もう君を離さない
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深海棲艦との戦いが終わり、ようやく世界の海に平和が訪れた。

 当然、提督や艦娘たちは退役するなり、そのまま軍務に就くなり、各々の道を歩んでいった。

 だが、深海棲艦と言う陰の魂の集合体が陽の魂である艦娘たちに浄化されたことで、役目を終えた艦娘たちが突然何もなかったかのように消えていったのだ。

 

 

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 「なぁ、提督」

 「なんだ、天龍」

 

 海にほど近い一軒家の縁側でブレザーのようなものを着ている天龍と作務衣を着た元提督がお茶を飲んでいる。

 二人の間には長年連れ添った夫婦のような空気が流れていた。

 

 「オレを出撃させてくれ」

 「……もう、敵はいないんだぞ?」

 「ああ、それでもオレを出撃させてくれ」

 

 そう言うと天龍は手に持った湯呑みを床に降ろし、提督の顔を覗き込んだ。

 

 「お願いだ」

 「…………分かった」

 

 苦みばしった表情で許可を出すと、天龍は眩いばかりの笑顔を浮かべた。

 その表情を見て、提督は苦笑しながら溜息を吐いた。

 

 「天龍型軽巡洋艦一番艦、天龍」

 「はっ!」

 「任務を伝える!近海の哨戒を行え!敵を発見したら、撃破せよ」

 

 庭に立った天龍は敬礼をすると、海へ向かって走っていった。

 そして、二度とは帰ってこなかったのだ。

 

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提督サイド

 

 なんとなく予感はしていた。

 最初は金剛たちだった。

 突然、彼女たちが消えた。

 続いては赤城と加賀だった。

 彼女たちは俺の目の前で空気に溶けるように消えていった。

 次々と俺と共に苦楽を共にしていった娘たちがまるでそこに何もなかったかのように消えていくのだ。

 元提督仲間に急いで連絡を取ると、どこの艦隊でも同じことが起きていた。

 そして、今日、天龍がいなくなった。

 天龍もどこかで自分が消えてしまうことに気がついていたのだろう。

 最近、共に出かける頻度が増えたり、しきりに俺に対して、家事は大丈夫かなどと聞いてくる様になった。

 極めつけは、出撃したい、と言ってきたことだ。

 彼女の目は本気で、俺では止められない気がした。

 

 「天龍型軽巡洋艦一番艦、天龍」

 「はっ!」

 「任務を伝える。近海の哨戒を行え!敵を発見したら、撃破せよ」

 

 違うそんなことを言いたいんじゃない。

 俺は「また俺の元へ帰って来い!」、それが言いたかった。

 俺が任務を伝えてすぐ、天龍は俺に敬礼をして走り去っていってしまった。

 その後姿が、何故かぼやけて見えなくなった。

 

 「……バカヤロウ……」

 

 しばらくそこに立ち尽くし、家の中に戻る。

 ふと、テーブルの上に紙が乗っているのに気がついた。

 手に取ってみると、天龍の文字だった。

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 −提督へ−

 

 提督がこれを読んでいるってことは、オレは提督の元にいないんだろうな。ここ最近、ずーっと胸騒ぎがしてたんだよ。役目を終えたオレたちがいつまでも提督の所にいられないことをさ。いや、オレだけじゃなくて、龍田だって、金剛たちだってわかってたはずだ。

 提督、オレと提督が結婚してから、色んな事があった。提督と喧嘩をしたこともあったし、戦いが終わって、恥も外聞もなく二人で泣いたよな。でもさ、もう提督と笑い合うことも喧嘩することも、一緒に泣くことも出来ない。オレはそれが一番イヤだ。だって、まだ提督とやりたいことがいっぱいあるんだぜ?提督の子供を産むこと、そしてその子供を一緒に育てて、一緒に巣立っていくのを見守ること、子供の結婚式に出て、老後は世界中を旅するんだ。その時は龍田とか鎮守府の皆と一緒に行きたい。最後は提督のことを見送るんだ。泣いて泣いて、これでもかってくらいに泣いて、提督の後を追いかける。………それがオレの、いや私の望みでした。

 最後に、提督!幸せになってくれ。オレがいなくなったからって不摂生するなよ?すぐに来たら雷撃するからな?オレたちはいつでも提督のこと待ってるから、こっちに来たら色んな事話してくれよ?そして、皆であの頃のようにワイワイやろうぜ。だから、提督こっちにはゆっくり来てくれよな。

 

 

 

 愛してる、提督。

 世界中の誰よりも、提督のことを愛してる。

 

 

天龍

 

 

 

 

 

 

 

 

 手紙を読み終わった俺の頬を涙が伝って、手紙に染みを作った。

 

 「バカ………ヤロォ!」

 

 歯を食いしばり、放った言葉はセミの鳴き声の中に消えていった。

 

 

 

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 数十年後、俺は病床に臥せっていた。

 天龍たちとの別れの後、俺は一般企業に就職、普通のサラリーマンとして日々を生きていた。

 そして、俺は親戚の勧めで見合いをし、結婚した。

 子供は三人、どの子も元気に成長し、巣立っていった。

 その頃からだろうが、俺の身体に病魔が巣食っていたと気がついたのは。

 何年も闘病生活を送ったが、最近目を瞑ると浮かぶのは天龍たちといた鎮守府の風景だった。

 

 「提督、待ってたぜ」

 

 不意に声が聞こえた。

 声のした方を見るとそこには天龍が立っていた。

 

 「て…ん…龍?」

 「おう、提督の妻の天龍様だ」

 「本当に、本当にお前なんだな」

 「ああ、本物のオレだよ」

 

 力を振り絞り、俺は天龍を抱き寄せた。

 

 「もう絶対に離さない」

 「ああ、オレだって提督を絶対に離さない」

 

 そして、口づけを交わすと、鎮守府の中へ入っていった。

 

 

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 −提督が鎮守府に着任しました。これより、艦隊の指揮を執ります−

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