マイ「艦これ」「みほちん」:第21話(改2.0)<白い傷>
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「赤城を助けたって言うのは本当ですか?」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」

:第21話(改2.0)<白い傷>

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 祥高さんは続ける。

「司令、もう一点ございます」

 

「ん?」

何気なく振り返る。

 

「二式大艇が本省から舞鶴に寄るのは視察団に現地の作戦参謀も加わる為とあります」

「舞鶴?」

呟いた私は血の気が引いた。

 

だが敏感な祥高さんは、すぐに気がついた。

「司令、どうかされましたか」

 

「いや何でもない」

慌てて否定した。だが側にいる寛代まで、こちらを見上げている。

 

近くにいた艦娘たちまでが私に注目していた。

(お前ら感度高過ぎっ!)

 

急に艦娘に責められる感覚に襲われた。

 

「済まん、執務室へ戻る」

私は席を立った。

 

「司令ぇ、退却ぅ」

島風の『ひと言』が胸に突き刺さった。逃げるように食堂を後にした私は階段を駆け上がった。

 

だが走ったせいか頭がクラクラし始めた。

(まずい)

 

やっとのことで執務室に入った私は重い足取りで制帽を机に投げ出すと、ため息と共に自席に深く腰を掛けた。

「はぁ」

 

座ったまま、ゆっくり椅子を回転させ窓を向くと緩やかな海風が流れ込む。陽の光を浴びた日本海がキラキラと輝く。

 

(今日は大山がよく見えるな)

私はボーッとしたまま潮の香を浴び、美保湾に浮かぶ大山を眺めた。

 

(忘れもしない、あの日)

一昨年だろうか。

 

 所属していた舞鶴鎮守府で私は急病の提督に代わり艦娘の指揮を執っていた。当時、敵が舞鶴近海への侵入と攻撃を繰り返し鎮守府の誰もが疲弊していた。

 

当時の舞鶴では通常の艦艇と艦娘を併用していた。そして私が指揮を執った当日は吹雪で最悪な天候だった。それにも拘らず敵の猛攻が続く。両者が持久戦だった。

 

次第に敵の攻撃に押され通常の艦艇が撃破され尽くす。そして待機していた艦娘たちが出撃せざるを得なくなった。

 

だが艦娘は連続出撃が出来ない。人間のように休息が必要だ。まして荒天では疲労は加速する。

 

艦娘も次々と脱落し、結局は練度の低い駆逐艦までが駆り出された。

 

(あの日は酷かった)

その時、誰かが執務室の戸を叩いた。

 

一瞬たじろいだが気持を落ち着かせて返事をした。

「はい、どうぞ」

 

「あのぉ」

そう言いながら顔を出したのは青葉さんだった。なぜだかホッとした。

 

「まことに僭越(せんえつ)ながら密命を帯びて参りまして」

「はぁ?」

彼女の虚をつく発言に、それまでの重苦しい空気が和んだ。

 

 

青葉さんは頭に手をやり申し訳なさそうに言った。

「正直に白状しますと秘書艦様より『司令の話し相手になって下さい』と勅命を受けました」

「祥高さんが?」

 

苦笑する蒼い髪の記者以上に私自身が困惑した。

だが、ここは秘書艦の意思に沿ってみるか。

「分かった、入れ」

 

「はい。では、ちょっと失礼して」

いったん廊下に戻った彼女は魔法瓶と、お盆を手に戻ってきた。

 

「準備が良いな」

私は少し身を乗り出す。

 

すると彼女は照れたように言う。

「あは。これは青葉ではなくて鳳翔さんからの託(ことづ)けです」

 

「なるほど」

私はそれらを応接セットへ置くように言った。

 

「失礼しまぁす」

青葉さんは準備を進めながら補足する。

 

「ここでの内容は機密準拠で内密に、との指示も受けました。以後、記録外ですので、ご安心下さい」

「え? あぁ」

抜かりがない。私は準備する青葉さんの反対側の席に腰を下ろした。

 

 彼女が来たことで私の迷いも留まるかも知れない。

 

お茶を出しながら彼女は言った。

「えっとぉ、差し障りある部分は省いて結構ですから。青葉を『言葉の駆逐艦(デストロイヤー)』と思って、ぶっちゃけて下さい」

「あ? そう」

 

 私は準備されたお茶をすすりながら頭を整理してみた。

だが一度、消し飛んだ感情は簡単に戻ってこない。

 

青葉さんは自分のお茶を注ぎながら言う。

「あのぉ、これは青葉の想像ですが。司令は私たち艦娘に蟠(わだかま)りがあるのでは?」

 

「んっと」

図星だと思う。

 

私は決意して深呼吸をする。海を見ながら淡々と話し始めた。

「舞鶴に居たとき大失敗した」

「あ」

 

彼女は直ぐに目をそらし下を向く。

「す……済みません」

 

「いや、気にしなくて良い」

(やはり舞鶴のことは知っているか)

 

私はソファの背もたれに腕を回して窓の外を見た。

「確か、あの頃、全国の鎮守府が敵の連続攻撃を受けていたね」

 

その言葉に青葉さんも続けた。

「はい。えっと我が国最強とされる横須賀でさえ敗北の一歩手前まで追い込まれました」

 

その説明で私は少し心が軽くなった。

 

「えっと」

彼女は何かを思い出すように天井を見上げた。

 

「その頃って全国で艦娘の扱いが真っ二つに割れていましたね」

「そうなのか?」

その事実は初耳だった。

 

青葉さんは軽く頷く。

「はい。某80年後半から艦娘を人間の兵士と同様に扱う『穏健派』と、単なる兵器として運用する『強行派』に分かれました」

「あぁ、それは今でも聞くな」

 

彼女は続ける。

「『穏健派』は呉や横須賀に多くて舞鶴や佐世保では『強行派』が幅を利かせていました」

「フム」

 

「んで、この強行派を『ブラック鎮守府』と揶揄する人も居ました」

「へぇ」

腕を組んだ私も思い出した。

 

「そういや当時、舞鶴の提督は穏健派で頑張ってたが横須賀は精神を病んで退任したと聞いた」

頷く青葉さん。

 

(だから舞鶴の提督も、そのまま指揮を執っていたら危なかったかも知れない)

「でも」

彼女は改めて私を見つめた。

 

「司令は明らかに『穏健派』ですね」

「ありがとう、と言って良いのかな?」

「えへへ」

その笑い声で私の心が、また軽くなった。不思議な子だ。

 

「その舞鶴で何か?」

穏かな口調で聞いてくる青葉さん。私の心の扉を開ける感覚だが悪くはなかった。

 

「当時、過労で倒れた提督に代わって私が初めて単独指揮を執った」

「はい」

静かな相づち。私は続ける。

 

「既に通常の艦艇は壊滅状態。高練度の艦娘も軒並み傷付いていた。私は仕方なく手練れの軽巡と新人の駆逐艦で部隊を組み出撃させた」

「はい」

「その軽巡は、いつになく出撃を渋っていたが私は押し出した」

「冬の日本海ですよね」

窓の外で穏やかに輝く日本海を見つめながら彼女は念を押す。

 

「あぁ。普通の出撃でも躊躇する。しかも通常艦の十分な援護もなく艦娘だけの抜錨だ」

「……」

無言の彼女。

 

私は続ける。

「だが敵も悪天候下で次々と攻撃してくる。既に前衛が破られ放置すれば鎮守府に攻めて来そうな勢いだ。軍令部からも陸に近づけるなと指示が出て、かなり焦った。もし敵が上陸したら最悪の本土決戦、陸軍が出てくる。上は、それも嫌だった」

「分かります」

「恐らく敵もギリギリで必死だった」

「そうですね。確か、その後しばらく敵の攻撃が緩くなる時期がありました」

「そうなのか?」

「はい」

 

 私は当時の状況を整理した。

艦娘たちが出撃して敵の様子が報告された。相手は潜水艦を主力とした熟練部隊。しかも悪天候でも正確な敵の射撃。明らかに高性能な電探を積んでいた。

「最初から性能が違い過ぎた」

「はい」

 

 悪天候で無線も通じ難い。状況把握も手間取る。経験不足の私には、すべて判断が後手に回った。混乱状態寸前だった。

 

 断片的に入る艦娘の叫び声。しかし当時の士官は構わず行けという。良心が痛んだ。

 

 結局、撤退の判断は手遅れになった。戦闘は敵の圧勝。私は軽巡と駆逐艦を数隻、冬の日本海に沈めてしまった。

 

「ハッキリ、全滅だよ」

私は自分自身に突き放すように言った。

 

「……」

青葉さんは黙っている。

 

その艦娘部隊が全滅すると同時に敵は撤退したらしい。安堵しつつも、天候を見て索敵機を飛ばした。破片の浮かぶ夕暮れの日本海。現実の夕日と想像する光景が被さってゾッとする美しさが強く印象に残っている。

 

 彼女は要所、要所でメモを取っている。私は、こんな記録は記事に成らないだろうと思って特に止めなかった。

 

「やっぱり追及されましたか」

一瞬、筆を止めた青葉さんは言う。

 

「そうだな」

 現場に復帰した舞鶴の提督や他の作戦参謀からは叱責された。もちろん通常の艦船が沈めば被害は大きい。

 

だが相手が艦娘となると後味が悪い。負け戦(いくさ)でも果敢に立ち向かう彼女たち。交戦し傷つき沈んでいく艦娘の叫び声は思い出したくない。

「いっそのこと解任処分された方が楽だったよ」

「……」

 

青葉さんは複雑な顔をして何かに引っ掛かった顔をした。

「つまり司令の処分は無しで?」

「そういう事だ」

 

その苦い経験で私は決意した。

(もう二度と艦隊指揮はすまい)

 

一時は軍人を辞めようとまで思った。

 

「ええ?」

さすがの彼女も、素っ頓狂な声を出した。

 

でも、いざ私が退官を切り出すと

「そこまで思いつめるな。誰もが通過する道だ」

 

「相手が強過ぎた。仕方がない」 

と説得された。

 

「まぁ、慢性的な人手不足ですから」

青葉さんは言う。

 

 結局、辞めることは踏み留まった。

それでも以後の私は艦娘絡みの作戦からは意図的に距離を置いた。命令も固辞したかったが軍隊に居る以上、上官の意向は絶対だ。

また軍隊で自分が生き残っている以上、戦歴も刻まる。結果的に艦娘の指揮を執ることは避けられなかった。

 

 ただ艦娘の指揮については、どんな陰口を叩かれても無理な特攻はさせない。引き気味に指揮を執った。

「迂回や救援部隊」

呟いた彼女は、この辺りの事情は知っているようだ。

 

 個人的に上から嫌われて評価が下がり左遷されても別に良いと思っていた。罪滅ぼし的に「舞鶴沖海戦」以後の私は一隻も艦娘を沈めてはいない。無理な進軍もさせない。それが果たして良いのか悪いのか?

「現場の指揮官としては、これはご法度だろ?」

「いえいえ」

 

 だが、上も気づく。監査の際に担当官から何度も問われた。

「君はそれで良いと思うのか?」

「はい」

「……」

 

私が即答したときの監察官の顔は忘れられない。彼は書類をめくりながら呟いた。

「まあ君の戦果はともかく轟沈率が低いからなあ」

 

 このとき悟った。指揮官は自分の信念で立案・遂行し兵士が忠実に動けば結果(評価)は出るのだと。

 

青葉さんも頷いている。

 

 だが『強行派』から私への風当たりは強まった。ある会議でも強気の提督や参謀に言われた。

「燃料のムダ遣いだ」

「時間の浪費だ」

 

「さすがに直接言われると凹んだな」

「でしょうね」

会議なんか途中で逃げ出してやろうかと思ったくらいだ。

 

 だが捨てる神あらば……だ。私のその姿を見ていたらしい『穏健派』の参謀数名からも声を掛けられた。

「轟沈寸前の赤城を助けたって言うのは本当ですか?」

「はい」

「なるほど、やはり」

 

彼はしきりに頷く。

「うちの加賀から貴殿の噂を聞くんですよ」

 

別の参謀も感心する。

「艦娘に褒められるとは、スゴイですね」

 

「いや」

私は苦笑した。

 

すると別の参謀。

「うちの比叡も自沈を免れたって美保殿のことを、よく言ってますよ」

「恐縮です」

 

このとき悟った。艦娘の横の繋がりも意外に広い。

 

「ウンウン」

また頷いている彼女。

 

 いつの間にか私に『艦娘指揮官』というあだ名が付いた。私自身、特に意識してなかったが。

 

「気が付けば美保鎮守府の司令官だよ」

「ですねぇ」

青葉さんも微笑んだ。

 

「しかし鎮守府の司令官とはいえ地方は不便だ。私は『降格人事(左遷)か?』と疑っている」

「はぁ」

彼女は苦笑した。

 

 正直言うと艦娘の指揮からは逃げたいが軍人である以上は仕方が無い。

 

 窓からは湾の海風が優しく吹き込んでいた。いつの間に日が高くなり美保湾はキラキラと輝きだしていた。

 

 

以下魔除け

 

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※これは「艦これ」の二次創作です。

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PS:「みほちん」とは

「美保鎮守府:第一部」の略称です。

 

 

 

説明
美保鎮守府の視察に舞鶴の参謀が来ると聞いた私は、かつて艦娘を轟沈させた過去を思い出した。
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