【★矢】水中華
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非常に暑い日が続いていた。

暑い国で育ったしかし、白い肌のシャカには慣れた暑さではあった。

「貴方はいつも涼しげですね」

にこりと柔らかに微笑むのは、整った顔立ちのムウ。

己の館に、不意にやってきた彼に驚きもせず、シャカは閉じた瞳のままムウに顔を向けた。

「…ある程度は我慢がきくからな」

「まあ、貴方はそうかも知れませんが…」

ムウはそういわれるのを予測していたかのように、シャカの目の前に回りこむと、座っている彼の腕を取った。

「たまには海にでもいってみませんか?」

「え?」

いつも突拍子もないことをいうムウに驚かされる。

そして、いつものように驚いている間にムウは行動に移るのだ。

幼いころからの恋人を己の腕に抱きこむように立ち上がらせると、ムウはシャカよりも強力な超能力で瞬時にその場を後にしたのだった。

 

景色が変わる。

青い空とエメラルドグリーンの海と、白い砂浜。

 

そっとムウはシャカの腕を放した。

シャカが小さくため息をついた。

「…どうしておまえはいつもそう強引なんだ・・」

「貴方はこれくらいしないと、どこにも行こうとはしませんからね」

悪びれもせずムウはそう言った。

互いに性格を熟知している間柄の二人には、このくらいのことは日常茶飯事であったのだ。

それでもうまく事が運ぶということは、何よりも互いに愛し信頼しあっているということだろう。

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ムウはシャカにやわらかく微笑むと、水に入る用意をした。

といっても、着物を脱ぐだけだったが。

その下には、水着。

最初から海にはいるつもりで己の館にきたのだと、シャカにはすぐ分かった。

聖闘士だから、海にいってはいけないということなど何もないのだ。

たまには、いいかもしれない。

二面性を持ち合わせるシャカは、そう開放的な気分になって砂浜に腰をおろした。

水辺のさわやかな風が滑らかにシャカの金の髪を揺らす。

「シャカも、泳ぎませんか!」

波間からムウが手を振る。

「いや、水にはいることは沐浴以外必要がないのでな、たしなんでいないので遠慮しておく」

「まったく・・」

しょうもないといいたげに、それでもシャカに愛しさを感じつつ、髪をかきあげながらムウが海から上がってきた。

彼の銀の髪から雫が垂れる。

精悍な彼の肉体を好ましく思いながら、シャカはムウを見上げる。

「別に泳がなくとも、水浴びくらいならいいでしょう?」

シャカは肩を小さくすくめると、困ったように口を開いた。

「水着というものをもっていなくてな・・・」

意外な言葉にムウの表情は一瞬ぽかんと、だが、すぐさま笑みへと変わった。

「腰巻で十分でしょう。ここには私たち以外誰もいないのですから!」

確かに、断崖絶壁に囲まれた入江のような砂浜である。

到底人がくるとは思えなかったが。

「だが・・」

羞恥というものがある・・そういいかけてシャカは口を閉じた。

ムウの嬉しそうな笑顔をみると口を開けなかった。

いつも彼のやることを否定してばかりいるような気がして、今日くらいはと、思い直した。

女物のサリーのような、仏に仕える者の衣服のような衣装と上衣を脱ぐと腰巻一枚になる。

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「ほら、早く」

白い砂浜の波打ち際でムウが呼ぶ。

楽しそうな表情の彼を見るのは幼い時以来だったかと、思いながらシャカは水に足を入れた。

ひやりと、そしてさらさらと流れる水に思わず口元に笑みが広がる。

「シャカ!」

ムウが不意に腕を引っ張った。

世界が反転する。

ムウに抱きとめられる形でそのまま倒れこむ。

水音。

輝く水しぶき。

これで二人とも全身ぐっしょりだ。

「ムウ!」

即座に半身を起こすとシャカが怒りと呆れで声を荒げた。

「水はきもちいいでしょう?」

時折見せる子供のような仕草と表情。

シャカは前教皇シオンが生きていたころのことを思い出した。

彼が余り表情を出さなくなったのは、師として尊敬していたシオンが亡くなったころだったのだと、ふと気づいた。

ムウからそれとなく教皇が代わったということは教えてもらっていたが、なるほど、それならムウが聖域からいなくなったことにも符号する。

「ムウ…」

何かを言いかけ、そしてシャカは口を閉じるとそのまま瞳を開いた。

滅多に見るこのできない金の高貴なる瞳。

真実の瞳。

小宇宙を一時的に内部に押さえ、シャカは眼を開いた。

ムウをまっすぐ見据え、あのころのように幼い時のように微笑んだ。

「シャカ・・」

二人にはそれで十分だった。

過去よりも今を楽しもう。

環境は色々互いに変わってしまっても、思い出と現在愛する人がいる。

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シャカは自ら水中に潜るとそのまま長い髪をなびかせながら、水面を見上げた。

輝く光と愛するムウ。

しっかりと支えてくれる腕がシャカを水面に引き上げる。

不安も喜びも互いに支えあってここまできたのだ。

そしてこれからも。

愛するということは、そういうことなのだろうとシャカは思った。

 

end

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★矢ムウシャカ
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