「真・恋姫無双 君の隣に」 第61話 |
また戦が始まる、・・違う、俺が起こす!
総じたら百万以上の人が武器を持つ規模の戦を、多くの血が流れ新たな悲しみを産む愚かな行為を。
それでも、もう自分に対して理想や後悔は口にしない。
全て分かってて決めた事だ。
・・ただ、感謝したい。
支えてくれる皆がいなかったら、疾うに俺は壊れていたから。
新たな戦場に、俺は足を踏み入れる。
「真・恋姫無双 君の隣に」 第61話
春を迎え草木が芽を出す頃に、わたくしの国自体の目を覚まさせる報が届きましたわ。
并州に一刀さん率いる華国の軍勢が集結しつつあると。
およそ二十万。
「おいおい、弱ってる魏じゃなくてウチの方に攻めてきたのかよ?」
「どうして?両国の仲は修復されてないって聞いてたのに。文ちゃん、急いで左慈さん達を呼んできて!」
「どういう事だ?幾らなんでも無茶が過ぎる、魏に対する備えで兵を割かなければいけない筈なのに」
猪々子さん達には一刀さんの意図が読めないようですわね。
ですが、わたくしには全て御見通しですわ。
「貴女達、取り乱している暇はありませんわよ。至急、文武百官を集めなさい、軍議を開きますわ」
「はい、姫様」
「おおー、すっげえじゃん、姫、めっちゃ落ち着いてるぜ」
「麗羽、見直したよ、やっぱり王って違うもんなんだな」
慌しく動き始めた皆さんを他所に、わたくしは玉座に深く座り直します。
先程から笑みを抑えるのも一苦労なのですから。
まったく、いじらしい方ですわ、一刀さんたら。
わたくしと早く戦いたいからって、間に居ます華琳さんを飛び越してくるだなんて。
如何に前座とはいえ、華琳さんが少々お気の毒ですわね。
オーホッホッホッホッホッホッホ。
并州の晋陽に辿り着いた俺は、後続の皆が集まるまで領内の視察を行なっていた。
当たり前だけど民が移住済みだから土地が荒れ放題だ。
まともなのは兵舎付近と屯田地だけ。
「雛里、山賊の類は?」
「い、居ないわけではないでしょうが、襲ってきた事はありません。へ、兵士しかいないので返り討ちを恐れているのでしょう」
賊が自分達より強い相手に戦いを挑む気概があるなら、そもそも賊になんかならないか。
「屯田の拡大は予定通りにいけそうかい?」
「は、はい。さ、昨年から朱里ちゃんが入念に調査していますから、兵が集まり次第直ぐに着手出来ます」
兵に戦地先で農作業を行なわせる屯田制度。
元々あった耕地の再利用、人手も充分、皮算用は危険だけど食料は有れば有るほどいい。
大軍の戦では食糧の消費が大きいし、余程広範囲な戦地じゃないと遊兵も多くなる、成程、理にかなってるなあ。
それに後々の并州再興計画にも大きな影響を及ぼす。
民の安全の為とはいえ、移住は俺が強制した事だ。
戦が起こらなくなれば故郷に戻りたいと希望する人達はきっといる。
帰った人達への食料確保の準備と考えてもいい。
「雛里、仲の動きは?」
「げ、現段階で四十万の兵が?に滞在しているとの事です。いつでも出陣可能と思われます」
「分かった、視察はここまでにして臨戦態勢に入る。狼煙や伝者を使って密な連絡を怠らないように皆に伝えてくれ」
「はい」
元々魏に攻め込む予定だったから、軍配備は滞りなく済んだ。
対華への前線拠点となる?に、仲軍四十万の軍勢を集結させて準備は万全。
むしろ華は晋陽で軍が集まってる最中との報告が入ってる、黄河を越えての遠征だから無理の無い話しだがな。
「干吉、今が好機なんじゃねえのか?兵が集まる前に先制攻撃しちまえば楽勝だぜ。もう今年は并州を獲っちまえばいいだろ!」
待ちきれない様子で猪々子が先陣を臨むが干吉は首を振る。
「いいえ、それでは華の思う壺ですよ」
華の思う壺?どうしそうなるんだ。
猪々子の言い分は最もで、私も賛成だから疑問を口にする。
「ちょっと待ってくれ。遠征で兵が疲労していて、なおかつ数が揃ってない華には守る事しか出来ないんだ。むしろ攻めないほうが向こうにとって有難い状況だろ?」
「そうですね。・・公孫賛さん、王である北郷が直々に兵を率いてきた事をどう思いますか?」
逆に問われて、とりあえず答えてみる。
「それは、・・そうだな、やっぱり兵の士気が上がるからじゃないのか?」
去年の魏と華の戦。
勝敗を決めたのは民の参戦って信じられない理由だった。
それだけ人気の高い王が自ら出陣してたら士気も上がるだろ。
「士気は大切ですが、華には名立たる将が揃っています。大国の王が危険度の高い他国への遠征にわざわざ出陣するでしょうか?」
干吉の言葉に改めて状況を再考してみる。
・・確かに華王は別に武勇に秀でた王じゃないよな。
優れた将や軍師は幾らでもいるんだ、王直々というのは腰が軽すぎるか?
「すまん、分からない」
「まあ、これはあちらが常軌を逸してるだけなんですがね。華では大事な戦の時に王である北郷を囮に使う戦術をよく使用するんですよ」
「何だそれ!?非常識にも程があるぞ!」
王を囮って、普通そんな事考えもしないし、ましてや実行するなんてありえないだろ。
「これまでの華国の戦歴は全て頭に入れています。間違いありません」
そ、そうなのか、それにしても今、サラッと凄い事言ったよな。
「あの、では今回の華国の遠征の目的は、仲国が本命ではないという事でしょうか?」
斗詩が干吉に質問する。
「はい、私達が并州攻めに専念すれば、その間に華は魏に侵攻するでしょう。華には水軍を含めれば更に二十万以上の兵は動員できます、弱体化している魏ではとても抗しきれませんね」
!!、そうかっ、そういう事か!
華王の出陣は戦略での囮、私達を引き付けている間に魏を陥とす為の。
并州は山が多く守りに向いてる土地だ。
狭い戦場では戦闘に参加出来るのが一部分だけで、仲がいかに大軍でも遊兵が半数以上になる。
兵力差が意味を失えば長期間耐えられる。
魏に対しても備えの兵を逆に攻めに使えば何の問題も無い。
水軍だって陸戦に使わない理由は無い、併せれば魏を攻めるには充分な兵が確保できる。
それに華は并州防衛だって危なくなったら最悪放棄してしまえばいい。
退路は完全に確保してるし、民の居ない土地に固執する必要も無いんだから。
結果、華は并州を失っても替わりに魏の豊かな領土と多数の民を得る。
比べて仲は并州の土地だけ。
例え華が魏に手こずって領土を半分しか獲れなかったとしても、それでも得るものに差がありすぎる。
「大事なのは華に魏領を独占させない事です。現在待機中の兵から半分の二十万を割いて魏に侵攻します。晋陽の華軍への備えは各方面から更に兵を集めましょう」
領土の獲り合い、とんでもない話だな。
でも後の対華を考えれば魏領の重要拠点確保は必須だ、一時だって惜しい、并州に釘付けされてる場合じゃない。
それにしても華の目論見を即座に見抜いた干吉が頼もしいやら怖いやら。
「一刀さんが魏を助ける為に動かれた可能性はないでしょうか?」
華王と真名を交わしてるらしい斗詩ならではの質問に、
「それはないでしょう。助けるなら昨年の段階で動いていた筈です。恩を高く売りつける機を待っていた可能性もありますが、北郷の性格では限りなく低いと考えられます」
成程成程。
「分かった。急いで編成を行なう、魏には誰が往くんだ?」
「十中八九で北郷は動かないでしょうが、華を相手に油断する気はありません。主力は全て?に残します。遠征は手柄に餓えています他の重臣に任せましょう。今の魏なら彼等でも何とかなるでしょう」
壮観ね、これだけの兵が出陣となるとお祭りにも等しい騒ぎだわ。
「それじゃ紫苑さん、七乃ちゃん、寿春をお願いなの」
「兵はごっそり持ってくけど攻めてくるとこなんかないし、ほな留守をよろしゅうな」
「ええ、任せて。必要な物があったら直ぐに連絡してね」
「沙和さんと真桜さんもお気をつけて、無理は駄目ですよ」
沙和ちゃんと真桜ちゃん率いる軍の出陣は、贔屓目なしでとても頼もしく思うわ。
見送る民達の歓声も大きくなる一方ですもの。
少しだけ羨ましいかしら。
「・・紫苑さん、戦場に戻りたいですか?」
表情に出てたのかしら、七乃ちゃんにしては口調に遠慮があるわね。
「フフ、ごめんなさい、気を使わせてしまったかしら。そうね、沙和ちゃん達が眩しく見えたのは事実ね」
これからの事を七乃ちゃんと話しつつ城の自室に戻ると、
「にゃ〜、みいも戦いに行きたかったじょ、許さない兄は頑固者なのにゃ」
「「「頑固者、頑固者にゃ」」」
「美以、一刀は一度言ったら絶対に撤回しないのじゃ。諦めるのじゃ」
「みいお姉ちゃん、はしらをひっかいたらだめなの」
あらあら、賑やかなのはいつも通りだけど、美以ちゃんが拗ねてるわね。
美羽ちゃんを探しに来た七乃ちゃんを含めて、少し豪華にした夕飯を食べてお風呂に入って就寝の時間。
璃々達が眠ったので布団を掛け直す。
いつまでも寝顔を見ていたくなるほど幸せな気持ちになる。
私は昨年の戦で、弓を持たない誓いを破ったわ。
長年の修練が培った技は私を裏切らず、弓は私の思いに応えてくれた。
簡単な鍛練は続けていたから、技の衰えは目に見える程でも無かったし。
一刀様は私が弓を取ったことを責めずに逆に謝って下さった。
改めて思ったわ、この方を支えたいと、私に出来る限りの事をしてあげたいと。
戦には出なくても、私には別の戦場が待っているわ。
政の戦場が、家庭の戦場が、それに、女の戦場もかしらね。
「桔梗さん、ねねさん、御武運をお祈りしてます」
「任せておけ。わしの役目、必ずや果たしてみせよう」
「月殿、此度の戦は後方支援が要であります。大変ですがよろしくお願いするのです」
仲軍の動きを掴み、洛陽より軍を動かします。
昨年より準備を整えてあらゆる状況に対応できるように、何度も何度も共通認識を確認しあいました。
それでも不安が払拭できません、一刀様、皆さん、御無事で。
手を組んで祈っていますと、後ろから柔らかくて大きくて重いものがのしかかってきました。
「大丈夫ですよ〜。あれだけ綿密に打ち合わせたんですから、引き分けはあったとしましても負けはありませんよ〜」
「の、穏さん、あの、重たいです」
べ、別に悪気が無いのは分かっていますよ。
で、でも何といいますか表現しがたい感情が芽生えてくるような。
わ、私にも成長の余地がある筈なんです、だって母は豊かだったのですから。
「そうなんです〜。重くて困ってるんですよ、一刀さんは喜んでくれたんですがね〜」
わ、私の時だって優しくしてくださいますから。
え、詠ちゃんだって多分私とそこまで変わりませんし。
へ、へう〜、私ったら何を考えて。
「うふふ、それでいいんですよ。気を張り詰めたままでは普段出来る事でも失敗しちゃいますから〜」
魏の本拠地である陳留に、普段は各地に散っている主だった将や軍師が集まっているわ。
魏国存亡という、文字通りの事態が訪れているから。
覚悟はしてたけど耳を塞ぎたくなるほどの報が続々と届けられる。
北の白馬津より官渡に向かって仲軍二十万。
西の洛陽より陳留に向かって華軍七万。
南の寿春より汝南に向かって華軍八万。
三方面からの侵攻。
此方は昨年までの戦で失った兵を補充する為に、緊急徴集令を発して何とか二十五万の兵を掻き集めたわ。
でも半数は碌に訓練もしていない農民兵。
それに反乱防止の為に兵を各城に置く事を考えたら、最小限に抑えても迎撃に回せるのは精々十三万弱。
そこから更に三方面に振り分けないといけない。
でもやるしかない、一方面でも破られたら総崩れになるわ。
稟達も現況を表した戦盤を睨みつけたまま一言も発しない。
私達軍師は常に最悪の事を考えておかないといけないから、内心の動揺はそれ程でもないわ。
それでも遂にこの時がきてしまった、決定的な打開策を構築出来ないまま。
何が筆頭軍師よ、何が王佐の才よ。
自分の無力が情けない。
「・・確かに厳しい状況ね、勝ちがあるとしたら百に一つかしら」
誰もが口に出来なかった事実を口にしたのは王である華琳様。
「ならば、その一を手繰り寄せるだけよ!」
そして諦めつつあった場の重苦しい空気を振り払うは破格の王。
私の心命を捧げたお方。
「桂花、詠。貴女達は三万の兵をもって陳留の籠城指揮を執りなさい!」
「はいっ!」
「わかったわ」
「稟、風。兵四万を連れて汝南の防衛に向かいなさい!」
「お任せを」
「分かりましたー」
「他の者は私と共に官渡に向かう、三倍以上の敵を討つ為に普段の五倍の力を発揮しなさい!」
「「「「御意」」」」
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あとがき
小次郎です、お読みいただきありがとうございます。
今度の戦はヒロインがほぼ全員関わってきますので(男も含む)私の書き方ですと視点変更が50以上?
ないない、無理、登場するだけでも頭を必死に整理してるのに。
とにかく出来るだけ分かり易い様に頑張って書こうと思いますので、次回も読んで頂けたら嬉しいです。
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後の世に乱世の分水嶺といわれた戦が始まる。 一刀に迷いは無い。 |
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コメント | ||
官都の戦いとはいえ管理者組二人がとてつもないからなぁ。それでいて南・西から華軍侵攻で・・・これひっくり返せたら大したもんですよ(小力感(デーモン赤ペン) 魏は絶望的ですな、三方面とか厳しすぎるだろw(nao) 天下分け目の戦いを自分の意志で起こすって相当な決意が必要だよなぁ、平和な時代に産まれた私にはわからないけど、人が万単位で死んでしまう戦、その業を背負う覚悟って、半端なものじゃないよな(未奈兎) |
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