台湾シジミ
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 近所の水路からシジミが取れるというので近所の水路を漁ってみると、確かにシジミのようなものがいくつか取れて、それで食べてみようと思って茹でて見るとどうにも香りがしない、調べてみるとシジミはシジミでも外来種の台湾シジミのようで、台湾シジミはあんまり美味しくないというふうにインターネットで書かれていたので苦労して取ってきた私は少し後悔したけれども、しかしシジミには変わりはないので大事にしたいような気もする、食べようと思って皿に並べていると友人が来ておれにもそのシジミを食べさせてくれろと言うので食べさせると、このシジミは毒があると言って急にうめいて死んでしまうので困る、私のせいにされては溜まったものではないので友人を捨てに行こうと思って持ち上げると、随分軽くなってしまってこんなに軽くなったのではどうにもならんのではないかと思う、友人の遺体は少しだけ光っていて、小栗虫太郎の小説にこんな死体があったなと私は思って、少しだけ部屋の明かりを消して光の放射されているのを見ていたら、友人と一緒に過ごした楽しい思い出が蘇ってきて私は悲しくなって涙が出て来た、しかしそれはそれとして私が疑われてはいやなので死体は捨てに行くことにする、台車に乗せてそのまま乗せたのでは見咎められないとも限らないのでダンボール箱に入れて持っていくことにする。

 ゴロゴロゴロと台車の音が夜の町に響くけれども一見して私はただダンボール箱を運んでいるだけなので心配はいらない、箱の中から友人が君とは色々あったねえと言うので私はまた涙ぐんで来てしまってうんと答える、しかし捨てることを止めるわけにはいかないしその色々あったねえと言うのも私はもう半分ぐらいは忘れてしまっているので、実際はそんなに涙ぐむ必要だって無いのだ、涙だってタダで出てくるわけではない、塩分と水分が入り用なので私はもう思い出に浸って時間を無駄にするのを止めることにするのだ。

 ダンボール箱の中から友人が手を伸ばして私にグミをくれて、それは私の好きなちょっと硬い外国のグミで友人は私の好みも熟知していて、私の好みを熟知している人間を私は捨てに行くのだと思うと私は何にも言えなくなる、なぜ君は台湾シジミを食べて死んでしまったのだろう? ことによるとそれは日頃の行いが悪かったからなのかもしれず、私は自分の日頃の行いを悔いた。君も日頃の行いを悔いたまえ。うまいかいと友人は言い、私は頷いたが箱の中の友人は見えるはずもないけれども、私は箱の中の友人が私の頷きを見て取ったような気がした。

 近所の池へ行こうと私は言い、友人はそれでも良いよと言った。どこへなりとも行っておくれというので私は好きなところへ行くことができるし、そんなふうに言ってくれる友人のことを好ましくも思うこともできるのだけれども、もはや私たちの関係は捨てる方と捨てられる方になってしまったのだ、どうしてそうなってしまったんだろう。

 月が出ていてそれはもう少しで明るくなる空の月で白っ茶けていて、それを見たのだろう友人はダンボール箱の中から、「時に残月、光冷ひややかにだねえ」と友人は言い、なんだか教科書で聞いたことのある文章だったけれども思い出せないでいたら、友人はそれは教えてあげないよと言い、ああ私は一生その聞いたことのあるような文章の正解を知ることはできないのだなあと思うと、急に何もかもがどうでもよくなってきて、ポケットの中からシジミを取り出してポリポリとやる。意味のないことだぜとダンボール箱の中から友人は言い、私はそれもそうだとも思うけれども、死ぬまでずっと台湾シジミを食べていようと君のために私もおんなじようにならないとと思って、ポケットの中からいくらでも出てくる台湾シジミを道ばたに座ってずっと食べていた。

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