双子物語74話
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双子物語74話

 

【雪乃】

 

 高校時代からけっこう大変なことが詰まっていたから大学へ行って叶ちゃんが

戻ってきた辺りからはだいぶ肩の荷が下りてようやく落ち着ける日々が戻ると

思っていた。けど…。

 

 部室に入るやすぐ他の部員が話題を全体に広げてきた。

 

「卒業した先輩にもう全て引き継いだって言ったけど、部長だけ決まってないよ!

誰にするの!?」

 

 そういえばそうだった。肝心なところがみんな忘れていたようで固まってしまう。

そこでカリスマたっぷり溢れる黒田先輩が立ち上がって胸を張りながら言う。

おっ、これは私が引き受ける!的なことを言ってくれるのだろうかと期待していると。

 

「安心して、これからはゆきのんが部長を…」

「いやです。」

 

 速攻で却下すると驚いたような顔してやや気が抜けてだらっとしている

私の傍に来て問うてくる美沙先輩。

 

「どうして!」

「どうしてもなにも…」

 

 高校の時に生徒会任された時も周りがいないとできないことだらけだし

体に負担かかりまくりだったし、良いことがないとは言わないけれど

今度はそういう重い役職に就きたくないというのが本音だった。

 

 そんな私が思ってることを私の眼や表情を見て察したのか、

以前私に全てを預けた張本人は軽く咳払いをしてから言い切った。

 

「私に全て任せなさい!」

「ありがとう、先輩」

 

「でも活動はゆきのんの方が面白いことできそうだし、そこは補佐してよね〜。」

「はい…」

 

 やる気ないわけではないが、ここのとこ張り詰めた神経が緩んで最低限でしか

集中できなくなっていた。こうなると体が休みを欲しているのだと感じる。

それがわかっているから先輩も強く言えないのだろう。

 

 それから早めにまとめたい部分を部員みんなでがんばってるのをボ〜ッとしながら

見て思った。キリッとして要領良く指示しながら自ら動いて、これ私がフリーだったら

惚れてそうって改めて思う。

 

「ほんと!?」

「え?」

 

「いや、惚れそうって」

「あ、付き合ってる相手がいなかったらの話しですけど」

 

「そっかぁ、残念…」

「え、頭の中で考えてたの口から出てました?」

 

「うん、バッチリと」

 

 普段そこまで緩くならないのに、そんな状態になっていて且つだるくて気が入らない

ということは…。

 嫌な予感がしていたら私の額に手を当てた美沙先輩の言葉ではっきりと気付いた。

 

「ゆきのん、少し顔が赤いけどもしかして…」

「…」

 

 私は熱を出していた。

 

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***

 

【叶】

 

 大学に来たばかりの時に先輩から創作活動のサークルに誘われた時は正直迷った。

やっぱり先輩とずっと一緒にいたいという気持ちはあったし、自分でもがんばった

気持ちでいたからご褒美として〜とか…甘い気持ちでいたのを振り払って

自分らしくいられるために私の得意分野に進もうと決めたのだった。

 

 高校での成績が広まっていたのか私のことを知っていた先輩がちらほらいて

少し照れくさかった。初日は見学とのことで練習を見させてもらったけれど

さすが大学ともなると迫力も技術も高校とはだいぶ違って見えた。

 

 それから後の歓迎会とかで遅くなって疲れて帰ってきた私は今日のことを

雪乃先輩に話を聞いてもらいたい気持ちで先輩の部屋にお邪魔しにいくと

静かな空間の中に先輩の姉や親友などが複雑な面持ちでいるのを見つけ

私はその先にあるベッドの上で安らかな顔をして寝ている先輩を見た。

 

 血の気が引くとはこのことか、いきなりのことで驚くのを通り越して

心臓が止まりそうになる。

 

「せ、先輩…!?」

「か、叶ちゃん。静かに…!」

 

 お姉さんが「しーっ」の仕草をしながらもう片方の手で口を塞がれた。

 

「驚くだろうけど、あれは寝てるだけだから」

「…!」

 

 そんなこと言われてもまるで死んだようになっている雪乃先輩を見て

冷静でいろと言われる方が無理というか。

 

 でもお姉さんのその大丈夫という表情に少しずつ心を落ち着かせていった。

お姉さんに連れられて雪乃先輩の口元に手を近づけると僅かながら息をしているのを

確認して力が抜けた。

 

「雪乃って小さい時から熱出すとこうなるんだよ」

 

 小さな声で言うと周りに視線を向けるのを見て私も同じように見渡すと

私と同じようにぐったりとして疲れきった顔をした人たちがいっぱい。

 

「まるで死んだように眠るんだよね…。何度も見てる私でさえも心臓に悪いよ…」

「そうだったんですか…」

 

 でも、まぁ…一度知ってしまえば大丈夫って思っていてもまたしばらくしてから

こういう状況を見るとまた心臓に負担かかりそうな気がした。

 

「とにかく、みんなお疲れ様。後は私が看とくから」

 

 お姉さんの言葉でみんな一人一人ゆっくりと部屋から出ていく中、私だけは

そのままで雪乃先輩の顔をジッと見ていた。

 

「私は…先輩の傍にいたいです」

「…いいの?」

 

「はい!」

「そう…なら私より叶ちゃんに任せた方が雪乃も喜ぶかもね」

 

 ちょっと複雑そうな残念そうな表情をしてお姉さんはその場から離れていった。

それから少しして台所から音がする。おかゆでも作ってるのだろうか。

 

「あーあ…せっかく報告しに来たのに…早く元気になってくださいね」

「うん…」

 

「え?」

 

 一瞬私の言葉に反応したかと思ったらすぐに寝息に変わっていてよくわからなかった。

あぁ、でも先輩の傍にいて手を握っていると落ち着いてきた。

すると今度は寝ている先輩の顔を見ていたら少しムラムラしてきて、

キスくらいはいいだろうかとか考えてしまう。

 

 自制できなくなっていって私は自分の顔を寝ている先輩の顔に近づけていく。

やがて吐息がはっきりと聞こえて息がかかりそうなほどの距離まで近づいた瞬間。

 

 パチッ

 

 いきなり先輩の目が開いて、それを見た私は心臓が止まりかけそうになった。

 

「…叶ちゃん?」

「ひえぁぁぁ!ごめんなさい、寝込みを襲うつもりはなかったんですう!」

 

「ずっと手繋いでてくれてたの?」

「えっ、あっはい!」

 

 キスしようとしていたことは気付いてなかったのだろうか…。

ちょっとがっかりかも…いや、状況が状況なだけに怒られる可能性が高いのだから

気付いていないほうが良いに決まっているではないか。

 

 そう自分の中で二つの感情が争っていると…。

雪乃先輩がだるそうにしながらも微笑んで「ありがとう」って言ってくれたのが

何だか色っぽくてドキドキした。

 

「早く良くなってくださいね…」

 

 顔が赤くなっているだろうか、そんな心配をしながら私は先輩の手を少しだけ

力を込めて握った。

 

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***

 

【彩菜】

 

「純粋だねー」

 

 雪乃の様子が心配だった私は春花と一緒に部屋の中を盗み見していた。

それでつい私はその言葉を口にした。

 

 それに対して頷く春花。

 

「私達には縁遠い初々しさだよねぇ」

「知ってる? あの二人まだ未経験なんだよ」

 

「えっ、それはすごい」

 

 二人には聞こえないようにひそひそと話していると昔のことを思い出した。

雪乃に一度嫌われて人生の全てが嫌になって、一つでも気持ちいいことを探して

あっさりと「初めて」を捨ててしまったこと。

 

 当然それは春花も雪乃も知っていることだったけど…。

 

「あーあ、彩菜の初めては私がもらいたかったな〜」

「しょうがないじゃん、今更言ったって」

 

「だね〜、今の私達はやりまくりだもんねぇ」

「お、おう…」

 

 春花が可愛い顔しながらドンドン攻めてくるから私は返す言葉が見つからなかった。

でも感謝はしている。泥沼な人生を送っていた私をがんばって引き上げてくれたんだから。

思い出しながらくすっと笑って私は春花の顔を引き寄せる。

 

「でもね、私の心の初めては春花だから」

「…それって姉妹だとノーカンっていう前提だったらの話でしょ」

 

「バレたか」

「そういうのはもっと自然にやりなさいよ」

 

 少し怒ったように言っていたけど、どこか嬉しそうにしていた。

春花の言っていたことは確かにその通りなんだけど、それでも私は雪乃以外に「人」を

本気で好きになれたのは春花が初めてだったんだよ。

それを言おうとしてやめた。二人きりになった時にでも耳元で呟いてやろうと思った。

 

 それから少しして起きた雪乃と叶ちゃんが会話を始めだして、後は任せられると思った

私は春花を連れて春花の部屋まで歩いていった。

 

「さぁ、これからは私達の時間だよ。お嬢様」

「お嬢様やめなさいよ、気持ち悪い」

 

「え、だって事実じゃん」

「多少お金に余裕のある家庭の娘と思ってほしいわね」

 

「SPいるくせに…」

「何か言った?」

 

「んーん、なんでも」

 

 苦笑しながら不満気な彼女の体を引き寄せてその温もりを感じた。

そして改めて今の私は幸せなんだなと思えた。

 

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***

 

【雪乃】

 

 覚えてるのは大学内でだるくて頭がボ〜っとしていた所まで。

部屋で目覚める少し前に小さい頃の夢を見た気がした。

 

 いつも私のことを気にかけて手を伸ばしてくれていた彩菜。

嬉しいくせして、いつも素直に受け入れなかったり、断ったりしていた

あの時の自分。

 

 でも手を握ると柔らかくて暖かくて頼りがいがあって落ち着ける相手でもあった。

その心地良かった夢から覚めた時、そこにいたのは「今の」大事な人の顔だった。

その人は私の目覚めに慌てて話を逸らしてなかったことにしていたけれど。

 

 私は気付いてるよ。

 

 普通に話してはいたけど、私の心臓は今までにないくらい強く動いていて

顔が、心が火照って今にも抱きつきたかった。キス…したかった。

 

「ねぇ、叶ちゃん」

「え?」

 

「キス…しよう」

「…!」

 

 言葉にできなかったけど、表情にはすごく出ていた叶ちゃん。

真面目でいつも真っ直ぐに私のことを見てくれている叶ちゃん。

求めてることも少し遠慮がちで一歩引いてるのを感じていた。

 

 だから私からも歩み寄らないとね…。

 

 愛おしくてたまらない叶ちゃんの顔に近づいて、私はそっと唇を重ねる。

一瞬ビクッと叶ちゃんが動いたけど、それからは時間を忘れるくらい彼女を求めた。

好きになりすぎて周りが見えなくなるというのは彼女と会うまでわからなかったけど

こういうものなのだろうと思えた。

 

 時間を忘れて二人の世界に浸った。

 

 

 後で風邪を移してないか心配になったけど、次の日からも元気に私の前に笑顔で

いてくれる姿を見て安心した。

 

 今回のことがあってから彼女との距離がより近くなった気がして嬉しかった。

元々離れていたわけではないけど、より安定した気持ちになれたから。

 

 ゆっくり休んでいたら熱も二日ほどで完治してこれまでの生活に戻れると思った矢先。

治ってから翌日の夜、彩菜の言葉を聞いてお茶を淹れていた手が止まった。

 

「雪乃、叶ちゃんの部屋で住んだらどう?」

「え…?」

 

 それは何の前触れもない本当に唐突に訪れた出来事だった。

 

 

説明
色々と頑張りすぎて疲れが溜まって具合が悪くなる雪乃。
部屋で寝込んでいた所に叶が訪れて…。
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