IS ゲッターを継ぐ者 |
?ナレーションside?
試合開始。ベーオ改は左手のデュアルガンで牽制し、雪刃で斬りかかろうと前に出る。
「ふん、愚図が」
『ぬあ!?』
弾丸をいともたやすくかわすと、鼻で笑い右手を突き出すラウラ。
途端ガクン! と、ベーオ改の動きが止まる。腕から胴体、四肢の先へと。まるで見えない手に掴まれていくように。
『こいつは……!』
初の停止結界をその身で受けたベーオ改は、これがAICかとその驚異さを思い知った。押そうが引こうが指一本に至るまで全く身動きできない。これを食らうのはまさしく致命的と言えよう。
「どうだ? 私のレーゲン停止結界の味は」
『……予想以上にインチキだな。動き止めるとか初めて味わったよ』
「ならば次の手も分かるだろう」
シュヴァルツェア・レーゲンの右肩。弾丸を装填したレールカノンが向けられ、ベーオ改の右側面にはシャルルがアサルトライフルで狙いをつけている。動けずダブルロックオンされた状況。
だがベーオ改は冷静でいた。一人ではないのは、こちらも同じだから。
「やらせませんよ」
ベーオ改の頭上を飛び越え前に現れたアヤが、両手のサブマシンガンとピストルを連射。ラウラ、シャルルの射撃を妨害し、その隙にベーオ改はAICから解かれる。
ラウラは左、シャルルは右に回避してそのまま挟み撃ちにする様に動き、それを見てベーオ改とアヤも動いた。
『そこぉ!』「ふっ!」
「ム!」
デュアルガンとピックを発射、狙いはラウラだ。回避するラウラにベーオ改が切りかかり、アヤもピックや銃で狙う。
「チッ!」
舌打ちしながらラウラは腕のプラズマ手刀やワイヤーブレードで防ぐ。ベーオ改ペアはそこに畳み掛けようとするが、
ガギィッ!
「っ!?」
「僕もいること、忘れないでよ!」
シャルルがシールドを構えての体当たりをアヤにかまし、そのまま連れ去っていく。集中攻撃はさせないと分断に来たのだ。
[アヤ!]
[私は大丈夫です。どうにか突破しますから、このまま作戦通り行きますよ!]
[分かった!]
プライベートチャネルでやり取りするベーオ改にアヤ。
四機は各々の武器を構え相手と戦う。離れた場所での一対一で、試合は始められた。
『数の有利かと思いきや、試合はベーオ改VSレーゲン、ディープ・アイVSリヴァイヴによる一対一で開始しました! これから両者がどう動くのか!』
「えぇいっ!」
アヤ対シャルル。アヤが左手の指に挟んだピック三つを投擲。それをシャルルがアサルトライフルが撃ち落とし、左手のアサルトカノン『ガルム』で反撃。避けるアヤにアサルトライフルから切り替えた右手の近接ブレード『ブレッド・スライサー』で斬りかかり、アヤはサブマシンガンから持ち変えたナイフで防ぐ。
下がろうとするアヤだが、シャルルの左手――アサルトカノンから変わったショットガン『レイン・オブ・サタデイ』の連射を食らってしまう。
「くっ!」
弾を受けながら、その衝撃を利用し後退。駆け回りながらサブマシンガンやピストルと絡めピックを投擲するが、全てショットガンやアサルトライフルに撃ち落とされ、シールドに防がれてしまう。それを見て内心、やはりかと感じた。
(分かってはいましたが……分が悪いですね)
今のディープ・アイが装備する武器は、ピックやナイフといった『点』の攻撃。これらはオーバードライブで距離を詰め、一撃必殺で仕留める、というコンセプトだった。が、言うまでもなくそれはオーバードライブ頼り、何よりシステムそのものが今はない。
今の武器だと接近戦では相手より深く潜り込む必要があり、投擲の動きも必要になる。より繊細に動かなければならず負担が大きい。そして相手がそう易々と動かせてくれる訳がない。
「そこだっ!」
技量の高いシャルル。射撃・格闘を人並み以上にこなし、事前呼び出しを必要とせず戦闘と平行しリアルタイムで武装を呼び出す技能『高速切替(ラピッドスイッチ)』。剣に持ち替えたと思えば接近しての近接射撃、離れたかと思えば剣による格闘。押しても引いても一定のリズム、常に自分のペースで戦いを運ぶ戦法『砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)』というスキルもあり、それらでアヤを追い詰めてくる。
正面きっては分が悪い。ピックは撃ち落とされ、ナイフは相手より深く踏み込まなければならず、ミサイルは強襲用で弾数が圧倒的に少ない。
(これは装備変更の必要あり、ですね)
ブレードとアサルトライフルから逃げつつ思考するアヤ。超上級者とかどっかの傭兵が使うんじゃないんだから、もう少しマトモな風にしてもらいたい。そう思いながらも、今はあるもので出来ることをやるしかない、と切り替える。
「はぁっ!」
ピックを四つ投擲し、サブマシンガンを放ちながら右から回り込む。シャルルが回避し武器をアサルトカノンとショットガンに変えた時に、アヤは一気に仕掛けた。
「てやぁぁぁっ!」
「瞬時加速!? うわぁ!」
瞬時加速で懐目掛け飛び込む。近接射撃されるより早く、ピックをリヴァイヴの左腕関節とシールドの隙間に打ち込む。そのままシールドを掴み支点にして背後へ回り込み、ウイングスラスターにもピックを一発ずつお見舞いし、背中を蹴って離れる。
「くうっ!?」
「光牙! 今行きます!」
背後の爆発を確認しながら、アヤが目指すはパートナーの元。事前に立てた作戦に従い、彼女は飛ぶ。
『せぇぇいっ! はぁっ!』
「随分と必死だな、貴様」
こちらはベーオ改対ラウラ。
ワイヤーブレード六基と両腕のプラズマ手刀による波状攻撃を、ベーオ改はAICを警戒しながら右手の雪刃、左手のトマホーク、両足で捌いていた。
『たかが倍くらいがなんだってんだ!』
雪刃でプラズマ手刀を防ぎ、トマホークを投げつけ、デュアルガンで弾き、ワイヤーブレードを足で蹴り返す。強気に言い返すベーオ改ではあるが、四方八方からの攻撃全てを完全に対処するには無理がある。攻撃が何回も掠め、少しでも前に出ようとしたが、弾き損ねたワイヤーブレードが右腕に絡み付く。直後、AICでの停止。
「ハッ、墜ちろ!」
『しまっ――うぁぁぁぁ!』
ガガガガッ!
ワイヤーブレードに全身を切り刻まれる。改になったが防御力が薄くなったベーオ改には大ダメージだ。更にそこから左腕、両足にワイヤーブレードが巻き付いて空中で磔にされ、AICで再び停止。最後にレールカノンが装填完了する。
『あーっとぉ! ここでベーオ改が捕まってしまった! これは決まってしまうのか!?』
「呆気ないものだな。所詮貴様も、私の前では有象無象しかない」
――アーッ!! 光牙逃げろ、マジ逃げろぉ! おのれボーデウィッヒィィィィ!!
――先生IS用スナイパーライフルなんか持ち出さないで下さい!?
『クッソ……!』
「終わりだ。墜ちろッ!!」
食らえば一撃KO。ベーオ改を砕かんとレールカノンより対ISアーマー用徹甲弾が吐き出され――。
「させません! ハァァァァッ!!」
「なっ――ごはぁ!?」
『ドワォ!?』
なかった。
「「「ええぇっ!?」」」
『け、蹴った! 蹴りました! なんとディープ・アイがレーゲンにライダーキックかましてピンチを救ったぁ!』
会場も仰天、響子の言う通り。アヤのライダーキックでラウラは地面にダイブ、砲弾は全く別方向に飛んでいく。ワイヤーで繋がってるベーオ改も引っ張られたが、こちらはアヤがワイヤーを切断し共に離脱していった。
「ずぉろぁ!!」
「なんか変な奴が飛んでったぞ!?」
「いやなんで引山博士の方に飛んでくんのさ!?」
流れ弾が二次被害を起こしたがまあ問題はないだろう。
「大丈夫ですか光牙?」
『ごめん、ありがとう。そっちは?』
「ひとまず完了です。油断はせずに、作戦通り行きますよ」
『あぁ、やってやる!』
合流したベーオ改、アヤはここから本番だと気合いを入れ直す。
『行くよ、アヤ!』
「はい光牙!」
――やったれ光牙ぁ??!
『ってさっきからぁ!』
なんか聞こえるのはなかったことにしたベーオ改だった。
『ピンチを脱したベーオ改ペア! レーゲンへ対し猛攻を仕掛けるぅ!』
「光牙、十時の方向へ!」
『よっしゃ!』
「ちょろちょろと目障りな……!」
ラウラに狙いをつけ、ベーオ改・アヤは同時・時間差攻撃を仕掛ける。『ラウラを先に倒す』。これがベーオ改こと光牙とアヤが立てた作戦だ。
AICは確かに強力だが、それはあくまで一対一でのことで、その相手に集中しなければならない。最初にアヤが邪魔してベーオ改がAICから解かれたようにだ。二人ならば注意が分散し、レールカノンも狙いがつけにくくなる。
先に倒すのをシャルルにしなかったのは、ラウラの性格から協力する気はあまりないだろうと考え、シャルルを助ける方と、シャルルごと撃つ方なら後者だと踏んだからだ。
「くっ、狙いが……!」
機動力を奪ったことで分断されにくくし、常にラウラの側で戦うことで同士討ちで攻撃を躊躇わせる。脚部スラスターとPICで接近したシャルルだが、銃口をさまよわせていた。
ここが勝負所。
「一人増えた所で、調子に乗るなぁ!」
ラウラの方は元から連携を意識してなかったが、ワイヤーブレードをあらゆる方向から向かわせ、プラズマ手刀を閃かせ、両手・視線でAICを連続で放つ。二人を相手に互角に渡り合っていた。
ベーオ改、アヤもチャンスを逃すまいと攻撃して攻撃して攻撃しまくる。
「そこぉ!」
『ズォラッ!』
「ぬっ!?」
ピック、ミサイルが飛び、ナイフが迫る。雪刃やトマホークが振るわれ、肘・蹴りが叩き込まれ、デュアルガンが零距離で火を噴き棍棒みたいに振り回される。
斬撃、銃撃、打撃、刺突、爆風というあらゆる攻撃手段がラウラを襲う!
「ぬっご!? お、おのれぇぇぇ!」
「見たかー! あれがワシの作ったデュアルガンじゃーい! 撃とうが殴ろうがビクともせんぞ?!」
ドサクサの宣伝はともかく、確かにデュアルガンは無傷であった。
クロスレンジでボコボコにされたラウラはたまらず下がった。ワイヤーブレードで牽制しレールカノンで吹き飛ばさんと構えた、瞬間。
「――せぇやっ!」
「な、ぐおおおっ!?」
アヤが放ったピック三つ。それらが寸分狂わずレールカノンの砲口に吸い込まれ、突き刺さり、弾丸が暴発して爆散した。爆風で態勢を崩すラウラ。
「くっ……私は! 私はこんな所で!」
『ハァァァァッ!』
「――ボーデウィッヒさん! これを!」
そこに斬りかかるベーオ改。そこで響き渡る声と、飛んでくる物体。
ラウラはハッとなり、上から飛んできた物体を見て受け止めた。それを無我夢中で、正面のベーオ改へ向け――引き金を引いた。
「ウォォアァァァ!」
『ドワォ!? おぉぁぁ!』
それはシャルルのアサルトライフルだ。連携の打ち合わせはなかったが、シャルルは万が一に備え、リヴァイヴの武器全てをラウラにも使えるようにしていた。どうやっても負ける訳にはいかないラウラは撃ちまくり、ベーオ改を退かせる。
「私は! 私はお前なんぞに負ける訳にはいかんのだ!」
「光牙!」
「君には僕だよ!」
アヤには追い付いたシャルル。思いもよらぬ逆転だ。
『レーゲンペア、土壇場での逆転だぁー! さあこの試合、どちらに転ぶのか! 目が離せませぇん!』
「くっ、光牙!」
ライフル射撃を浴びるベーオ改に、アヤはせめてもと残るピックを全て投擲した。直後浴びせられる、ショットガンの六連射。
「あぁぁっ!」
サブマシンガンが破壊されナイフが吹き飛ぶ。シールドエネルギーがガリガリ削られて100を切った。そこに飛び込んでくるシャルル。左手のシールドを弾け飛ばし、内蔵された武器を露にさせながら。
「貰ったよ!」
六九口径パイルバンカー『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』。通称『盾殺し(シールド・ピアース)』。リボルバー機構でそれは高速連射が可能な、リヴァイヴの最高火力。決めれば勝てる。確信したシャルルが左手を突き出し、トドメの一撃をディープ・アイに――
ガキッ……。
「えっ……?」
リヴァイヴの切り札たるパイルバンカーは、その鉄杭を射出しなかった。代わりに吐き出されたのは鈍い音。どうして、と固まるシャルル。
それとは対照的に、アヤの方は笑み。
その理由はピック。リヴァイヴの間接とシールドに撃ち込んだアヤのピックが、内部機構を破壊し力を奪っていた。
迫ってくる不発のパイルバンカーを左に滑りかわし、背後へ回り込むアヤ。彼女も切り札を発動する。右手を揃えて引き、エネルギーを纏う。懐はディープ・アイの領域。そこで放つ、最強の一撃。
「この一撃――かわせませんよ!」
エネルギーを収束させ放つ光の手刀『ラスト・テスタメント』。それはシャルルの背中に突き刺さり、一気にシールドエネルギーを削っていった。
「くっ……チィ!」
『ゼァァァァァァッ!!』
こちらは少し戻り、アヤが放ったピックでライフルを弾かれるラウラ。プラズマ手刀で残りのピックを振り払う、そこに雪刃を振り上げ突撃するベーオ改。
『だぁぁりゃぁ!』
「この……止まれ!」
ガギン! ガギン! ガギン!
ワイヤーブレードを向かわせるラウラだが、ベーオ改は怯むことなく雪刃で真っ向から切り払う。拳で殴り弾く。AICは驚異だ、だが怯めば、恐れれば負ける。ベーオ改は止まらない、加速する。
『恐れずに飛び込むっ!!』
「っ!?」
雪刃で最後のワイヤーブレードを叩き落とす。
その姿にラウラは戦慄した、伸びきったワイヤーブレードを回収するには時間がかかる。咄嗟にプラズマ手刀を展開しようとして――衝撃が体を揺する。
「こ、これは!」
レーゲンの右脚。その間接部にピックが突き刺さっていたのだ、アヤが放った一つが。
崩れる態勢、そこで再び、ラウラを襲う衝撃。
「ぐぅぅぅぅっ!?」
『捉えたぜボーデウィッヒ……!』
「キタァァァァ!! ワシのロマンウェポォォォォン!!」
ベーオ改がラウラの腹に、銀色の長細い武器を突き立てていた。改になり追加された武装(ロマン)。ベーオ改の顔面装甲の下で光牙も獰猛な笑みを浮かべ、それをぶっ放した。
重くて反動が酷いがこの距離が外しようがない、その武器。
『これで――ダウンだッ!!』
「ぐはっ!?」
大型レールガン、その一撃目!!
「ごはっ! がはっ! ぐがっ! ぐぁぁぁぁ!!」
二撃目! 三撃目! 四撃目! そして五撃目!
零距離で五発を叩き込まれ、レーゲンから紫電を撒き散らしながら、ラウラは吹っ飛んでいった。
「きぃぃぃむぁっっったぁぁ! デンドロブレイカーじゃぁぁぁ! な?っはっはっはっは?!! 見たか?!!」
『た、確かに決まりました! 零距離でのレールガングォレンダァ!! 大ダメージです、レーゲンが地に伏せたぁぁぁ!!』
誰もがベーオ改とアヤの勝利を思ったその時。
異変は――訪れる。
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第二十六話、どうぞ! | ||
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