麦城包囲戦
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 口の中が生臭かった。手で口を覆い、数度咳き込む。すると、血の塊が手の平にこびりついていた。

 もう自分は長くはないだろう。しかしこの病がなければ、おそらく関羽を打ち取ることはできなかった。

 天の巡り合わせとは、そんなものかもしれない。

 手に着いた血を拭って、亞莎はじっと目の前の城を睨んだ。

 麦城。事前に城としての機能を失わせておいたため、城と呼ぶにも相応しくないような瓦礫の塊である。

 そこに、関羽がいる。天下無双の豪傑が、そこにいる。

 

「呂蒙様、包囲が完了しました」

 

 部下の報告を聞いて、亞莎は頷いた。

 麦城を囲む呉軍、三万。

 手は尽くした。考え、考え、考え尽くした。血を吐くほど考えた上で、その中で最上の策を取った。自分の病をも策に取り入れた。

 関羽軍二千足らずを囲む、三万。この三万もの兵は、関羽ただ一人を討ち取るための軍だった。

 大げさではない。決して、大げさではなかった。現にここまでしてもまだ、不安が残る。現実感がこみ上げてこない。

 本当に倒せるのだろうか。この自分が、あの関羽雲長を。

 

「攻めよ。第一波から、波状に」

 

 気がつけば、命を下していた。

 たった二千人が立てこもる城に、三万の波状攻撃。兵たちが、瓦礫の山に殺到していく。

 圧倒的な戦力差。城から飛ぶ矢は微々たるもので、こちらへの損害はほとんどないと言ってよかった。

 それでも麦城は、意外に固かった。

 包囲するまでの五日間で、城としての機能をある程度は取り戻していた。指揮官が良いのだ。修復の手際もいい。

 流石は関羽と言ってよかった。しかし、それでもあと二十日もあれば落ちる。

 囲んでいるだけでも一月で落とせる。水もない、兵糧もない、どうしようもない城なのだ。

 亞莎は一度兵を下げさせた。

 気がつくと、もう日が暮れ始めていた。焼けたような赤が、城を彩っていた。

 

 

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 どうしてこんなことになってしまったのか、愛紗には未だに理解することができなかった。

 数万の兵で、荊州を出た。狙うは樊城。そこを落とせば、数万の軍は十数万に膨れ上がり、一気に長安を叩けた。あの魔王曹操と並ぶ、千載一遇の好機だった。

 そして、あと一押しで樊城を落とせる、そういうところまで来た。しかし呉軍の裏切りによって荊州本城は落城し、それを補佐していた江陵、江安も続いて落ちた。

 例え荊州城が責められても江陵と江安がそれを助ける構えだった。守りは万全のはずだった。

 それなのに、落ちた。信じられないほど呆気なく。理由はわからなかった。わかっているのは呉が裏切ったということだけだった。

 荊州本城が落ちれば、樊城を落とすことには何の意味もなかった。戦線を維持できないし、兵糧と物資の供給もない。前には曹操、後ろに孫権。絶体絶命だった。

 そして、そこからの指揮も不味かった。カッとなった愛紗は、すぐに軍を反して荊州を取り返そうとした。あの時、素直に上庸に引き上げれば、せめて数万の兵を維持したまま戻ることができたはずだった。

 初めは数万だった軍も、たび重なる戦闘と計略で兵は四散し、残ったのは二千のみだった。この二千は真の強者ばかりだったが、流石に限界がある。

 兵糧も水もほとんどない。たった一日の波状攻撃で、二百人近くが負傷していた。このままでは、飢えて死ぬか、城壁を突破されて皆殺しにされるかだった。

 

「関羽様」

「なんだ、廖化」

「私を上庸へお遣わしください」

 

 愛紗は廖化を見た。廖化は短髪で誠実そうな少女である。事実、愚直なくらいの軍人だった。

 

「この状況では、援軍の要請もできません。ならば、私が上庸までかけましょう」

「死ぬぞ」

「死にません。死ぬな、と命令されればこの廖化、決して死にません」

 

 廖化は真っ直ぐに愛紗を見て、そう言った。廖化は、少し涙ぐんでいた。声も震えている。

 

「お願いいたします。この私の命を使ってください。関羽様に目をかけられて幾年月、一度たりとも恩を返せたことはありません。どうかこの私を」

「命を使う、などというな。死なんのだろう、お前は」

 

 愛紗は思わず、顔を綻ばせた。

 融通がきかず、不器用な奴だった。だが、嫌ってはいなかった。だからこそ樊城攻略に加えた。

 時が来れば一角の将にもなれるはずだった。

 

「死ぬな、廖化。生きて上庸までたどり着け。わかったな。関平、兵を二百名選んで決死隊を組織しろ。百を廖化につけよ。お前はもう百を指揮して廖化隊の脱出を支援しろ」

「わかりました」

 

 関平は短く返事をして、すぐに部屋を出て行った。血がつながっていないとはいえ、自分の娘だ。やることはやってくれる。

 廖化は頭を下げた。

 

「必ず、援軍を引き連れて戻ります」

「ああ、待っている」

 

 廖化は小さく頷き、部屋を出て行った。

 一人になった部屋で、愛紗は小さく「さらば、廖化」と呟いた。

 この包囲を二百人で突破できるはずもない。よしんば突破して無事上庸にたどり着けたとしても、上庸の兵は鎮撫に当たる劉封と孟達の三千だけだ。盃一杯の水で大火を消そうとするようなものだ。

 援軍と呼べる規模の軍は益州まで、桃香の下に行かなくては組織できないだろう。

 それでは、とても間に合わない。それに、どの面を下げて桃香に会えるというのだ。与えられた荊州を、みすみす呉に掠め取られてしまったのだ。

 今の自分は、流浪の軍と変わらない。愛紗は沈んでいく日を見ながら、遠い昔――まだ姉妹三人で流浪を続けていた時を思い出した。

 その晩、廖化は兵二百とともに麦城を脱出した。補佐した関平の話によると、少なくても半数以上の兵は討ち取られていたという。あとは、廖化の運だろう。

 

「どこか痛むか?」

「いえ、とくには」

 

 関平の兵はほとんど残っていなかった。ただ九騎、血まみれで城に駆け込んできた。

 二人は城に入ってすぐに死に、他も大小の傷を負っていた。自分を庇ってのことだったと、関平は言った。

 

 

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 包囲を受けてから、十日が過ぎた。水は運よく、古井戸から湧いていた水を沸かして飲むことができた。

 しかし食べるものがない。騎馬を殺して食うしかなくなっていた。

 間諜の報告によると、荊州城は呂蒙の策略で内部反乱が勃発し、その隙を突かれたという。江陵も江安も、補佐する暇もなかったということだ。

 そして本城が落ちたあとは、江陵も江安も降り、無血開城をしてしまった。

 「何故」と愛紗は歯噛みをした。例え荊州城が落ちようとも、江陵と江安が連携すれば十分に時を稼ぐことができたはずだ。

 

「考えても、仕方がないか」

 

 打って出る。それしかない。道はそれしかないのだ。

 愛紗は将達を呼び、軍議を開いた。

 集まったのはたった四人だった。全員疲れ切った様子で、髪は乱れ、服は血と泥で汚れていた。

 

「酷い格好になったものだな」

「何、俺はもともと山賊ですぞ。小汚い格好の方がかえってすっきりします」

 

 周倉はそう言って笑った。まだ若い。溌剌とした娘だった。焼けた肌の所々に包帯が巻いてあり、血がにじみ出していた。

 

「私は慣れていませんがね。さっさと帰って湯あみでもしたいところですな」

 

 王甫は肩をすくめた。凛々しい風貌が評判の、やり手の女文官だった。目の光は強いが、酷いくまができており、頬がこけていた。

 二人も、打って出るという意見は一致していた。

 

「すまん、王甫。お前の諫言を聞いていればこんなことにはならなかった」

「糜芳と傅士仁のことですな。今さら何を言っても仕方ありません。呂蒙が上手かった、としか言いようがないでしょう」

「……そうだな。烽火台まで押さえられるとは、思ってもみなかった」

 

 烽火台とはのろしのことで、荊州に軍勢が侵入すればのろしが数珠繋ぎで上がり、迅速に荊州城の守りを固めることもできた。

 しかし呂蒙はそれを破ったのだろう。荊州城付近まで侵入を許してしまったのが何よりの証拠だった。

 

「ところで関平、趙累はまだか」

「いえ、趙累殿は」

 

 関平が口ごもったのを見て、愛紗は「そうか」と短く返した。

 趙累は武官だが、兵糧収集や地理調査、輸送などが得意な武将だった。

 控えめで、いつも柔和な笑顔を絶やさない、そんな少女だった。

 この麦城の修復は趙累が行っていた。その時は、確かに生きていた。流れ矢か、病か、怪我を負っていたのか。

 もう聞いても仕方のないことだった。

 

「泣かれますか、関羽殿」

「泣くだと? 私が」

 

 愛紗は自分の目に手をやり、始めて自分が涙を流していることに気がついた。

 悲しくて出てきた涙ではなかった。悔し涙でもない。

 王甫は静かに頷いた。

 

「趙累も報われるというものです。もし私が死んでも、涙を流されますかな?」

「滅多なことをいうなよ、王甫」

 

 周倉が眉をひそめた。

 

「……ところで、俺が死んでも泣いて貰えますか?」

 

 そのあとで、照れたように周倉は言った。

 愛紗は涙を拭うとにやりと笑った。

 

「馬鹿者達め。私を泣かせるようなことをするな」

「ご命令とあらば」

「馬鹿者達め」

 

 愛紗が笑うと、関平も声をあげて笑った。

 強者だ。ここにいる者は、皆そうだ。

 そうだ。強者に籠城など、ましてや餓死など似合わない。

 愛紗は腰かけから立ち上がった。

 

「城を出るぞ。全軍出撃だ。永安まで撤退する。降るものは今夜の内に城を抜け出せと伝えよ。ほとんどは荊州兵だ。呉軍も受け入れてくれよう。出立は明朝だ」

 

 三人は短く返事をすると、部屋を出て行った。

 一人になった愛紗は、戸の外から空を見上げた。どこまでも青い、雲ひとつない空が光を放っていた。

 

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 夜が明けた。

 空が白み始めたころに、全軍を編成し直した。残った兵は、三百ほどだった。

 

「一軍周倉。二軍王甫。本隊は私、副将に関平。それぞれ騎馬百だ。一軍二軍は本隊の両脇に着き、小さく固まれ」

 

 三百人も残ってくれた。不満はなかった。琢県で姉妹三人、初めて人をまとめたときは、たった三十人しかいなかったのだ。

 どうだ、姉上。私もやるものだろう。あの時の十倍だぞ。

 懐かしい思いが、湧きあがってくる。

 

「これより、出撃する。北門からだ。かけにかけよ」

 

 愛紗が手をあげると、門が開かれた。

 胸を張れ。全軍三百。強者揃いの、一軍。誰に恥じることがある。

 愛紗が赤兎馬を進めると、関の旗が立てられた。

 城門を出ると、すでに呉は全軍臨戦態勢に入っていた。こちらに対する敬意だろう。あれだけの投降者が出たのだ。これから城を出ると言っているようなものだ。

 

「行くぞ」

 

 愛紗は赤兎馬の腹を蹴った。

 赤兎が、駆け出す。呉軍も槍を構えて突っ込んできた。

 喊声があがり、両軍が、ぶつかる。ぶつかった瞬間に、愛紗の偃月刀は首を三つ跳ね飛ばしていた。

 そのまま駆ける。包囲の中で、一番手薄なところを選んだつもりだったが、それでも壁は厚かった。

 何度も何度も戟と槍が突き出され、そのたびに偃月刀が唸った。

 返り血を浴び、全身が赤く染まった。赤兎の毛も、斑になっていた。

 そのまま、休まず半日ほどかけ、湿地へと出た。

 ぬかるむ足場と半日の疾走では流石の赤兎も潰れてしまう。

 愛紗は一旦赤兎を休ませ、周りを見た。遅れてくる馬の蹄の音が聞こえる。

 愛紗は疲労のたまった腕で偃月刀を持ち上げたが、それは関平だった。

 

「他の者は」

「四散してしまいました……それから」

 

 関平は涙のたまった目を拭った。

 

「一軍は壊滅。周倉殿は武人として華々しい最後を遂げるのをみました。二軍の王甫殿は副将の私を逃がすために森林地帯に留まり抵抗していましたが……あれではもう」

 

 遅れて、騎馬が六騎かけてきた。全員本体の者だった。

 

「関将軍、追っ手が迫って来ております。お早く」

「しかしこの湿地帯では馬が潰れてしまう。お前たちはどうする」

「わたくし共のことは構いません。関平将軍、関将軍のことをお頼み申し上げます」

「わかった。すまない」

 

 六騎の者たちはそれぞれ笑みを浮かべて、馬の腹を蹴り、今来た道を戻っていった。

 

「義母上、馬を降りて渡りましょう。あの者たちのためにも、一分一秒長く生きてもらいますよ」

「関平、しかしもう私は」

「天下の関羽雲長が何を弱気になられますか。義母上が生きてる限りこの雪辱を晴らす機会などいくらでもあるでしょう。私の後を付いてきてください」

 

 言うと、関平を馬を降りて湿地を歩き始めた。愛紗もそれについて歩いた。

 死んだ。死んでしまった。殺してしまったのだ。大切な幕僚を何人も。

 ぬかるむ地面に足を取られる。おとがいを伝ってぽたぽたと雫が落ちた。

 嘘つき達め、私を泣かせるようなことをしおって。あの世に逝ったらこっ酷く叱ってやる。

 

「――関羽」

 

 聞きなれない声で、名を呼ばれた。

 顔を上げると湿地帯の向こうに伏兵が姿を現し始めていた。

 数はおそらく五百ほど。

 

「呂蒙……」

 

 思わず声を上げる。伏兵の更に向こうに、呂蒙がいた。

 

「そうか……わざと北方の兵を薄くして、湿地帯に誘い込んだのか。私は物の見事に計にかかったというわけだ」

 

 愛紗は苦笑した。

 愛紗と関平はざざっと伏兵に囲まれ、動けなくなった。関平が「うぐっ」と涙を流した。

 呂蒙は愛紗を見据えると、当然ごほごほと咳き込んだ。口の端から鮮血が流れ、それを拭って、愛紗に目を戻した。

 愛紗は目を見開いて呂蒙を見た。酷い顔色で目に深いクマが刻まれていた。

 

「貴様が病だと謀られたと思っていたが、本当だったのか」

「そうだ。本当なら寝て養生せねばならぬ体だ。それでもあと一ヶ月か二ヶ月か。それまでに事を済ませるように陸遜とともに動いていた」

「……敵ながら流石だとしか言いようがないな」

 

 愛紗は青龍偃月刀を肩にかけた。それを見て関平が愛紗の前に出て、泣きながら槍を構えた。

 

「答えは聞かなくてもわかっているが……投降してくれないか?」

「ほざくな、呂蒙。突破するぞ、関平!」

「はい!」

 

 呂蒙がすっと手を上げ、無数の刃が繰り出される。青龍偃月刀が唸り包囲していた六人の首が跳んだ。

 そして走る。眼前の敵兵三人を、関平の槍が一人ずつ素早く貫き殺した。

 愛紗の圧倒的な迫力。包囲し直そうとしてきた兵達が体を刻まれ一気に、暴風に巻かれたように吹き飛んだ。

 それに動揺したのか、周りに居た敵兵たちは躊躇して動きを止めた。

 道ができた。呂蒙への一本道だ。

 走る、走る。呂蒙まであと十丈。呂蒙の左右に三人ずつの弓兵が姿を現す。

 あと九丈。呂蒙が手を振り下ろす。六本の矢が放たれた。愛紗と関平は矢を払って、走る。

 あと八丈。弓兵たちが次の矢を準備し、引く。

 あと七丈。次の矢が放たれる。青龍偃月刀で、長槍で叩き落として、走る。

 あと六丈。弓兵たちはまた呂蒙の指示により矢を構える。

 あと五丈。また矢が放たれた。しかし今度は近すぎる。矢を払うことなどできない。愛紗の頬を一本掠め左足を貫いた。関平の左肩と胴にも一本ずつくい込んだ。それでも二人は止まらない。

 あと四丈。ようやく弓兵に動揺がはしり、「危険です! 呂蒙様! おさがりください!」と聞こえた。呂蒙はただ「かまえよ」と言った。すぐに弓兵たちが矢をかまえる。

 あと三丈。関平が立ち塞がるように、愛紗の前に走り出て体を開いた。強烈な風切り音。関平の身体に六本の矢がくいこんだ。

 

「関平!」

「走ってください! 義母上! 走って――」

 

 血を吐き出しながら関平は叫んだ。そしてぐらりとうつ伏せに、泥の中に倒れ伏した。愛紗の目から再び涙がこぼれ落ちた。

 もう自分にも力は残っていない。次の一振りで最後だ。

 あと二丈。弓兵たちは矢を捨て短剣を抜いた。

 

「ああああぁっ!」

 

 愛紗は涙を流し慟哭しながら、青龍偃月刀を振り上げた。

 狙うは呂蒙。あと一丈。敵兵たちが愛紗の懐に飛び込んだ。左右三本ずつ、計六本の刃が胴を貫いた。

 それにかまわず、青龍偃月刀を――最後の渾身の力を込めて――振り下ろした。

 青龍偃月刀が唸り、バシャッという泥の跳ねる音が鳴り――この場での一切の音が止んだ。

 空気が、凍りついた。

 愛紗の渾身の力は――最後の力は――呂蒙の鼻先一寸を掠めて、泥の中に沈み込んでいた。

 短剣が、引き抜かれる。

 愛紗はごほっと血を吐き出しながらその場に崩れ、膝をついた。

 肩で数度呼吸をし、そして――ふっと笑って、愛紗は呂蒙を見上げた。

 凍てついていた空気が、再び流れ出した。

 

「お……お前の、勝ちだ。呂蒙」

 

 呂蒙はどこか寂しげな顔をして、愛紗のそばに歩みを進めた。

 

「関羽、最後に何か……言い残したいことはあるか? 私でよければ、聞こう」

「……では桃香様に――漢中王劉備に『幸福な夢を生きることができた。感謝いたします』と」

「わかった」

 

 呂蒙は、静かに剣を抜いた。

 

「さらば関羽、天下無双の豪傑よ」

 

 呂蒙の剣が、振り上がる。

 

 

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 そして――――巨星が一つ、堕ちた。

 

 

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 書簡を「うむ、うむぅ」と唸りながら片付けていた桃香は突然、目を見開いて、ぴたりと動きを止めた。

 そして真っ青な顔に冷汗を浮かべて、筆を取り落とし震え始めた。

 

「あ……ああ、あ」

 

 同じく書簡を認めていた朱里は首をかしげた。

 

「どうしたんですか? まだまだ書類は……」

「う、うああ、あ、愛紗ちゃんが、愛紗ちゃんが」

 

 ぼろぼろと涙を流し始め、わんわんと泣き始めた。

 朱里は筆を置いて桃香の隣に駆け寄った。

 

「桃香さん? しっかりしてください、桃香さん!」

 

 朱里が揺すっても、桃香は泣き続けた。泣いて、泣いて、その日は暮れていった。

 次の日の桃香はぼおっと心を失ったようになり、それは数日続いた。

 朱里は、どうしたのか医師に見せても身体に問題は見当たらず、食事もほとんど摂らなくなってしまった桃香を心配していたが、その事情を知るのはそのまた数日後、体に無数の傷跡を残し瀕死の状態で廖化が駆け込んできた時である。

 

 

 

 

説明
 このSSは(正史+北方+蒼天航路+妄想)÷4で出来上がった恋姫ベースのSSです。

 ※グロ描写とキャラ死亡描写があります。北郷一刀は出てきません。
 特に愛紗が好きな方、亞莎が好きな方、恋姫無双の設定自体が好きな方はお読みにならないほうが無難です。

 注意の上でそれでもお読み下さる方はまた一つの外史としてお読み下さい。誤字や脱字、矛盾点のツッコミや評価をよろしくお願いします。
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恋姫無双 愛紗 亞莎 半オリジナルキャラクター 

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