紫閃の軌跡 |
〜クロスベル自治州 特務支援課ビル〜
思っていたよりも打ち合わせに時間がかかり、アスベルらが戻ってきたころには既に時間は夜となっていた。ビルに入るとロイド達が集まっており、『アルセイユ』にはいなかった残る支援課メンバーであるティオ・プラトーの姿があった。
「ただいま戻りました。って、ティオじゃないか。久しぶりだな」
「アスベルさん!? それに……」
「よ、ティオ。短い間だが世話になるぜ」
「これでようやく新生支援課フルメンバーとなったな。で、この状況は何かあったのか、ダドリー?」
「―――ええ。実は」
導力通信端末に入ってきた通信―――ヨナ・セイクリッドからの通信でジオフロントにあるベースが誰かに不正に使われたアラームが入ってきたので、見てきてほしいということから向かった結果、何者かの罠で一時的に閉じこめられるもののティオの助けで全員無事に帰ってくることができた。その過程でベースの画面にはオルキスタワーの見取り図が映し出されていた事実。
「何者かは結局解らずじまいだったけれど……ダドリーさん。俺たちも会場の警備に参加させていただけないでしょうか?」
「え?」
「―――会場の警備は万全、と述べたはずだが?」
「ええ、それは承知しています。ですが、あの時見た見取り図のデータが双方のテロリストに流れていた場合、その限りではなくなると考えます」
「成程。その可能性がある以上、こちらの警備の穴を突くことも考えられるか。どうだ、ダドリー?」
どんな事柄にも絶対の保障などない。考えうる最悪の可能性をすべて考慮する……マリクの問いかけに対してダドリーは少し考えた後、一息はいた。
「明日の正午、オルキスタワーの1Fロビーに来い。お前たちには会場警備の補佐をしてもらうこととなる」
「お、いきなり会議場に入れてもらえるとは」
「勘違いするな。あくまでもお前たちは補助的要員だ。それに、各首脳らと何らかの繋がりがある以上警備をするうえで円滑に進むと判断したまでのこと」
各首脳、あるいはそれに近しい同行員の面々と支援課のメンバーに関わりがある以上、警備に支障が出るような事態は避けたい。その意味でも決して無駄にならないと判断したうえでダドリーはロイドからの申し出を受けた。
「フフ、素直じゃないな主任は」
「からかわないでください。……局長、こちらで可能な対処はありますか?」
「ほう? ダドリーのことだから止める側に回りそうだと思っていたが」
「無理を言わないでください。あの司令と同等の実力者である局長を力づくで止めようとするのははっきり言って自殺行為ですし、それ以前に越権行為です。正直に言えば、あの連中をクロスベルから追い出してくれれば、こちらとしても悩みの種が減りますので」
ダドリーはセルゲイやロイドらから聞いた話からマリクに対して問いを投げかけた。これにはマリクも感心したように呟き、それに対してダドリーは彼の実力を知っているだけに溜息を吐きたくなるような表情を浮かべた。ただでさえ不確定要素が入り混じったクロスベルの見通しを少しでも良くしてくれるのならば、治安組織に身を置くものとしてこれほど肩の荷が下りるものなどない、と。
「そうだな……警備にあたっていないものは可能な限りすぐに行動に移せるよう署内待機命令を出しておけ。それと『赤い星座』と『黒月』の監視は無論付けていると思うが、若干増員して彼らの行動をいち早く知らせるようにしておくぐらいだな。こちらで必要な人員はこちらで何とかできるからな」
「フゥ……了解しました。それでは連絡がありますのでこれで」
「ああ、明日は頼むぞ」
マリクからの言葉を聞いたダドリーは警察本部へとんぼ返りするようにビルを後にし、それを見届けるとマリクはロイドのほうを向く。
「というわけで、ロイド。明日は別件ゆえお前たちと行動をともにできない。それとアスベル、ルドガー、ルヴィアゼリッタの三人もだな」
「それに加えてレヴァイスのおっさんとシルフィアにレイアの三人もだろ? 一個師団でも持ってこないと相手にできねえぞ」
「あのさランディ。俺らはそこまで人並み外れてないから」
「右に同じく」
「むー、人一人をクレーターにするぐらいならろっくんだってできると思うなー」
「いや、流石に無理だからなルヴィア!」
隣の芝は青い、とはよく言ったものだとは思う。とはいえ、そこまで人間を辞めたつもりなど微塵も思っていない。あくまでもこの先を考えた時に強くなって損はしないという結論からくるものであった。その考え方を貫いた先に今のような状況があるのは否定できないが。
「夜分遅くにすみませーん」
「え?」
「失礼するわね。って、これは錚々たる顔ぶれのようね。この勢いでお茶会でも開けそうね」
「流石に時間が時間だからそれはやめとこうよ……えと、すみません」
するとビルの入り口から聞きおぼえのある声が聞こえ、ロイドらの視線は一斉にそちらの方向へと向けると……リベールの異変解決のみならず先日のクロスベルにおける事件の手助けをしてくれた面々―――エステル、ヨシュア、そしてレンの三人であった。
「どうしたんだ、こんな時間に?」
「あ、うん。戻る前に明日のことを伝えておくようにってミシェルさんに頼まれてね」
そう言ってヨシュアはロイドに封筒を手渡した。内容を確認してもよいか尋ねるとヨシュアは静かに頷いたので、ロイドは封を切って中に入っていた便箋に目を通した後、近くにいたセルゲイに封筒ごと手渡す。用事は済んだということでビルを去っていく三人を見送る支援課メンバーであったが、ビルに残ったセルゲイ、マリク、アスベル、ルドガー、そしてルヴィアゼリッタは改めてその内容を確認する。
「―――何はともあれ、手筈は整ったな」
「ふう……このことは副局長や市長、議長には言わないほうがいいでしょうな」
「言ったところで面倒になること確実ですからね」
ロイドは普通にその内容をスルーしていたが、その内容は解る人にしてみればどういった意味を持つのかすぐに理解できる。便箋に書かれた内容の差出人は『アルテリア法国』。そこに記載された内容は『特使の派遣』に関わること。それが直接ではなく遊撃士協会もといエステルらを介した理由はそれとなく察することができる。
〜エレボニア帝国国内〜
時間は既に真夜中……“G”ことギデオンはいつものような動きやすい服装ではなく、完全に防具に身を包んだ状態で一人佇んでいた。するとそこに“S”と“V”、そして一人の少女が彼のもとに近づいてきた。
「―――来たか」
「よう、“G”の旦那」
「こちらも準備は整ったわ」
「にしても、生真面目な貴方のことだから予想はしていましたが自らクロスベル行きを志願するとは……」
少女の言っていることも解らなくはない、とギデオンは笑みを零す。そこに付け加えるように“V”が呟いた。
「“F”の言うとおりだな。『赤い星座』のことを考えると俺か“F”の嬢ちゃんが行くのが筋ってもんだろうに」
「なればこそ、だ。相手は『赤い星座』だけならばまだしも、クロスベルの治安組織にいる<驚天の旅人>や<猟兵王>―――この場合は『翡翠の刃』と『西風の旅団』とも言えるだろう。彼等まで相手にすれば同志の君らとて無事に済む保証はない」
大陸名を轟かせるトップクラスの猟兵。その実力は推して知るべし……その彼ら相手にクロスベル方面の計画が成就する可能性は限りなく低い。だが、それでも構わないとギデオンは言い放った。
「私は『笛』を失った。だが、私の教えたことは根付いた。クロスベルでの作戦がどう転ぼうとも、仮に私が死ぬことになろうともその意志は揺らがないだろう」
『フフ、相変わらずと言うべきか、決意は揺らがない様だな同志“G”』
「同志“C”……無論だ」
この組織は“鉄血宰相”による負の塊ともいうべき存在。求めるのは結果だけであり、その過程に理由など不要。このままいけば世界は彼の言いなりの世界しか生まないのだと。彼を止めるためならばそのための犠牲も厭わないのだと。
「……わかった。女神の―――いや、悪魔の加護を。事が成ったら、5人で祝杯を上げるとしよう。願わくば帝都ヘイムダルでな」
「ああ。―――さらばだ、同志たちよ」
ヘルメットを被り、静かに去っていくギデオンを見つめる4人。その表情はいくらか寂しげであった。
「ホント、不器用ね」
「自らの正義ゆえに立場を追われ、果て無き闘争に身を投じる、か……流石にあそこまでは真似できねえな」
「良くも悪くも自分の理想に実直、というのは本当に感心してしまうレベルです」
「……これまでの経緯はどうあれ、我らの望みは同じだ。いくぞ同志たちよ。我らは我らの為になすべきことを成そう」
様々な思惑は絡み合い、七耀暦1204年8月31日―――西ゼムリア通商会議という長い一日が幕を開ける。
このまま通商会議当日に入っちゃうと不自然になりそうだったので、短めですがいったん切りました。次回からいよいよどんでん返しの序章ですが、テロリストとか干渉してくる人たちの大まかな末路は決めるに決めましたが、かなりえぐいことになりそうです。転生者の面々に加えて超豪華面子での文字通り殲滅戦になりそうです(今更感満載)
閃Vの画像は見ましたが、舞台はエレボニアだけでなくクロスベルも含むということから、下手すると独立あたりまでの流れのストーリーになるのでは、と予想してます。
本作に関していうとその流れをぶった切る形にはなってしまいますが(これも今更)
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