DQBA 第1章 DQ[ 第1話 異界の神鳥 |
―――■■■■■・光の世界。
「そ、そんな……私達の、最後の希望が……」
アレフガルドから遠く離れた異世界の一つ。
人の手の入っていない秘境にて捜し物を見つけ、絶望の声を上げる者がいた。
滅びへ向かいつつあるその世界にとって最後の希望となる筈だった道具。
彼女は世界中を探し回り、漸く最後の希望を見つけた。
「……壊れているなんて」
―――だが、それは壊れてしまっていた。
理由は幾らでも想像出来る。
最高の素材を使い、最高の技術で生み出された道具であろうと耐えきれないものはある。
かの勇者ロトによって討伐されたという大魔王ゾーマは、3年の月日をかけてオリハルコンで作られた王者の剣を破壊したという。
オリハルコンで作られた名剣中の名剣でさえ、魔王と呼ばれる者ならば砕けるのだ。
世界樹と同等の素材を使ったとはいえ、所詮は木製の杖を、仮にも神と呼ばれる存在が破壊することは難しいことでは無かったのだろうことは彼女にも容易く想像出来た。
「幸い、この杖にはまだ七人の賢者達の魂が眠っていますね。修復さえ出来れば役目を果たすことは出来ますが、この世界の人間にこの杖を修復出来る者は……」
この杖は唯の杖ではない。
嘗て、七人の賢者と呼ばれし者達が彼女から作り方を授けられ、作り上げたものだ。
並みの杖職人どころか、超一流と呼ばれる者でも修復する事は不可能に近い。
それこそ魔導を極め、賢者と呼ばれるようになった存在でも無ければ無理だろう。
「この世界には……?」
ふと、彼女は自分の言葉が気に掛かった。
確かにこの世界の人間にはこの杖を修復することは不可能だろう。
だが、この世界の外には杖を修復出来る人物がいるかもしれない。
「今の状況で異世界へと渡るのは厳しいものがありますが、それしかありませんね」
元より、彼女は異世界へと移動する能力を持った存在だ。
嘗ての戦いで力を使い果たし、異世界へと移動する能力の行使は難しい状況だった。
しかし、少し無理をすれば異世界へと移動することも不可能ではない。
「まずはルビス様の下を訪ねましょう。あのお方ならば何か知っているかもしれません」
彼女は飛ぶ。
空を。
海を。
大地を。
全てを光の翼で斬り裂き、異世界への道を切り開いた。
―――次元の狭間・知られざる島。
世界と世界の間には何も存在しない空間が無限に広がっている。
アレフガルドに隣接する次元の狭間、そこに一つの小さな世界が存在していた。
そこは精霊の住処に最も近く、悪しき魔物や普通の人間では決して辿り着けない場所だ。
その知られざる島に一件の建物が存在していた。
ブナの原木を梁に使い、更に木材ブロックを使って作られた一件の館。
建築部に所属するマインクラフターならば基本中の基本である作り方をされている。
屋根は単純に天板や斜め板などの屋根ブロックを使ったのではなく、ハーフブロックや階段ブロックなどを組み合わせ、お洒落な作りとなっている。
その建物の一室にて一人の青年―――ユートと名乗っている人物が目を覚ました。
「ふわぁ〜……よく寝たなぁ〜……」
大きな欠伸と共に目を覚ましたユートは涙を拭う。
部屋に備え付けられたドレッサーの鏡に彼の眠たげな表情が映り込む。
黒い髪に黄土色の肌、ごく普通の日本人である。
彼は木のベッドから体を起こし、背伸びをしながら呟く。
「今日は何をするんだっけ?」
もう既にアレフガルドを襲った巨悪は打ち倒されてから数ヶ月が経過している。
光を取り戻したアレフガルドは復興されつつあり、どの町も活気に満ち溢れている。
けれども、ユートの―――ビルダーの出番が無くなったわけではない。
平和になったからこそユートはビルダーとして働き、その生活を満喫していた。
「まあ、何にしてもまずは着替えよう。パジャマのままで動いていられないし」
パジャマは寝間着の一種である。
流石にパジャマ姿のまま動き続けるほど、ユートはズボラな性格をしていない。
竜王との戦いの最中であれば香ばしい臭いが漂ってくるような事にならなければ、着ることの出来る服があれば十分だったが、平和になった今は多少の贅沢がしたいと思うのが人間というものだろう。
木のクローゼットにしまってある服の中から適当に探り、一つの服を手に取る。
「今日はこの旅人の服で行こうっと」
別に何処かに旅に出ると決めた訳ではないが、ユートが選んだのは旅人の服。
丈夫で軽く、冒険に適したかっこいい服である。
動きやすい上に防御力もあるという、汎用性に溢れた衣服だ。
パジャマをベッドの上に脱ぎ捨て、ユートは旅人の服へと着替えることにした。
「おはよう、ユート!」
「うん。おはよう、ピリン」
旅人の服に着替え、ダイニングルームへとユートは訪れた。
そこでユートを迎えたのは赤と白の服を纏っている少女である。
黒髪のサイドテールがチャーミングな可愛らしい彼女の名前はピリンだ。
ユートと共に知られざる島で暮らしている女性の一人が彼女だ。
「もうすぐ朝ご飯出来るよ」
「それじゃ手を洗ってくるよ」
「うん。汚い手のまま食べたら健康に悪いもんね」
「だな」
知られざる島は【島】という名前通り、海に囲まれた場所である。
海水しかないこの場所できれいな水を確保する事は難しい。
地球であればそれは間違っていない。
しかし、このアレフガルドと隣接した異世界である知られざる島では話は違う。
水わく青石という豊富な水を蓄え、水を際限なく溢れさせるブロックが存在する。
この水わく青石は当然のようにユート達の家にも備え付けられており、何時如何なる時でもきれいな水を使うことを可能にしている。
「何時か石鹸を作りたいなぁ……」
などと呟きながら手を洗い、ピリンと共にユートはクッション椅子へと座り込む。
綿毛製のクッションは柔らかく二人の身体を受け止め、腰に掛かる負担を軽減する。
「ねえねえユート、今日は何をしよっか?」
「何をしようかなぁ……。ガライヤの復興も一通り終わったし、次何するか考えてなかったんだよなぁ……」
竜王を倒すまで、ユートは多くの町を復興してきた。
城塞都市メルキド。
水の都リムルダール。
温泉の町マイラ。
そして、首都ラダトーム。
四つの地方を巡り、四つの町をユートは復興してきた。
しかし、それでも復興することが叶わなかった場所が一つだけ存在していた。
それがガライヤの町であり、最近までユート達が意欲的に復興していた場所だ。
ガライヤ地方は雪に包まれた場所であり、マイラ・ガライヤと一纏めで復興したため、ガライヤの町は竜王との決着まで復興の手が入ることが無かった。
竜王を倒してからも暫くは他の町の復興を中心に行っていたため、最近になってガライヤの町の復興が一息つける場所まで来たのだ。
「それじゃあメルキドにピクニックに行こうよ」
「ピクニックか……良いね。サンドイッチとか用意した三人で行こうか」
「うん。物作りも楽しいけど、偶にはゆっくりしたいしね」
「そうですね。人々の役に立つ事は素晴らしいことですが、それで自分を蔑ろにしてしまってはいけませんからね。偶には息抜きをするべきでしょう」
ピリンの言葉に同意の言葉を口にしながら、キッチンから一人の女性が現れる。
修道服姿の彼女の名前はエル。
この知られざる島に住んでいる三人の人間、その最後の一人だ。
エルは朝御飯の載ったトレーを木のテーブルへと置き、空いている椅子へと座る。
「おはようございます、ユートさん」
「おはよう、エル」
「今日の朝御飯はバゲットに目玉焼き、それに森のサラダにしてみました。冷めないうちに食べることにしましょう」
「うん!速く食べよう!」
ユート、ピリン、エルの三人は両手を合わせながら言う。
「「「いただきます」」」
いただきます。
食事前には欠かせない挨拶だ。
感謝の念を込めてその言葉を口にし、三人は朝御飯を食べ始める。
出来たての温かいパンは、とてもスーパーで買って食べられるような味ではない。
目玉焼きの卵も味が濃いものであり、良い卵を使っていると分かるものだ。
森のサラダもシャキシャキとしてくすりの葉の感触と甘いモモガキの風味が合わさり、最高の一品に仕上がっている。
何度食べても飽きることのない美味しい朝食を三人は食べて行った。
「さて、それじゃあピクニックの準備を……」
『……すみませんが、その予定を変更してもらいますよ』
「……へ?」
食事を終え、皿を洗い、片付けた後の事だった。
早速、ユートは三人でピクニックに向かう準備を始めようとした。
だがユートの行動を遮るように脳裏に一人の女性の声が響く。
「ルビス様?」
『ユート、貴方達の力を再び借りねばならない事が起きました。理由を説明するので、まずはピリンとエルと共に屋敷の外へと出てもらえないでしょうか』
「……何かあったんですね。分かりました。直ぐに向かいます」
その声の主は精霊ルビス。
大地の精霊とも呼ばれる、このアレフガルドにおいて神にあたる存在だ。
ルビスの緊迫した声音は何かが起きたことをユートに理解させるのに十分な重さが存在しており、ユートは直ぐにルビスの言葉通りに動くことにした。
ユートが玄関の方向へと向かえば、同じようにルビスの言葉を聞いたのか、ピリンとエルは既に動きやすい服装で集まってきていた。
「ユート、さっきの……」
「うん。どうやら、また何かがあったみたいだ」
「おお……一体何が起きたというのでしょう。最早、アレフガルドに闇の元凶は存在しない筈ですが……」
竜王は倒され、魔物との和解も進んできている。
勿論、人間に敵対する魔物は現在も数多く存在しているのも事実だ。
けれどもルビスが直々に三人を呼び寄せて命じるような、大きな問題は存在しない筈だ。
三人は疑問を抱きながら屋敷の外へと歩み出し、
「「「なっ!?」」」
その存在に固まった。
燃える炎のような赤い髪と赤い瞳を持つ女性は良い。
彼女こと精霊ルビスはアレフガルドでこそ出会ったことはないが、この知られざる島には何度か訪れ、顔合わせをしたことがある。
問題はルビスと共にいる一羽の巨大な鳥の存在だった。
ユートはその鳥の存在を見た瞬間目を見開き、その名前を口にする。
「レティス!?」
藤色のワシのような姿形をした巨鳥。
ユートはその存在を知っていた。
この世界ではラーミアという名でロト伝説に伝わる伝説の不死鳥。
((第八の物語|ドラゴンクエスト[))に登場する神鳥レティス。
本来アレフガルドにいる筈のない存在にユートは驚愕させられたのだ。
「おや、この世界ではラーミアとして私の名前は広がっていた筈ですが……」
「彼は私が召喚したビルダーです。それ故、貴方のことも知っているのですよ」
「彼がビルダーですか」
レティスは【レティス】と呼ばれた事に僅かな驚きを示す。
レティスと名付けたのはアレフガルドとは別の世界に生きていた七賢者の一人である。
この世界ではレティスの名が広まっている筈がなく、自らの名前が呼ばれたとしてもこの世界での名である【ラーミア】と呼ばれるべきなのだ。
しかし、レティスはルビスの説明を聞いて一先ずの納得を示す。
神の使徒たるビルダーであるならば、彼女の事を知っていてもおかしくはないと。
「ユート、貴方を呼んだのは外でもありません。我が友ラーミア、いえ今はレティスでしたね。彼女の力になって欲しいのです」
「レティスの……?」
どういうことだろうか?
ドラゴンクエスト[においてビルダーの力が必要になることはユートの記憶にはない。
ユートが怪訝な表情を浮かべる中、ルビスはレティスを促す。
「レティス、例のものを……」
「はい。私達の世界の最後の希望……ビルダーの力ならば直せると信じています」
レティスの下から光の球体が放たれる。
それはゆっくりとユートへと近づいていき、少し離れた地点で強い輝きを放つ。
「こ…この杖は…………!?」
光の中から現れたのは一本の木製の杖だった。
持ち手の部分から上に、恐らくはレティスを模しただろう鳥の顔が存在している。
その鳥の口には真紅のオーブが挟まれている。
ユートはこの杖の名を知っていた。
ドラゴンクエスト[においてのキーアイテムであり、物語に大きく関わってきた杖。
「神鳥の杖!?」
【トロデーン城】の結界を描いた部屋に封じさせていた秘宝の杖。
所持者を呪う、暗黒神【ラプソーン】の魂が封じられていた伝説のアイテムの一つ。
―――神鳥の杖。
半ばからへし折れてしまった神鳥の杖がそこには存在していた。
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ドラゴンクエストビルダーズの二次創作です。 今回から第1章 ドラゴンクエスト[編を行っていきます。 |
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