紋章の女神-旅人の詩- 1−1 |
私、ロス・ドールは昨日17歳になったばかりのうら若き少女だ。
家族は小さな村で宿屋を経営している父さんと母さん、それと私。
父さんから癖の強い黒髪と黒い瞳を、母さんから幼さの残る顔立ちと低めの鼻それと最近成長してきた少しふくよかな胸を受け継いだみたい。
趣味は冒険。…といっても、近くの森に散歩に行く程度。本当は冒険者になって世界中を旅して回りたいけど、教育熱心な母さんはもちろん、普段は優しい父さんも許してくれない。
昔から負けず嫌いで、同年代の男の子とも何度と無く喧嘩をしてきた。もう力では勝てなくなってしまったけど、剣術に関しては仲間たちの中では一番の自信がある。
そう、私はロス。間違いなくロス・ドールだ。
寝起きの頭に、自分自身を再確認させた私は今の状況を整理し直すことにした。
私は今、自分の部屋のベットの上にいる。
確か息苦しさと圧迫感を感じて、『何かが顔の上に乗っている』と思い。それをはじき飛ばしたんだった。
そのとき、感じた手触りと顔に残るベタベタした粘液から大体想像が付く、その『何か』。
それは多分、自分の考える中でもっとも恐ろしい存在であろう。
私は勇気を出して『何か』を確認することにした。
というより、部屋の中央にはじいてしまった以上、窓際のベットから部屋の外に出るためには、確認しなければならない。
深く息を吸い。長く吐く。そして思い切って視線を向ける――――。
「きゃああああああああああああああああああああ。」
私は、自分でも驚くぐらいの大きな声で叫んでいた。叫ばないとこの恐怖は取り払えそうになかった。
それは、そこにいたのは間違いなく「ベルニー」と呼ばれる小型のおとなしい魔獣だ。しかし、目の前の魔獣は大きく、活発に動いている。
誰がこんな愛らしい名前を付けたのだろうか、名前に反してその姿は醜い。
手足と顔は無く体と思われる部分から目玉が触覚のように伸びている。体には毛が一本も無く、常に粘液でベタベタしている。
私はこの魔獣がこの世で一番嫌いだ。
何が嫌いかと聞かれたら、生理的に受け付けられないという回答が正しいと思う。
それが今自分の部屋にいるだけでも気持ちが悪いのに、事もあろうか自分の顔の上に乗っていたのだ。その事実に気付き、想像してしまったことを激しく後悔した。
「な、な、なんで私の部屋にいるのよ!」
魔獣に問いただすも返答があるはずも無い。
それに大体の見当が付いていた。
私が知る中でこんな陰湿な悪戯をする奴は「あいつ」しかいない。
「ルフの奴、今日という今日は絶対に許さないわ!」
1話−2へ続く
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小説「紋章の女神-旅人の詩-」の1話です。 作品の感想や批評等、コメントください! |
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