カップラーメン
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 昼になるまで寝ても眠くてこのところはずっと寝るのに飽きると言うことはなくてぶくぶくと太っていくばかりで目を覚ましては台所にあるカップラーメンを食べてくちいくなっては横になっているとまた眠って、眠っている間にとおるさんがやってきてカップラーメンとミネラルウォーターを買い足してくれているから私は遠慮しないでカップラーメンを食べ、お腹が減るときはそれはもう凄い勢いで減るから私は生ぬるいお湯を注いだら三分も五分も待たないで食べてしまう、カップラーメンの味には飽きたけれどもそれはカップラーメンの種類が変われば気が紛れるという体のものではなくてカップラーメンという食べ物そのものにもう飽きてしまっているのだけれども、母が昔作ってくれていた白菜の浅漬けのいつも食卓に出てくるからいつもポリポリとかじっていてまずくはないのだけれどももう何の味も感じなくなってしまって、慣れすぎてしまっているからいつしか空気みたいになってしまってかじっている白菜の浅漬けの空気みたいなもので、嫌いだとか食べられないだとかいうことはなかったから平気だ。

 ずっと眠っていられるのは私の特権で小さい頃から誰にも何も言われることなくずっと眠っていられたら良かったのにと思っていてそれが叶った今となっては私の毎日はゆるい幸せに満たされていて、それはカップラーメンの粉の中に密かに入っていると私が信じている抑うつ剤の効果であるんだろうと思っているのだけれども、ではカップラーメンを食べるのを止めたら私は少しずつ不幸せになっていくんだろうかとかそんなことを考えるけれども、眠くて眠くて鼻腔から少しずつたぶん寝息とともに脳味噌がとろけだして行ってしまって、これは本当なのだけれども目が覚めた時には尾籠な話だけれどもよく真っ黒な鼻汁がでてゴミ箱一杯ティッシュで鼻をかむからたぶんそれは間違っていないんじゃないかと思ってる。

 私は少しずつバカになってそれでもそんなふうになってもとおるさんは私のためにカップラーメンを買ってきてくれるだろうかと思うと心配だけれどもそんなときは本当の抑うつ剤を鏡台の後ろから出してきて半分ぐらいの大きさに切って片方を飲み効きが悪かったら一時間おいてもう片方も飲むことで、私はまたカップラーメンを食べようかそれとも寝てしまおうかどちらか判断することが出来るくらいまでには回復する、夏でも冬でも一日中西日の射し込むこのマンションの最上階の西向きの角部屋は古くて正直なところ壁紙の裏に黴が生えているんじゃないかってぐらい風が吹くとかび臭いのだけれども、それを除けば私はとても気に入っていて、どういう理屈でいつも四六時中西日が射し込んでくるんだろうと思うけれども確かめたことはない、カーテンを開ければすぐに分かるんだろうけど、本当に一日中、二十四時間、何時に目が覚めても西日が射し込んできているから、私はその理由が分からないけど、でもオレンジ色の部屋の中で爪を切ったりいつの間にか切られている爪をヤスリで磨いたりヤスリに付いた爪の粉を息で吹き飛ばしてあーもう掃除できなくなっちゃうとか思ったりするのは嫌いではなかった。

 ある日夢を見ていたらいつもは私の寝ている間に来るとおるさんがやってきていて寝ている私とはしょっちゅう会っているんだろうけれども起きている私と会うのは久しぶりだったから私は一年ぐらい会ってない友達に再会した時みたいな気持ちよさがあって私は涙を流したりして喜ぶ、でもとおるさんはもう君の面倒は見られないよと言って出て行こうとするのでそんならカップラーメンとミネラルウォーターを山ほど買ってきてウォークインクローゼットの中に入れておいておくれ、と返すととおるさんは悲しそうな顔をして笑うようなはにかむような顔をして私の指を一本一本手にとってまるで指の大きさが変わっていないかどうか確かめるように見てそれから物言わずに静かにすうっと歩く歩道に乗っているみたいに後ろに下がっていってドアの方からドアの閉まる音が聞こえてそれきり。

 その後は、私はウォークインクローゼットにある山盛りのカップラーメンとミネラルウォーターと、少しずつ減っていって補充されないカップラーメンとミネラルウォーターを見るたび、自分があと何日寝ていられるだろうって思って、みんな減ってしまってなくなってしまったらどうしようって思うと自分でも感じたことないくらいお腹の底がきゅーっとなって一度などトイレで食べたばかりのカップラーメンを吐いてしまったことがある、しんどいな、でもこんなことはみんな嘘でたぶんとおるさんはそのカップラーメンがなくなるちょっと前ぐらいにはやってきてくれてまた新しいのを買い足しておいてくれるだろうなあ、なぜならとおるさんは優しいからだし今まで一度だって私を見捨てたことはなかったからだ、たぶん。

 

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