Ballistic Trauma 第3話
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第3話 「Gibson」

 

 

暫くの沈黙の後、受話器の向こうから重い声が返ってきた。

「[Acheron]のセキュリティ…、解除しました―」

 

「わかった―」

精一杯平静を装いながらヴァンザントは[内線]の受話器を置いた。

 

「ふぅ―」

大きく深呼吸をすると、最後にもう一度窓の外から眼下に散りばめられた[宝石]に目をやった。

 

「行くか―」

誰に言うともなく、むしろ自分に言い聞かせるようにヴァンザントは呟いた。

 

―ガチャリ。

 

いつもより重く感じる身体と、憂鬱な気分で扉を開けた時―

「―あ」

不意に扉の向こうから声がした。

 

見た事のない顔だ、新入りだろうか。

「あ、あのっ―」

思わぬ状況に戸惑っていると、向こうが声を発する。

見れば、かなり幼く見える[少女]が立っていた。

 

「悪いが、今は取り込んでるんだ、後で―」

「本日付でこちらにお世話になる事になりました、ギブソンです!」

食い気味に挨拶をされる。

 

「―ん、ああ、ギブソンか、宜しく。」

 

「はい!」

面倒臭そうに挨拶を返してしまったが、[少女]はキラキラとした笑顔で返事を返してきた。

 

「せっかく来て貰って悪いんだが、私は大事な用事があってね、後日またゆっくりと話そう。」

 

「―あ、そうでしたか。すいません…」

よく見ればかなり幼く見えるその[新入り]は申し訳なさそうに頭を垂れる。

 

少し罪悪感に襲われたが、今は気にしている時ではない。

「じゃあ、またなギブソン。」

そう言って立ち去ろうとした時、後ろからの声がヴァンザントの動きを封じる。

 

「―あの、[Ballistic Trauma]ってご存知ですか?」

 

瞬時に全身を液体窒素で冷やされたような感覚にヴァンザントは振り向く。

「お前―!?」

 

少女の屈託のない笑顔が、その時だけは[悪魔の微笑み]に見えた。

「いえ、ちょっと耳にしたものですから―。」

 

そしてギブソンは言葉を続ける。

「ヴァンザントさんなら、知ってるかなぁって?」

 

「少しだけならな、[正確には噂話を聞いたレベル]だが―」

 

「そうなんですぁ、残念。誰か知っている人はいないんですか?」

 

ヴァンザントは努めて冷静さを装い、こう答えた。

「生きた人間でそれを話せる者は居ない。ただ―」

 

「ただ―?」

 

ヴァンザントは、最後にこう付け加えた―

「俺達が想像し得る最悪の悪夢、それが[Ballistic Trauma]だと聞いた事はある。」

 

そう言うと最後にギブソンをチラリと横目で見やり、足早に[目的地]に向かった。

正直言うとこの場から早く立ち去りたかったのかも知れない。

廊下を曲がり、エレベーターのボタンを押した所でヴァンザントは呟く。

 

「ギブソン…か、少し調べた方が良さそうだな。」

 

一方、ギブソンもヴァンザントの背中を見送った後、独り呟く。

「なぁんだ、収穫あると思ったのになぁ…。」

 

溜息をついて廊下の窓に目をやる。

「それとも、アイツ…隠してる?」

 

ギブソンは廊下の窓から外を眺めながら続けた。

「まぁ、とりあえず[ヤツ]が実在するとわかっただけでもいっか…。

必ず見つけてやるわ…、必ず!」

 

不意に[少女]の瞳から流れ落ちた一筋の雫が頬を撫でる。

 

「姉さん―」

 

 

説明
俺達が想像し得る最悪の悪夢、それが[Ballistic Trauma]だ―。
ヴァンザントは努めて冷静さを装い、こう答えた。
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コメント
アイン様: ご指摘有難う御座いました!早速、訂正の方させて頂きました。(haya-sub)
どう考えても最後の「姉さん―。」の部分の『。』はいらないのでは?(アイン)
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