インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#129
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((非実体波動杭|エネルギー・パイル))が炸裂したのは千冬たちが到着したとほぼ同時であった。

 

「ヒュー、やるねーぇ。」

 

束の口笛になっていない口笛とともにこぼれる賞賛の言葉。

 

 

内側から爆発を起こして巨大ISがその姿を崩してゆく。

 

そう、まるで((自爆した|・・・・))かのように。

 

爆炎が吹き、立ち上る黒煙。

それに崩れた残骸が巻き起こす土煙。

 

「ちっ、逃げられたか。」

 

「((蜥蜴の尻尾切り|Lizard's casting off of its tail))ですか。それにしても豪勢ですわね。」

 

案の定、煙の中から聞こえてくる声は千冬の予想した通りのものであった。

 

「矢張り、か。…束。」

 

「わかってる。動体反応、熱源反応、ISコア反応。いくらでも追いかける方法はあるんだからねぇ。」

 

嬉々としてコンソールを叩き始める束を一瞥してから、ようやく靄の収まってきた『撃破地点』の方に視線を向ける。

 

「真耶、無事だな?」

 

「ああ、先輩。全員健在、敵超大型ISは撃破しました。標的には逃げられてしまいましたけど。」

 

呼びかけると間も無く真耶が現れるのは向こうのほうでも千冬の到着に気づいて向かってきていたからだろうか。

まだ放熱のために湯気をあげている「杭打ち機の化け物」を意図的に無視しながら千冬は真耶に向き合う。

 

「全員無事なら何よりだ。行方については束に追わせているから間も無くつかまるだろう。この短時間で逃げられる距離と場所は限られているからな。」

 

「早くケリをつけたところですからね。ことが済んだとしてもやることは山盛りでしょうし。」

 

はぁ、とため息をつく真耶に同感だ、と千冬もうなづく。

 

程なくして周辺警戒、残敵掃討に当たっていたほかの面々や、道中の敵を撃破して回っていた一夏たちが合流してくるとほぼ同時。

 

「捕まえた。んー、この方向だと地下構造体の奥…本校舎の真下に向かってるのかな?」

 

束の声に皆が群がるように集まってくる。

展開中のウィンドウ―デジタルマップを見ようと覗き込むように位置取りする面々。

 

「本校舎の地下というと、あの地下空洞ですか?」

 

簪の問いに少し逡巡した千冬は真耶にちらりと視線を送ってから口火を切った。

 

「いや、本校舎の地下は所謂浮力用の空洞ではない。空洞層の更に下。そこに学園が秘匿している研究施設がある。」

 

「クラス対抗戦のときのゴーレムもそこで検分して無人機だって確認したんですよ。」

 

本来ならば、特級の機密事項であり、生徒に教えられる情報ではない。

だが、この状況となれば話は別であろう。

 

「つまり、そこに奴の切り札がある、ということですか?」

 

「分からん。少なくとも、我々があの施設を使っていた頃は整備棟よりも少し充実した程度の工作機械があったくらいだ。」

 

ラウラの問いに千冬が応える。

 

「立てこもるつもりでしょうか…?」

 

うーむ、と誰からも無い声が漏れる。

 

「でも、回収したゴーレムの残骸は学園から引き払う前に全部破棄しましたし、コアは専用機使用分の替え玉にして委員会に引き渡しましたから、地下にあるのは動力炉くらい・・・」

 

「動力炉?」

 

真耶の言葉に鈴音が反応した。

 

「ああ、はい。『IS学園』の主動力炉です。まあ、動力炉といっても巨大な燃料電池みたいなものですから。燃料の水素と酸素は海水を精製して…」

 

「もしや、動力炉用の燃料を使って自爆でもするつもりでは?」

 

正確には水素と酸素の燃焼反応である。だが、密閉空間で行えば急激な燃焼は爆発となり少なくない被害を発生させるだろう。

あの広大な地下空洞に充満させれば、地表部を吹き飛ばす、場合によっては側面隔壁を吹き飛ばすくらいの威力は出せそうだ。

 

「いえ、地下に充満させるのは不可能ですよ。確かに燃料は液化させて貯蔵していますが、動力炉施設に損傷があったり空気成分に変化があった場合は供給を停止して、自動的に海中投棄するようになっていますから。」

 

貯蔵タンクも同様です、とラウラの碌でもない予想を真耶が否定する。

 

「ですが、爆弾の類を持ち込まれている可能性は否定できません。最悪を考えれば((核廃棄物爆弾|ダーティー・ボム))や細菌兵器の類もありえないとは言い切れません。」

 

ああいえばこういう。

ラウラの軍人らしい『最悪の想定』に千冬はため息をこぼす。

 

「ここでこれ以上問答していても埒があかんな。突入して制圧し、爆発物の類が仕掛けられているのならば解除する。これしかなかろう。」

 

千冬が結論付け、指示を出そうとしたその時だった。

 

ザザッ、と通信時特有のノイズが走った後、第一アリーナに立てこもっていた制圧部隊の教員からの通信ウィンドウが開いた。

 

「どうした、何か問題でもあったのか?」

 

画面の向こう側は酷くあわてた様子であった。

 

『―大変です、織斑先生。戦闘中だったゴーレムの大半がこちらに戻ってきていると艦隊から連絡がありました。現在、黒ウサギ隊の皆さんが応戦準備をしてくれていますが…』

 

「了解した。とりあえず脱出とエネルギー補充の用意をしておいてくれ。」

 

『分かりました。早めの合流をお願いします。』

 

「善処する。」

 

ぶつり、と通信が切れたところで千冬は一同の顔を見回した。

 

「さて、やらなければならないことが三つになってしまったな。」

 

千冬はやれやれ、と一学期の初日にきゃあきゃあと騒がしいクラスの面々に向けたのと似たような苦笑を浮かべる。

 

「ひとつ、首謀者の追跡と捕縛。ふたつ、接近中の無人機の迎撃と脱出支援。」

 

指折りながらあげて行く千冬は三つといいつつ二つ目で一度言葉を切った。

 

「それで、三つ目は?」

 

すかさず、合いの手を入れたのは束であった。

 

「地下で撃破された千凪の回収だ。一応、薙風の反応はあるから生きてはいるはずだが動けないのか、意識が無いのか…」

 

千冬のせりふに、幾人かがはっとした様子になった。

 

どうやら、空を撃破した張本人である超大型ISへの仇討ちに熱中して、当人のことを忘れかけていたらしい。

 

「部隊の編成はエネルギー残量と相性で考慮する。まず、全員エネルギー残量を提示してくれ。」

 

そういわれて、各々が残エネルギー量の報告を始める。

 

真耶が42%、鈴音が19%、ラウラが27%、セシリア22%、簪、シャルロットもそれぞれ30%を割っている。

鈴音、ラウラ、セシリアのエネルギー消費が激しいのは衝撃砲にAIC、BT兵器などのエネルギー消費型兵装を主武装にしているためだろう。

特に、鈴音は前衛でスラスターも相当に吹かしていた。納得の消耗ぶりである。

 

一方で校舎から駆けつけた側の面々は思いのほか消費していなかった。

千冬が貫禄の68%、束が44%。戦闘しながらも絢爛舞踏で常時補充状態であった一夏と箒に至っては90%代のエネルギーが残っている。

 

「…では、一夏と箒は地下へ突入。逃げた主犯を追え。千凪救出は真耶と簪。シャルロットは簪にエネルギーをギリギリまで分けてやってくれ。」

 

それぞれの方を向きながら、千冬が指名してゆく。

反論は誰も行わなかった。

 

「残りの全員は一度第一アリーナへ向かってエネルギーの補充を行ったあと、アリーナ組の脱出支援かゴーレム迎撃に回ってもらうことになる。それでいいな?」

 

還ってきた返事に『否』は含まれていなかった。

 

「よろしい。では、かかるぞ。」

 

 

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