かがみ様への恋文 #9
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「かがみの水着、見たいんでしょぉ??」

 

ニヤニヤとしながらこなたは言った。

 

「べ、別にそんなこと……」

 

俯きながらもそう答えた優一は、はっきりと否定しなかった。

 

「私がかがみを誘ってあげてもいいんだよ、一緒に海に行こうって」

 

海に誘う、ただそれだけの事を優一は言い出せないでいた。

 

「無理にとは言わないけど」

 

そう言って、立ち去ろうとしたこなたの袖を無言で掴み、引き止める優一。

 

「あの……本当に誘ってもらえるんですか?」

 

「もちろんだよ! ただ、ちょっと優くんが私に話を合わせてくれればね」

 

 

そんなわけで、柊姉妹に声がかかった。

 

「ねぇ、かがみも海いこうよ?。

優くんだって行きたいって言ってるんだし。

ね?」

 

と優一に同意を求めた。

 

「はい、僕も行きたいです。

かがみ先輩も一緒に行きましょうよ!」

 

う?ん、と考え込むかがみ。

ちらりと目をあげると瞳をきらきら輝かせた優一がかがみをじっと見つめている。

 

かがみ先輩が一緒に行ってくれなかったら僕寂しいです、とでも言いたげな瞳だ。

 

「わかったわよ、行ってあげるわよ」

 

海に行くことに関してはやぶさかではないかがみであったけれど、

水着を着ることに少しばかりの懸念事項があったのだ。

特に、今回は今までなかった男子の目というものがあるのだから。

かがみに憧れている可愛い男の子の視線が。

故に、かがみは念入りにかつ完璧な準備をする必要があるのだ。

 

 

「ところで、海っていつ行くのか、こなたから聞いてる?」

 

同意したものの、日時も場所も聞かされていなかったことを今更ながら思い出したかがみ。

 

「8月16日だそうですよ」

 

そう優一が答えるのを聞いて、いぶかしく思うかがみ。

 

「場所はどこって言っていた?」

 

「有明だって聞いたんですけれど……そんなところに海水浴場ってあったんですね」

 

「海……ねぇ。確かに海に近いところだけれど……。

あいつ海水浴にいくつもりなんてないわよ」

 

「え? 海水浴じゃなかったら、何をしにいくんですか?」

 

優一は何も知らなかったのだ。

 

 

「泉先輩! 酷いじゃないですか、騙すなんて!」

 

優一はこなたに詰め寄った。

 

「騙してなんていないよ。ちゃんと行くでしょ、海」

 

「確かに海の近くですけど、普通そんな言い方しませんよ!

ビッグサイトに行くのに、『海に行く』なんて!

約束が違うじゃないですか!!」

 

「じゃあどうするの?

かがみに告げ口でもする?

かがみの水着姿を見るために海に行くはずだったのに、騙された、って」

 

「うぐぅ……」

 

言い返せず、悔しそうに唇を噛む優一。

 

「でも、かがみの水着姿は、

優くんにとって衝撃的な物になるかもしれないよ」

 

「どうしてですか?」

 

訝しげに首をかしげる優一。

 

「ぷにぷにでぷよぷよだからだよ?」

 

「ぷよぷよでぷにぷになんですか?」

 

そんなことを言われたって、さっぱりと理解できるはずもない。

 

「世の中にはね、知らない方が幸せなこともあるのさ」

 

こなたは諭すように言った。

 

「でも、どうせ優くんはかがみを海にさそう勇気もないんでしょ?

こみけにつき合ってくれたら、

今度こそ本当に私が誘ってあげてもいいんだけどな?」

 

「今度こそ……嘘じゃないですよね?」

 

優一は、人を疑うということを覚えた。

 

「いいんだよ、別に信じなくても。優くんが自分でかがみを誘えるならさ」

 

「うぐぅ……」

 

結局、悔しそうに唸るしかない優一であった。

 

 

「つかさ、お菓子いらない?」

 

かがみは部屋に隠し持っていたお菓子を両手に抱えてつかさの部屋を訪れた。

 

「何、お菓子? 要らないんだったら私ももらってあげるよ」

 

ちょうど廊下を通りかかった姉のまつりも、おいしそうな匂いを嗅ぎつけて

つかさの部屋に顔をのぞかせた。

 

「よくこんなにお菓子を溜め込んでたね?。だから太るんだよ」

 

と茶化すまつり。

 

「でも、本当にもらっちゃっても良いの?

この間は私が触っただけでもすごい顔して怒ってたのに……?」

 

それは数日前につかさが夜遅くまでかがみの部屋で勉強をしていた日のこと。

『お姉ちゃん、お腹空かない?』言いながら、隠してあったお菓子に手を伸ばしたつかさ。

その刹那、かがみは鬼のような形相で本能を剥き出しにし唸り声をあげたのだ。

 

「また懲りずにダイエットでもするの?」

 

早速スナック菓子の袋を空けて頬張りながら言ったのはまつり。

 

かがみはおいしそうに見せつけてくれる姉から目を逸した。

 

「そ、そうよ!」

 

「ふ?ん……。男だな?」

 

まつりは冗談のつもりだった。

『そんなんじゃねぇよ!』と向きになって力いっぱい否定するかがみの反応を期待していたのだ。

 

ところがだ。

 

「別になんだっていいでしょ……」

 

恥ずかしそうに頬をほんのりと赤く染めたかがみは、うつむき加減に答えた。

いつものように腹の底から力いっぱい絞り出したような声ではない。

まさにはじらう乙女、という表現が似合いそうなリアクション。

 

「え……、本気で?」

 

その予想外の反応に、一瞬姉は硬直してしまった。

 

まつりの心の中には実に様々な感情が渦巻いていた。

妹に先を越されたという焦りと敗北感。

そして妹に不幸が訪れるようにと切に願う凶々しい感情。

 

「別れちまえー!」

 

正気を取り戻した瞬間、まつりはそう叫んだ。

 

「な、なんでよ?」

 

「かがみ、そんな男ろくな奴じゃないよ!

かがみのことが本当に好きだったらちょっとくらい太っていたって嫌いになるわけがないよ!

どうせ体が目当てなんだよ!

だからそんな奴のことなんて忘れて、これを食え!」

 

言いながら無理矢理お菓子を口にねじこもうとする。

 

「そんなんじゃないわよ!

どうせお姉ちゃんにはわかんないよ!」

 

その言葉は、膝を付きその場に崩れ落ちてしまう程の破壊力があった。

まつりは両手を床に付いてがっくりとうなだれた。

 

「まさか……かがみはもう……女になったの?」

 

最悪の返事を覚悟しながらもおそるおそる問うまつり。

結局は、関係がどこまで進んでいるのかが気になってしかたがないのだ。

 

『女になる』と言う言葉に隠された真意を、かがみは理解できた。

 

「し、知らないわよ! 関係ないでしょ」

 

耳まで真っ赤に染めて叫んだかがみ。

 

まつりがふと顔をあげると、おろおろとしているつかさが視界に入った。

そして嫌な考えが浮かんできた。

 

「もしかして……つかさも?」

 

このおっとりのほほんとした一見男とは無縁に見える妹ではあるが、

この時ばかりは何故だかその裏には

男を手玉にとる魔性の人格が潜んでいるように思えてならなかった。

この天然ですら計算であるように、まつりには思えたのだ。

 

「え? 何が?」

 

ただ単に状況を飲み込めていないが故に発せられた言葉の様に思えるのだが、

今のまつりにはとぼけているようにしか聞こえなかった。

 

こうして、かがみは来るべきその日に備えて、減量に励んだ。

 

 

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夏コミ参加します。

二日目、東モ59aです。

 

あと、当サークルでは絵描きさん募集中です。

挿絵描いてくれる人とか。

説明
柊かがみがラブレターをもらったら……なんて話の第9話目です。
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