魔術士オーフェン異世界編F〜化け物屋敷の戦い〜
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少年に案内されたのは、少年と出会った地点から2分と経たない場所に高い木に隠れるようにして立っていた洋館だった。レインズと名乗った少年の話によれば、この館は彼の住む村では古くからお化け屋敷として子供たちの間では有名な館で、肝試しや探検ごっこの舞台として使われていた。レインズはこの日、姉と友達2人の4人で以前この屋敷で無くした物を探しに来ていたところ、あの異形達に襲われたという。4人とも屋敷内でばらばらに逃げ出して、レインズだけパニック状態の中で幸運にも脱出できたらしい。

「で、そいつらはどこから現れたの?」

両開きのドアを開けると、広いエントランスホールが目に入った。壁際には赤い甲冑が6体並んでおり、正面には2階に通じる大きな階段があった。階段の両脇には一つづつドアが。

「この右の扉を開けたら物置があったんだけど、地下に通じる扉が隠されてたんだ。その階段をみんなで降りたんだけど・・・」

「その階段を降りたら、怪物が・・・って事?」

コクン、とレインズ。よほど恐ろしい目にあったからだろう、その瞳は怯えの色を含んでいた。

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とりあえず中央の大きな階段を上った2人は扉の先にあった6つの扉を開いて次々と開いていた。敵の情報がほしいキリランシェロの提案で、泥棒のように家探しをしているのだが―――

「なんにもないよ〜、お兄ちゃん・・・」

5つ目の部屋の本棚を調べていたレインズが、ベッドの下を覗き込んでいるキリランシェロに報告した。やはり飽きてきたのだろう、その声にはうんざりとしたものが含まれている。

「う〜ん・・・次の部屋で最後か」

「でもお兄ちゃん、この部屋開かないんだよ?最近は変なにおいもするし」

レインズと一緒に部屋を出たキリランシェロとレインズは、最後の部屋の戸の前に立った。

確かに鍵は掛かっていて開かないし、扉の中からは確かににおいが漂ってきていた。

そう、死体が腐ったようなにおいが。

「我踏み入れる招かれざる門」

キリランシェロは開錠の魔術を唱えて鍵を開け、ドアを蹴り飛ばして室内に入る。

「ひっ・・・」

キリランシェロの隣にいたレインズが、その臭いの発生源を見つけて引きつった悲鳴をあげた。その部屋の両隅には大きな棚があり、その2つの棚の間に大きな机と豪奢な椅子が鎮座していた。そしてその椅子に座っていたのは―――

腐りかけた、人間の遺体だった。

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「もういいよ」

キリランシェロはいったんレインズを部屋の外に出して遺体を焼却処理し、再び彼を部屋の中に招き入れた。

「うぇ〜、すごい臭いだったよ・・・」

「でも、手掛かりはつかめたよ」

キリランシェロは遺体の所持品から、いろいろな情報を引き出していた。

「この日記によると、この人はこの屋敷でさっきの化け物みたいなやつらをいろいろ作りだしていたらしい」

「えっ!?」

「目的については記されていないけど・・・この日記が記された最後の日に自分の死を予告したみたいな内容が記されているね」

その最後の日の日付は今から3ヶ月前になっていた。キリランシェロは日記を本棚に戻そうとして―――本棚の隅に意図して作られた小さなスペースがあり、そこに何か光るものがある事に気がついた。

「鍵?」

掴んでみると鍵に札が付いており、そこには『地下2階』と記されていた。キリランシェロはとりあえずそれをポケットに放り込んで部屋を出た。

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カツーン・・・コツーン・・・

大階段の右隣りの戸から入って、隠されていた扉からキリランシェロとレインズは石で造られた螺旋階段を下っていた。階段を降り切った先には同じく石でできたアーチがあり、その先には―――

「お兄ちゃん・・・!」

「こっちを迎え撃つ準備は万端って事か!」

突撃槍を構えて立ちはだかる赤い鎧の怪物が3体と最初に遭遇した紫色の犬の化け物が1匹、さらに、

「新手かよ・・・」

キリランシェロが思わず呻いた先にいたのは、身長2メートルはあろうかという、巨大なゴリラだった。このゴリラは全身を鉄製のアーマーで固め、右手には巨大なハンマーを手に持っている。

まさしく絶体絶命な状況だった。

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「・・・実力において、どう逆立ちしても敵わない相手と戦わなければならない時―――さらにそいつらにどうしても勝ちたい時はどうすればいいと思う?キリランシェロ」

これはかつてキリランシェロの師である大陸最強の黒魔術士チャイルドマンが、キリランシェロに投げかけた言葉である。この時キリランシェロは「わからない」と答えた。これに対してチャイルドマンは肩をすくめてあっさりと言ってのけたのだ。

「イカサマするのさ」

〜魔術士オーフェンはぐれ旅3巻・我が胸で眠れ亡霊より抜粋〜

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「思い出しちゃったな・・・」

「え?」

ぽつりと漏らしたキリランシェロの呟きに、レインズはキョトンとした顔を向けてきた。

「思い出しちゃったからには・・・僕は『機動六課』のキリランシェロじゃない」

キリランシェロは腕を首の後ろに回して、牙の塔の紋章である一本足のドラゴンが剣に絡みついたペンダントを外してレインズの手に預けた。

「お兄ちゃん?」

キリランシェロは、怪訝な表情を浮かべるレインズの頭に手を乗せて話しかけた。

「このペンダントを時空管理局の機動六課の八神はやて隊長に渡してほしい」

レインズの頭から手を放して、続ける。

「そして彼女に、僕の故郷が見つかったらタフレム市のレティシャ・マクレディにペンダントを渡してくれっていう伝言を君に頼みたいんだ」

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「みんなをよろしく!」といってレインズが走り去る音を背に聞きながら、キリランシェロは身構えた。

「覚悟しなよ?僕がお前達を―――」

5体の怪物を睥睨して、キリランシェロは呟いた。

「暗殺(スタッブ)してやる」

説明
少年の姉と友達を助けるために屋敷に侵入したキリランシェロ。彼の前に待つものとは?
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