範馬勇次郎が東方紅魔郷を攻略するようです
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幻想郷に一人の鬼が現れた。

どういう経緯でそこに現れたのか、鬼も、その世界に棲む妖怪達も知る由は無かった。

 

「…どこだ此処は…?」

 

鬼は周囲を見渡し、自分が今さっきまで居た場所とは全く違う場所に立っていることを確認する。

風が草むらをさらさらと撫でる音だけが静かに聞こえるだけ。

ほんのりと月の明かりが辺りを照らしているだけ。

 

暗い草原に立たされた鬼は周囲を警戒する。辺りには何者の気配もない。

なのに余りにも歪んだ殺意だけがどこからともなくじわじわと伝わってくる。

 

…差し当たって周囲から何者かが襲いかかる気配はない。だが一向に油断は出来ない。

 

油断は出来まいと身構える鬼だが、心の底ではこのシチュエーションに出会えたことに感謝していた。

誰が自分にこの様な好機を与えたのか…鬼にとってそんなことは気に留めることではなかった。

 

ここは血に餓えた者がいる。

自らの力と存在こそが総てと言える者たち…己が肉体のみを条件に自らの絶対を信じる者たちがいる。

そしてそれらは自分の戦力と渡り合えるだけの実力を持っている。

見たことのないこの地に自らの殺傷本能を満たすだけの何かが蔓延っていることを、鬼は直感していた。

 

それだけが彼にとって最も重要な事実であった。

 

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間もなくして鬼は歩き始める。

戦慄を感じる。

血が滾る。

口元が緩む。

 

「良い芳香いだ…」

 

そう鬼が呟いた瞬間、何者かが空から降りてくる。

両腕を広げてまるで十字を象るその姿は夜に舞い降りる鳥のようであった。

 

「そうなのよねー。人間さんって美味しそうな匂いで歩いてるからついかじりたくなるの。」

 

あどけない声と共に鬼の目の前に現れたのは鬼よりも遥かに小柄な少女の容貌…宵闇の妖怪・ルーミアだ。

傍から見れば大人と子供の体格差があるにも関わらず鬼は一向に警戒を解くことはない。むしろ鬼は臨戦態勢へとベクトルを向けた。

 

その大きな純粋無垢な瞳も、期待に満ちた口も、華奢な腕も、脆弱に見える足も、すべてがあどけない少女のそれであるにも関わらず、

その力の強大さと来たら、

かつて鬼が闘争本能を満たすために赴いた戦場で蹂躙してきた武装した兵士たちや、

強きを求めて屠り去ってきた数々の武道家たちのそれを遥かに逸するものであった。

 

こいつは生半可な強さではない。本物だ。

直感する。

鬼の眼にはこの少女から百獣の王が持つ覇気と同じかそれ以上の覇気が見えていた。

 

「ほう…先ほどから感じていたあれほどの殺気が、お前さんのようなお嬢ちゃんのものだったとはな…」

 

鬼は歓喜した。

まさか奴さんからこちらへと向かって来てくれるとは思ってもみなかっただろう。

クスクスと鬼が嗤う。

そんな鬼を前に後ろ手を組んで首をかしげるルーミア。

 

「ところでおじさんは食べられる人類?」

 

恍けたことを言っているが口元を緩めたルーミアの口内には唾液で輝く牙が見え隠れしていた。

ルーミアは本気だ。

彼女は人を喰う妖怪。それも鬼が好んで口にする比喩としての「喰う」とは違い、本当に捕食するのだ。

目の前にいる規格外の人間を前にして、ルーミアもまた最高のディナーに歓喜していたのだ。

 

それを察した鬼の表情が歓喜に歪む。

鬼が構える。

 

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「何て良い女なんだ…」

 

鬼が本気になったことを察するとルーミアも身構える。

見た目には幼く頭も足りていないように見えるルーミアだが、

こと戦闘に於いては妖怪の本分を忘れてはおらず鬼の戦力を感じ取るには十分すぎるほどのキャリアを持っていた。

この夜、ルーミアが対峙したこの鬼の強さは、

自分を懲らしめた博霊の巫女や、白黒の魔法使いだけでなく、意味もなく自らを撮影に来た烏天狗の新聞屋の強さを遥かに逸するものであった。

 

ルーミアは恐怖と歓喜を同時に感じていた。

余りにも強大な鬼の登場を前にして…

生き物として圧倒的戦力差を持つ相手との対峙に怯えながらも、弾幕決闘などではない本格的な殺し合いに立ち会えるという好機に歓んでいたのだ。

 

なにはともあれ、一頭が走り出した。

 

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鬼だ。

溢れ出る野獣性から牽制を焦れて鬼が先制攻撃を仕掛ける。

弾丸の様な速度で鬼の拳がルーミア目がけて飛び出す。

ルーミアはその拳を辛うじて躱すも体制を崩し鬼の追撃をまともに喰らうことになる。

しかし、そこは妖怪の耐久力。ルーミアは鬼の裏拳をまともに喰らうも難なく立っている。

 

「その耐久力―――………間違い無ェ…貴様、人間じゃ無いようだな…」

 

鬼は嗤いながらルーミアに問いかける。

人間のそれとは思えない鬼の猛追にルーミアの顔からは余裕の表情が消えていた。

 

「…応えられ無ェか?まあいい…喰うぜッ!!」

 

鬼が再び飛びかかる。

 

ルーミアは身の危険を感じ、自らの能力を発揮する。

 

「ぬぅ!?」

 

飛びかかった鬼は瞬時己の目を疑う。

ルーミアの身体から煙のように…陽炎のように闇が溢れ出てきた。

次第に鬼の周りが真っ暗になり、同時に鬼はルーミアの姿を見失う

 

「ケッ!!まさかこんな子供騙しで俺に勝とうって言うのか!?」

 

激を飛ばしながら鬼は見えない周囲を細心の注意を以て警戒する。

ルーミアも馬鹿ではない。鬼が己の殺気を感じ取れることを理解していた彼女は息を潜めて鬼を喰らう機会を待った。

鬼が構えを解かず警戒を強めた直後のことだった。

 

鬼は右肩に噛みつかれたような強烈な痛みを感じる。

その個所へ視線を遣るとルーミアの顎が鬼の肩に噛みついていた。

 

「貴様ッッッ!!!」

 

鬼は身体を捻って右肩にかじり付くそれを振り払う。

人が繰り出す捻転とは思えないそれによってルーミアの体は彼女を覆う闇ごと空高く舞い上がった。

黒い塊はそのまま鬼の遥か前方へと静かに着地する。

 

闇から一時解き放たれた鬼は自分の右肩を見る。小さくも深い穴が肩に穿たれていた。

右肩からは鮮血が流れ出るがその傷は浅い。並みの人間であれば致命傷と思われるそれは鬼の耐久力の前ではかすり傷に等しいものだった。

鬼が視線を前に戻すとそこには闇を纏うルーミアの姿がある。

…正確にはその姿を捉えることは出来ないのだが、目の前にある大きな黒い塊の中にルーミアがいることを鬼は察知していた。

 

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「面白ェ………!」

 

鬼は構える。

同時に黒い塊が動き始める。

お互い申し合わせたように戦いの局面は次なるステージへと進んだ。

黒い塊が鬼に迫る。

二人の制空権が触れる。

お互いが闇に包まれる。

間合い。

今。

 

ルーミアの口が大きく開かれる。無論それを確認する術は鬼には与えられていない。

闇の中で牙が獲物を見定める。

ルーミアの牙が鬼の額に触れる。

頭蓋を噛み砕く。

 

 

 

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「〜〜〜ッッッ!!!!?」

 

 

 

 

 

否。

ルーミアの顎が鬼の頭蓋を喰らう寸前で鬼が沈むように前屈する。

直後、前方へと一回転した鬼の身体から鉄槌の踵が振り落とされ、ルーミアの後頭部を打ちルーミアの顔面は地面へとめり込む形となる。

 

これは、鬼の実子が幼少の頃彼と立ち会った時に使った必殺のカウンター技であり、相手の放った攻撃に対し回転蹴りによるカウンターを相手に浴びせるもの。

失敗すれば相手の攻撃をまともに受ける危険性のある諸刃の技だが、成功すれば相手の急所を容赦なく打つことが出来る。

噛みつくという余りにも自然染みた動作の中から、己が肉体に染み付いた経験と勘を頼りにカウンターの好機を見出したのである。

 

鈍い音と共に鬼と彼女を纏う闇が消え去ると辺りは再び月明かりに照らされた。

ルーミアの頭は半分以上地面にめり込んでいるがどうやら気絶しているだけで死んではいないようだ。

それを見下ろし、鬼は勝ち誇ったように微笑む。

 

「まさか倅の技を借りることになるとはな………」

 

そう呟く鬼の額にはルーミアの噛みついた痕が残り、小さな赤い軌跡を残した。

ルーミアを屠り去った鬼は満足気な貌で踵を返し次なる猛者を求めて再び夜の幻想郷を進み始める。

 

 

 

 

 

『ルーミア撃沈』

説明
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コメント
幻想郷だと勇次郎でも全てを屈指しないとかなり厳しいですからね(TETSU)
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