異能あふれるこの世界で 第十二話
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【阿知賀女子学院・麻雀部部室】

 

 

赤土「そんじゃ始めるよー。まずはゲストの自己紹介から」

 

戒能「ハロー、みなさん。戒能良子です。麻雀プロではありますが、今日はプライベートなので……そうですね、赤土さんの後輩として扱ってください」

 

恭子「えっ……?すまん、小走さん。戒能プロの経歴、赤土さんとかぶってたか?」

 

やえ「いま同じことを聞こうと思ったところだ。記憶違いではないと思うんだが」

 

憧「たぶん無かったと思います。あるとしたら、ものすごく小さい時か――」

 

戒能「ああ、どこでというわけではありません。ご安心を。麻雀を打つものとして先人をリスペクトしている、という意味です。私に無い力を持っている実力者でもありますから」

 

憧「うわ、ハルエすっごい評価されてるじゃん!」

 

赤土「買被り過ぎ。マジで打ったら負け越し確定なのに」

 

戒能「今は、です。プロになればわかりません。チームや周囲を含めて、恐ろしい影響力を発揮するのではないかと」

 

赤土「ははっ、どうだか。プロになれるかどうかもわかんないんだから、そんな目で見ないでよ。まだまだずっと先の話。そうだろ?」

 

戒能「プロになるための協力などは必要ですか?大した力ではありませんが」

 

赤土「まだ何も決まっていないからね。そういう話は保留させてもらってる」

 

戒能「やはり他からも声はかかっていますか。できればうちのチームに来て欲しいのですが」

 

赤土「ノーコメント。そんじゃ、とりあえず打っとこうか。せっかく来てくれたんだし」

 

戒能「ウェイト、ウェイト。なぜ、そうなるのですか?」

 

赤土「いやいや。戒能ちゃんも打たずに帰れるなんて思ってないんだろう?ここは麻雀の勉強をするところで、あなたは麻雀のプロ。プロを目指すやる気のある若者たちが集って、必死になって学ぶ場に来たんだ。プライベートっつったって、指導対局の一つくらいやってあげないとダメでしょ」

 

戒能「とはいえ、私の立場で現役の学生三人を相手に打つのは」

 

赤土「なーんで私を抜いてるのさ。この子ら私の麻雀を知らないから、一度見せておきたかったんだよね。相手はできる限り強い方がいいって思ってたから、戒能ちゃんの申し出はまさに渡りに船!いやー助かったよ」

 

戒能「……やられました。しかし私にはプロとしての制限が」

 

赤土「大丈夫。この場は部室だけど部活じゃない。仕切っているのは阿知賀の監督だけど、面子に入るのは阿知賀の生徒じゃない。その上、高校麻雀を引退しているわけだから、規約的な問題はギリでクリアできる。一応、プロの団体には確認を取ってるし、万が一チームに知られて何か言われても大丈夫。ヤバそうなら私が本気で責任を取るよ。だからさあ、お願いっ!このとーりっ!!」

 

戒能「……」

 

憧「やっぱ私は打てないのかあ。わかってたけどさー」

 

赤土「おっ、さっき言ったことを気にしてるのか?今回はそういうんじゃないぞ。今の憧なら、この対局は観戦に回る方が効果的なんだよ。一局区切りであれば観戦場所を動いてもいいから、みんながどう打っているのかをじっくりと見せてもらいな。私らだけじゃなくて、恭子ややえの本気も生で見ておくといい」

 

憧「えっ?せっかくだから、戒能プロとハルエを中心に見ようと思っていたんだけど」

 

赤土「おそらくだが、憧には理解できない麻雀になると思う。だからその対応も含めて、色々な角度から見て、どうしてそうなっているのかを考えてみて欲しいんだ。自分との違いに留めないで、その打牌選択に至る理論をイメージしてみる感じって、わかるか?」

 

憧「うーん……?まあ、やってみる」

 

赤土「いい勉強になるはずだから、前向きに観戦して欲しいと思ってるよ。っていうか、見てるだけでも面白くなると思うぞー?私もマジで打つから普段とは違うし、戒能プロも異能を使えないから公式戦とは違った麻雀になる――」

 

戒能「ワッツ?いま、なんと」

 

赤土「ん?戒能ちゃんは、異能が、使えない」

 

戒能「なぜ赤土さん相手にそのようなハンデを?必要ないと思いますが」

 

赤土「異能ってのは、限られた人にだけ与えられているものだろう?でもここは、”限られない人”が集い、限られた人に抗うための場だ。そういう趣旨だってのはちゃーんと話したぞ?なのにもし、限られた人としてここにいるつもりなら、場を仕切る者としては退出を命じざるを得なくなる」

 

戒能「……トラップでしたか」

 

赤土「そんなたいそうなもんじゃない。ぶっちゃけて言えばさ、対局をネタにして初回の講義をやっていきたいだけなんだよ。そのためには戒能ちゃんの異能は邪魔でしかないだろ?アレ使った対局でも私らの役に立てる自信があるのなら、その旨をプレゼンする時間くらいはあげるけど」

 

戒能「……ノーウェイ」

 

赤土「この対局、私の理論の概論を語る上で、かなり有用なものになると見込んでいる。この条件でも本気で打ってくれるなら、だけどね」

 

戒能「はあ……ラジャーです。受けましょう。ただ、できれば念のため、この対局のことは秘密にしてください」

 

赤土「いいよ。みんなもいいね?」

 

恭子「わかりました」

 

やえ「これほどの対局、皆にも語りたいところですがやむを得ません」

 

憧「しずたちにも言っちゃダメ?」

 

赤土「ダメだ。そんなつまらないことを聞くようなら見なくていい」

 

憧「わわっ!わかったってば」

 

赤土「牌譜も残さない。みんな、しっかりと記憶に留めておけよ。ああ、改めてこの面子で語り合うくらいはいいだろ?」

 

戒能「ええ。プロが知人の頼みで無料の指導をしたと広まれば、チームや選手に迷惑をかける可能性があります。それを避けられるなら、教材にするのはオッケーです。名前を伏せてくれるのなら牌譜も大丈夫ですよ」

 

赤土「流石にね。この牌譜を残してしまうのは、気が引ける」

 

戒能「……お気遣い、サンクスです。しかし、私は負けるつもりなどありません」

 

赤土「当たり前だろ。私だって、簡単に勝てると思っちゃいない」

 

やえ「えっ?!」

 

赤土「どうした?」

 

やえ「あっ、すみません。赤土先生が有利だという共通認識を持たれているように聞こえたもので、つい」

 

戒能「オフコースです。私は麻雀においてある種の力を利用していますから、打ち方もそれを前提に最適化しています。そして赤土さんは、力を封じたまま優位をキープできるような相手ではありません」

 

赤土「あんまバカにすんなー?戒能ちゃんにハンデ戦でやられる程度の腕なら、この歳でプロに行くとか恥ずかしくて言えないよ」

 

やえ「も、申し訳ありません。そんなつもりでは」

 

赤土「わかってるよ。じょーだんじょーだん」

 

恭子「……小走さんな。一応言うとくけど、これ私らのレベルで話聞いたらあかんで。姫松は戒能プロに来てもろたから、なんも使わんでもめっちゃ強いことが身に沁みとる。お陰様で今、ちょっと対局が怖なってきてるわ……」

 

小走「む……ああ、新子。卓の準備をお願いしてもいいか?私たちもとりあえず、心の準備をしておきたい」

 

憧「わかった。場決めはつかみ取り?白か一・二入れる?」

 

赤土「公的なもんじゃないからつかみ取りでいいだろ。引く順番はゲスト、私、恭子でいこう」

 

憧「オッケー。じゃあ、まずは起親から見よっと。上家か下家に戒能プロが入ってくれたら嬉しいな」

 

戒能「タフな対局になるでしょうから、格好のいい姿は見せられないかもしれません。ですが、あなたの今後に役立つ何かが残せるのなら、私も嬉しい」

 

憧「ありがとうございます。しっかり見させて頂きますね」

 

赤土「憧。準備の前に、ちょっといいか?よく聞いてほしい」

 

憧「な、なに?いきなり真面目な顔して」

 

赤土「やったことがないだろうし、教えてもいないことだからお前の精一杯でいい。この対局は、真剣に観戦をして欲しい」

 

憧「……?そのつもりだけど」

 

赤土「んー、まあ仕方ないか。対局中にでも、気付けることを願ってるよ。んじゃ準備してる間に、ちょっと顔洗って気合入れてくるわー」

 

戒能「私も少し、席を外します」

 

赤土「顔洗うとかじゃないなら、監督室使っていいよ」

 

戒能「サンクスです」

 

 

恭子「……ああ。本気やな、これ」

 

 

説明
ノーウェイ=no way≒ありえない 
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 麻雀 末原恭子 小走やえ 新子憧 赤土晴絵 戒能良子 

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