紫閃の軌跡 |
〜エレボニア帝国 大陸横断鉄道列車内〜
時は遡って通商会議前日―――アスベルとルドガーを除くリィンらZ組の面々はケルディック駅で合流し、B班が乗ってきた列車にそのままA班が乗り込む形となった。するとクロウがここにいないアスベルとルドガーの話題を唐突に振る。
「しっかし、あの二人が揃ってクロスベル行きたぁ……随伴でクロスベルに行ったトワもそうだけど、よほど信頼されてるのかねぇ?」
「皇族の信頼は得ているだろうな。でなければあの二人があのような扱いを受けることなどないに等しい」
「信頼もそうだけれど、実力は頭一つ以上抜けているからね。ARCUSの連携を使っても食い下がるぐらいにしかならないと思う」
「よ、容赦なく言うよねフィー……」
だが、フィーの言っていることも事実である。ここにいる全員が彼らの実力のすべてを見ているわけではないが、アスベルやルドガーの実力の一端を見ているものとしては、リィンも含め『未熟』だという他ない。
「でも、フィーの言っていることも事実なのよね、実際。教官たちぐらいなら勝てそうだけれど」
「無茶を言ってくれるな……食い下がることはできるだろうが、あいつらは手の内すべてを見せたがるタイプじゃないからな」
「そうね。アタシでも百本勝負で何とか一本いけるかいけないかよ」
「きょ、教官二人して……」
元<執行者>のスコール教官や<遊撃士>休職中のサラ教官ですらそう断言してしまうほどの練度。そうして話していると、長いトンネルを抜け……ガレリア要塞が車窓に見えたのをマキアスが最初に目にするものの、その規模に絶句した。
「なっ……なんだ!?」
「!?」
「噂には聞いていたが、ここまでの規模とは……」
帝国の東方面の要。クロスベルを挟んでその東方に広がる大国カルバードに睨みを効かせるための大規模な要塞。二十を超える師団を擁する帝国正規軍の一大拠点。ここで行われる特別実習の内容……ガレリア要塞のその姿に圧倒されるリィンらに対してサラ教官はこう呟く。
「ここで行われる特別実習はいわば帝国の『力』。それをしっかりと見つめなさい」
〜エレボニア帝国東部 ガレリア要塞〜
軍関係者しか乗下車を許されないガレリア要塞駅。降り立ったリィンらを待っていたのはナイトハルト教官もといナイトハルト少佐であった。元々軍からの出向教官であるだけに、彼ほど最適な人選はいないだろうし、翌日の現状を考えるとガレリア要塞での特別実習は難しい側面もあるのは事実だ。このあたりの実現ができたのは『かの御仁』が関わっている可能性が否めない。
「昼食ののち、特別演習が行われる。お前たちにはその観覧をしてもらう予定だ」
まだ昼食の時間までには時間があるため、軍施設により移動制限はあるものの、リィンらはそれぞれガレリア要塞内を歩くことにした。リィンは一人ガレリア要塞の外でその風景を見つめながら考え込んでいた。
「……(帝国正規軍の一大拠点、か)」
男爵位だった昔とは違い、シュバルツァー家は公爵位を賜った皇族の分家にして<五大名門>の一角。その意味においては養子とはいえリィン自身も“革新派”と“貴族派”の対立と無関係の存在ではないことは理解している。自身の父―――テオ・シュバルツァー公爵も『徒に戦火を煽るようなことは領民の不安を掻き立てるだけだ』と断じ、アルノール家に忠誠を誓いながらも中立の立場を貫いている。では、自身に一体何ができるのか……それはリィンの心の中でも答えは出ていない。
纏まりきらない表情を浮かべるリィンの姿を見たひとりの少女―――リーゼロッテ・ハーティリーが話しかけた。
「あれ、リィンさん。珍しいですね、一人だなんて」
「リーゼロッテか。君こそどうしてここに?」
「なんだか落ち着かなくて……話し相手になってくれます?」
「ああ、俺でよければ」
以前ノルド高原での実習の時、自らの出身をクロスベル自治州であると言ったリーゼロッテ。その彼女からすれば、自分の故郷のすぐ近くにこれほどの大規模な軍事施設があるのだ。落ち着かないほうが無理であるとリィンは推察した。それに誰か話し相手がいたほうがまだいいと考え、二人で立ち話と相成る。
「そういえば、ミリアムの知り合いなのにクロスベル自治州出身って珍しい気がするんだが……いや、別に変な意味じゃないんだけれど」
「リィンさんに言われるとは思いもしませんでしたけど……まぁ、私の場合は偶々運が良かったところもあります」
エレボニア本国からすれば自治州はいわば『辺境』みたいなもの。身分制度が残っているエレボニアならではの問題ともいえる。無論、帝都科学院に最年少入学したリーゼロッテに対して快く思わなかった人間もかなりいたという。だが、それを拾い上げたのが現帝国政府代表―――ギリアス・オズボーン宰相であった。
「私には姉がいますけど、向こうはどう思っていることやらわからないんです……かれこれ十年近く疎遠ですし、そもそも生きているかどうかすら解らなくて」
自分の生まれがクロスベルであることは胸を張って言える。けれども、かの地はリーゼロッテにとっての『枷』でもある。自身の生まれを正確に知らないリィンにしてみれば、故郷を知っているだけ幸せに思えるほどだったが、その言葉を口にはしなかった。
「会いたく、ないのか? リーゼロッテは」
「どうでしょうか……というか、不思議ですよね。今までそんなこと考えたこともなかったのに」
「こうやって現実を目の当たりにすると、誰だって目を背けてきたことを考えたくなるものだと思うさ」
リィン自身でこうならば、似たような立場のユーシスやマキアス、皇族に名を連ねるステラ、軍人を経験しているセリカ、軍人を親に持つエリオット………彼ら彼女らも思うところや考えてしまうのも無理はない。
「でも、誰かに話せるというのはなかなかできることじゃない。それができる強さをリーゼロッテは持ってると思う」
「……ふふっ、確かにそうですけれど……そうやってリィンさんは女性をたらしこんでいくんですね」
「いや、流石にそんなことはないと思う」
「許婚のラウラさんに義妹のエリゼちゃん、ステラさんまで陥落しておいてその言いぐさですか」
「うっ…………少しは考えることにするよ」
話を聞くだけのはずがリーゼロッテに女性関係を指摘される羽目となり、リィンはそう言葉を返すことしかできなかったのであった。ともあれ、少し考えたのちリィンは
「ま、ありがとう。そしたらほかをあたってみるよ」
「いえ、こちらこそ」
リーゼロッテと別れたリィンは他のZ組のメンバーと会話をしてみたのだが、やはりリィンと似たような印象を抱いているものも少なくなかった。まぁ、クロウやミリアムに関してはいつも通りといった感じであったが。
そして14:00。装甲車で案内された演習場には新型戦車と旧型戦車がそれぞれ並べられている。サラ教官とナイトハルト少佐が赤毛の軍服をまとった男性と挨拶を交わす。見るからにガタイの良い体型が“最強”の打撃力を誇る第四機甲師団を率いているだけはある人物―――彼こそがオーラフ・クレイグ中将。エリオットの父親である。軍人らしい厳しい表情がリィンらに向けられ、緊張感が走る。だが、その直後
「よく来たな、エリオットー!」
エリオットの姿を見るや否や、笑顔を浮かべて彼のもとに駆け寄り抱きしめた。これにはあっけにとられる一同。さっきまでの緊張感がどこ吹く風と言わんばかりの雰囲気に、かつて同じ師団長であったセリカが一言。
「相変わらずの親馬鹿で安心しましたよ」
「……お恥ずかしい限りです」
気を取り直して始まった特別演習。新型戦車のお披露目や飛行艇との連携演習。それに合わせて旧型戦車の解体も済ませた形と言えば身も蓋もないのだが。その後の夕食は金曜ということもあってハヤシライスだったのだが……それに喜べるような雰囲気ではない状況であった。
「……」
「あーもう、いい加減暗い雰囲気はやめようよー!」
「とは言われても……」
戦争という事柄において、今まで学んできた知識が何一つ通用しない―――その事実を突き付けられたのだ。学んできたことすべてとは言わないが、個々でできることなどたかが知れているのだと。
「勿論、ここにはいないアスベルやルドガーだって、そのことぐらい重々承知しているでしょうね」
「あ、サラ教官」
「お話は終わったんですか?」
「ええ。クロスベル方面―――通商会議あたりの情報を仕入れてきたわ。テロリストあたりの情報もね」
アスベルとルドガーの素性はサラ教官もよく知っている。Z組に在籍しているメンバーの中では軍隊や組織の“力”の扱い方を心得ているといえるのはアスベル、ルドガー、そしてセリカの三人。そして明日は鍛錬トレーニングに特別講義、さらには『列車砲』の見学と盛りだくさんとなっている。
「そういえば、教官はあの二人のことをご存じなんですか?」
「そうね。列車内でも触れたけれど、あの二人の練度は常識からかけ離れてるわ。そのあたりはリィンにフィー、あんたたちなら解るわよね?」
「ええ、まぁ……」
「正直人間を辞めてるレベルって感じかな」
「に、人間扱いできないって……」
そうとしか表現できない、というほうが正しい。実際のところ、フィーは二年前のとある事件でアスベルと接点を持ったのだが、その時聞いた内容からして自らを拾った団長以上の実力を持っているのでは? という感想しか出てこなかった。リィンはそれ以前からだが、その時点でも常識外れた強さを持っていた。
「だが、あの二人にはいまだにかすり傷ひとつすら負わせられていないのが現状……俺はとうに奴らの実力は認めているが」
「君にしちゃ珍しい物言いだな」
「事実を述べたまでだ。それに、人のことは言えないだろう」
「わ、わかっている! 君に言われるまでもない!!」
しかもほとんどアーツを使わずに得物だけで圧倒している。これでアーツを解禁された日には勝ち目がますますなくなる。その人並み外れた力も戦争の前では無力に等しいのかもしれない。だが、彼らの場合はどうなのだろう。現実問題として、一人対一部隊という大多数の敵相手の戦闘をアスベルはこなしている。<漆黒の牙>すら超えるスピードを持つルドガーが同じ条件で戦ってもこなしてしまうだろう。
「正直、一人で戦況を覆す存在かもね。あの二人は」
「……否定できないのが悲しいことね」
現実味がないのだが、それでも現実にしてしまいそうな二人に対してフィーとサラ教官はそうつぶやくほかなかった。
隣の芝は青い、ってやつですね
閃Vも更新され、ついに空組からティータとアガットが登場……まぁ、大丈夫だよね?(リィン的な意味で)
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第95話 遥かなる壁の向こう | ||
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