紫閃の軌跡 |
〜ファルブラント級巡洋戦艦『アルセイユ』 会議室〜
「お話は判りました。しかし、何故その情報を俺たちに?」
「確かに。僕たちよりも直接自治州政府に伝えたほうがいいんじゃないの?」
「―――伝えたくても伝えられない事情がある、ってことなのかな?」
「ルヴィアゼリッタ君の言う通りだ」
いくら相手がテロリストとはいえ、自身の命の危機となればその対策ぐらいはして当然。それが国家元首クラスとなれば当たり前に近い。ロイドらの疑問も尤も、と付け加えたうえでオリヴァルト皇子が述べた。
「オズボーン宰相にしても、ロックスミス大統領にしても、自身を付け狙うテロリストが会議中に送り込まれることぐらい当たり前のように把握しているだろう。なのにもかかわらず、クロスベル政府にはその情報が一切伝えられていない」
「思惑云々は抜きにしても、いかに大国のリベールと言えど下手に情報を伝えれば『内政干渉』と受け取られかねない側面があるからな」
「シュトレオンの言う通り、こちらの勝手で裏事情を教えるわけにはいきません」
「そしてボクも皇族とはいえ帝国政府の方針に干渉はできないからね……てなわけで、両殿下の提案とボクの発案が合致して君たちを呼んだ、というわけさ」
「成程。つまり、この場での会談は非公式ということですね」
彼らの持ちうる情報網を駆使すれば、会議中にテロリストの襲撃が来ることぐらい当然のように把握しているのだろう。なのにも関わらずその事実を伝えない意味……そこから色々な考えが浮かぶのも事実である。同じ“三大国”のリベールが下手に関われば両国からの非難が飛ぶことも想像に難くない。
偶々双方が知り合い同士であり、久々の再会を祝してのお茶会ということならごく自然の流れ。それにリベールからすれば支援課のメンバーに<百日事変>の解決に寄与した人物がいれば『その時の思い出話ぐらいでも』という流れにしてしまうのも容易。
「いやはや……知ってはいたけど、思った以上に切れ者というべきか」
「おとなしそうな姫君と王子様なのに、意外と老獪な性格をしてるね」
「ちょ、ちょっとワジ君!!」
「ふふっ、別にかまいませんよ」
「クロスベルを取り巻く状況は混迷を極めているに等しい。この状況で少しでも足掻くなら、これぐらいは許されてしかるべきだろう」
「ただでさえ厄介な面子に情報をコントロールされているからね。ならば友人頼みやエステル君方面のコネぐらい最大限活用させてもらわないと」
<鉄血の子供達>帝国軍情報局レクター・アランドール特務大尉。そして共和国情報機関『ロックスミス機関』所属のキリカ・ロウラン。その二名によってクロスベルに流れる情報が著しくコントロールされている現状。だが、それに手を拱いているリベールではない。その内情は流石に国家機密級なので流石に明かせないが。
「……加えて、クロスベルに居座る<赤い星座>と<黒月>の問題もある。両国の政府とそれぞれ通じているようだから、よもや会議を狙おうという魂胆ではないだろうが」
「だが、不可解な動きをしているのはこちらにも伝わっている。そのあたりについては君たちのほうがよく知っているとは思うが」
「ええ。お返しと言っては何ですが、こちらの知っていることをお伝えします。局長、構いませんか?」
「俺のことは気にするな。少しでも不確定要素は取り除いておくのがいいからな」
特務支援課側からは現状のクロスベルにおける二つの組織の動きや、それ以外に気になる部分も含めてリベールやエレボニア側に伝えられた。
「ふむ、<銀>という凶手か。その人物の練度は解らないが、レーヴェあたりなら一蹴できそうだな」
「謙遜を。それならば殿下でもあしらえるということになりますが」
「フフ……まぁ、そうだとしてもボクや両殿下らを狙うって可能性は低そうだけれど。それに、レイア君からも聞いてはいるけど<赤い星座>は好戦的な性格をしているものが多いと聞く。そういった意味ではターゲットとして物足りないんじゃないかな。シオン君あたりならあっさり追い返しそうではあるけれど」
「おいおい……」
「ハハ……ま、そっちの少佐さんやアンタぐらいならやりあいたいという輩はいそうですがね」
「たかが軍人一人相手では非現実的だな。とはいえ、現状考えうる可能性を考慮して備えればならんか」
そろそろ情報が出来きった状況ならこのままお流れというところになるのだが……ここまであまり言葉を発していなかったアスベルに対しマリクが切り出した。
「さて、そろそろここからが“真の本題”だな。クローディア殿下、シュトレオン王子にオリヴァルト皇子……それとアスベル」
「やれやれ……明日のこともあるから黙ってるつもりだったんですけど」
「アスベル?」
「―――フフ、もとはと言えば君の推理からこの結論に至った経緯があるからね」
「はぁ……両国のクロスベルで彼らと接触を図った理由。結論から言えば『テロリストの殲滅』に他ならない」
「ええっ!?」
“転生者”が持ちうる記憶。それが現状において半分ほど意味をなさない事実もわかっている。だからこそ、アスベルは実力と磨くと同時に自らの持ちうる立場を最大限利用して独自の情報網を構築してきた。それはいくら情報局と言えどもそのすべてを把握することはできない。それに加えて最善の未来を手にするために必要以上の干渉を抑えてきた。その枷を、此度は外す形となることに躊躇いはない。
「両国政府が下手をすれば非難の対象になりかねない組織と接触を図った。彼らはいわば『裏』の存在。蛇の道は蛇、という言葉もあるぐらいに精通しているからこそ、両政府はそれらを上手く使ってあわよくばクロスベルの支配を目論む。そのために目障りな警備隊の失態をやり玉に挙げてくるだろう………正直言って、一触即発が起こりえる情勢を双方ともに生み出そうとしてる」
『市民の生命』よりも『自国の利益』を最優先とした形。国家としては利益優先の考え方を取るのも一つの方向性としては正しいのかもしれない。だが、それは民の安全が保障されなければ単なる搾取同然であろう。その方法を取ろうとしている時点で両政府のクロスベルにたいする考え方自体見て取れるのだが。万が一アスベルの考えている通りの事態になれば、クロスベルが更地になってしまう事態も考えうる。
「で、アスベルからのそれを受けて、俺らでもできることはやっていく所存だが……マリクさん。手筈通り<赤い星座>と<黒月>の対処をお願いしても?」
「ああ。その関連でレヴァイスにも協力は取り付けたが。それとアスベル、ルドガー、レイア・オルランド、シルフィア・セルナート、それとそこにいるルヴィアゼリッタ、レオンハルト少佐、カリン中佐殿にも手伝ってもらう」
「えっ」
「ルヴィア、貴女この話を受けたの!?」
「うむ。なので会議中はろっくんのそばにいれないのですよ、ルヴィアさん悲しい」
「まぁ、そうしょげるな。会議が終われば思う存分いちゃつけ」
「局長、あのですね……」
規格外ともいえる連中を相手にするにはこちらも規格外で対抗するしかない。なので、マリクはそのほとんどの面子に“転生者”を加える形とした。その流れでさらっと一夫多妻を認めるような発言をしたマリクに対してエリィはジト目で呟いた。
「おいおい、その面子相手だと叔父貴やシャーリィが不憫に思えちまうレベルだぜ……クーガーを連れてきても焼け石に水程度にしかならねえぞ」
「でも、王国軍から応援なんか出したら、流石に両国から非難が来ると思うけれど?」
「そのあたりは問題ない。ボクも最大限フォローさせてもらうし……何より隣にいるアルフィンが何とかしてくれるさ」
「もう、お兄様ったら……宰相殿が失礼なことを仰いましたら、遠慮なくいかせていただきますが」
「ミュラーさん……」
「……奇遇だな、エリゼ嬢。おそらく同意見だ」
満面の笑みを浮かべるアルフィンに対して、余計なことを一言でも呟こうものなら返す刃のごとく非難が飛んでいきそうな未来しか見えないことにエリゼとミュラーは揃って頭を抱えたくなった。良くも悪くも<百日事変>の経験は大きな糧となっていることに。
「……なぁ、まさかとは思うが、テロリストの拘束やそいつらの対処だけで終わる算段じゃないんだろ?」
「お、君は意外に頭が切れるね。詳しくは言えないけれど、上手くいけば現状のクロスベルから帝国と共和国双方の影響力を薄めることにつながる、とだけ言っておこう」
「オリビエ? いつの間にそのような企みを……」
「『敵を騙すには味方から』というじゃないか、親友。エレボニアがクロスベルからいくら恩恵を受けているとはいえ、その裏で築き上げられてしまった『罪』をいつまでも見て見ぬふりはできない。それをしてしまえば、十二年前や十年前と同じになってしまう」
「………」
(十二年前?)
(その頃って確か<百日戦役>の……)
『ハーメル』の一件。そして内密にシュトレオン王子から伝えられた十年前の事件の真相。それらをいつまでも隠し通せる確証などない。厳密にいえば十二年前の事実自体書き換えられているのだが、その発端の原因を作った事実自体に変わりはない。たとえ生存しているとはいえ利益優先の戦争のために侵攻対象の国の武器を盗み、自国の民に対して銃を向けたのは本当なのだから。
「オリヴァルト皇子やアルフィン皇女に対しては多忙になってしまいそうだから、一応申し訳なくはあるんだが」
「気にすることはないさ。元はと言えば帝国自身のツケが回ってきただけ、と思うことにしておくよ。それに足がかりだけでなくここまでの『踏み台』まで用意してくれたことには感謝しておくことにするよ……その代償を考えるのが大変だけどね」
「ま、それは大きいものなど望みはしないさ。双方が益となるようなものにしてくれれば文句は言わない」
現状のリベールからすればエレボニアに対してそこまでの要求はしない。その考えを伝えたうえで、シュトレオン王子はルヴィアゼリッタのほうを向いて言葉を発する。
「ルヴィアゼリッタ・ロックスミス。こちらの想定している事態となればおそらく共和国側は君をあてにする可能性が高くなる。万が一己の身が危うくなったらリベールに来るといい。そのための手筈や処置はこちらで請け負わせてもらう」
「お、それはありがたいですねー。ついでにろっくんとの婚姻手続きを」
「それは私が認めないわよ、ルヴィア」
「えりちーのケチー、おにー、あくまー」
「………んー?」
「スミマセンデシタ」
ルヴィアゼリッタは支援課のメンバーとしてもそうだが、二年前の不戦条約関連でリベールを訪れていたことがある。そういった意味でもリベールとの交渉役に抜擢される可能性も含め、生命の安全の保障はするとシュトレオン王子は告げた。その流れでのルヴィアゼリッタとエリィのやりとりに周囲の人々は冷や汗が流れた。
「ま、今後何かあれば直接ENIGMAに連絡を入れることにするよ」
「助かります」
「いやー、あれは流石にびっくりしたからなぁー」
ともあれ、そのあと少し話があるということでマリク、アスベル、ルドガー、ルヴィアゼリッタが残り、残るロイドら支援課のメンバーは一度支援課ビルに戻ってセルゲイに報告をすることとなった。
クローディア、シュトレオンに加え、本作では原作以上にブーストかかっているオリヴァルト皇子やアルフィン皇女の一端が見れたかな?とは思います。特にアルフィン皇女がオズボーンをどう思っているのかはこの会議中で見れることになるかと。
会議自体茶番となりかねないが、私は気にしない(ぇ
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