真・恋姫†無双異聞〜皇龍剣風譚〜 第四十五話 スパイシーマドンナ |
真・恋姫†無双異聞 皇龍剣風譚
第四十五話 スパイシーマドンナ
壱
「これまた、なんつー趣味的な……」
北郷一刀は今、及川祐と共に、卑弥呼が罵苦による都襲撃の復興作業のどさくさに紛れて地下に建設したという施設の心臓部(と説明された)部屋に居て、巨大なディスプレイに映し出された大陸の全体映像を眺めながら、感嘆の溜息を吐いていた。
「そうは言うがな、ご主人様。別に、遊びでやったわけではないのだぞ」
僅か数週間で巨大地下施設を(しかも重機すら用いずに)建造したらしい怪人物は、自慢のガイゼル髭を扱きながら、至極真面目な口調で言葉を続ける。
「ご主人様がこの世界に帰還してよりこっち、罵苦どもの行動は以前の大戦の頃の比ではないレベルで緻密、且つ複雑になっている。“世界の外”からでは、もはや正確な探知や予測は不可能と判断した。故に、この((龍の洞窟|ドラゴン・ケイブ))の建造に踏み切ったのだ」
卑弥呼がディスプレイの前に距離を置いて設えられた机の上のコンソールを何度か叩くと、赤い丸で囲われた都を中心に、同じ色の赤いラインが成都・建業・洛陽の三つの首都を結ぶ。
「最終的には、三国の首都の地下全てにこの施設を建造し、今回この都に張った結界と同種の物で守りを固めた上で情報を共有し、罵苦どもの侵攻を察知する防衛網を構築する予定だ」
「それ、ちゃんと王様連中に許可取ってんだろうな。主に若干一名、無断でこんな事やったら俺の首が物理的に危ない御方とかもいらっしゃるんだぞ?」
一刀は、黄金色の髪を見事な二重螺旋にセットした美しい少女が悠然と微笑みながらこめかみに青筋を立てている姿を想像して、ブルっと身体を震わせる。
「無論だ。根回しはしてある。ご主人様は忙しい様子だったので、こちらで勝手にやらせてもらった。事後報告で済まぬが、三人とも快諾してくれたぞ。尤も、この施設への立ち入りを限定する旨を納得してもらうのには骨が折れたが」
卑弥呼が腕組みをしてそう言うと、黙っていた及川が呆れた様に頷いた。
「まぁ、そりゃ入れたくないよなぁ。ド素人の俺が見たって、こんなオバテクの塊をこの時代に使いこなせたら、戦争に勝てる確率爆上がりなの分かるもんな」
卑弥呼は黙って頷き返すと、小さく溜息を吐いた。
「儂とて無論、あの娘らを信用していないわけではない。しかし―――」
「無駄に野心を抱かせる様な真似もしたくない?」
一刀が、マルボロをパックから振り出して咥えながら苦笑を浮かべてそう言うと、卑弥呼は「むぅ」と、返事とも唸り声とも着かない声で応えた。
「ご主人様の前で、こんな事を言うのは気が引けるのだがな」
「気持ちは分かるさ。気にするな」
一刀は、努めておどけた口調で言うと、ふぅ、と紫煙を天井に向かって吹きかける。紫煙は僅かに広がった後、換気用のダクトに瞬く間に吸い込まれていく。
まさかこの世界で、どこか心の落ち着く空調の低い駆動音を聴けるとは思いもしなかった。
「差し当り、罵苦の襲撃があった場合に限り、ご主人様が許可した時、許可した人材のみ、許可した設備だけなら使用してもよいという条件は付けたが」
「ま、妥当な落としどころだな。桃香や蓮華は兎も角、さしのお前も、華琳と交渉事なんかして((100:0|ヒャクゼロ))で条件呑んでもらえるなんて思ってなかったろ?」
「うむ。時には軍師陣の知恵も借りねばならぬ事態も起きようし、こちらにも利がないわけではない。多少のリスクは負わねばな」
「はは。あの軍師の皆さんに手札を見せるなんて、多少どころのリスクじゃないような気もするがな?」
一刀が笑って灰皿に灰を落としながらそう言うと、卑弥呼はボリボリと人差し指でこめかみを掻く。
「儂とて、希望的観測とやらをしたくなる事もあるのだ、ご主人様……ともあれ、当面の懸念としては、通常時にこの施設の情報管理を行う人間の確保というのがあったのだが、期せずしてそれも解決したし、晴れてお披露目というわけだ」
「なるほどね」
一刀と卑弥呼に見詰められ、及川は思わず自分の顔を指差して、曖昧な笑顔を作って見せる。
「え?もしかして、俺?」
「もしかしなくても、お前しか居ないだろ」
という一刀の言葉に、卑弥呼が応えて頷いた。
「左様。((演算機|コンピューター))の概念を理解しており、尚且つ使用方法もそれなりに理解しており、この世界の政治情勢になど関係がなく、更にはご主人様が信頼のおける人物となると、そなたしか居らぬからな、ご友人。あぁ、心配は要らぬぞ。コンソールは、日本語ローマ字入力対応にしておいた」
「俺、基本的にExcelとWordくらいしか使った事ないんですけど……」
逃げられるとは思っていないまでも、多少の抵抗を試みようとする及川の前に、卑弥呼の大きな手に握られた、分厚い辞書の様な紙の束が突き出される。
「そうであろうと思って、((手引書|マニュアル))を用意しておいたぞ。無論、日本語である。熟読しておいてくれい」
「おぉう……」
「よかったな、文系。文章は、読むのも書くのも得意だろ?」
「一刀お前ね、他人事だと思いやがって……」
「バカ言え、他人事なもんか。お前がミスして命が危ないのは、俺とこの国の人間達だぞ」
「そっか、そうだよな。すまん……」
しょんぼりと俯く及川の姿に、突然多くの人命を背負わされた頃の昔の自分を見た一刀は、苦笑して友人の肩を叩いた。
「まぁ、ゆっくりやれば良いさ。今まで何とかなって来たんだし、時間はあるだろ」
「お、おう。何とかしてみる……けど、なぁ」
尚も分厚い手引書を眺めて溜息を吐く及川に、卑弥呼も釣られて溜息を吐くと、やれやれと言うように首を振った。
「ふむ、不安は尤も。では仕方がない、ここは睡眠学習という手もあるぞ、ご友人」
「そんなん出来るんすか!?」
「うむ。ただし―――」
パッと顔を輝かせる及川に対して、卑弥呼は何故か頬を赤らめて、言葉を切った。
「あの……卑弥呼さん?」
「う、うむ。その為には……その……あの……だな」
「はい……」
及川がゴクリと唾を飲み込んでから数瞬、卑弥呼は意を決した様に目を見開いた。
「儂と、添い寝する必要があるのだッッッ!!(ぽっ)」
「はぁ……添い寝っすか……って、はあぁぁぁぁ!?」
「よし。やれ、卑弥呼」
「うぉい、一刀さん!!?何をシレっと人の貞操をドブに捨てるが如きご無体を仰ってやがるのこの暴君!!」
「五月蠅いなぁ、二人してデカい声出して……いいだろ、一日でコンピューターのエキスパートになれるんだぞ。しかもタダで」
「いや。この情報量だと、流石に一日では無理だぞ、ご主人様」
「そうなの?」
「うむ。((大凡|おおよそ))、三日はみて貰わんとな」
「そうか、まぁいい。やれ」
「一刀さぁぁぁん!!?」
「だから、五月蠅いよお前は。唾飛んだじゃんか……」
「だって、酷くなってるよね!?さっきより状況が酷くなってますよね!?」
「別に酷くはなってないだろ。最初から予定されてた情報が新しく開示されただけで……」
「そういう問題ちゃうやんか!!」
一刀はチェーンスモーキングをして、紫煙ごと溜息を吐く。漢女が関わると、一週間分の溜息を三十分で消費している様な気分になる。
「いやまぁ、だってなぁ……卑弥呼?」
「うむ。何だ、ご主人様」
「その三日ってのはさ、別に丸々七十二時間ってわけじゃないんだろ?」
「そうさな……一日の睡眠を六時間程度と換算しての三日だが」
「ほらな、及川」
「いや、何が『ほらな』なんだよ!?」
「つまり、たったの十八時間だけ我慢すりゃ、その分厚い紙の束にビッチリ書かれた情報が、全部頭の中に入るんだぞ?よく考えろって。自分で読んで試して何か月も掛けるより、ずっと楽だろ?」
「ぐぬぬ……」
及川が言い淀んだのを攻め時と見た一刀は、畳み掛ける事にして、灰皿に煙草を突き刺した。
「何だったら、華佗に頼んで眠くなるツボでもトスッとやって貰えば、手術と一緒でさ、目が覚めた時には何もかも終わってるだろうぜ。ま、どうしても自力でやり遂げたいってなら、強制はしないけどな」
「うぅむ……まぁ、麻酔掛けられて寝てると思えば大丈夫……なのか?」
「ご両人よ。儂、微妙に傷つくんですけど……」
及川は、そんな卑弥呼の呟きを無視して、盛大に肩を落とした。
「もういいや。それで……」
「よし、決まったな。じゃあ、お前が寝る前に来てもらえるように、華佗に連絡しといてやるよ。卑弥呼、他に何か用事は?」
「うむ。これを、二人に渡しておこう」
卑弥呼は、燕尾服の内ポケットから何かを取り出して左右の手に持ち、二人の前に突き出した。
「何か、凄まじく懐かしい形状だなおい」
一刀がそう言って曖昧な笑いをこぼすと、及川も同意して頷く。
「うん。俺のは、一昨日ついに電池切れちゃったけど……」
そう。卑弥呼の手にあるのは、二人が良く見慣れたスマートフォンその物であった。
「当初ご主人様に渡していた通信機だけでは、状況をフォローしきれないと言う事がハッキリしたからな。やはり、ご主人様と儂らは勿論の事、ご友人とも映像、画像、音声等の詳細な情報を素早く共有できる様にするのは必須だろうと判断した。多少、値は張ったが、OTOMEPERIAの最新機種だぞ」
「なぁ、一刀……」
「考えるな、及川。ツッコんだら負けだ」
「いや。俺、どうせならOPhoneの方が良かったなって。全然使用感違うし」
「中々やるな、お前……」
一刀は、及川の偏った順応力にある種の敬意を込めてそう呟くと、OTOMEPERIAなるスマホ紛いの代物を大人しく外套のポケットに入れながら、卑弥呼に尋ねた。
「使い方は、スマホと変わらないんだろ?」
「うむ。アプリで手引書も入っておる」
「了解だ。因みに電池は?」
「畜気電池採用の品だ。人が近くに居る限り、電池切れの心配はない」
「やれやれ。真桜が必死に作ってくれてる装置の数十分の一の大きさか。酷い話だ」
一刀とて、自分の知識や真桜の技術で作れる物以上のオーパーツじみたテクノロジーをおいそれと広めて良いとは当然、思っていないが、((所謂|いわゆる))、現代と呼ばれる世界ですら凌駕する代物を見せつけられると、流石に何とも言えない気持ちになる。
あるいは、華琳を始めとするこの世界の一部の住人達も、一刀の((齎|もたら))す知識を、今の一刀の様な気分で見ているのかも知れないが。
「ヘイ、一刀。チーズ!」
「む」
一刀が、及川の言葉に反射的にサムズアップをすると、パシャ、というお馴染みの音がした。
「って、思わずポーズ決めちゃったけど、何をしてんだよ……」
「いや、電話帳にお前の番号が登録してあったからさ。画質の確認ついでに、プロフ用の写真でも撮ってみようと思って―――お、結構画質いいじゃん、これ」
「馴染み過ぎだろ、お前……」
及川は一刀の渋い様な呆れた様な表情など柳に風といった様子でケラケラと笑った。
「良いだろ、減るもんじゃなし。受け入れろって言ったのはお前の方じゃないか」
「まぁ……」
「そう言うなよ。で、お前も俺の事、撮る?」
「撮るかよ」
「あっそ……あぁ、お前、恋人多いもんな。五十人も居たら、そりゃ携帯の扱いには慎重になるよな」
そんな事を言い合いながら、何故か一人で納得している及川を横目に、一刀は先ほど長いまま灰皿に突っ込んだ吸い差しを伸ばして火を点けた。
「いや。どの道、電話帳なんて、俺、お前、卑弥呼、貂蝉の四人から増えないんだから、意味ないだろって事だよ」
「え、そうなの?これ持つの、俺らだけ?」
「当たり前だろ。どこからでも通話が出来る機械なんて、それこそ戦争が変わるレベルのオバテクでもあるんだぞ。んなもんをホイホイと、この時代の人間に渡せるか」
「あぁ、そうか……ちょっと残念だなぁ。口説くには遅すぎるにしても、あんな可愛い女の子達の連絡先が電話帳に五十件も入ってるとか、結構な優越感だと思ったのにさ」
「ま、気持ちはよく分かるが、諦めろ。因みに、使う時には周囲をよく確認しろよ。一般人の居る場所で小箱に向かって話しかけてたりしたら、正気を疑われるからな。あと、真桜には何を言われても絶対に貸したり見せたりしない事。ちゃんとパスワードロックも忘れるな。あいつなら、見ただけで完コピしかねん」
「マジか……」
及川が、魏軍脅威のメカニズムに素直に感心している横で、卑弥呼が深く頷く。
「頼むぞ、ご友人。静脈認証も付いておる故、きちんと登録しておいてくれ。故意の解体は、キャリアもメーカーも保証の範囲外なのだからな。重ねて言うが、それなりに値が張ったのだ」
「夢があるんだか世知辛いんだかよく分からんな……」
一刀は、煙草を揉み消しながらそうと寄りかかっていた机から身体を起こした。
「さて、他に無いなら、俺は城門で雪蓮と冥琳を出迎えなきゃいけないんでな。そろそろ行きたいんだが」
「やっぱ、モテる男はマメだねぇ」
「そうだぞ。女性に喜んで貰う為なら万難を排する気概が大事だ。お前も宴会には呼ばれてるんだから、ちゃんと時間に来いよ」
「まぁ、差し当って気ままに遊びに出れる程まだ街にも慣れてないし、もう少しここを見て回ったら、ちゃんと行くさ」
及川が肩を竦めてそう言うと、卑弥呼が思い出した様に一刀の背中に言葉を投げた。
「そう言えば、後ほどタブレットも届くからな。明日明後日にでも、取りに来てくれ」
「何でまたタブレットまで……」
「いや、店員さんに、一緒に契約すると得だと言われてな」
「お前は初めてスマホに切り替えた時のかーちゃんかっての……まぁ、貰えるもんは貰うけどさぁ」
一刀は、苦笑を浮かべてそう言うと、ヒラヒラと手を振って部屋を出た。
弐
「ふぅむ……何ともはや、慣れるのに時間が掛かりそうだな、コレ……」
一刀は、自分の執務室に空いた空間から闇に伸びる階段が僅かに軋みを上げる本棚の影に隠れていくのを見遣りながら、ボリボリと頭を掻いた。
初めて見せられた時には、あまりにベタ過ぎた事に加え、一体いつの間にという疑念もあって、軽く吐き気を催すレベルで混乱した事を考えれば、既に大分慣れているのかも知れないが。
それにしても、自分の私邸にも同じような通路を作ったばかりか、現在は城門の外への直通路まで建設中と言うのだから、漢女道の深奥、恐るべしである。
「さて、出掛けるか……」
深く考えても良い事はあるまい。役に立つのならそれでいい、と自分に言い聞かせ、一刀は気持ちばかり外套の襟を正すと、執務室の扉を開けた。
既に太陽は中天を過ぎているから、今から((徒歩|かち))で行けば、城門のところでちょうど蓮華や小蓮たちとも合流できる筈だと目算する。
「いやぁ、地上って良いね、うん」
一刀はそう独り言ちて、中庭を突っ切って新鮮な空気を味わいながら、城門への道を急いだ―――。
参
「よう、お歴々がお揃いで」
一刀がそう声を掛けて軽く手を挙げると、建業へ向かう街道に視線を投げていた孫権こと蓮華と、孫尚香こと小蓮が振り返って、微笑みを見せてくれる。
護衛で付いてきたのであろう甘寧こと思春は、一刀が手を挙げる遥か前から視線を投げて寄越してきていたし、もう一人の護衛であろう明命は、小蓮辺りから頼まれてでもいるのか、律儀にも一心不乱に街道を見張りながら、手だけをブンブンと振っていた。
「一刀。思ったより早かったのね?」
「あぁ。ま、ちょっとした座学みたいなもんだったから……え?」
一刀は、何時もと変わらず優しく話しかけてくれた様に見えた蓮華が、何故か一刀が一歩近づいたのと同じ距離だけ後退したのを見て、ピタリと足を止めた。
よく見てみれば、蓮華の笑顔には貼り付けた様な不自然さがあり、何時もならば後ろに回り込んで首筋を狙いに来そうな状況である筈なのに、思春は蓮華よりも更に二歩ほども後ろに後退している有様である。
律儀な明命は視線を街道から外しこそしないものの、何やらその場で駆け足でもするかの様に両足を忙しなく動かしているし、唯一変わらない様子の小蓮は、それでも一刀に抱き着いて来る事もなく、愉快で堪らない時の猫の様な、何となく見る人間を不安にさせる愉悦の表情を浮かべて、周囲の様子を眺めているだけだ。
「えぇと……あれ?」
一刀が、確かめる様に更に一歩を踏み出すと、蓮華も思春も、同じ様に後退する。
相変わらず仏頂面の思春は兎も角、お面の様な笑顔を張り付かせたまま、ズザッ!と勢い良く後退する蓮華などは、若干、不気味ですらあった。
「何なのよ、みんなして……」
一刀が、呆気にとられた表情でアハハと乾いた笑いを浮かべる蓮華を訝し気に見ていると、小蓮がクスクスと喉を鳴らすように笑って、一刀の右腕にじゃれ付いてきた。
「あのねぇ。お姉ちゃんと思春はねぇ、一刀に食べられちゃうのが怖いんだよ」
「はい?食べるとな?」
「そーそー!ほら、この前、一刀、思春の事“おしおき”しちゃったでしょー。その時の話をね、思春がしてくれたんだけど……」
「うん。まぁ、今更だけど、仲良いよね……」
曹操こと華琳でもあるまいし、別段、趣味にしているわけでもない。
((件|くだん))の北郷×及川八百一本騒動の後、及川を交えた王達との食事の席でお互いの話を擦り合わせてみたのだが、事の発端は思春が一刀と及川の会話について口を閉ざしていたのに起因すると判明してからというもの、思春の杯を傾ける速度が加速し、何故か逆ギレ的に絡み酒の相手をさせられ上に、『私の罪を裁け!』とかなんとか、中二な発言と襟締めで脅迫されたのである。
思春が、他国の王達の前で酒に飲まれるなどそうは無い事なので、思いの外に慌てた蓮華に、一刀は思春ごと宴の席を放り出されたと言うわけだった。
「と言うかなぁ。あれは思春がやれって騒いだからやっただけで、俺の嗜好とかそういうわけでは……」
「う、う、う、五月蠅いぞ北郷!確かに私が酔った勢いでそんな様な事を言ったかも知れんが、何もあそこまでやれなどとは言っていない!!」
「い、いや、あれはだな。囚われの女スパイプレイが想像以上にハマってしまったのが要因と言うかだな!別にそこまでやったろうと思ってやったわけではなくて……!!」
「ねー?思春がこんな感じだから、お姉ちゃん、一刀に閨に呼ばれたら、思春みたいに次の日お仕事お休みしなきゃいけないんじゃないかって、怖がってるんだよぉ」
「しゃしゃしゃ小蓮!私が怖がるだなんて、そんなわけないでしょ!ただ、その、予定の調整とか心の準備とかあるし……その……突然だと困るから、前の日くらいには教えて欲しいかな……って……」
「いや、そんな濡れた瞳で見詰められましても……つか、流石に一国の王様を突然、閨に攫ったりしませんよ。華琳じゃあるまいし」
一刀が頭を掻いて溜息を吐くと、小蓮がニコニコと笑って、一刀の腕を引く。
「お姉ちゃんはこんなだけど、シャオなら何時でも呼んでくれて大丈夫だよ?一刀が望むならぁ、頑張って捕まった王女様になっちゃうんだから♪」
「なんと、堕ちた王女様プレイとな!?」
「小蓮!」
蓮華が真っ赤になりながら大声を上げると、小蓮は「キャー!」とわざとらしい悲鳴を上げて、一刀の
背に隠れてしまう。
「何よぉ!シャオはお姉ちゃんと違って一刀の妃が一番のお仕事だから、次の日お休みになったって困らないもんね!」
「貴女ね、それじゃ私が、一刀との褥を二の次にしてるみたいじゃないの!」
蓮華が小蓮を捕まえようと足を踏み出すと、小蓮はそれを機敏に察知して、持ち前のすばしこさで躱してしまう。何度かそれを繰り返す内に蓮華も頭に血が上って来たのか、段々とスピードが増して来て、壮絶なフェイント合戦の様相を呈して来た。
「おいおい、蓮華。そんな事してると、雪蓮の相手をする体力がなくなっちまうぞ」
一刀が苦笑してそう言うと、蓮華は「うっ」と唸って、渋々と小蓮に伸ばしていた手を引っ込めると、バツが悪そうに頬を染めた。
「貴方は分かっているわよね、一刀?私は決して、貴方への伽が――」
「あ!見えましたよ、皆様!雪蓮様の牙門旗と冥琳さまの旗です!」
蓮華の言葉を遮って、明命の嬉しそうな声が響いた。一刀にしてみれば、明命の指差す先に見えるのは豆粒ほどの小さな人影の群れでしかないのだが、彼女には旗のみならず、鮮明に雪蓮と冥琳の顔が見えているのだろう。
一刀は、決まり悪そうに俯いてしまった蓮華の頭を撫でつけてやる。
「分かってるよ。仕事と色恋を天秤に掛けろなんて野暮な事を言ったりしないさ」
大体にして、仕事に情熱を傾ける人間にその質問をしたら、大概は関係も末期であろう。
「俺は、何時も真面目で一生懸命な蓮華が好きなんだからな」
「一刀……」
「いけません、蓮華さま!それこそ北郷の何時もの手!こやつの口車に乗ると、私の二の舞になってしまいます!」
蓮華が、頬を染めて一刀の前に一歩を踏み出そうとすると、思春が二人の間に割って入る。つまるところ、今まで散々に避けていた、一刀の目の前に。
「(なんだ思春。そんなに縛られるのが良かったのか?)」
「な、な、な、な!!?」
物は試しと思春の耳元にそう囁いてみると、思春の褐色の肌にカッと朱が差した。
「ふむ、図星か。俺はてっきり、目隠しの方が気に入ってるのかとおも―――うぉう!?」
一刀は、風切り音を伴って振り下ろされた思春の愛刀『((鈴音|りんいん))』の刃を間一髪、白刃取りで受け止めると、両手の指を組んでガッチリとホールドする。
空気を読んだ小蓮が咄嗟に腕を解いてくれていなければ、一刀両断のところであった。
「極至近距離からノーモーションで上段斬りとか止めて頂けませんかね、思春さん!?どこの柳生十兵衛さんだよ、お前は!!」
「五月蠅い五月蠅い!牛でも豚でも知った事か!この上は、お前を殺して私も死ぬッッ!!」
「いやいや、無理にヤンデレ属性とか付けなくて良いから!今のままでも十分にキャラ立ってるから!!体重掛けて押し込まないで!死ぬ!マジで死ぬから!!あと、目の焦点合ってないの怖すぎるよ!!?」
一刀はどうにか鈴音の刃を横に寝かせてねじ伏せようとするものの、鈴の甘寧も流石にさるもので、湯気でも出そうな顔色になりながらも、そうはさせじと踏み止まる。
「私がもう無理だと言ってるのに、お前が……お前が何度も何度もするから、こんな事に!」
「そんなに恥ずかしいなら、プレイ内容の報告とかしなきゃ良いだろ!ちょっと蓮華!腕疲れてきたんですけど!?見てないで早く助けてくれってば!!」
「ハッ!?ご、御免なさい、一刀。見事な死合いだったから、つい見とれてしまって……」
「それ、絶対に“しあい”のニュアンス違うよね!?良いから、早く!!」
「そ、そうね!明命!」
「は、はい!思春殿、落ち着いて下さい!!」
主命を受けた明命が、悲壮な決意を秘めた表情を浮かべて思春の後ろから組み付き、何とか引き剥がそうと試みるが、錯乱してリミッターが外れた思春の((膂力|りょりょく))に苦戦して、中々、思うように行かない。
「離せ明命!後生だ!私と北郷を死なせてくれ!」
「いやいや、何で俺まで心中する気満々みたいな感じに言ってるのさ思春さん!!?ノーモア・アベサダ!ノーモア・曽根崎!!」
「そうですよ思春殿!一刀様を殺っちゃったら、孫呉の立場が!蓮華さまのお立場が悪くなっちゃいますからぁ!!」
「うぅ……!?蓮華さまの……?」
「ですです!ですから、どうかお心を鎮めて下さい!」
「む……ぅ……」
「はぅあ!な……何とかなりましたぁ……」
力の抜けた思春を如何にか引き剥がした明命が、肩で息をしながらへたり込むと、その後ろの方で、「お〜い!!」と言う雪蓮の声が響いた。
どうやら、この騒ぎの間に、一里(約400m)程の距離まで近づいて来ていたらしい。雪蓮は、隣で馬首を並べていた冥琳に何事か話しかけてから、単騎で並足も軽やかに出迎えの一行の元に先行して来る。
「出迎えありがと〜!みんな、久し振りね。相変わらず、命懸けで((殺|あい))し合ってるみたいで嬉しいわ。やっぱり、孫呉はこうでなくちゃ♪」
「おう、お帰り雪蓮。て、姉妹でどうしてそう物騒な……まぁ、血筋か……」
「ふふっ、そういう事♪ただいま、か〜ずとっ!」
「おぉっと。はは」
雪蓮は、馬上から華麗に飛び降りるなり、何時の間にやらしっかりと一刀の右腕を確保し直していた小蓮とは反対の左腕に縋りついた。
「お帰りなさいませ、姉様。長いご視察、お疲れ様でした」
「雪蓮姉様、お帰りなさい!」
蓮華と小蓮が嬉しそうに微笑んでそれぞれに雪蓮に労いの言葉を掛けると、雪蓮はパチンと片目を瞑って見せる。
「えぇ、ただいま二人とも。ま、たまには長女らしい事もしなくちゃね。それにしても、こっちでは私の居ない隙を狙ったみたいに面白そうな事が起きまくってたらしいじゃない。まったく、失礼しちゃうわぁ」
「勘弁してくれよ、雪蓮。本拠地が化け物に総攻撃受けるのなんて、全然、面白くないぞ……」
一刀が、頬を膨らませる雪蓮に微苦笑を向けながらそう言うと、何時の間にやら近づいてきた冥琳が溜息を吐きながら馬を降りて、既に雪蓮の馬の手綱を引いていた思春と、その横で待機していた明命に挨拶をし、自分の馬を預けた。
「無駄だ、北郷。この戦狂いに『敵の襲撃など楽しくない』などと説教したところで、馬に『草など食べても美味くないだろう』と言うのと、結果は大して変わらんさ」
「まぁ、分かっちゃいるけど、冥琳ほどの境地に至るには、まだ修行が足りないって。お帰り、冥琳」
「あぁ、ただいま―――蓮華さま、小蓮さま、ただいま戻りました。お見受けしたところお変わりもなく、喜ばしい事です」
そう言いながら微笑んで包拳の礼を取る冥琳に、蓮華と小蓮も笑顔を返す。
「貴女もね、冥琳。姉様のお目付け役もそうだけれど、色々と内政に手を入れてくれたのでしょう?ありがとう」
「いえ、それが私の好きでしている仕事ですから。どうか、お気遣いなきよう」
冥琳が礼を解きながら蓮華にそう言うと、一刀の腕に抱き付いたままの雪蓮が、我が意を得たりとばかりに頷いてみせる。
「そうよぉ、蓮華。冥琳は、好きな机仕事をしながら私とずっと二人でイチャイチャ出来て幸せだったし、私はゴミ掃除がてら冥琳と二人でイチャイチャ出来て幸せだったし、足りなかったのは一刀の胤くらいだから、心配しなくて良いんだって」
「姉様は、またそう言う―――!」
蓮華が、顔を赤くしながら窘めようとようとすると、雪蓮はわざとらしい悲鳴を上げて、一刀の背に隠れてしまった。
「まったく、本当にそういうところは小蓮とそっくりなのですから……」
蓮華の諦め混じりの言葉などどこ吹く風と小蓮と顔を見合わせて笑った雪蓮は、直ぐに頬を膨らませて、これまた小蓮にそっくりの仏頂面を作って見せる。
「大体、蓮華も悪いのよぅ。わざわざ手紙で、思春が朝までたっぷり、しかも足腰立たなくなるまで可愛がってもらった話なんか書いて寄越してさ!おかげで、敢えて考えない様にしてたのに、身体が火照って仕方なかったんだからね!」
雪蓮の、人によっては自爆になりかねないトンデモ発言を聞いた一刀が、両腕が自由なら背を向けて逃げ出したくなる衝動を抑えて蓮華を見遣ると、顔を赤くして言い淀む蓮華の後ろで、颯爽と馬に跨る思春の姿が見えた。
「あ、てめ、思春!一人だけ逃げるとか狡いぞ!!」
「えぇい、五月蠅い!私は主命にて、馬を厩に届けるだけだ!貴様、後で覚えていろよ北郷!!」
「それが、人を縦に真っ二つにしようとした奴のセリフか!」
「黙れ黙れ!明命、ボサっとしてないで貴様も来い!」
「はぅあ!?お、お待ちください思春殿!思春殿ぉ!?」
「ありゃりゃ、ホントに行っちゃったわね、思春ったら」
雪蓮が、慌てて皆に深くお辞儀をした後、思春の背中を追って馬で走り出した明命の背中を呆然と眺めながらそう呟くと、冥琳が美しい指で目頭を揉みながら、溜息を吐いた。
「暇乞いもせずに駆け出すとは、よほど恥ずかしかったのだろうな。雪蓮、全く貴女って人は……主家が臣下に妬いてどうするのよ」
「え〜。だってぇ、私、一刀に足腰立たなくなるまで責め立ててもらった事なんかないのよ?それどころか、一刀が帰って来てからは一度も閨を共に出来てないし……冥琳もでしょ?」
「それは……そうだけど……」
「だからさ、ちょっと位は冷やかして意趣返ししたって良いじゃない?それに―――」
雪蓮はそこで、急に大人しくなってしまった蓮華に、悪戯っぽい眼差しを向けた。
「蓮華も思春の事が妬けちゃったから、鬱憤晴らしに私に知らせて来たんでしょ?手紙なら、口に出来ない事もスラスラ書けてスッキリしたりするもんね〜?」
「うぅ……」
「でも、今日はダメだからね、蓮華。今日は、私と冥琳が一刀を貰うんだから♪」
「え〜!雪蓮姉さま、シャオも混ぜてよぉ」
「あら、小蓮と言えど、今日ばかりは譲れないわよ♪私達が居ない間に、一刀に可愛がって貰ったんでしょ?」
「う〜、そうだけどぉ……はぁ、仕方ないなぁも〜」
「ふふっ、ありがと!」
「こら、雪蓮。何の断りもなく私まで巻き込むな。それに、北郷の都合も確かめずに―――」
「あら。一刀は、私達の帰還祝いがある日に他の((娘|こ))と閨にシケ込む様な甲斐性なしじゃないわよ。ねー、一刀?」
「まぁ、それはその……実は、二人が嫌だって言っても押し掛けるつもりだったけどねっ!!」
「キャー、一刀カッコいい!!って、事らしいけど、どうする、冥琳?まさか、惚れた男にここまで言わせて、一人で寝たいとか言っちゃう?」
「そっ!?そんなわけが……なかろう。い、言わせるな恥ずかしい」
相も変わらずの二人の遣り取りを聞いて苦笑を浮かべた一刀は、雪蓮の手を優しく解いて、ガラス細工の様な髪に彩られた彼女の頭に、掌を乗せた。
「おいおい雪蓮。俺が言うのもあれだけど、あんまり冥琳を苛めるなよな」
「えー。だって、冥琳たら、私の相手をしてくれる時は何時も程良いところで先に寝ちゃうくせに、思春の話を聞いてからこっち、私がどれだけ愛を込めてご奉仕して上げても物足りなさそうにしてさ、『もっともっと』って―――」
「し、し、し、雪蓮!?貴様―――!!」
「キャー、冥琳が怒ったー!逃げろー!」
雪蓮は、ケラケラと少女の様に笑うと、ヒールの音も高らかにさっさと城門の中に入って行ってしまった。
「まったく、子供なんだから……」
冥琳は呆れた様にそう呟いて、一刀に照れくさそうに視線を投げた。
「すまなったな、北郷。その―――」
「何で謝るんだよ、冥琳。俺、凄く嬉しいけど?」
「そ、そうか。わ、私もな、お前にそう言って貰えて、その、嬉し―――」
「ちょっと―――!!みんな、何で私を一人にするのよぅ!?早く来なさいよ―――!!」
「…………はぁ。まったく、あやつと来たら……」
冥琳が、城門の中から不機嫌そうに手を振る雪蓮の声に、がっくりと肩を落とすと、一刀はそんな冥琳の様子がおかしくて、思わず声を上げて笑ってしまった。
「むぅ。北郷まで雪蓮に付くのか?」
「まさか。俺は皆の味方だよ。でも……ああいう雪蓮だから、冥琳は愛してるんだろ?」
「ふん。知らんな!さ、我が主殿がムズがる前に、さっさと行くか」
「あれ。そう言えば、護衛の兵士たちはどうしたの?随分待たせちゃったと思ったら、姿が見えないけど」
「朝から雪蓮の上機嫌ぶりを見ていれば、お前たちに会うなりこうなる事は予測できたからな。先ほど、我らを待たずに厩に行って解散して構わんと下知しておいたさ」
「流石は断金の朋。何でもお見通しだな。でも、せめて労いたかったんだけど、悪い事しちゃったなぁ」
一刀がそう言うと、どうにか調子を取り戻したらしい蓮華も頷いて、一刀の隣に並んだ。
「そうね。長い間、頑張ってくれたのだし、直接、言葉を掛けて上げたかったわ」
「何、それなら後日、改めてでも良いでしょう。今日は、蓮華さまと北郷の名前で酒の四・五樽も届けてやれば、そちらの方があれらには嬉しいでしょうしな」
「あはは!そうだよね!なんてったって、孫呉の兵だもん!」
小蓮が、何故か嬉しそうにそう言って、雪蓮を追って走り出す。
夕日に照らされたその姿を目で追いながら、一刀は胸を掻きむしられる様な愛情を覚えて、「そうだよな。孫呉は、こうじゃなくちゃ」と、雪蓮の言葉を繰り返した。
英雄・孫策が誰より早く駆け出して、冥琳が、優しい目をして文句を言いつつ、蓮華と一刀を支えてくれながら、その後を付いて行って。その周りを小蓮が嬉しそうに走り回って。
そして、今はここに居ない頼もしい将兵達が、それを見て笑ってくれていて。
「なぁ、蓮華」
「ん、なに?」
小蓮を気遣って冥琳が後を追いかけて行き、取り残された蓮華と一刀は、いつの間にか二人きりで通りを歩いていた。
「俺が、守るから」
「え?」
「俺が、絶対にみんなを守るから。この光景を守る為なら―――」
一刀は、影法師になりかけている三人に目を遣ってから、いつの間にか、ぴたりと横に付いてくれていた蓮華の右手を握って、真っ直ぐにその、碧く美しい瞳を見返した。
「俺は―――神様にだって勝ってみせるよ」
「一刀……えぇ、分かってる」
蓮華は、慈しみを込めてそう言うと、不意に左手の親指を一刀の頬に当てて、優しく擦った。
「あれ……俺……」
蓮華の指の感触で、一刀は初めて、自分が一粒の涙を流していた事を知った。
それは、自分の中に統合された、どこか別の世界で生きた北郷一刀の記憶の残滓が流したものだったのかも知れなかった。
「貴方は、私の初陣の時も、そう言ってくれたわよね」
「さぁ……そうだったかな?」
「惚けて。憎らしい人」
蓮華は、優しく一刀の腕を((抓|つね))ると、懐かしそうに眼を細め、朱に染まった空を見上げた。
「あの時も貴方は約束してくれて、こうして今まで、約束を守ってくれたんだもの。信じてるわ、一刀」
「―――あぁ」
再び視線を戻した蓮華と見つめ合いながら、ゆっくりと歩を進める一刀の耳に、何故か愛しの英雄の声が近づいて来た。
しかも、もの凄い速さで。
「かーずーとーっ!ドーン!!」
「うわぁ!?って、雪蓮、何で戻って!?折角、冥琳とシャオが追いかけてくれてたのに」
突然に胸に飛び込んできた雪蓮を抱き留めながら、一刀が戸惑い気味にそう言うと、雪蓮は上機嫌も極まったとでも言いたげな顔で、一刀の背中に回した両腕に力を込めた。
「うん。だって今、一刀の声が聴こえたんだもの」
「俺の声?」
「そっ!あのね、胸がきゅーってなる様な声で、『愛してるよー!!』って!」
「……そっか」
「そうなの!その声を聴いたらね、私ももう、一刀が大好きーって気持ちを抑えられなくなっちゃった!空耳なんかじゃない……でしょ?」
自信に満ちた声で、それでも敢えて問いかけてくる雪蓮を抱き返しながら、一刀はさくら貝の様な愛らしい耳に、そっと囁いた。
「あぁ、空耳なんかじゃないよ。俺は雪蓮のことも、蓮華のことも、冥琳のこともシャオのことも、ここに居ない呉の他のみんなも、命なんて惜しくない位、すごく、すごく愛してるから」
「あはは!うん。やっぱり、私の男を見る目は間違ってなかった!」
「よく言うよ。断言出来るほどの数、男を品定めなんかしてたっけ?」
「んーん。でも今のところ、勝率十割だしね♪」
身体を離して、蓮華の反対側に回った雪蓮が、これまた自信たっぷりに豊かな胸を張ってそう宣言する様子を見た一刀は、蓮華と顔を合わせて微笑んでから、雪蓮の手を握った。
「そうか。じゃあ、信用しないわけにはいかないな」
「でしょでしょ?それよりほら、早く帰りましょうよ!私もう、お腹ペコペコなんだから!」
そう言いながら自分の手を引く雪蓮の風に棚引く髪から漂う香りを鼻先で感じながら、一刀は、両手の温もりを決して離すまいと密かに誓って、小蓮と冥琳が待つ方へ、軽やかな気持ちで歩を進めるのだった―――。
あとがき
はい、というわけで、今回のお話、如何だったでしょうか?
そろそろ、『まさかゴルゴムの仕業か!!』方式にも限界を感じていた昨今、折角、及川君が来たので、サポート体制の強化に踏み切ったのですが、「そう言えば、呉の恋姫って殆ど書いてないよな……」と思い至り、それなら雪蓮と冥琳がトップバッターだろうと書き始めてみたら、こう、色々と溜まっていたらしく(笑)……。
なんというか、二人とも書いていて凄く楽しいキャラクターで、話が終わらないわ終わらないわ……気が付いたら、wordにして現在40P超にまで膨らんでしまい、まだ終わらないという事態になっておりまして、これではいかんと、急遽、二話に分けて投稿する事に致しました。
さて、今回のサブタイ元ネタは、
スパイシーマドンナ/BRADIO
でした。
個人的に、日本で今一番恰好良いと思っているバンドさんです。
公式PVをYouTubeにも投稿していらっしゃるので、ご興味があれば是非。
次は、雪蓮と冥琳とのイチャラブ回にしたいなぁ、と思って進行中です。
革命第一弾の魏編発売までも半年を切りましたし、頑張って書きますので、宜しくご愛玩頂ければ幸いです。
では、また次回お会いしましょう!
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どうも皆様、YTAです。 雪蓮と冥琳をメインに書き進めていたらあまりに長くなってしまったので、二話に分割して投稿する事にしました。 では、どうぞ! |
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コメント | ||
殴って退場さん、コメントありがとうございます。最近、コメディを書いてなかったので、色々と詰め込み過ぎましてw三姉妹丼ですか…燃え尽きて真っ白になりそうですw(YTA) 卑弥呼の添い寝…これ何の罰ゲームww。そして思春のヤンデレ化、武器を振り回す分かなり迷惑なww。夜のあれは何時かは孫三姉妹同時出演希望化ww。(殴って退場) |
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真・恋姫†無双 呉 雪蓮 蓮華 冥琳 思春 | ||
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