ビヨンド ア スフィア 〜アイアン・バイト 序章〜 |
それからノアはエホバのために祭壇を築き、祭壇の上で焼燔の捧げ物をささげはじめた。エホバは安らぎの香りをかぎはじめられた。そしてエホバはその心にこう言われた。「二度とわたしは地上に災いを呼び求めることはしない。人は年若い時は過ちを犯すからである。再びわたしはあらゆる生き物を撃つことはない。 地の存続するかぎり、種まきと収穫、寒さと暑さ、夏と冬、昼と夜は決してやむことはないのである」。
-創世記 8章 20-22節-
初夏のこの頃、日は伸び、夕暮れまでの時間は長くなってきた。時刻は午後4時であったが、ななは未来を寮に案内する事にした。未来の入居予定の寮とは、平屋一戸建て間取りは2DKで士官用に用意されたもの。最低限必要なものは既に完備されていて日用品を少々持ち込むだけですぐに居住可能な状態で用意されていた。基地内を案内された時に食堂で引き受けるはずだった支給品も、ななの指示で全て寮の部屋に移動されていた。部屋に案内された未来は、実家の自分の部屋より広い中を見て、部屋の広さを持て余すだろうと思ったが、それは口に出さなかった。「森永さんの家財道具は日取りを決めて後日取り寄せることになると思うけど、とりあえず生活に困らない程度の日用品を買いに行きましょう。ここに足りない物を調べておいて。」そう言ってななは携帯電話を取り出すとそれを操作しながら「今ここに車をよこすから一緒に買い物に行きましょ。」と、通話先につながる数秒の間に未来に伝える。「10分後に居住区の入り口によこして。」そう言って通話を切ったななを見ていた未来は、心の中でここにも自分とは違う世界にいる人が、と思ったがそれを口には出さなかった。
必要な物をリストアップした未来は10分を待たずに外に出て辺りを観察していた。同じ様な戸建てが何軒も軒を連ねている居住区、自分の住まいがわからなくなっては元の子も無い、ここが居住区画のどの位置にあるのか確かめていた。すると、居住区入り口の方から見覚えのある一人の少女が歩いてくるのが目に留まった。午前中に案内された海星学園、その学制服姿の南月はづみだった。はづみもこの居住区の寮に一人住まいで、ここから学校に通っているのだ。
未来に気が付いたはづみは歩きながら学生鞄を胸元に持ち替えて、鞄を開けると中から何かを取り出した。中から出したのは、帰り際に松浦先生から渡された一枚のプリント用紙だった。はづみは未来の前に歩み寄るとそのプリントを「これ、先生が渡してって。」と、素っ気無く差し出した。未来は「ありがとう。」と、素っ気無く受け取った。二人の間に流れる気まずい空気が、その時の二人の距離感を物語っていた。そこへななが未来の住まいとなる戸建ての玄関から現れる。電話から10分が経とうとしていたのだ。「おかえり、紹介するわ、森永未来さん。あなたと同じオプティマイザー。これから一緒に任務に付く事になると思うからよろしくね。」そこまでななが紹介すると、「うん、学校で会ったから。知ってた。」と、はづみは素っ気無く答えた。ここまでの会話からはづみに対して寡黙な印象を持った未来だった。
そして、この時、EU、ユーラシア大陸で大事件の前触れが進行していた。フランス、オーバーニュ、フランス外人部隊第一外人連隊に一枚の指令書が届く。オペレーション・アイアンバイトが始動したのだった。
アイアン・バイト 1章へ続く
説明 | ||
新年のこのタイミングで中途半端な序章をなぜ投稿するのかと言うと、実は昨年父が逝去したので現在喪中なのです。8月には喪が明けるのですがそれまでは祝い事には参加しない事にしているので、日が昇る前に投稿したかったんです。 | ||
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