鳳翔 |
俺が名前も知らない、誰からも忘れ去られたような小島にある小さな鎮守府に左遷されたのはいつの頃だっただろうか。
何故左遷されたか?
それはただ上官の命令に逆らった、それだけだ。
着任して驚いた。
鎮守府とは名ばかりの小さな部屋。
建造するための設備もなく、辛うじて補給用の施設と入渠用の施設があるのみ。
そして、重要なのは与えられた艦娘だ。
俺が与えられたのは『鳳翔』と呼ばれた軽空母一人のみ。
彼女は何一つ文句も言わず、俺に付いて来てくれた。
俺の艦隊にいた他の艦娘たちは俺が左遷されることになって、皆他の鎮守府に転任していった。
元気でやっているだろうか。
話は変わるが、この俺の鎮守府(笑)の海域には数多くの深海棲艦がいる。
だが、この深海棲艦たちは何故か島を襲ってこない。
それどころか、島の住民が漁に出ると、近くに寄って行って興味深そうに覗き込んでいるのだ。
それを初めて見た時はとてもとても驚いたものだった。
島の住民も彼女たちを『良き友人』と呼んでいた。
俺たちも迂闊に攻撃できなくなり、と言うか鳳翔だけでは物資の支給もない俺たちでは攻撃できないのだが…、非常にのんびりとした生活を送っている。
「提督、今日は村の方々から頂いた、ニンジンやゴボウ、里いもを使って芋煮汁をつくってみました。」
「いつも、すまないな。」
「いえいえ。」
こうして見ると、なんだか夫婦みたいで照れ臭くなる。
「冷めちゃいますから、食べましょうか。ほら、ヲ級ちゃんもおいで。」
「ヲッ!!」
最近、鎮守府に棲みつき始めた空母ヲ級も食卓に着き、皆で夕ご飯を食べ始める。
鳳翔はその雰囲気から村でも人気者で、|なぜか《・・・》深海棲艦からも好かれている(特に空母ヲ級や軽空母ヌ級に)。
かく言う俺は村の男衆に交じって狩りや畑仕事をして、日々暮らしている。
本部からの連絡も全く来なく、多忙な時を過ごしていたころに比べたら本当にのんびりしている。
「このまま、ゆっくり過ごせればな。」
「何か言いましたか、提督?」
「いいや、何も。」
今は、この幸せを享受しよう。
深海棲艦との戦いも俺にはもう関係ない。
俺は鳳翔と時々深海棲艦と生活して行こう。
〈鳳翔〉
私の計画は成功しました。
提督を私だけの提督にすると言う計画。
その為に私は色々と手をまわしました。
海軍の上層部に提督を左遷させてくれるようにお願いをして、承諾させました。
全く意地でも首を縦に振ろうとはしませんでしたね。
その気持ちは分かります。
だって、私の提督はとても優秀な提督でしたから、出撃すれば必ず戦果を挙げて帰ってきました。
そんな提督を誰が好き好んで左遷させたがるでしょう。
だから、承諾させるのには少々骨が折れました。
「また、こんな電報を送ってきて。」
私の手には救援を求める電報がありました。
普通なら提督が処理をするべきものなのでしょうが、生憎提督は村の人々と山に猟に出かけています。
なので、この案件は全部私の手に委ねられていると言う事。
だから、握りつぶし放題。
折角、提督の頭から深海棲艦との戦いを追い出したのに、また追い出す作業をさせるのですか。
思わず笑みを浮かべてしまいました。
「完膚なきまでに消しますか。」
救援を求めている艦隊と言うのは、丁度ここの島の付近にいると言う事でしょう。
だったら、私が手懐けた子たちをけしかけましょうか。
その為に深海棲艦をこの海域に集めてきたのだから。
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