紫閃の軌跡
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〜クロスベル自治州 特務支援課ビル〜

 

「はぁ……局長からいろいろ聞いてはいましたが、目の当たりにするとホント驚きという他ないですね」

「ある意味非常識ともいえるティオすけの言葉じゃねーな」

「それをランディさんに言われたくはないですね」

 

通商会議当日。会議自体は正午からということなのでアスベルとルドガーも支援課とともにいた。朝食後端末を操作しているティオと、その言葉に反応したランディとのやり取りに周囲は苦笑を浮かべたが。

 

「流石に会議前ということもあってか難易度的には難しくない要請ばかりですね」

「市内はしっかりとした警備態勢が敷かれているからな。完璧とまでは断言しないけれど。そうだ、ティオ」

 

遊撃士らの働きも少なからずあるだろう、とは言いつつもそれでもいくつかの要請はあるようで、それが終わり次第昼食としてからタワーのほうへ向かうという塩梅となった。すると、アスベルは思い出したようにティオに話しかけつつ、懐から一枚のディスクを手渡した。

 

「これは?」

「リーゼロッテからの預かりものだ。この面子だとティオが持っているべきものだと思ってな」

「そうですか、あの子が……会えたら、礼を言っておいてください」

「ああ」

 

リーゼロッテとティオ。共通項はいくつかあるだろうが、特に繋がりが見えないこの二人。実はリーゼロッテが遊撃士としてレミフェリア公国を訪れた際、その時の依頼で知り合い親交を深めたとのことらしい。先程手渡したものに関してはその詳しい内容まで聞かなかったものの、凡その予測はつく。早速ティオが端末にディスクを入れて中身を確認すると、それを見たティオが驚愕の表情を浮かべていた。

 

「………これは、正直凄いですね」

「俺には文字の羅列にしか見えないんだが、解るのか?」

「はい。あらゆるプロテクトを想定した解除プログラムですね。導力ネット方面は私もまだまだですが、リーゼさんはその先を行っています。しかも、ちゃんと私の持っている端末ですぐ使えるようになっていますし」

 

元『鉄血の子供達』ということもさることながら、彼女も“転生者”であり前世はそういった関連に長けていたことから、そこまでの予想ぐらいは朝飯前なのだろう。

 

 

支援要請自体難しくもないということもあって、少し暇ができてしまったのでアスベルはビルの屋上でのんびりと過ごしていた。

 

さて、通商会議とは言うものの安全保障での観点からも議論はなされるであろう。“原作”とは異なり、権謀術数や話術に長けているクローディア王太女、“転生者”でもあるシュトレオン王子、それらの影響を強く受けているオリヴァルト皇子やアルフィン皇女の四人にこの会議の行く末がかかっているといっても過言ではない。一応もう一人の転生者に内密で連絡を取ったところ

 

『―――あー、オッサンが慌てふためく様子が見られるか、せいぜい道化を演じさせてもらうぜ』

 

とのことだった。下手すれば彼自らの立場ですら危うくなるのだが、もしもの時は落としどころを見つけて最悪レミフェリア公国大使館の大使秘書あたりにでも推薦する腹積もりだ。なお、未だに彼女―――ルーシー・セイランドが何者なのかを把握・理解していないあたりの鈍感さは生まれ変わっても治らなかった模様。

 

今頃ガレリア要塞あたりでは帝国で活動しているテロリストもとい<帝国解放戦線>に関する説明をZ組の面子が受けているころあいだろう。そもそもギデオンに関しては偶々遊撃士として別件に関わったから判明したようなものだが、残る四名は面識があったか怪しい……とは言うものの、“F”と“V”は各々の知り合いから判明、“S”は本国絡みで連絡を取った時に判明し、“C”に関しては正体を既に知っているだけにネタバレしないよう心掛けている。本来の立場からすればそこらへんの情報も提供すべきだろうが、それは逆に内戦の開始時期を早まらせる危険性が高い。

 

「はてさて、俺の相手は鬼になるか小悪魔になるか………どっちにせよ面倒な相手だ」

 

 

〜クロスベル自治州 オルキスタワー〜

 

早めの昼食を済ませ、別件ゆえに参加できないマリク、アスベル、ルドガー、そしてルヴィアゼリッタを除く支援課メンバーはクロスベル自治州の新庁舎であり、今回の会議場となっているオルキスタワー内部へと足を踏み入れた。その内装自体今までの伝統的なものではなく近未来的な風貌を備え、銀行家らしいデザインや機能性を兼ね備えたものとなっている。

 

「―――来ていたか」

 

正午丁度にロビーで待っていた支援課を出迎えたのはダドリー。早速会議場へ案内するのかと思ったが、ダドリーからは疲れたような表情が垣間見えた。

 

「さて、お前たちにはこのまま34Fの警備対策室へ案内してその後会場周りを、と考えていたのだが……実は意外な人物がお前たちを案内すると言い出したのでな」

「―――フフ、私だよ」

「おじさま!?」

 

続いて姿を見せたのはクロスベル共同代表にして現市長のディーター・クロイス本人。なんと彼がオルキスタワーの案内を買って出たのだ。今回の会議の参加者自らタワーの中を案内するというバイタリティぶりにロイドらは驚きを隠せずにいた。

 

「いやはや、僕に推薦状をくれたと事と言い、中々に愉快な方だね」

「ハハッ、その言葉も尤もだろう。おっと、すっかり忘れていた―――ようこそ、オルキスタワーへ!」

 

本人曰く準備を済ませて各国首脳らを待っているという状況であり、ただ待つのは緊張感を極度に高めそうだったので、ロイドら支援課のメンバーが警備に参加すると聞いて、自ら案内役を買って出たのだと説明した。一行はエレベーターに乗る。そこでロイドから昨日あった出来事やテロリストなどの情報を市長に伝えた。

 

「ふむ、噂程度の話は聞いていたがそこまで具体的とはな」

「ハッキングされた見取り図のデータはこちらから?」

「ああ。サブ端末からプロテクトを突破されてハッキングされたようだ。完璧なセキュリティはないとはいえ、ここまでとは思ってもいなかったよ。この件を受けてセキュリティの更なる強化を練っているところさ」

 

一応テロリストに襲撃される可能性は話したが、マリクらがやろうとしていることに関しては上司からの箝口令ということもあってそこには触れずに話を進めた。ハッカーの可能性に関してはエプスタイン財団やティオの所属するフュリッセラ技術工房方面から洗い出しはしているが、その可能性は限りなく低いと彼女は考えている。

 

「そのあたりの調査はその専門家に任せるしかないだろう。猟兵団やマフィア、テロリストなどの動向も気にはなっているが……それ以上に気になるのは首脳達の狙いと思惑だ」

 

ディーター市長曰く、ロイドらが会った人物―――クローディア王太女、オリヴァルト皇子、アルフィン皇女。それに加えてレミフェリアのアルバート大公に関しては信頼のおける人物であるため特に問題はないと述べた。それ以外はというと

 

「……問題はエレボニアのオズボーン宰相、カルバードのロックスミス大統領、それとリベールのシュトレオン宰相の三人だな」

「先に述べた二人はともかくとして、シュトレオン王子もですか?」

「私も何度か会っているし、信頼に足る人物とは思っているが……すまないね。今回の会議についての取決めに関してリベールが真っ先に好意的な返答で、他の二国も続けて好意的な返答をしてきたものだから、どうしても疑ってしまうのだよ」

 

リベールの七都市とクロスベルは都市間経済協定を結んでおり、その関連で何度か事務協議も行っている上に新体制の引継ぎにおいては前もって将来的な通商会議に向けた話し合いを進めていたため、今回の会議においての取決め自体既に決まっていたことの確認のようなことであり、真っ先に返答がきたことはディーター市長自身も理解している。それに続くようにエレボニアとカルバードの両宗主国から好意的な返答が来てしまったことにより、三国間で何かしらの取決めをしたのでは、とどうしても懐疑的になってしまうとディーター市長は述べた。

 

「うーん、それはないと思うんですけどね。リベールとカルバードならともかくとして、エレボニアとカルバードの関係なんて周知の事実ですし、それにリベールとエレボニア自体過去の因縁が未だ根強く残った状態ですから」

「確かにその通りだろう。裏を返せば、シュトレオン宰相を味方にできれば会議を優位に進めることもできるだろう」

「でしょうね」

 

それも外交の側面なのだろう。経済面においての交流や競争に軍事的パワーバランスを持ち込んではならない……とは言っても、国家の利益を追求した先の最終手段として戦争が用いられた事例は少なくない。クロスベルのひどい状況に一石を投じる意味で<不戦条約>は結ばれたが、それもあくまで“努力義務”である拘束性の少ないもの。それに代わる安全保障体制が求められているのだが、それも難航しているのが現実だ。

 

その後、34Fの会議関係者フロア、35Fの本会議場フロア、36FのVIP控室、そのついでに屋上へ案内されたロイド達。するとディーター市長の端末の着信音が鳴り、各国首脳が到着したためロイドらに挨拶をしてその場を離れた。それを見送った後、ロイドが考え込むような表情を浮かべたことに、隣にいたエリィが気付く。

 

「ロイド? どうかしたの?」

「あ、うん。テロリストがどうやって宰相らの命を狙うって考えたんだけど……ひょっとしたら、空からくるんじゃないかって」

「そ、空からですか!?」

「その線は考えられるな。クローディア王太女らが言っていたことからしても、可能性はあるってところだが」

「まぁ、あの局長のことだからそのあたりを考えて行動や差配はしてるでしょうね」

 

クロスベルの警備隊や警察は飛行手段を持ちえない。それは自治州法に基づく装備規定に抵触してしまうという制約からくる。そのためレーダーなどの対空監視施設や装備などで間に合わせの状態となっている。ロイドはそれに加えて先日のお茶会で話してくれたテロリストが潤沢なスポンサーを持っているというところから、飛行手段を用いてくるのではと考えを述べた。ただ、ランディですら行動が読めないとまで言わしめた<驚天の旅人>が自身らのトップを務めていることから、その辺もすでに対策はしているのだろう。

 

「流石に会議直前だから市長に伝えるのはやめておいたほうがいいだろうな。この場合で行くとダドリーには一応話をしておくか」

「そうだな。どのみち警備対策室に行くわけだから、可能性があるというところだけでも伝えておこう」

 

ロイドらも屋上から34Fに降りて、まっすぐ警備対策室に向かいダドリーにその可能性に触れつつ話をした。

 

「空から、か」

「ええ。テロリストの性質上、会議終了直後を狙うという可能性も考えましたが、それよりも会議中に急襲をかけてくる可能性がより高いと思っています」

「それに、先日のハッカーの件からしても対空監視レーダーをハッキングされて使い物にならなくなる可能性があります。今からセキュリティ強化は無理でしょうし、下手すると破壊されて被害が出る恐れもあるでしょう」

「成程な……オルランド、局長ならばどのあたりまでそれを想定している?」

「全部でしょうね。親父やレヴァイスのおっさんと互角に渡り合える実力だけでなく、あらゆる不確定要素を己の策に組み込んでしまう狡猾さを併せ持つ鬼謀ぶりは何度も見たことがあるぐらいだからな」

「なら、その辺は局長に任せるとしよう。お前たちには会場フロアの巡回をしてもらう」

 

さして驚くわけではなく、あの人物ならば自分の考える想定の範囲外なんて当たり前の行動を起こすだけに、一々驚くだけでも無駄な労力であるとダドリーは割り切ったというか、諦めたというべきか……どのみちにせよ、クロスベルで優位に動ける環境を勝ち得ている実績は無視できない。

 

「あれ、意外に驚かないんだね」

「あの局長に一か月以上振り回されれば、嫌でも慣れてしまうからな。それに、我々の捜査がやりやすくなった働きは無視できるものではない」

「後者はともかくとして、こちらも慣れたくて慣れたわけじゃないですけどね……」

 

そう呟いたロイドの言葉は至極尤も、とダドリーも溜息を吐いた。

 

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慣れって怖いよね、的な一幕です。

あの規格外な上司を見続ければ、否応にも対応せざるを得ないでしょうしw

そんな意味で一番影響を受けているのはダドリーだと思います、はい。

 

そしてようやく伏線一個回収。

後々の展開にもこれが大いに役立ってくれます。展開を考えればすぐに察しはつくと思いますが。

 

次回からようやく通商会議本編です。

説明
外伝〜西ゼムリア通商会議前〜
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閃の軌跡 神様転生要素あり ご都合主義あり オリキャラ多数 

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