
アイだけでは無い。アイとノドカ、どちらかだけでも知ってる全員が突然の事に固まっていた。ただ一人……観客席で笑ってる一人を除いて。
「フフフ……アハハハハハ!愚かなビルダーは友達も同レベルという事ですね。さぁ、どうします?ヤタテ・アイ!」
声の主、リンネは心の底から喜びの笑いを上げていた。
いよいよ50話まで投稿となりました。ここまで3年、まだ途中ですが、今後とも気が向いたらでいいのでガンプラ共々見て頂けたら嬉しいです。
説明 | ||
第50話 『極寒の決死圏(後編)』 北極の連邦軍基地で三体はそれぞれの想いを胸にぶつかり合う。この戦いの行方は? |
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コメント | ||
mokiti1976-2010さん 読んで頂き有難うございます。書く時間はなかなか取れませんでしたがその間考えていたんで盛り上げていきたいです。(コマネチ) 一難去ってまた一難ですね。なかなかに根が深そうだ。(mokiti1976-2010) |
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