yurigame!01〜あおvひふ1〜
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【青葉】

 

 きっかけは私が放った何気ない言葉から始まった。

 

「私最近寝坊しやすくて…通勤するのがちょっと大変です」

 

 それを聞いたひふみ先輩が何やら言いたそうにしながらもじもじしている。

顔を赤く染めながら。先輩なのにいつもながら可愛く感じる。

 

「あの…青葉…ちゃん」

「はい?」

 

「だったら…さ。私のところで一緒に…住まない?」

「え!?」

 

「あ、嫌だったら…いいんだけど…」

 

 遅刻の話からなんでそんなに飛躍して!?

私の頭に浮かんだ疑問を読まれたようにひふみ先輩が答える。

 

「その…一緒だったらお互い…寝坊にならずに済むかなって…思って」

「なるほど!」

 

 別にそうでなくても大好きなひふみ先輩と一緒にいられるなら

それはそれで嬉しいなって思うけど、ひふみ先輩はどう思ってるんだろう。

本当にそれだけのためなら少しさみしいな…。

 

「それに…青葉ちゃんともっと一緒に…いたいし…」

「ひふみ先輩…!」

「こらー、イチャつくならもっと後でしろー」

 

 私たちの会話が聞こえたのか少し離れた場所から注意をされてしまった。

声の感じからして八神さんだろう。私たちは慌てて仕事に集中して

後でお昼休みにでもその話をしようと思った。

 

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**

 

「ふあー、疲れたぁ」

 

 仕事中、思いのほか集中できてけっこうクオリティの高さを維持しつつ

キャラを多めに作れた気がする。周りを見るとみんな順調そうだった。

入社したばかりの紅葉ちゃんも私と同じくらい、

もしかしたらそれ以上かってくらいの出来ですごいなぁと思った。

 

 修正箇所の多さに手間取っている内に昼休憩の時間になってしまった。

私が一区切りついて伸びをしていると後ろからひふみ先輩が

私に声をかけてきた。

 

「お疲れ様…青葉…ちゃん。一緒に…お昼どう?」

「あ、はい!一緒に行きましょう!」

 

 みんなそれぞれ誰かを誘って社員食堂へと向かっていた。

私たちもお昼時間が無くなる前に急いで行くことにした。

 

 向かうと偶然にも二人きりでゆっくり話ができる場所が残っていて

そこに座りながら朝の続きを始めた。

 

「青葉ちゃんは…一緒に住むの…大丈夫…なの?」

「えぇ、大丈夫ですよ」

 

 私はそれより…と告げながら。

 

「宗次郎くんのことが心配です…。私のこと嫌ってたら…」

 

宗次郎くんとはひふみ先輩が飼ってるハリネズミくん。

警戒心が強くてひふみ先輩にも心を許さない時もあるとか。

気難しそうでそこが気にかかっていたのだ。

 

「大丈夫…毎日…青葉ちゃんの写真見せてる…から」

 

「何してるんですか!?ひふみ先輩!?」

「え…だめだった?」

 

「ダメじゃないですけど…」

 

 想像するとちょっと小恥ずかしくなる。熱くなる顔を両手で抑えた後、

ひふみ先輩の目を見て真剣に答えた。

 

「じゃあ…よろしくお願いします!」

「うん…よろしく…」

 

 ひふみ先輩は照れたような顔をしながら笑顔を作って私に向けてくれた。

それを見て安心した私は時間を確認して残り少ないことに驚きながら

二人で急いで食事を済ませた。

 

 それから数日が経って。

休みの日に必要なものを持ってひふみ先輩の住んでるマンションに着いた。

インターホンを押して中からひふみ先輩が嬉しそうに出てきて

中へと案内してくれた。私が想像していた通り、いやそれ以上に

中の様子はすっきりしていた。あまり無駄なものが置いていない感じ。

 

 そしてリビングでケージを見つけて私はその傍に近寄っていく。

 

「これが宗次郎くんが住んでる所ですか!?」

「うん」

 

「宗次郎くん〜」

 

 私が小さめの声で宗次郎くんの名前を呼ぶと穴ぐらから顔をひょこっと出して

しばらく私の顔を見るとすぐに顔を引っ込めてしまった。

 

「宗次郎くん!?」

「私の時も…そういうこと…あるから…気にしないで」

 

「そうなんですか?」

「うん…多分、宗次郎も生青葉ちゃん見て緊張してる…だけだから…」

 

 生って…。妙にその言葉が私の笑いのツボを刺激して堪えるのが大変だった。

それから周りを見るとやっぱりシンプルだけど、適度におしゃれに飾ってあって

ひふみ先輩っぽいなって思った。

 

 それに入ってから思ったことだけど、ここはひふみ先輩の匂いがいっぱい

感じられてふにゃふにゃにとろけそうな気持ちになりそうで

それだけで幸せな気分になれる。

 

 その時、私に視線を向ける感じがして振り返るとケージの中から宗次郎くんが

ジト目で私を見ながら何か訴えてくるような目をしていた。

 

「や、やましい気持ちなんてないからね!?」

「あ、青葉ちゃん?」

 

「い、いやぁ。何か宗次郎くんに警戒されちゃって…つい…」

 

 本音が…。と言いそうになりながらもそこは口にはしなかったけれど、

下心はたっぷりあったように思えたのだった。

 

 持ってきた荷物を部屋に置いて必要なものを取り出していく内に

時間があっという間に経過していて、ふと外を見るとすっかり暗くなっていた。

 

「青葉ちゃん…。ごはんどうする?」

 

 おどおどしながら聞いてくるひふみ先輩。その言葉の後に

私の作ったのでよければって続いたから私は全力で頷いた。

 

「もちろん、ひふみ先輩の手料理いただきたいです!」

 

 我ながら必死すぎる言い方だった。

言った後で少し恥ずかしい気持ちになったけれど、ひふみ先輩が

嬉しそうに微笑んでくれたからそれでよかったのだろうと思えた。

 

 リビングに向かうとテーブルにはクリーム系のパスタやスープなど、

他にも野菜類の料理が並んでいて豪華だった。

 

 それから少し視線を反対側に移して宗次郎くんのいるケージを見ると

さっきよりも警戒心丸出しの顔で私の顔をジッと見てから素早く

巣穴に戻ってしまった。

 

「うぅ…」

「大丈夫だよ…。冷めない内にたべよ?」

 

「はい!」

 

 宗次郎くんに振られながらもひふみ先輩の顔を見て

一緒に食事ができることを考えたら悲しい気持ちも一気に吹き飛んでいた。

 

 カチャ カチャ

 

 特に話をすることもなく黙々と食べる二人。何だかこの雰囲気は気まずい。

何か話でもしようかと思いつつも、それだと行儀悪いかなと悩んでいたら。

 

「青葉ちゃん」

 

 先に話しかけてきたのはひふみ先輩からだった。

 

「なんでしょうか」

「はい…あーん」

 

「えぇっ…!?」

「だ、だめだった…?」

 

 パスタをフォークでくるんで私の方へ向けていた。

この沈黙を破るためにも先輩も何か考えてくれたのだろうけど

段階飛ばしすぎて心の準備がぁ〜・・・。

 

 でもせっかくのこのシチュエーション。断るには惜しすぎる!

私は意を決して口をあける。

 

「あーん…!」

 

 ぱくっ!

 

 同じものを食べてるとは思えないほど美味しく感じられた。

これがあーんパワーなのか!

 

「どう?」

「すごく…美味しいです…!」

 

「よかった…」

 

 お互い見詰め合って照れくさく笑う。

その時間がすごく穏やかで仕事で疲れた心も癒される。

そんなこれまで感じたことのなかった幸せな時間を過ごした後。

時間も遅くなっていたから私たちはお風呂を順番に

入ってからゆっくり休むことにいた。

 

 先に私が入って先輩の使ってるシャンプーを手に取ると

普段、会社でも感じたことのあるひふみ先輩の匂いがした。

そうか、いつもこれを使ってるんだ…。

 

 ドキドキしながらも私はそれを使わせてもらった。

何だかひふみ先輩に包まれてる気がして胸の鼓動が

静かになることはなかった。

 

 それから熱めの湯船の中で腕を伸ばしながら

しばらく浸かった後にお風呂から出た。

 

「ひふみ先輩、出ましたー」

 

 着替えてから出て宗次郎くんを見ていたひふみ先輩に

声をかけた。

 

「うん、いってくるね」

 

 先輩と代わるようにして私が宗次郎くんを見ると

ちょうど食事中なのか、ペットフードをもりもりと忙しく細かい動きで

食べていて可愛かった。

 

「私にも懐いてくれればもっと可愛いのにね〜」

 

 でも初対面だし、仕方ないか。犬や猫だって

新しくきた人間に慣れるまで時間がかかるのだから。

前に宗次郎くんは私に似てるってひふみ先輩が

言っていたけれど、この子の人見知り具合を見てると

ひふみ先輩の方が似てるのではないかと思った。

そう考えると宗次郎くんにひふみ先輩の姿を

重ねてしまい、すごく愛おしく感じた。

 

「どう、宗次郎は?」

「わぁ、ひふみ先輩!?」

 

 驚いた私の声に驚いた宗次郎くんはまたそそくさと

自分の部屋に引っ込んでしまった。

 

 それを見た私とひふみ先輩はお互い見合って苦笑した。

その後、自分の部屋に戻ろうとした私の袖を引っ張って

ひふみ先輩が私を呼び止めた。

 

「あ、あの…一緒に寝ない…?」

「え?」

 

「へ、変な意味とかじゃ…ないから…!」

 

 そういうこと言われると変な意味でもあるのかと

思っちゃうじゃない。でもそんな先輩を見てると

ちょっとからかいたくなる気持ちが芽生えてきた。

 

「ひふみ先輩、変な意味ってどういう意味ですかぁ?」

「…!い、いじわる青葉ちゃんだ…」

 

 怯える表情になったのを見た私は慌てて両手を振って

否定した。

 

「じょ、冗談ですから!大丈夫ですよ…!」

「ほ、ほんとう・・・?」

 

 恐る恐る覗き込むように上目遣いをして私を見てくる

そんなひふみ先輩が可愛くて可愛くてたまらなかった。

 

「いいですよ。一緒に寝ましょう!」

「青葉…ちゃん」

 

 私がいつものように振舞うと安心したような表情をした後に

小動物が甘えてくるような、そんな心を許した表情を向けてきたことに

私の心は完全に奪われて先輩の言う通りに同じベッドの中に入る。

 

 すぐに先輩は私を抱きしめて顔を近づけてきた。

私の頭は先輩の胸の辺りにあって柔らかい感触が私の顔を

包み込むようになって、暖かくてイイ匂いがした。

 

 あぁ、これが天国って言うんですかね〜。

全身にひふみ先輩を感じられていつまでもこうしていたくなる。

そして普段から溜まっていた仕事の疲れもあってか

私はすぐに眠りに落ちたのだった。

 

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***

 

 翌日、遅れることなく一緒に起きて食事を取って仲良く出社すると

八神さんが私たちを見るや否や。

 

「昨夜はお楽しみでしたね。」

 

 どこかで聞いたことあるフレーズでからかい、私たちは顔を赤くして

八神さんに抗議をするも、全否定するのも躊躇ってしまったために

八神さんは肯定と捉えたようだった。

その後、遠山さんにも唐突に祝福されてしまったことで

社内ではすっかり私とひふみ先輩の関係と状況を曲解されて

しまったけれど・・・。

 

 いっそそれもいいかもしれないと私は思った。

仕事が終わってひふみ先輩には先に帰ってもらった後

私は一つ…ある場所に寄っていた。

 

 それはそれなりにお高いアクセサリーのお店で

こつこつ貯めていたお金を握り締めながらあるものを探していた。

そして青く光る宝石が嵌った指輪を見つけた私はすぐにそれを購入した。

 

 まるでひふみ先輩の目のように綺麗で透き通った青い色だった。

 

(先輩…気にいってくれるかな…)

 

 お互いに良い雰囲気を持った関係だと思うし。…色々とまだ発展してない

こともあるけれど、それはこれからゆっくりと育んでいければ

それで良いと思った。

 

 ひふみ先輩が待ってる家に着くまでの間、ずっとドキドキしながら

何て言おうかずっと考えていた。嬉しさと不安を混じらせながら

私って今、青春してるな〜って思うのだった。

 

お終い。

 

説明
王道の青葉とひふみカップル。
果たして青葉は宗次郎くんに認められるような
ひふみんの彼女になれるのだろうか!
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