冬の朝
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2月のある日、僕は通院のために車を使うので、弟の仕事場までついて行って車を借りて帰る必要があった。

弟の運転する車に同乗し、僕が一人で運転して帰って、通院したあと弟の退勤時間になったら迎えに行くのである。

(というのも、僕が使える車は保険と大きさの関係上弟の車しか選択肢が無いのである。母の車は大きくて運転しづらい。

父の車はMTで、僕はもうずいぶん長いことMT車の運転なぞしていないものだから、使い方を忘れてしまった。

昔は僕自身の車も持っていたが、これはちょっとした事故で外装を壊してしまって、何分古い車だったし、

修理する費用ももったいないので廃車にしてしまったのだった)

その日の弟の勤務は早出で、6時半には家を出ることになっていた。車は暖気のためにすでにエンジンがかかっていて、

6時なのにまだ夜の明けきらない暗さの中で唸っていた。冷えると聞いていたが寒さはそれほどでもなかった。

夜のうちは雨が降っていて、雪にはならなかったが庭には水たまりができていた。雨は止んでいたが雲はまだ厚かった。

以前は庭の真ん中が大きくへこんでいて、小さい池のような水たまりができていた。

それを少し前に土を増してへこみを埋めたのだが、今度は別の場所に水がたまるようになっていた。

オオバコなどが生えた柔らかい土に水が溜まると水のない場所と容易には見分けがつかないので辟易させられるが、

土が柔らかいこと自体は僕には悪い気はしなかった。

ベルトを締めて弟の運転で彼の職場に向かった。辺りの暗いせいではっきり見えるのは信号機くらいのものだった。

僕の頭が寝起きだったから外の風景に注意を払えなかったのかもしれない。

職場に着いて弟を見送った。弟の仕事が終わったら電話をかけてもらって迎えに行く手はずになっている。

「4時に終わるけど事務仕事があるからもっと時間がかかるかもしれない」

弟の言葉を思い出しながら、少し朝らしく明るくなった中を運転して帰ることにした。

曇り空のせいで背の低い町並みは青っぽく薄暗い色合いだった。まだ早い時間のせいで通りをゆく車の数もあまり多くはなかった。

一本道を走っていると、何か……小麦色の動物が大急ぎで僕の車の直前を横切っていった。

この辺りには野良犬が多いが、大きさからして猫のような気がした。

そこそこ長い間車を運転してきたが、動物の飛び出しを見るのは初めてだった。(轢死体はよく見るが)

僕は驚くとかまずいと感じることもなく、淡々と「ああ、動物か」と思っていた。

逆に僕自身の呆けたような落ち着きに少し驚いていたほどだった。

僕は前々から、動物が飛び出してきたとき急ハンドルを切ってしまって大事故を起こしやしないかと

自分自身不安がっていたのだが、どうやらそれは杞憂らしかった。

ただ今度は逆に人間が飛び出してきたときでもぼーっとして轢いてしまいやしないかとも考えていた。

そんなふうに車を走らせて、別の野良犬や無骨な工場を横目に見ながら、特に何事もなく僕は家へと帰っていった。

少し休んでから病院へ行き、帰ってからまた少し休み、昨日から感じていた微妙な頭痛のために頭痛薬を飲んだ。

こたつに向かった背中に寒さを感じ、空気が朝より冷え込みを増しているような気がした。

芥川龍之介を読んでいたらちょっと文章を書きたくなったので、今この文を書いている。

時刻はとうに5時を過ぎているが弟からの電話はまだ無い。

弟の仕事の多さに憐憫と苛立ちと、この文を一息に書き終える時間的余裕をくれたことに感謝しつつ、筆を置くことにする。

 

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こういうのを私小説というのだろうか
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