紫閃の軌跡
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〜クロスベル自治州 オルキスタワー 36F〜

 

「なんというか、予想通りだったというべきか……」

「ええ、そうね……大分持ち上げられていたものね、ロイド」

「俺も覚悟はしてたけれど、あそこまで露骨に来るとは思ってもみなかったよ」

 

そう呟いたのはティーダ、エリィ、そしてロイド。先程まで共和国のロックスミス大統領と面談していた。支援課のメンバーを見てロックスミス大統領が疑問を浮かべて、娘であるルヴィアゼリッタのことを聞かれ、今は別行動を取っていると伝えると安堵した表情を浮かべたことに苦笑したのは言うまでもないが。

 

「しっかし、クロスベルの領有権を仄めかすような発言をするとはな」

「宗主国としての権利を主張する……外交としては当たり前の部分も否定はできませんね」

「そんな……」

 

先日の『教団』の一件に関わり、支援課に勲章を贈る発言をしたこと。それに加えて娘とロイドの仲の良さを挙げて、クロスベルに対する発言を強めるような節も見られたこと。二年前の<不戦条約>の調印式の折、ニコル・ヴェルヌの護衛という形で随伴していたのでその線からくることはロイド自身も覚悟はしていた……というか、そのような発言はルヴィアゼリッタが支援課に配属となった理由と矛盾しうるため、それがいかなる結果をもたらすのか未知数。少なくとも大統領の形をしたクレーターができる被害は不可避という状況にロイドは思わず頭を抱えたくなった。

 

「ノエルは仕方ないにしても、ロイド達は慣れてるようだけれど?」

「まぁね。っと、休憩時間はそう多くはないし、次は王国のシュトレオン宰相のところに行こう」

 

そうロイドらは割り切りつつ、大統領の隣の部屋であるリベール王国の控室の扉をノックする。先程の共和国のように護衛がいなかったのには少し不思議に感じたが、それは部屋の中に入った時に理解できた。部屋の中にはシュトレオン宰相とクローディア王太女のほかに、先日会ったユリア准佐とカリン中隊長の二人がそばに控え、さらにはお付きとしてエリゼ・シュバルツァーの姿もあった。そうでなくともシュトレオン宰相自身かなりの手練れなだけに、下手な侵入者など返り討ちに会うのが目に見えているほどだ。

 

「お、ロイド達か。先日会ったばかりというのに、申し訳ないな」

「いえ、お気遣いなく」

「エリゼ、すまないが彼らにお茶でも出してあげてくれないか?」

「ええ、畏まりました」

「ありがとうございます。……それで、お話と言うのは?」

 

予め準備していたのか、すぐに出された紅茶をありがたくいただきつつ、ロイドは話を切り出した。少なくとも共和国と帝国も面談を申し込んだことは当然把握しているだろうし、王国も面談を申し込んだことは他の二国とて承知のはずだ。それに勘付いたかのようにシュトレオン宰相は笑みを零した。

 

「なに、そう緊迫したプレッシャーは君らの仕事に支障を来たすだろうし、見たところ私以外にも面談を申し出た相手はいるようだからね……君ら―――とはいっても、ロイドとエリィ、ランディとティオにちょっとした贈り物を渡したいと思ったのさ。カリンさん、彼らに例のものを」

「かしこまりました」

 

そう言ってカリンが四人に渡したのは各々色の違うブレスレットと、一枚の小切手。その小切手の額を見たロイドらは驚きを露わにした。

 

「ブレスレットはともかくとして……い、一億ミラ!?」

「四人ってことは……四億ですか!?」

「そんな、こんな大金は受け取れませんよ!?」

「別に疚しい出所じゃないし、別に懐柔しようという魂胆もない。それは『教団』絡みで浮いていた懸賞金の一部だ。形はどうあれ微妙に被害を受けた立場だから、解決に導いた君らに対しての報酬みたいなものだ。念のために君らの上司であるスヴェンド局長やマクダエル議長にそのあたりの了解は貰っている」

「なるほど、ちゃんと退路は埋めているってわけだ」

「ワ、ワジ君ってば……」

 

そのような返答が返ってくることがシュトレオン自身承知しているような印象なのはロイドらにも理解できた。理由づけや上司の許可はできているものの、警察官と言う立場上“贈賄”とみられてもおかしくはない。悩んだロイドらの結論は

 

「解りました。このお金に関してはうちで預かっている子の養育費に充てたいと思います」

「別にかまわないよ。既に手渡した以上そちらの好きにするといい。で、私に何か聞きたそうな表情を浮かべているようだが……まぁ、答えられる範囲内でなら質問を受けるよ」

「……その、後半ではクロスベルの安全保障の議題提起を行うとのことですが、いったいどういうものなのでしょうか?」

 

預かっている子―――キーアの養育に充てる。子供の養育費が思った以上に掛かるのは承知しているし、渡した以上はお金の用途の決定権などないとシュトレオン宰相は改めて言葉にした。そのうえで可能な範囲での質問を受けると聞いたエリィは、先程イアン弁護士から聞いた安全保障の議題提起についてシュトレオン宰相に尋ねた。

 

「その辺のことはエレボニアもカルバードも槍玉にあげるだろうが、元を返せば二つの宗主国が利益優先で招いてきた被害ともいえる。彼等からすれば『安定のための必要な犠牲』という便利な言葉で片付けられるだろう。今や三大国の一角となったリベールとしては、それに対して“完全なる楔”を打ち込むつもりだ」

「楔、ですか?」

「<不戦条約>はあくまでもこの地方の安定を図るためのベースに過ぎない。それと今まで培ってきた自治州運営のノウハウを生かし、クロスベルを巻き込む形で安全保障協定を作る……というのが一応の終着点になるかな」

 

単純に自らの国が推し進めた条約に固執するだけでなく、それを土台とした安全保障に関する協定。現状で条約を結べないクロスベルにおいて現段階で有効な提示案を進めるような形でシュトレオン宰相はそう口にした。

 

「でも、あの二国がそう簡単に納得するとは思えませんが……」

「納得するんじゃなく、納得“せざるを得ない”ようにするだけさ。<不戦条約>はただの“戦争行為禁止条約”というわけではないのだから…っと、少し話が過ぎたな。他にも面談があるのなら、少し急いだほうがいい」

「あ、はい。それでは失礼します」

 

まだエレボニアのオズボーン宰相との面談が残っていることを思い出し、ロイドらは会釈をして部屋を後にした。部屋の扉が閉まったのち、ロイドらは息を吐いた。

 

「流石、三大国の宰相というべきなんだろうな。先日と打って変わって、完璧に施政者のオーラだった」

「それでいて大陸で数少ないA級正遊撃士ですからね。この程度の話ぐらいは序の口かと」

「アリオスのオッサンも化け物並な強さだが、それ以上に感じられたぜ。あの宰相の周囲にいる面々もかなり強いが」

「けれど、クロスベルに対して下手な圧力をかけるわけではない、みたいなことを言っていましたね」

「えぇ………(“一応”というのは気になるけれど、少なくともクロスベルを支配するような口ぶりではなかった)」

 

その後、ロイドらはエレボニアのオズボーン宰相と面談し、彼の“怪物”と呼ばれる一端を肌で感じ取ることとなった。

 

 

―――16:30

 

休憩時間も終わり、後半の議題―――各国首脳から提起される議題となった。イアンの予想していた通り、クロスベルの安全保障に関する議題、特に先日の『教団』にかかわる事件を引き合いに出し、ディーター市長やマクダエル議長の表情は一層険しくなっていった。

 

「―――問題は、たかが宗教団体一つでああも無様に治安が揺らいだことだ。それも治安維持組織が操られるなど、前代未聞の形によって」

「………」

「仔細については、既に皆様にもお伝えしておりますが」

「仔細に関してが問題なのではない。危機管理の“質”が問題なのだ。クロスベルに滞在していたエレボニアの市民が危険に晒されたことについてどうお考えなのかをお尋ねしたい」

 

オズボーン宰相の言うことも尤もだろう。本来市民を守るはずの組織が破壊活動―――市民の生活を脅かす行動をとったということなどあってはならない。それに対して、言葉を発したのは意外な人物―――アルフィン皇女であった。

 

「宰相閣下、まさかクロスベルに対してこれ以上の賠償を要求されるおつもりですか? もしそうだというのであれば、我が国の大国としての度量が問われることになりますが?」

「いえ、皇女殿下。私があくまでも求めているのはそういう問題ではありません。問題は彼らが……クロスベル自治州政府がどうやって様々な『安全』を保障できるかです。生命の安全、財団の安全、貿易・金融市場への信頼の安全! 政争にかまけ、怪しげな輩どもに付け込まれるような者達に果たして保障できましょうか?」

「確かに言っていることは尤もではあるね……クロスベルの治安に関わっているもの全てがそうではないと思いたいところではあるが(やはり、こういう展開に持っていくつもりだったのだろうね)」

 

オズボーン宰相の言葉を聞き、オリヴァルト皇子は内心こういう展開になるのではないかと危惧していたが、本当にその展開になってしまったことに対して溜息を吐きたくなったが、向かい側に座るシュトレオン宰相と偶然目が合い、ほんの少し笑みを浮かべた。

 

「しかし、クロスベルの政治体制も少しずつではあるが改善されていっている。……今後は健全な政治体制の下でしっかりとした安全保障の枠組みが築かれればいいのではありませんか?」

「いえ、事はそう簡単なことではありませんぞ。元々クロスベルの政治風土は腐敗しがちな傾向にあります。ディーター市長、マクダエル議長は政治家としても傑出されていますが……仮に彼らに何かあった場合、逆戻りになるのではありませんか?」

「ふむ………」

 

まるで棚に上げたような物言い……宗主国ならば何を言ってもいいような発言をする二国に対し、口を開いたのはクローディア王太女だ。

 

「悲観的な言い方にはなりますが、人である以上政治に腐敗はつきものでしょう。それはクロスベルだけではなく、わが国も含めて同じ。ならばお二方が健在の内にクロスベルの体制を誰の目から見ても正常な政治判断ができる状態にまで立て直せるよう、見守っていく……このあたりが落としどころと思われますが」

 

その言葉にオズボーン宰相が口をはさむ。だが、その言葉に反応したのはシュトレオン宰相だった。

 

「……失礼ながら殿下はお若い。希望を信じたくなる気もわかります。ですがクロスベルは、伝統ある王家を戴くリベールとは違うのです。拠り所となる権威の無いところでは政治はかくも容易く弱体化する……それは歴史が証明しているでしょう」

「それは事実でしょうね。だが、クロスベルの政治風土……そのような権威を生み出さないようなシステムを生み出したのは他でもない宗主国のエレボニアとカルバードです。それを正そうとしなかったのも、貴方方の国が利益を優先してきた結果でしょう」

「ほう……では、シュトレオン殿下もクローディア殿下と同意見ということと捉えても?」

「見守るというのは一つの選択肢です。我が国は経済的繋がりをクロスベルと持ちえていますが、国家主権そのものには干渉できない立場です。ですので、今まで積み上げてきた経験をクロスベルに対して提供することはあろうとも、内政に対して直接関与はできませんが……今までの歴史を『なかったことにする』かのような発言は到底看過できません」

「これは、手厳しいお言葉ですな……」

 

リベールはこの十二年で何度もエレボニアからの干渉を受けてきた。そういったことも含めてのシュトレオン宰相の言葉に対し、オズボーン宰相は苦笑を浮かべつつ軽く会釈をした。

 

「ふむ、我が国には君主はおりませんが、栄誉ある共和国憲章があります。これは、百年前の革命の時、様々な勢力と民族が集まって作り上げた奇跡的なものでしてな。それを頼りに、我が国の政治はたとえ腐敗しても誇りを失わずに存続できたと言えるでしょう」

「……お言葉ですが、我々にも誇りある自治州法が存在します。歴史的経緯から、様々な不備が発生しているのも確かですが……それでも少しずつですが改善できているのも確かです」

 

先程のオズボーン宰相の言葉の威を借りるように言い放ったロックスミス大統領に続くように、マクダエル議長は少なくない誇りであるクロスベルの自治州法を取り上げた。

 

「……弁護士。ここ10年で行われた自治州法の追加・改正項目はどの程度かな?」

「そ、そうですな。詳しい資料はありませんが。およそ50というところでしょうか」

 

マクダエル議長の話を聞いた後、オズボーン宰相はオブザーバーであるイアン弁護士に対して尋ね、戸惑いつつもその問いに答えた。

 

「10年でたった50! それはいささか驚きですな! 1年にわずか5つですか!」

「いえ、ここ数年では増加の傾向にあります。去年は確か、12の項目が追加・改正されたはずでしたね?」

「ああ、金融と導力ネットに関する諸項目の追加が多いが……」

 

その法律の改正の少なさをまるで誇張するかのように言い放つロックスミス大統領。そもそも、そこまで改正できなかったシステムや体制を作り上げたのは他でもないエレボニアとカルバードだ。そんなことなど『知ったことではない』と言いたげな様子にシュトレオン宰相は僅かに眉を顰めた。

 

「いずれにせよ、その調子ではとっても意義のある安全保障体制が早急に構築できるとは思えぬ。やはり現状を踏まえた対応策を話し合うべきであろう」

「ええ、それは同感ですな」

「………やれやれ、正直言ってあなた方がそこまで気が合うとは思わなかった。この分だと、ノルド高原の領有問題についてもすぐに合意できるのではないか?」

「はは、これは一本取られましたな」

「まあ、それについては別の機会に話し合いましょう」

 

オリヴァルト皇子の言葉を聞いた2人は笑ったり口元に笑みを浮かべた。

 

「……仕方有りません。時間が惜しいので、次の議論に移るべきなのではないでしょうか?」

「でしょうな。時間は有限なのですから」

「解りました。では、宰相閣下の提議の通り―――」

 

 

「……これは」

「イアン先生の言っていた通りの展開というところか」

「隙あらばリベールも追及していますが……」

「反撃の糸口はないのかい?」

「自治州法に構造的欠陥があるのは事実なの。だからこそ、おじさまや御祖父様も反論しにくいのでしょうけれど」

「だが、それ自体70年前に宗主国の二国から押し付けられたものだ。だからといって、あのような発言は許されるようなものじゃない」

「完全に確信犯ってやつかよ」

「……いずれにせよ、会議の内容は我らの関与するところではない。お前たちは前半と同じく―――失礼」

 

ロイドらの言葉にダドリーは気持ちを切り替えるように言おうとしたところで、ENIGMAの着信音が鳴り一言断ってから通話に出る。

 

「私だ。………解った。では、局長の指示していた通りにシフトを変更。必要ならば署内に待機している者にも連絡を入れていつでも動けるようにしておけ」

 

報告を聞いたであろうダドリーは少し驚くものの、予め指示されていた内容をすぐさま伝達し、通信を切った。

 

「何か動きでも?」

「ああ。<赤い星座>と<黒月>のアジトに動きがあった。双方が一課の尾行を振り切ったそうだ」

「えっ!?」

「慌てるな。これも局長らが想定していた範囲内だ。万が一の場合に備えて、お前たちも準備は整えておけ」

「了解です」

 

必要な情報を伝えると、ダドリーは各所との連絡を取り持つためにその場を後にした。

 

「くそっ、叔父貴たちはいったい何をやらかすつもりなんだ!?」

「落ち着くんだ、ランディ。護衛対象がいる以上少なくともこのタワーでドンパチやらかすつもりはないと思うが」

「問題は局長らがどんな行動をとっているかなのよね……」

 

様々なことが想定されるだけに困惑を浮かべる支援課のメンバーたち。その時、そんな困惑を吹き飛ばすかのようにマクダエル議長の大声が聞こえてきた。

 

「―――なんですとっ!?」

「今のは…」

「お祖父様?」

 

その声の先に視線を向けると、ロイド達ですら信じられないような言葉の応酬がそこにあった。

 

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閃Vの情報が更新されましたね。開始時期が1206年9月ぐらいだと想定すると、間違いなくクロスベル独立までのシナリオとみて間違いないかな? 所属クラス以外の面子はアルティナ込みで4:4のバランスみたいな感じでしょう。一人短剣のようなものを使う生徒もいるみたい(クルトのSSより)というか、アルティナ以外の女子面子が……うん、巫女の加護かな?(何がとは言わない)

 

とりあえず、ユウナとクルトは確定で出します。時期はTが終わったあたりを予定。

 

正直クルトの存在が想定外です。ミュラー絡みで兄弟関係解らなかったのでセリカ出したようなものですし。まぁ、そこら辺は何とか考えてはみます。年齢的には15歳だけど、エステルやヨシュアもFC開始時は16歳だからそこまで変わらないでしょうしw

 

ユウナのカップリングどうしようかな。できればオリキャラと絡ませたいんですよね(欲望ダダ漏れ)

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