異能あふれるこの世界で 第十三話 |
【阿知賀女子麻雀部部室・赤土晴絵 戒能良子 退出中】
やえ「うわあ……赤土先生に戒能プロ。いきなりこんな対局ができるとは思いもしなかった!私の実力はどこまで通用するのだろうな。いったいどれだけの差があるのだろうなあ。己の未熟さを思い知るためにも全力でぶつかってやるぞっ!」
恭子「ええなあ。知らんっちゅうのはほんま強いわ……」
やえ「む?戒能プロの強さなんて、麻雀打ちなら誰でも知っているだろう」
恭子「プロの試合を見て言うてるんなら、あんた相当のあほやで」
やえ「なぜだ?」
恭子「プロの対局が楽しめんのはな、全員がトッププロを相手にしても対局が成立するくらいの実力があるからや。私らごときで対局が成立するとでも思うとるんか?戒能プロはな、姫松のレギュラーが相手しても三人そろって飛ばされることがあるくらい強い。話にならん」
やえ「それは、異能を」
恭子「使うまでもないらしい」
やえ「で、赤土先生はさらに強いと」
恭子「そういうことや。私はもう、この対局をどうしてええかわからん……」
やえ「なぜ今、それを言った?」
恭子「さっき情報欲しい言うてたやん」
やえ「……知らない方がいい情報も、あるんだな」
恭子「常識やろ。そんなんも知らんのかったんか」
やえ「感謝したくはない気分だが、礼は言っておこう」
恭子「思うてたより強いな。ちょい羨ましいわ」
やえ「お前、まさか凹み仲間を増やしたかっただけじゃなかろうな」
恭子「どうなんかな。自分でもようわからん」
やえ「ならいいが」
恭子「ただ、その前向きな姿見てたら、負けられんなーと思えるようにはなってきたわ」
やえ「そうか?こんなのでよければ、いくらでも見てくれてかまわないぞ」
恭子「エースで部長っちゅうのは、頼りがいがあってええなあ」
やえ「ははっ。軽口がたたけるようなら大丈夫だ」
恭子「やけになっとるだけかもしれんで」
やえ「悩んだって、今から急に実力が上がるわけでもない。結局は今の実力をぶつけるしかない。そうだろ?」
恭子「……まあな。負けて失うもんがあるわけでもなし」
やえ「……もしプロになれなかったら、この対局が生涯で最も強い相手との対戦になるんだろうな」
恭子「気付いとったんか。あの人らが本気やって」
やえ「当たり前だ。赤土先生が策略を練った上での対局。私らのために用意してくれたのだから、この機会を活かさないと見捨てられかねん」
恭子「私は見捨てられんみたいやけど」
やえ「おいおい、頼むぞ。気の抜けた打牌でこの対局を台無しにしたら、一生恨むからな」
恭子「わからんなあ。本気で打つけど、ズタボロになるかもしれん」
やえ「それはお互い様だ。麻雀なんだからやられるのは仕方がない。私は手を抜いたり諦めたりするのはやめてくれと言っている」
恭子「そんなん考えたこともないわ」
やえ「む、そうなのか」
恭子「途中で心が折れそうになることは何度もあったけどな。なんで決まってへん勝負を途中で捨てなあかんねん。意味わからん」
やえ「……末原さんは、私の周りにいなかったタイプなのかもしれないな。なかなか珍しい性格をしているようだ」
恭子「こんなんどこにでもおるやろ」
やえ「ふふふ。いや、面白い。俄然興味が湧いてきたぞ」
恭子「……あー。言われてみれば、変なやつに好かれる傾向はあるかもしれんなあ」
やえ「類は友を呼ぶ、というやつか。機会があれば、その方々にもお目にかかりたいものだ」
恭子「通じんか。まあ、大阪まで来んならいくらかは会えるんちゃうか」
やえ「楽しみにしておこう」
恭子「あ……戒能プロや」
やえ「赤土先生も戻ってこられた」
恭子「始まるな」
やえ「末原さん。何をやらかしても文句は言わない。心だけは強く持っていけよ」
恭子「自信ない。けど、ここは戦わなあかんとこやから」
やえ「よしっ!話せたおかげでいい具合にリラックスできたよ。助かった」
恭子「こっちもな」
やえ「恐怖は消えたか?」
恭子「残念ながら。けど、どこまで立ち向かえるんか、少し楽しみでもあるわ」
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