「真・恋姫無双 君の隣に」 第66話 |
最悪の報が届き、私達は窮地に陥っています。
平原は間違いなく華によって陥ちてるでしょう、ここまで用意周到な戦略を立てておきながら詰めを誤るとは思えません。
そして水軍が動いているのなら間違いなく延津も抑えられてる筈、これで黄河を渡った軍も実質失いました。
最善の対応を取っていたつもりですが、それこそが逆に華にとって必要な要素だったとは。
「どうすんだ、于吉!」
「于吉さん!」
皆さんがすがる様な目で私を見ます、最悪な状況なのを理解したのでしょう。
私は領土内の全てを脳内に並べ、打てる手を模索します。
まず我々の安全だけを考える籠城戦などは論外です。
前線都市の?は備蓄も多く不落といっていい城ですが、立て籠もっている間に他の領土を全て失うなど本末転倒です。
いま動かねば首脳陣への不信が爆発的に広がり、仲は求心力を失います。
それこそドミノ倒しのように全領土の者達が華に頭を垂れる事でしょう。
打てる手は二つ。
一つは、一刻でも早く袁紹に本拠地の南皮に戻ってもらい、領土の混乱を治める事です。
勿論目の前にいる華軍が黙って見ている訳がなく、敵に背中を見せる退却戦など行なえば多くの兵を失うでしょう。
それに伴い領土も冀州の半分以上に加え幽州の一部を奪われる事になります。
国力は相当落ちるでしょうが、それでも国として戦う力を立て直せる事が出来ます。
もう一つは、
「こうなったら全力で攻めてアニキを捕まえようぜ!大将を倒しちまえば他がどうなってもアタイ達の勝ちだろ?」
「無茶だよ、でも、それが出来たら確かに戦況を引っ繰り返せるかも」
「確かに、今この場でなら互角以上に戦える戦力がある。何より敵の王が直ぐ傍にいるなんて滅多にある機会じゃない」
文醜の発言に顔良と公孫賛が肯定的になります。
その案は的外れなものではなく、私のもう一つの考えと同じです。
「オ〜ホッホッホッホ、一大決戦ですわ、いよいよわたくしの出番ですわね」
総大将の袁紹が乗り気なら私が献策するまでもなく決まりですね。
私としても異論はありません、元々決戦案を薦めるつもりでしたし。
改めて具体的な戦術の為に口を開こうとしますと、
「何を馬鹿な事を言っている!イチかバチかの戦いなど国を背負う者のやる事かっ!」
左慈!!
「袁紹、貴様のすべき事は今すぐ南皮に戻る事だっ!文醜、顔良、公孫賛、貴様等の仕事は袁紹を護る事だ、何を取り違えてる、馬鹿共がっ!」
袁紹達は驚きのあまり呆然と立ち尽くしています。
普段から左慈の発言は傲岸といえますが、ここまで感情の入った言葉は袁紹達にとって初めて耳にする事でしょう。
私とて同じです、但し理由は違います。
発言の内容が信じられなかったからです、あの左慈が自身の都合より国や袁紹を優先した。
決戦を望む袁紹達の考えは希望的観測が多分で、暗闇の中で一縷の光に手を伸ばそうとしているだけです。
そんな甘い状況ではありません、目前の華軍を倒すには相打ちになる位の覚悟がいります。
私が決戦を選んでいたのは、全て左慈の為です。
左慈が北郷一刀と互角に近い条件で戦える事は今後二度と無いと踏んだからこそ。
南皮への退却は現状の仲国にとっては最善と言える手です。
ですがあくまで応急策であり、何らかの幸運に恵まれない限り将来における滅亡は免れないでしょう。
それほど今回の平原陥落は仲国にとって致命傷なのです。
だからこそ私が選ぶ選択肢は最初から決まっていました。
左慈、貴方なら分かっているでしょう。
それなのに、自ら最後かもしれないチャンスを放棄するというのですかっ。
「俺の直属軍が殿をする!于吉、とっとと指示を出せ!」
「左慈・・・」
・・分かりました、それが貴方の意思なのなら。
「袁紹様。断腸の思いでは御座いましょうが、何卒大将軍の言をお聞き届けください。袁紹様が仲国であり仲国こそ袁紹様であって、何者にも代わることは出来ません。御身が御姿を示してこそ私達は戦えるのです」
能力云々はともかく、袁紹という存在は大きいのです。
歴史でも袁紹が存命のうちは官渡の敗戦があっても国を保っていました。
曹操が急速に河北を制圧し始めたのは、実のところ袁紹が死んでからです。
「わ、わたくしは名門袁家の当主で仲国の王ですわよ。逃げる事など出来ませんわ!」
「姫」
「姫様」
「麗羽」
そう言うでしょうね、気持ちは分からないでもありません。
「はい、仰るとおりでしょう。ですが王なればこそ御決断下さい。殿を務める私達に、どうか死をお命じ下さい」
「真・恋姫無双 君の隣に」 第66話
平原の陥落、皆のお陰で最上の結果が出せた。
まだ城の一つを陥としただけで油断は禁物だけど、それでも俺は勝利をほぼ確信してる。
これで泥沼になる戦いを避ける事が出来たと。
本当に感謝する。
後は仲がどう動くかだけど、向こうに選択肢は少なく此方の対応手は数多くあると聞いてる。
既に雛里が準備を始めていて、各将に指示を出している。
そして仲の決断は早かった。
急ぎ軍議を開いて、物見から報告を受けた凪が状況を伝えてくれる。
「一刀様、仲軍が動き出しました。進行方向から察するに向かうは?城ではなく幽州と思われます」
「平原には向かわないか」
「お、おそらく幽州を通って南皮に戻るつもりですね。地理に詳しい白蓮さんがいますから」
雛里から聞いていた予想の一つで驚きは無い。
「殿は?」
「約三万の兵に左の旗が見えたそうです、左慈と直属軍で間違いないかと」
左慈の名が出た事に場に緊張が走る。
「す、少し意外でした、まさか仲国最強戦力を盾にするとは思いませんでした」
「何でだ?強い奴が残った方が被害を減らせるだろ?」
翠の疑問は俺も同じだった。
「ひ、退きながら戦うなんて本来無茶な事で、どんな強兵でも満足に戦うことなど出来ません。し、殿にとって最も大事な事は味方を逃す事で、はっきりと言ってしまえば犠牲の為なんです」
言われてみれば納得だ、戦いにおいて退き続けてたら一方的に攻められるだけ。
しかも勢いづいてる敵が波のように押し寄せてくる。
どんなに強くても何れは波に飲まれる。
それでも、背を向けている味方の為に逃げる訳にはいかない役目。
「翠お姉様はともかく、それくらい向こうも分かってる筈だよね」
蒲公英の言葉に翠の顔がひくついてるけど今はスルー。
「おそらく志願であろうな。絶望的な戦いにおいて頼みとなるのは士気だけだ。無理に命じても直ぐに瓦解するだろう。左慈、敵ながら見事なものだ」
星の賞賛には同じ思いだ、でも、俺は仲を倒す為に此処にいる。
「雛里、皆に指示を!」
「は、はいです。皆さん、お願いしてました通り行動を開始してください。この追撃戦で仲国に止めを刺します」
一年以上かけて立案した仲国攻略案、成功の報告が届いた時は本当に安堵したのです。
ですが喜ぶのはまだ早く、ねねには次の役目があるのです。
陳留城包囲を解いた後、洛陽への入り口である虎牢関の守備に就きました。
策の一つで渡河した仲軍を孤立させたのですが、当然自由にさせる訳にはいかないのです。
二十万という大軍に無秩序な行動を取られましたら、魏国の民はさながら飛蝗の如き災いを受けてしまうのです。
ですから孤立した仲軍に、国に戻る為には華国の洛陽を陥とすしかない、と流言を行い虎牢関へ誘導したのです。
「これが噂の虎牢関か、実際に守る立場に立つと逆に攻める方に同情してしまうの。どう思う、焔耶」
「はい、正直どうやったら陥ちるのか想像も出来ません」
桔梗殿と焔耶殿の感想は至極当然で、ねねも攻める側でしたらきっと頭を抱えてたのです。
反董卓連合戦でも鉄壁の守りを見せて敵を寄り付けさせませんでしたが、今では更に投石機などで防衛施設を充実させてます。
十倍の敵が攻めてきても撃退出来ると確信を持って言えるのです。
「普通の状態なら攻めるのを躊躇するところなのですが、食料の問題がありますので死力を尽くしてくる事も考えられます。お二人とも、油断なきようにお願いするのです」
「うむ、心得ておる」
「分かりました」
後は洛陽におられる月殿と穏殿次第なのです。
大変なのは重々承知ですが、何とか食料を確保して欲しいのです。
敵に与えられる食料があれば、降服を促し受け入れられるのですから。
さ〜てと、寿春に戻ってきたはええけど全力で警戒やな。
一昨年みたいに攻めてこられたら堪らんからな、尤も城壁を高うしたり朱里から教えて貰うた連弩も設置してあるから陥ちるわけあらへんけど。
「真桜、沙和、おかえりなのじゃ」
「お疲れ様でした。後は私が引き受けますので休んでください」
美羽、七乃、出迎えにきてくれたんか。
「おおきにな、でもまだ用事があるからウチも残るわ」
「沙和はないから先に休んでるの〜」
「誰が逃がすかい、アンタも手伝い」
ウチだって休みたいんや、この手は絶対離さんで。
あれ?七乃が溜息連発しとって美羽が慰め取る。
「七乃、どないしたんや?えらい疲れた顔しとるけど」
「いえ、お気になさらずに。そう、何時もの事と言えば何時もの事ですので」
何となく察した。
「・・また大将が何かしたん?」
「・・流石ですね、真桜さん」
「分かったの!また新しい女の人が増えたの」
「違います、雨が降るくらいで一々反応したりしませんよ」
大将に女が近寄ってくんのは天気と変わらんのかい。
「実はその事で紫苑が他国へ赴いておるんじゃ。七乃、別に急な事では無くて以前から一刀に聞いておったのじゃろ?」
「ええ、美羽様。確かに聞いてましたよ、聞いてましたけど少しは自重して欲しいと思うのは許されると思うんです。あの人は、あの人は・・・」
あ〜、七乃をここまで壊す事が出来んのはホンマに大将だけやろな。
それにこれは決まりやな、絶対ウチらもエライ目にあう。
仕事さっさと片付けて風呂ででも詳しく聞こ、多分長なるやろし。
・・話の内容やのうて愚痴を言い合うことで。
大人ってたいへんなんだなっておもう。
お母さんはおしごとでこうしゅうってところまで行くとききました。
さびしくないかといわれるけど、璃々はもう赤ちゃんのおせわができるくらいお姉ちゃんだから、ぜんぜんだいじょうぶなの。
こうしておふろに入ってもじぶんで体をあらえるもん。
おべんきょうもしてるし、おてつだいだってしてるんだから。
だからお母さんくらい大きくなったらお兄ちゃんのおよめさんになるの。
お兄ちゃんはいっぱいいっぱいがんばってるから璃々がささえてあげるの。
お姉ちゃんたちはお兄ちゃんがいないとちょっとだらしないところがあるし。
「止めないで下さい、美羽様。呑まなきゃやってられないんです」
「落ち着くのじゃ、七乃。呑むなとは言わんがせめて風呂から出るのじゃ」
「大将のアホー、ウチだって発明だけが楽しいんとちゃうわ」
「沙和のお肌が痛んだのは絶対一刀様が扱き使うからなの。もっと優しくするべきなの」
「お風呂が酒臭いじょ」
「「「そうにゃそうにゃ」」」
どうして大人のひとはお酒をのんだらだらしなくなるのかな?
お母さんやききょうさんもそうだし。
璃々はお酒をのんでもしっかりしてようとおもうの。
・・そろそろあがろ。
きょうも美羽お姉ちゃんといっしょにねよ。
説明 | ||
華と仲の戦いは一気に加速する。 麗羽たちの打つ手は。 |
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コメント | ||
璃々ちゃん可愛い。そして七乃さん強く生きてください^_^;(vivio) まあ大将軍になって皆に微笑ましい目でも見られたしそれなりに情も湧いたんじゃないかな、左慈なりにだけど(未奈兎) お酒には人をだらしなくさせてしまう成分が過分に含まれてるんです。それこそ老若男女関係なく、ええ、もう。()(M.N.F.) 左慈が自分の事よりも国や麗羽を優先してる、どういう心の変化があったんだ^^;(nao) |
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