艦隊 真・恋姫無双 124話目
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【 記憶 の件 】

 

? 司隷 洛陽 都城内 予備室 にて ?

 

 

そんな一刀達と冥琳のやり取りを見て、部屋の中を注意深くを見渡すのは……孫呉の当主と宿老の姿。 

 

ーー

 

雪蓮「………天の御遣いの力って、本当に訳がわからないわ。 あの子が得物を冥琳に向けるまで、全然気付かなかった。 殺気もなかったし、そんな気配だってなかったのよ?」

 

祭「儂も同じく。 小娘の動作に気付き、慌てて行動に起こそうと思えば、既に得物を取り上げられたところ。 油断などしておらなかったのじゃが……殺気など微塵に感じられなかった……」

 

雪蓮「どういう事なのかしらね。 あの子が現れるまで気配も感じず、勘だって動かなかったのよ? まるで……私が普通の女の子になった気分だわ……」 

 

祭「策殿が普通の女の子なら、儂など何と言えばいいのやら。 しかも天の御遣いは、あの娘だけではなく………北郷という孺子(こぞう)の傍にも控えている様子。 あの者達が敵であれば……儂らなど瞬時に殲滅されておる」

 

雪蓮「幸い……っていいか判らないけど、冥琳達が知遇を得ているから、心配は要らないみたいね?」

 

祭「確かに。 しかし、あの警戒心が強い冥琳がのぉ。 ああも親しく男と接するなど、儂は初めて見るのだが…………」

 

ーー

 

そう言って冥琳と一刀の様子を望む雪蓮。 祭も大きく頷き同意しつつも、疑問を呈する。 

 

それは、幼き頃から知る冥琳の性格を知る故に、口にした理由だからである。 だが、それは……同じく冥琳の親友でもある雪蓮も感じていた事。

 

ーー

 

雪蓮「私だって初めてよ。 しかも、かなり親しげな感じじゃない。 少し……妬けちゃうわね。 でも、少し………可笑しい……のかな?」

 

祭「………どうか、なされたか?」

 

雪蓮「…………ううん。 ちょっと妬けちゃう感じが、ね。 冥琳だけじゃなく、御遣い君にも感じるの。 初めて顔を見せ合う筈なのに……何でだろう」

 

ーー

 

そう言って、不機嫌そうな表情で二人の様子を眺める雪蓮。 この感情を一時だけ起きた気の迷い、と感じ敢えて受け流した。

 

だが、その『モヤモヤ』は結局二人が離れるまで続き、心で蠢く未知の感情に、まさかこんなに戸惑う羽目になろうとは、全く思わなかったのである。

 

 

 

◆◇◆

 

【 写真 の件 】

 

? 洛陽 都城内 予備室 にて ?

 

 

一刀「さてっと、それじゃ報告を頼む。 何か……判ったかい?」

 

青葉「えへへ……やっぱり気になるんですかぁ? いい情報ありますよぉ? ほらっ、この通り!!」

 

一刀「そうか、それじゃあ………なっ!?」

 

冥琳「ん? どうかしたの────!?」

 

ーー

 

そう言いながら、青葉は艤装の中をゴソゴソと探し、目的の物である一枚の写真を取り出し、一刀へ渡した。

 

その受け取った写真を一刀と冥琳は一目見ると……思わず眉をひそめるのだが、面白い事に次の反応は正反対だった。

 

一刀は写真に不快感しか感じなかったようであり、渋い表情を崩さなかったが、冥琳としては満面の笑みを浮かべ青葉の腕を賞賛したのだ。 

 

ーー

 

一刀「……………おい……」

 

冥琳「………これは! 凄いじゃないか、北郷!」

 

ーー

 

二人の態度が余りに違いがありすぎる為、不思議に思った恋姫達や艦娘達。

 

そんな双方に、青葉が同一被写体が写る別の写真を次々に渡す。 まるで顔見せとばかりに……だ。

 

ーー

ーー

 

 

華琳「秋蘭………これを見て………」

 

秋蘭「────こ、これはっ!?」

 

華琳「…………一刀は……恐ろしい子を配下にしているわ……」

 

秋蘭「そうですね。 この写真を衆目に晒せば、御遣いとしての名が本物だと、民の間に広がり認知も早まる事になるかと………」

 

華琳「………そう。 普通、そう考えるわよね……」

 

秋蘭「………華琳様?」

 

華琳「秋蘭の言うことも……正しいわ」 

 

秋蘭「…………はっ」

 

華琳「だって、こんな無防備で醜態を晒している姿、誰が撮らせるって言うの? しかも、大陸でも特に警備が厳重な場所で、こんな証拠を残したんだもの。 更なる注目を集めて、御遣いの認知が進む事になるでしょうね」

 

秋蘭「………華琳様」

 

華琳「どうかした、秋蘭?」

 

秋蘭「華琳様には………別の何かが……見えているのですか」

 

華琳「…………ええ。 私には────」

 

ーー

ーー

 

如月「…………ん、この人……何? もしかして……新人さん?」

 

隼鷹「よっ! 如月ぃ〜今日もイケてるねぇ……って、おっ? お、おぉ〜? やっべぇー! 誰か布団に寝てるとこじゃん! もしかして、提督の……コレ? コレかい? ひゃっはっはっは! 提督やるぅー!!!」

 

如月「ま、まさか………司令官の!? 司令官が如月に靡かないのは……まさか……まさかっ! そ、そんなの嘘! 誰か嘘って言ってよっ!!」

 

陸奥「あら、あらあら……大丈夫よ、如月ちゃん。 提督が貴女や長門達と同衾する勇気も無いのに、こんな男と同衾する訳ないじゃない。 自分にもっと自信を持ちましょう? ねっ?」

 

隼鷹「ひゃっはー、陸奥だって〜提督に満更じゃないくせに〜! 何ならさ〜、あたし……とぉ! 陸奥と如月でぇ! 一緒に提督の布団へ突っ込もうぜぇ〜! あ〜ん、問題ぃ? ぜんっぜん!  いけるいけるってぇ〜!」

 

如月「…………司令官に……突撃……うふふふっ!」

 

陸奥「……………夜戦、ね。 ん〜、悪い気はしないわ」

 

ーー

ーー

 

桂花「また、凄い人物を写して来たわね。 まあ、あの二人の仲間なら……当然の働きなのかも。 ……………春蘭? 身体が震えているけど風邪でも……って、春蘭は風邪なんて高級な病に罹病する訳なかったわね?」

 

春蘭「な、なんと言う……………」

 

桂花「………?」

 

春蘭「間抜けな面構えをしている奴なんだっ!!」 

 

桂花「………それは寝てるからじゃないの? 寝ると身体の筋肉が弛緩して────」

 

春蘭「そんな難しい話ではない! こんな近くまで侵入者に近寄られているのに、目を覚まさないとは、実に緊張感が足りん! この私が側に居れば、コイツを軍の訓練に投げ込み、一から全部鍛え直してやったものを!!」

 

桂花「………ち、ちょっと、春蘭! ここに写ってる方、誰だか判って言ってるの? 確か、数回しか会っていない筈だけど……」

 

春蘭「当然だ! 忘れるわけが無いだろうがぁ!」

 

桂花「へぇ〜、珍しいじゃない? 脳筋のアンタだから、誰だか判らないままで怒っているのかと思っていたわ。 馬鹿は逝かないとなんとやらって言葉、けっこう当たっているかもね」

 

春蘭「ふん、この緊張感の無い腑抜けた面構えは、華琳様に生意気な態度をとっていた不遜な奴で間違いない! たかが、洛陽に居るだけの武官風情が華琳様へ何と無礼な真似を! まったく……何様だと考えているのだ!」

 

桂花「待ちなさいよ! その話、絶っっっ対に外で喋るんじゃないわよ! 少なくとも写真に写っている男は、一刀より遥かに劣るけど、華琳様より偉い人物なの! 間違っても言うんじゃないわよっ!!」

 

春蘭「いや、間違えたら……そのまま素直に言うと思うが? 桂花も案外、間が抜けているものだな…………」

 

桂花「それだけ重要な事っていう反語よっ! 人の揚げ足とてドヤ顔してるより、その話を聞かれたら反逆罪になるのよ、反逆罪! しかも、アンタだけじゃなく、華琳様にまで罪が連座するんだから覚えておきなさいっ!!」

 

ーー

ーー

 

飛鷹「────騒がしいと思って来てみたら、何してんのよ! 馬鹿隼鷹っ!!!」  

 

隼鷹「おっ! 飛鷹か〜! 何って……提督相手に夜戦を挑もうと思ってさ〜。 それで、艦隊を組んでるとこだけど〜?」

 

飛鷹「…………」ブチッ

 

隼鷹「あっはっはっ! どうしちゃったんだい、黙っちゃて〜? あぁ〜、判った! それなら早く言ってくれなきゃ! もっちろん、飛鷹も入れてあげるからさ〜、早く機嫌直してよー!」

 

飛鷹「…………………『我は願う! わたし達の槍となり、盾となった空の英霊達よ、此処に集えっ! 航空式鬼神召喚 急急如律令!』」

 

 

陸奥「────皆、早く退いてっ!」

 

如月「きゃあああ───!」

 

 

隼鷹「おっ? どうした、どうしたぁ……んん?」

 

 

飛鷹「全機爆装! ─────攻撃目標、目の前の酔っ払い! 遠慮なんて一切合切いらないわよっ! 全機、発艦開始!!」

 

隼鷹「…………な、何だぁ!? な、なん────うっ、うひゃーっ!!」 

 

飛鷹「艦載機の整備もあるっていうのに………これ以上、仕事を増やすなぁぁぁぁっ!!!」

 

隼鷹「ゴ、ゴメン、謝るから勘弁して───っ! あっちぃ! だーから、装甲薄いんだって、ばぁ! お、おわぁぁ!? ─────ふえっ? うわぁあああん! こんな恥ずかしい格好、いやだ! マジ勘弁してよぉ!!」

 

ーー

ーー

 

菊月「……………うむ〜」

 

詠「な、何よ!? その写真を見て唸っているの?」

 

菊月「ああ………この男の顔を見ていると、つい口髭や眼鏡を書き加えたくなって。 この場に鉛筆か筆が無いのが、真に残念だ………」

 

詠「あ、あんたっ! 絶対に止めなさいっ!! そんな事してバレたら、首が飛ぶわよ!! そ、その方は────」

 

ーー

ーー

 

華雄「な、何だ、これはっ!? ひ、人が中に………?」

 

霞「心配いらへんよ、華雄っち。 写真っちう……絡繰りの道具で描いた絵なんやわ。 全く……こないな凄いモン見せられれば、ウチも信用しなあかんやん。 あの、天の御遣いを………」

 

華雄「…………ん? お前、これを知っているのか?」

 

霞「昔……大昔になぁ。 ウチが好いとった男が………教えてくれはったんや。 ウチとの大事な約束を交わしたまんま、消えた男が……なぁ」

 

ーー

 

この写真を回覧して現れた反応は、一刀と冥琳の示した反応と似たような行動を起こす者が大半だった。 

 

そこに写し出されている者は、如何に青葉と言えど容易く撮影できる者ではない。 しかも、こんな姿を撮られたら、恥ずかしさの余り激怒しよう。

 

それだけ、この被写体の人物は………漢王朝内での重要人物。

 

その為、回覧が済んだ物と一刀達が持っていた写真は、纏めて青葉へ返される。 青葉は屈託の無い笑顔で受け取り、艤装の中に再度戻した。

 

この世界は、個人情報保護法など全く無い世だが、この写真が外に出回れば、間違いなく見た者、聞いた者、話した者が……漢王朝の名の下で死罪を賜る事になるであろう危険な物。 

 

それは、天の御遣いと言えども………免れない。 

 

だから、本来は厳重に保管、もしくは焼却するしかない代物だったからだ。 

 

 

その写真に写るのは…………

 

 

 

 

寝台の上で大口を開け、涎を垂らしながら眠る

 

 

現漢王朝、最高権力者『 司徒 王允 』の寝顔が

 

 

ドアップで写し出されていた物だったのである。 

 

 

 

◆◇◆

 

【 恐れ の件 】

 

? 洛陽 都城内 予備室 にて ?

 

 

青葉「司令官の命令通り、王允さんを密着取材してきましたぁ! あられもない寝姿もバッチリ激写っ! 鼾も煩く歯軋りも酷い過酷な環境で、此処まで接近して撮影するの苦労しましたよ〜」

 

一刀「この写真………ボツ。 他のヤツも即刻回収して、処分して来い!」

 

青葉「ガーン! 青葉が……あんなに頑張って取材したのにぃ!! 司令官の鬼! 鬼なら豆を思いっきり投げちゃいますよっ!!」

 

一刀「言っておくが……節分なら疾うに過ぎている。 今の時節ネタとしては噛み合わない事、記事を書く者が行っていいのかい?」 

 

青葉「そ、そんな…………」ガクッ

 

ーー

 

キラキラと『褒めて褒めて〜』と言わんばかりの表情した青葉に、無情にも一刀は断罪の一言を投げ掛ける。 その容赦ない言葉は、強く青葉を打ちのめし、その場で賑やかだった座を白けさせた。

 

そんなやり取りを青葉としている途中、冥琳が一刀に声を掛ける。

 

ーー

 

冥琳「…………どういう事だ?」

 

一刀「此方の都合の話だ。 流石に全部は話せない」

 

冥琳「私も人を遣う身だ。 天の御遣い殿の指揮を参考にしたいと思うのも、当然じゃないかな?」

 

一刀「……………」

 

冥琳「私達も、司徒には目を付けていたが、警備が厳しくて立ち入る事が出来なかった。 それを実行できた青葉殿は、実に見事だと思うのだが………」

 

一刀「俺も本当は……褒めたいよ。 だけど、今回は叱らなければならないんだ。 青葉の行ったのは、俺の命じた事を逸脱している………」

 

冥琳「それでも………『一刀の言う通りよ』────どう意味だ、華琳?」

 

ーー

 

一刀との会話を遮るように横槍が入り、冥琳は声が上がった場所を望む。

 

問う声が思わず低くなったのは、別に機嫌を悪くした訳でもない。 

 

いつも自信溢れる華琳が、珍しい事に若干怯えを含む声で、一刀の話を肯定したからである。

 

ーー

 

華琳「私は………この写真を見て、初めて……一刀の力を恐れた。 そして、今の言葉を聞いて、心の底より安堵しているのよ。 覇王の矜恃を持つ者が、何とも心細い事を言うけど……………それが事実」 

 

冥琳「ほう? 華琳ほどの傑物がそういうとはな。 それは、どういう意味か、不肖な私に聞かせて貰えないか?」

 

華琳「そうね。 最初に認識の違いから説明しなければ、私の感じた不安は判らないわ。 たぶん、貴女達も知れば………一刀が写真を処分しようとした意味、理解できると思うの……」 

 

ーー

 

そう言って、先程の青葉より渡された写真を見せて、冥琳や目の前に並ぶ者達に問い掛ける様に話し始める。 

 

聞き役に徹している冥琳は元より、居合わせた者は説明を聞くに及び、写真を触ったり、目に近付けてジロジロと見たりと、色々と試す。

 

当然ながら、こんな事で理解などできる筈がない。

 

ーー

 

華琳「コレを初めて見た者は、『写した者の価値を急落させる風聞の種』と感じたでしょう。 こんな醜態を晒せば、必ず考える策であり、結果的にも非常に有効な一手………となるわ」 

 

冥琳「ふむ、有効性は認めるのか。 だが、お前にとって何が問題なのだ?」

 

華琳「私には……判るの。 漢王朝に蝕む病根を断ち切る巨大な戦斧でもあり、大陸を一元支配する強固な縛鎖に。 たった一枚の『写真』という絵には、それだけの価値と秘めた破壊力が備わっているのが………」

 

「「「 ………? 」」」

 

ーー

ーー

 

翠「彼奴ら………何やってんだよ? 長い巻き紙から変な絡繰りが飛び出したっと思えば、仲間を破裂させて燃やしてるし。 しかも、服だけ破れるなんて……何の妖術だよ。 あっ、そう言えば……天の御遣い……だっけ………」

 

蒲公英「…………………」コソコソ

 

翠「ま、まさか……な。 これも、ドッカン!………って?」チョンチョン

 

蒲公英「ここにーっ! いるぞぉーっ!!」

 

翠「───────うひゃあああっ!? な、ななな、何だぁ!? あ、ああ、あたしの服っ! だ、大丈夫か! や、破けて……ない? ………あれっ!?」

 

蒲公英「…………えへへへっ…………ビックリしたぁ、お姉さま〜?」

 

翠「た、蒲公英っ!?!? こんのぉ馬鹿やろう!! 人を驚かすんじゃねぇぇぇっ!!」

 

ーー

ーー

 

華琳の真摯な言葉に、冥琳は写真を顔にまで寄せて見るが、別段おかしいとこは無い。 華琳に見えて自分には見えない『モノ』……その不安視する正体が、自分には判断できなかったのだ。 

 

華琳は軽く溜息を吐くと、その根拠を説明する。

 

ーー

 

華琳「何度も言うけど、この一枚の写真は、確かに醜態を晒した男を写した物。 ただの男であれば物笑いの種で終わりだけど、この男は王朝内での実質上の最高権力者。 ……………そうだったわよね、冥琳?」 

 

冥琳「それは華琳も知っているだろう? かの方は重厚な警備を敷いられた為、私達は司徒の身辺を調査するのも、結局あきらめなければならなかったのだ。 それが、青葉殿の卓越した手腕のお陰で………」 

 

華琳「じゃあ、言い方を変えるわ。 この城内で王允以上の警備が固い場所はあるの? 言っておくけど、陛下の周辺は駄目よ。 例えば、三公、三省、九卿……もしくは執金吾、大長秋、更に下の────」

 

冥琳「いや…………それは無い。 今の洛陽で司徒の周辺だけが、普段の倍以上に警戒されている。 しかも、その警戒が厳重になったのは、王允が司徒になってからだという。 思春と明命が調査し、私に届いた確かな情報だ」

 

「「 ………………… 」」

 

ーー

 

先程から冥琳が素直に情報を答えるのを見て、雪蓮が柳眉をひそめ、祭の目が険しくする。 自分達の仲間である孫呉の将が、捕まる危険を冒して手に入れた情報を、他国の王達の前で不用心にも語るのだ。

 

二人は黙ったまま何も言わないが、身中では冥琳に対して怒りを覚えているだろう。 何も言わないのは、それだけ冥琳の信頼が厚い故である。

 

しかし、部屋に帰り次第、二人から問い詰められるのは間違いない。

 

ーー

 

華琳「私も……洛陽内の話は、桂花のお陰で幾つか聞いているわ。 十常侍が亡き後、彼らの暗部を奪った極官達が蠢いている、と。 売官、献金、賄賂とやりたい放題。 漢王朝の腐敗堕落、ここに極まり……よ」

 

冥琳「それが、この写真と何の関係が………ん、そうかっ! そう言う事か!!」

 

詠「な、何よっ!? 自分だけ判ってないで、皆にも説明しなさい!!」

 

ーー

 

冥琳は華琳の言葉に独り言ち、その様子に苛立つ詠が堪り兼ねた様子で、冥琳に食ってかかる。 

 

冥琳も詠の様子に苦笑を浮かべて応じた。 

 

自分だけ理解しても、この場の進展は望めない。 説明して意見を交換、そして情報を共有しなければ、華琳のいう言葉を理解できないし、ついては一刀の行動も判らないと言う事である。

 

冥琳は自分の言葉に耳を傾けている者に、出来るだけ易しく華琳の考えを説明するのであった。

 

 

【 過去 の件 】

 

? 洛陽 都城内 予備室 にて ?

 

 

詠が冥琳に掛けた言葉は、『自分で納得してないで、理解できていない者にも説明しなさい』というのは至極当然だった。 現に『理解できていない』と可愛い顔を歪める少女達、美女達。

 

だが、意外にも『理解できていない者』の数に、冥琳に声を掛けた本人が入っていたと、気付く者は極僅か……である。

 

実に意外な話だが、他の者達から見ると信じられない話だ。 あの二人に対等近く会話できる者が、今回の件は理解できないなどと容認できる訳がない。 何人かは、早くも詠に視線を向けている者も現に居るのだ。

 

このままであれば、意味が判らないから教えて欲しいと……詠に訴えてくる者も出てくるだろう。 そうなれば、自分の無知がバレる。 もしくは、何か隠しているんじゃないと、疑われるのがオチというもの。 

 

だから、詠は先手を取り冥琳に声を掛けた。 

 

『理解している者は少ないのだぞ?』と気付かせ、説明させるように誘導したのだ。 

 

ーー

 

月「ふふふ………詠ちゃんの意地っ張り」

 

詠「ゆ、月っ!」

 

月「大丈夫だよ、聞こえないように……小声で喋ってるから……」

 

ーー

 

ついでに、本当についでだが、詠自身も冥琳が気付いた写真の意味を知りたかった。 勿論、親友の為であり、自分の軍師としての仕事でもある。 別に、一刀が関わっているから気にしている訳ではない。 

 

ーー

 

月「……………詠ちゃん、寂しくない?」

 

詠「え、えぇっ!? な、何よ、ききき急にっ! 別にあいつの場所に居なくても大丈夫よ! 月が居るし………」

 

月「ふふ………何で、ご主人様の話になってるの?」

 

詠「だ、だって………月は………」

 

月「私は………前に居る華琳さんと冥琳さんの場所を言ってるんだよ?」

 

詠「ふえ……?」

 

月「詠ちゃん、もっと軍師として活躍したかったじゃない? もし、私が前の世で………攻められなければ、詠ちゃんは活躍していたんじゃないかって。 あの二人の側で、自分の知識をぶつけあったと思うの」

 

詠「……月………」

 

ーー

 

本来の詠は、二人に劣らぬ頭脳の持ち主。 だからこそ、冥琳のように道筋を示されれば、忽ち華琳に追い付き、その答えを得るだろう。 そうなれば、先程の三人の討論になる事は予想できた。

 

だが、今回は………この話に割り込む事ができなかった。 

 

────何故か?

 

それは、詠と月。 この二人が前の世で勤めていた『めいど』の立場ゆえ、道を構築する情報が入って来なかった為である。

 

ーー

 

月「詠ちゃんも………一国の軍師だったら、直ぐに理解できたのに……」

 

詠「し、仕方がないのよ。 ボクが軍師をやっていたの……あ、あいつが蜀に居た時だもの。 他の時は、殆ど『めいど』だったのよ? あの二人みたいに……情報なんて簡単に入って来なかったんだもん……」

 

月「…………ごめんね。 私のせいで…………」

 

詠「そ、そんな顔しないでよっ! 月のせいじゃない! ボ、ボクが彼奴らに遅れをとったのが原因なんだから! あ、後………月と一緒に働くのは………悪くなかったし………」

 

月「ありがとう……詠ちゃん」 

 

詠「それに……今、思えば………桃香達は気を使ってくれたと思う。 表向きは正体を隠す必要があるからって『めいど』になったけど、裏の理由は………ボク達が二度と戦に関わらせないように、切り離してくれたんだって………」

 

月「…………そうなんだ。 詠ちゃん、桃香様に逢えたら………御礼を申し上げないとね?」

 

詠「…………うん」

 

ーー

 

詠は自分に笑い掛ける月を見て、再び思う。

 

この世界は、前の世で敵側だった諸侯の大部分が、自分達の信頼できる友となった。 これなら、あの何万の兵達を巻き込んだ、漢王朝の内輪揉めなど戦いは起こらない筈。 

 

もし、万が一、開戦しても……これだけの友との交誼がある。 必ず乗り越えられると信じたい。 

 

そう、心密かに………目の前の光景を見ながら思うのだった。

 

 

 

【 予想 の件 】

 

? 洛陽 都城内 予備室 にて ?

 

 

冥琳は軽く咳払いをすると説明を始めた。  

 

皆が注目するは、青葉が未だに回収しない王允の写真である。

 

ーー

 

冥琳「北郷の配下である青葉殿は、この大陸随一の諜報能力がある御仁と言えるだろう。 その証拠が……この写真と言う絵だ!」

 

華琳「写真とは……天の国で『かめら』と呼ばれる器具より写しだされた『その場の風景』を『瞬時に紙へ写した絵』を示すの。 だから、時間も掛からず小細工も出来ない……素のままを写し出し確認できる精密な絵よ」

 

ーー

 

冥琳の言葉に、数人の者が『写真』の意味が判らず首を傾げる。 その様子を見ていた華琳が補足説明を入れた。 

 

どうやら、冥琳の言葉に不足な所があれは、何時でも補足できるようにしていたらしい。 そうしないと、理解が足りないまま終わってしまうので、答えと関係ない話であれば、口を挟むつもりのようだ。

 

ーー

 

冥琳「ここに写るは、王朝でも位人臣を極める者の顔。 皆が知るとは思うが、そんな方が易々と自分の醜態を写真に撮らせる訳が無い。 つまり、青葉殿が写した物である事は……間違いないと言えるだろう!」

 

「「「 ………………… 」」」

 

冥琳「では、この写真を一枚、城内に落とせば、誰かが手に取り………即座に風説は生まれ広まる事になるだろう。 そうなると、この写真の件……誰に最も早く情報が渡るか、判る者が居るか? 拾った者は別にして、だ」 

 

蒲公英「はいっ! その涎を垂らして写ってる人!」

 

冥琳「………違う。 まあ、知れば激怒して実行犯を捜すだろうがな………」

 

霞「おっ? それやったら………他の官職持ちって言うんかぁ?」

 

冥琳「………それも違う。 確かに普通の時代ならば、『司徒』の席を欲しがる者は多いだろう。 だが、この混乱した今世で、その苦労を背負う物好きが、果たして居るのか判らないがな………」

 

北方棲姫「………劉……弁……?」

 

冥琳「………畏れ多いが………違う」

 

「「「 ……………? 」」」

 

ーー

 

冥琳の目の前に集まる者達が、口々に名を挙げる。

 

しかし、冥琳は悉く不定した。 中には、自分達が所属する関係者の名も出てくるが、それでも冥琳の不定は止まらない。 そして、遂には挙がる名前が無くなる程だった。

 

ーー

 

冥琳「判らぬか? それは────」チラッ

 

華琳「ええ…………冥琳の思う通り………よ」コクッ

 

ーー

 

冥琳は答えを言う一つ前で華琳に目配せすると、華琳は首を縦に頷きながら答えた。 まだ何も言っていないが、正解だと決めつけている。

 

冥琳は顔を立ち並ぶ者達を前にして、答えた。

 

ーー

 

冥琳「──────洛陽の民達だ! 洛陽の民が知る事になるだろう!」

 

「「「 ────────!? 」」」

 

詠「ど、どういう事!? 幾ら何でも無いわよっ!!」

 

ねね「事実無根のヨタ話ですぞ! 城内に何百人もの官吏が居るのに、誰にも耳に入らず、全く関係ない民達へ写真など、どうして流れるのですか!」

 

ーー

 

その言葉に漢王朝に関わる者達が、一瞬の間を置いて静寂になり、次の瞬間冥琳に向け声を上げたり、青ざめがら顔を向ける。

 

艦娘側は、前の騒動に静観を決めて動かない。 いや、数名……着替えと正座を部屋の片隅で行っていた。  

 

ーー

 

華琳「……………簡単よ。 その数百人の官吏全員どう動いても、民への情報流出は止められないの。 漢王朝の自浄作用は、もう……無きに等しいもの」

 

ねね「な、何ですっと!?」

 

冥琳「うむ。 今、十常侍亡き後……極官達による売官等が始まったと華琳より聞いた。 濁流派と呼ばれた十常侍が居なくなり、清流派と呼ばれた者達が同じ轍を踏むのだ。 この漢に希望など持つ者は……殆ど居ないだろう」

 

華琳「上に報告しても隠蔽され、下手をすれば口封じ。 同僚に相談すれば疑われ、無視などすれば、自分に濡衣を着せられる道具になる。 ならば、民達へ流すのも一手と考える者が必ず出るわ」

 

詠「そうなれば………衣食住が不足して貧窮している民が立ち上がり、また洛陽に蜂起する。 でも、そうなれば兵に鎮圧されるのは、判りきった事じゃ………『違うでしょう?』───えっ?」

 

華琳「ここに居る『天の御遣い』達へ救いを求める。 民を助ける為に益州、洛陽で、あれほど派手に暴れた御遣い達が、今度こそ大陸を平和に導いてくれる事を期待するでしょうね」

 

詠「──────あっ!」

 

華琳「そして、一刀はそれを無視できない。 確実に動き……洛陽の民達を救うでしょう。 そうなれば、漢王朝は崩壊し一刀を皇帝にした新王朝の始り。 私が憂いた巨大な戦斧、強固な縛鎖は……この事を示すのよ」

 

「「「 ──────!! 」」」

 

ーー

 

最後の結論を述べて華琳が一刀に顔を向けると、一刀は申し訳なさそうに首を縦に振り、その意見を肯定するのだった。

 

 

説明
小話を多数入れましたら、本編があんまり進ませんでした……orz 3/13 冥琳の台詞を一部変更しました。
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コメント
雪風提督 コメントありがとうございます! 機密情報は洩れると大変ですから。 今回のは、命令違反に抵触する行為ですね。(いた)
機密情報LVを厳とせねば。今回の我青葉の行為は、軍令違反かな。(雪風)
スネーク提督 コメントありがとうございます! 実は青葉をも超える実体を掴めれない影の薄い人が、三国に居るという話が……(いた)
(;▼ω゚)青葉さん…なんて恐ろしい娘!見習わねばなるまい…(スネーク)
雪月花提督 コメントありがとうございます! 会社出勤前まで、粘って書いた甲斐がありました!(いた)
未奈兎提督 コメントありがとうございます! 王允でコレですから、貂蝉の写真が落ちていたら……洛陽が滅亡? まさしく傾国の漢女。(いた)
面白かったです!次回も楽しみです(雪月花)
たかが写真一枚で天下が揺らぐとか恐ろしい時代やでぇ(未奈兎)
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