暁の企み |
最近、暁が明石や大淀と結託して何事かを企んでいる気がする。
妙に俺の行動を監視しているような気がする。
釣りをしていても
「ジー」
執務室で執務をしている時でも
「ジーー」
暁に監視される事、数日、とうとう痺れを切らした俺が暁を捕まえようとすると、暁は「ぴゃー」と言う悲鳴を上げて逃げ去ってしまう。
片足が動かしづらい今の俺に、暁は捕まえることが出来ない。
いや、両足が動いていたとしても、駆逐艦である彼女に追い付くことは出来ないだろう。
前線にいた頃の経験上、何となく分かる。
艦娘と俺達人間の間には大きな隔たりが存在するが、そんな話は湿っぽくなるから太陽系の外側に置いておくとして、今はどうやって暁を捕まえるか、だ。
「い、嫌だなぁ。別に何にも企んでなんかいませんよー?」
基地にある小さな工廠に行くと、いつもの様につなぎを着た明石がいた。
明石は俺の姿を見ると、冷や汗をかきながら、視線をあちこちに彷徨わせ、そう言った。
「俺はまだ何も言っていないのだが?」
「あ、あはははは〜。私ってば何を言ってるんでしょうねぇ」
俺が一歩ずつ近づく度に明石もそれに合わせて後ろに下がる。
「疲れているのならば休んだらどうだ?2週間ほど本国の温泉地で羽根を伸ばしてくるといい」
「い、嫌だなぁ、提督。私は疲れてませんよ?提督ってば優しいから、私達に無理させませんし」
とうとう、明石の背は工廠の壁にくっついてしまった。
俺の顔を見ながら、横目で逃げ場を探す明石。
「往生際が悪いぞ?」
片手を明石の顔の横に置くと、明石の顔が赤くなっていく。
「ででででででででで、でも言えないんです!(うわわわわわ、か、壁ドンだ!提督に壁ドンされてる!)」
顔を真赤にしながらも、必死に抵抗を続ける明石に提督は口元を軽く歪めると、顔をどんどん近づけていく。
「ひゃ、ひゃあああああ!?(提督の顔が近づいて、息がかかって…きゅう)」
ある程度の近さになった時、明石は奇妙な声を上げながら頭から蒸気を噴出させ、気絶した。
「おーい、明石ぃ?」
壁に背を預け、目を回した明石の頬を軽く叩くが「うぅん、そこはダメですぅ」と意味の分からない事を言うのみで、一向に目が覚める気配がない。
しかたがないので、近くにあった毛布を明石にかけ、俺は工廠を後にした。
(暁は何を企んでいるんだ?)
考えても埒が明かないと思い、俺は執務室へと戻ることにした。
執務室のドアを開けると、執務室は何故か飾り付けされていた。
「なんだ……?」
「あ、司令官」
「予想していたよりも遅かったですね」
いつも執務用に置いてある卓袱台は壁に立てかけてあり、来客があった時のみ使う少し良い卓の上には色とりどりの料理が置いてあり、どれも良い匂いを発していた。
「お前ら、何してんの?」
「何してんのって、今日は司令官の誕生日でしょ?」
誕生日……、ああ、そんなのもあったな。
「忘れてたわ」
「やっぱりね」
そう言うと、暁は俺の手を引っ張って、上座に誘導し、座らせた。
「司令官に秘密にしながら、料理したり、飾り付けしたり、大変だったのよ?」
暁はそう言うと俺の右前の席についた。
「通りで大淀や明石と相談したりしていたんだな?んで、俺を監視していたのはなんでだ?」
気になっていたことを聞いてみると、暁は目をそらして「べ、別にいいじゃない!」と言った。
「いいじゃないか、教えてくれよ」
「嫌よ」
俺と暁が押し問答をしていると、大淀が「ゴホン」と咳払いをした。
「料理も冷めてしまいますので、夫婦喧嘩なら後でやってください」
「「ごめんなさい」」
「全く」と言いながらも、優しい顔をしている大淀はふと何かに気がついた。
「提督」
「なんだ?」
「明石、見ませんでした?」
この後滅茶苦茶怒られた。
俺の誕生会の後、執務室に残った俺と暁はお茶を飲んでいた。
「それで、さっきの質問の答えは?」
「分かったから、もー」
頬を膨らませて、暁は立ち上がった。
「ちょっとだけ、目を閉じてて」
「おう」
言われた通り目を閉じる。
何やらガサゴソと音がして気になるが、目を開けたら絶対に暁が怒るので、頑張って目を閉じておく。
そして、畳を踏む音が俺の方に近づいてくると、俺の手に軽い重みがかかった。
「目を開けていいわよ」
暁の合図で目を開けると、そこには小さな包みがあった。
「開けて、いいか?」
「うん」
暁からの許可を得たので、包みを丁寧に開ける。
するとそこにはペンダントがあった。
太陽を模したと思われるデザインで、他に余計な装飾は施されていない。
「ありがとう。とても嬉しいよ」
「うふふ、私が司令官を見てたのは司令官に似合いそうなデザインを思いつくためだったの。中々思いつかないから、シンプルな形になっちゃったけど」
「いや、こういうのがいいな。シンプルでも心がこもっているプレゼントがな」
そう言って、俺は暁の頭を撫でる。
暁は嬉しそうな顔をしながら、俺の手を受け入れた。
「司令官、もう一つプレゼントがあるから目を閉じて?」
「お、おお」
これ以上のプレゼントはいらない、と思いながら、目を閉じる。
すると、俺の唇に柔らかいものが押し付けられ、思わず目を開けると、目を閉じた暁の顔があった。
暁は俺から顔を離すと、悪戯っぽく笑った。
「えへへ、2つ目のプレゼントはね。私よ?司令官」
顔を赤らめて笑う暁を見て、俺は(もう、俺ロリコンでいいかも)と思った。
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