大和
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「超弩級戦艦、大和。ただいま、着任いたしました」

 

 

 敬礼をしながら、私は提督に挨拶をする。

 彼も敬礼を返しながら、挨拶を返してきた。

 この後はなんて言ったのだったか…。

 ああ、確か…。

 

 

 「超弩級戦艦、と言うから厳しそうな[[rb:娘> こ]]が来るかと戦々恐々だったけど、可愛い顔をしているじゃないか。」

 

 

 何とも軟派な発言をしてきたのだった。

 私はこの時、「ふざけないでください」と返した気がする。

 でも、この時から私は彼の艦隊の一員になったのだった。

 

 

 

 

 その日から、私は提督の秘書艦として、第一艦隊の旗艦として何度も出撃した。

 時には大けがを負う事もあったが、誰ひとり欠けることなく鎮守府に帰還した。

 そして、提督や艦隊に皆と大騒ぎをしたり、時には大喧嘩をした。

 私は段々、提督の人柄に触れ、惹かれて行った。

 そう、あの時までは…。

 

 

 

 

 

 「え?」

 「近々、バシー島沖にある島に巣食っている深海棲艦の巣を殲滅することになった」

 

 

 突然、降りた任務。

 それはあまりにも簡単なように見えた。

 そう、バシー島沖はすでに攻略している。

 戦闘力も大体わかっている。

 

 

 

 そう、この時の私たちは慢心していたのだ。

 

 

 

 

 

 ○月□日 天気:晴れ

 

 

 海は穏やかで、視界も良好。

 敵の姿もよく見える。

 私たちの艦隊も体調、整備ともに万全だ。

 深海棲艦の巣を撃滅するにはいい日だ。

 今回は提督も何があるかわからないと言う事で、駆逐艦に乗って指揮を執ると言う事だ。

 提督の指揮に間違いはない。

 そう、この戦いが終わったら、私は提督に大事な事を話さなくてはいけない。

 

 

 

 「大和、ちょっといいか?」

 

 

 戦闘準備を終え、出撃までの時間を過ごしていると、提督がやってきた。

 どこかそわそわとしていて、落ち着きがない。

 出撃前だから仕方がないだろうと、私は結論付ける。

 

 

 「話が…あるんだ」

 

 

 話があると、私の目をまっすぐに見つめてくる。

 

 

 「ここで言う事じゃないかもしれないが…、今言わないと後悔しそうな気がして…」

 

 

 いつになく歯切れの悪い喋り方をする提督。

 

 

 「大和。この戦いが終わったら、俺と結婚してくれ。返事は戦いが終わってからでいい」

 

 

 そう言うと、提督は踵を返し、足早に立ち去った。

 訳も分からず立ち尽くしていると、後から言われた意味を理解し、顔が熱くなった。

 

 

 「い、今言う事じゃないでしょう!!提督のばかーー!」

 

 

 照れ隠しに、姿が見えなくなった提督に悪態をつく。

 

 

 それを龍田と扶桑、山城に見られていて、からかわれたのは完全に余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 「見つけました!!」

 

 

 偵察機『彩雲』を飛ばした赤城が鋭い声を発する。

 いつもののほほんとした様子は一切見えない。

 

 

 「こちら天龍。敵さんのお出ましだ!交戦を開始する!!」

 「こちら暁。敵の駆逐艦は私たちに任せて!!」

 

 

 接敵と同時に交戦を開始する。

 

 

 「ビッグ7の力をなめるな!!」

 

 

 長門が砲門を開き、敵の戦艦に大きな被害を与える。

 それに続いて、扶桑、山城、金剛などと言った戦艦も砲門を開いて先行している軽巡、駆逐艦娘を援護し始める。

 正規空母、軽空母、水上機母艦が搭載する艦攻、艦爆、艦戦を出撃させ、敵戦力に打撃を与える。

 所々で大きな爆発が見えるのは、潜水艦の伊168と58、19の姉妹が敵にダメージを与えているのだろう。

 重巡組は軽巡、駆逐組が取りこぼした敵を確実にたたいていた。

 全ては順調に思えた。

 

 

 「提督、五十鈴との連絡が取れません!!」

 「なに!近くにいた奴は!!?」

 「近く…、と言うと川内です!」

 「今すぐ連絡しろ!『五十鈴に異状あり、今すぐ確認されたし』と!!」

 「了解!!」

 

 

 雲行きが怪しくなり始めた。

 五十鈴との連絡が取れなくなった。

 

 

 「川内からの連絡です!『五十鈴、轟沈せり』、繰り返します。『五十鈴、轟沈せり』!」

 

 

 衝撃の事実だった。

 

 

 さらに悪い事は続く。

 

 

 「第六駆逐隊との連絡途絶!さらには愛宕との連絡も途絶!!」

 

 

 被害が増えていく。

 

 

 「赤城、加賀。偵察機を飛ばして、あちらを見てくれないか?」

 「「諒解!」」

 

 

 赤城と加賀が偵察機を飛ばし、暁たちが沈んだ箇所を偵察させ、提督は一旦現在交戦中の艦娘たちに後退を命じた。

 その援護に私を含めた後方の戦艦組が後退を援護する。

 

 

 「くそっ!何人やられた!」

 「はい、暁型が全員と愛宕、五十鈴、球磨、阿武隈、北上、大井の10人になります」

 「撤退するべきなのだろうな…」

 「…悔しいですが、撤退しましょう…」

 

 

 そう言うと提督は撤退の指示を出す。

 その時、警報が鳴った。

 

 

 「て、敵です!総数、50を超えています!!?」

 「くっ、縄張りを侵したものを撃滅する気だな…。仕方がない、疲れているところ悪いが、簡易的な補給が終わったものは出撃しろ。敵がこちらを追いかけてきている」

 

 

 その言葉を聞いた、私達はすぐさま疲労した体をおして出撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一体何体の敵を葬っただろう。

 もうすでに46p三連装砲は使い物にならなくなり、15.5p三連装副砲のみで戦っている。

 周囲を見ると、幾人かいなくなっている。

 敵は撃破しても撃破してもいなくならない。

 むしろ増える一方だ。

 

 

 「負けちゃダメ!」

 

 

 自分にそう言い聞かせる。

 そうでもしないと、自分の心が折れてしまいそうになるからだ。

 

 

 「あれ?」

 

 

 弾が切れた。

 私が使える武器は何一つなくなってしまった。

 

 

 「このままでは!!」

 

 

 そう言った瞬間、後方から轟音が聞こえてきた。

 慌てて、後ろを振り向くと提督の乗っていた駆逐艦が炎上していた。

 

 

 「て、提督!!!」

 

 

 慌てた私は頭部に強い衝撃を受け、気を失った。

 最期に見たのは、提督の[[rb:艦> ふね]]が大爆発を起こした所だった。

 

 

 

 

 次に私が目が覚めたのは昏い昏い海の底だった。

 

 

 「提督は…どこ?」

 

 

 浮上して、提督の場所を確認するが、そこには何もなかった。

 

 

 

 

 それからの私はずっと放浪を続けていた。

 仲間がいれば、提督の事を聞こうとした。

 だが、皆、私に攻撃をしてくるばかりで話一つ聞いてくれない。

 

 

 いつしか私は提督を探すと言う目的の為に攻撃をしてくる艦娘たちを攻撃するようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある記録がある。

 名前はかすれて確認できないが、とても優秀な提督がいたのだと言う。

 その提督のたった一度の敗戦。

 自らの命さえも奪った戦いだった。

 その戦いの中で一人最後まで戦い沈んだ艦娘がいたと言う。

 その艦娘の名前は『大和』。

 かつて第二次世界大戦末期に日本の威信を背負って就航した彼の戦艦。

 だが、偶然生き残った『文月』と言う駆逐艦の証言によると、提督の乗っていた艦が沈んだのに気を取られ、敵の砲弾が直撃、そのまま轟沈したそうだ。

 だが、その数日後にその海域で新たな深海棲艦が出現。

 遠征中の呉鎮守府の艦隊が全滅。

 ただ、運よく生き残った艦娘たちの話を総合すると、誰かを探しているらしい。

 戦う前にその口が「どこ…」と動いていたそうだ。

 現在もその深海棲艦は彷徨っていると言われている。

 もしかしたら、彼女は自身の提督を探して彷徨っているのかもしれない。

 

 

 某月某日(木)      筆者 ■■■■

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