異能あふれるこの世界で 第五話(後)
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――約二時間後――

 

善野「なるほどな。だいたいわかった。その上で、いくつか質問させて欲しい」

 

恭子「はい。なんぼでもお願いします」

 

善野「まず、目標が低すぎんか?プロになってそこそこやれたらええて、どういうことや」

 

恭子「えっ、かなり高めに設定したつもりなんですが」

 

善野「もしも可能なら、ゆう話にはなるけどな。私が恭子の大学時代を付きっ切りで指導出来るなら、プロから誘いが来るレベルに引き上げるくらいはやってみせるわ」

 

恭子「……」

 

善野「まあそれは置いといて、次。今の強みを活かして情報や分析の方面を伸ばしたいゆうんは、しっかり考えた上で言うとるんか?」

 

恭子「はい。私の麻雀の実力は、高校トップレベルには全く通用せんレベルです。もちろん基礎的な実力も上げたい気持ちもありますが、他の道との合わせ技でなんとか勝ち切っていきたいと思うてます」

 

善野「プロの中には、研究することを休憩時間と認識しているような打ち手も存在する。人として評価するなら、どうしようもないとしか言えんような奴らや。そんなん相手にできるほど、人生捨てて麻雀やれるか?必須能力とはいえ、まだまだ伸び盛りの恭子が、基礎そっちのけで傾倒し過ぎるんはどうなんやろ」

 

恭子「……」

 

善野「まあそれも置いといて、次。プロ目指す意思は固いんか?」

 

恭子「はい。もう進学先も決めて、推薦もほぼ決まりです。この半年を全力でやって、強くなって、大学からプロに行くつもりです」

 

善野「この時期の半年か……普通なら、なにをするにしても身に付けるまではいかんやろなあ。けど、あいつならやってくれるかもしれんところがまた――――」

 

 

恭子「……あの、さっきから当たり強ないですか?」

 

善野「ん、そうか?」

 

恭子「なんや顔もどんどんしわい感じになってますし」

 

善野「……すまん。ちょっと落ち着こうか」

 

恭子「そうですね。なんならちょっと他の話でもしますか?」

 

善野「いや。姫松にいた時のように話してしまうと、もう話を戻せそうにない」

 

恭子「普通の話が挟めんような事、なんですか?」

 

善野「ああ」

 

恭子「なら、いっそずばっと言うてください。お世話になった監督に、いつまでも苦しそうな顔とかさせたないんで」

 

善野「そうか……なら、言う」

 

恭子「はい」

 

善野「実は、恭子を別の指導者に任そうと思う」

 

恭子「えっ?」

 

善野「話通すのに時間かかるから、仕込みだけを進めておいた。恭子の話次第で撤回も有り得たから、止められるギリギリのところまでは話はつけてある状態だ」

 

恭子「決まり、なんですか?」

 

善野「話を聞けば聞くほど、あいつに任せるのがいいという確信が深まっていった。決断したからこそ、今こうして話している」

 

恭子「……なんや、変な感じします。赤阪監督に相談して、監督に相談して。そんでこうなるんは思うてもみませんでした」

 

善野「私らが自由の身なら、私らだけで望みを叶えていただろうさ。詳しくは言えないが、そういう方向性の検討はやり尽くした。でも、結局はどうにもならんかった。無茶すればできんことはないけど、私らの今後を犠牲にしたら恭子が困るだろう?」

 

恭子「は?」

 

善野「ま、それは冗談としても……当たりが強うなったんは、今、恭子が感じとるもやもやが、私の中にもあるからや。せっかく麻雀のことで頼ってきてんのに、さっと解決してやれんのはなあ。指導者としての無力さが身に沁みるよ」

 

恭子「そんな……」

 

善野「話の途中で、あいつに託すことを決めた。恭子の願いを叶えるためには、事前に進めているもんを再調整する必要があることもわかった。で、具体的な調整案を考えていったら……」

 

恭子「いったら?」

 

善野「腹が立ってきた」

 

恭子「えっ?……予想通りの、展開なんですよね?」

 

善野「恭子は知らんやろけどな、あいつちょっとおかしいんや。平気な顔して人サマの大事な教え子を弄り倒しにくるようなヘン……まあ陰口になるから止めとくけども。とにかく、そんなんに恭子を預ける前提で頭捻っとったら、なんや我が身の不甲斐無さにイライラしてもうて」

 

恭子「あかんやないですか!療養中にそんなん……やっぱ私、来ん方がよかったんかも――」

 

善野「ん?ああ、それは違うよ。腹立てるんも悪いことばかりやない。むしろ、治したい気持ちが強くなったと言いたかったんだ」

 

恭子「ほんまですか?」

 

善野「ホンマや。私もしっかり体治すから、恭子は安心してそいつに鍛えてもろたらええ」

 

恭子「……話が急すぎて、まだそういう気持ちにはなれそうにないです」

 

善野「まったく。仕方のないやつや」

 

恭子「すんません……」

 

善野「うん。なら、ちゃんと強くなれたら、私からご褒美をやろう」

 

恭子「えっ?」

 

善野「何がええかな……んー。ゆうて私、あんま物持ちちゃうからなあ」

 

恭子「いやいやっ!ここまでやってもろただけで十分ですからっ」

 

善野「そうか?なら、物はやめるとして……ああ。褒美になるかわからんけど、治ってここ出たらリハビリ兼ねて恭子を倒しに行ったるわ。本気の私にも勝てるくらい強くなっときや」

 

恭子「ええっ?!監督にガチで勝つとか無理ですよ!姫松に呼んだプロかて打つん逃げとったのに」

 

善野「ブランク空けの私くらい倒せんでどないすんねん。こんだけお膳立てされといて、そんなしょぼい学び方しかできんのなら、プロにもなれんしインカレでも働けんわ」

 

恭子「っ……」

 

善野「ええか。いつ治るかはわからんけど、そん時までに強くなるんや。治るん遅れたら、ほっといてさっさとプロになってもろてもかまわん。タイトル獲るくらい強くなっとっても、負ける気なんぞさらさらないからな」

 

恭子「本気で、言うてるんですか?」

 

善野「こんな嘘吐いて意味あるか?もし打ちたないなら、断るのはかまわんで」

 

恭子「……わかりました。どんだけやれるかわかりませんけど、精一杯やってきます。強うなって、勝ちまくって……監督も倒したりますっ!」

 

善野「ええ顔や。強くなりたいんなら、しょげとったらアカン。対戦、楽しみにしとくからな」

 

恭子「はいっ!私も、楽しみにしますから……」

 

善野「……」

 

恭子「だから……監督も……」

 

 

善野「ははは。なんや、さっきまで私はだめですーゆうてへこんどった子とは思えんなあ」

 

恭子「いや、それは……ああもうっ!なんで気合入れたら抜きに来るんですか。こういうとこ、監督とそっくりや」

 

善野「かんとくーかんとくー言われてもどっちがどっちかわからんわ。これは次に会う時の呼び方が楽しみやなあ」

 

恭子「私ん中で監督は監督なんですっ!」

 

善野「はははっ。恭子は相変わらずやなあ……ああ、流石に話が長うなりすぎたか。白い服着た奴らがちょろちょろしとる。邪魔されたらいい気分が台無しや。名残惜しいけど、そろそろお開きにしよう」

 

恭子「そうですか……あの、監督。こんな親身になってもろうて、ほんまにありがとうございました。紹介してもらう人からしっかり学んで、少しでもマシな姿をお見せできるように頑張ります」

 

善野「たぶん、あいつから直で電話が入る形になると思う。知らん電話からも着信できるようにしといてな」

 

恭子「それは大丈夫です。あの、最後にもう一個だけ聞いときたいんですけど」

 

善野「なんや。まだあるんか」

 

恭子「えっと、結局のところ、紹介してくれる人って誰なんですか?まだ秘密にしとかんとあかんような、どえらい人なんですか?」

 

善野「んー?」

 

恭子「あの」

 

善野「……私、言うてへんかったかな?」

 

恭子「言うてませんよっ!ずーっと誰やろー誰なんやろーて思うてましたから、聞き逃すはずありませんっ!!」

 

善野「うわ、そらすまんかった。こっちにきて、のんびりし過ぎとるんかな。一番大事なことを伝え忘れるとこやった。よう言うてくれた」

 

恭子「私の人生を変えるかもしれん人ですからね。心の準備とかもありますから、ちゃんと教えといてくださいよ」

 

善野「ああ。溜めるほど価値ある奴やないからな。インハイの団体戦で決勝に行った阿知賀女子ってあったやろ。そこで監督やっとる赤土晴絵や」

 

 

 

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善野さんと末原さんと
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 麻雀 末原恭子 善野一美 

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