紫閃の軌跡
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〜エレボニア帝国東部 ガレリア要塞 右翼列車砲格納庫〜

 

リィンらA班の面々と協力者一行は無事列車砲格納庫へとたどり着いた。だが、それを見たリィンは無論のこと、サラ教官やラグナ教官、それにエステルらもその違和感を抱く。

 

「おかしい……起動したというんなら、だれか一人ぐらいはいるはず」

「……みなさん、上です!!」

「っ!!」

 

すると一人の女性が天井から地面に降り立ち、持っている剣で薙ぎ払う。これには先頭を歩いていたリィンとラウラの二人は、ヨシュアの言葉で咄嗟にバックステップして剣の餌食になるのを避けた。これには女性も感心したような表情を浮かべた。

 

「あら、今のを躱すだなんて学生にしてはやるじゃない。それに気配に気付くだなんて流石は<黒牙>、かつて<漆黒の牙>と呼ばれてただけはあるわね」

「……」

「この気配の感じ方……ケビンさんやリースさんに似てるわね……それに」

「やれやれ、大胆不敵といいたいところだけれど、この陣容に一人だけということもではなさそうね」

「うふふ、大正解」

 

すると突如姿を見せたのは五体の大型人形兵器。リィンらがここにくることを見越した上で待ち構えていたというのは言うまでもないだろう。それ以上に、リィンらの左側にいる列車砲の状態にもすぐに気付いた。

 

「どうやら自動発射モードに切り替えた上で、ってわけか。大体あと十分といったところか?」

「察しのとおりよ。すべてはあの元凶を葬り去るため……そのために手段は選ばないわ」

「何ということを……」

 

テロリストのありかたをこれ以上ないほど如実に示している<帝国解放戦線>のやり方を許すことなどできない。これを許せばオルキスタワーにいる各国首脳すら危ない状況なのだ。そしてリィンにとっては、大切な人があの場所にいる。

 

「だからと言って、このようなやり方は許されてはいけない。サラ教官にラグナ教官。エステル、ヨシュア、レン。それにみんな、絶対に列車砲を止めるぞ!!」

『おお!!』

「ふふっ、それでは始めましょうか。“((S|スカーレット))”より“((G|ギデオン))”への手向けとして、あの男に全ての報いの鉄槌を下すために」

 

この戦いは勝つための戦いではなく、あくまでも列車砲の停止。まず五体の人形兵器を確実に葬るため、動いたのはエステル。

 

「はぁぁぁぁっ……せいやぁ!!」

 

気の流れで人形兵器を一か所に引き寄せ、棒術で薙ぎ払う『裂空撃』をさく裂させて“S”と人形兵器を引き離しにかかる。この意図に気付いた“S”が攻撃を振るおうとするも、

 

「おっと、そうは問屋が卸さないわよ!!」

「レンたちを引き離せるかしら?」

「くっ、<紫電>に<殲滅天使>の二人がかりとはね……!」

 

トリッキーな動きを得意とするサラ教官とレンでかき乱し、彼女の得物である法剣の攻撃を抑え込む。その間にエマがクラフトで人形兵器と“S”の解析を行い、相手のウィークポイントを他の味方に伝える。

 

「なら、相手を崩すのは俺の十八番だ。華麗に舞いな!!」

「はああっ!!」

 

ラグナの『ウィークスナイプ』とガイウスの『ゲイルスティング』によって人形兵器を崩す。その次に動いたのはなんとミリアムとユーシスであった。

 

「いっくよー!ガーちゃん、発射!!」

「隙を見せたな、そこだ!!」

 

後先考えないアガートラムのビーム砲によって薙ぎ払い、ユーシスのアーツによって兵器の動きをマヒさせる。そこに続くのはラウラ。

 

「最初から全開で行かせてもらう……せいやぁ!!」

 

Sクラフト<洸刃乱舞>を放つものの、それでもまだ戦闘行為は可能な兵器にだめ押しと言わんばかりに、技を放つのはヨシュア。

 

「行くよ―――秘技『((幻影絢爛|ファントムブレイド))』!!」

 

元々自らで編み出した秘技にさまざまな改良を加えて完成させたヨシュアだけのSクラフトが決まり、人形兵器は完全に沈黙した。その光景に焦りを感じた“S”であったが、そのような余裕などすでになかった。

 

「よそ見は厳禁よ! オメガ、エクレール!!」

「くっ、でもこの程度―――」

「ふふっ、みぃつけた。そぉれ!!」

「!?」

 

サラ教官のSクラフトに対してこらえるものの、その次に姿を見せたのはレン。襲い来る攻撃に“S”は防御するほかないのだが、そこに怒涛と言わんばかりのラッシュ攻撃。

 

「そりゃあああああ!!!」

「ぐうっ!?」

 

闇雲にではなく的確に相手の防御の隙を縫うように繰り出される突きの連撃を繰り出すエステルの『疾風撃』によるダメージを負う。

 

「ふふっ、所詮はその程度だったってこと―――」

「残念ね。リィン、後は任せたわ!」

「えっ」

「ああ、任された!」

 

そう、サラ教官やレン、果てはエステルですら引きつけ役。今回の一連のことで一番憤っているのは他でもなく彼なのだと。その彼ことリィン・シュバルツァーは自らの刃に闘気を集約させる。

 

「―――光よ、我が剣に集え」

 

その刃を構えて突撃するリィン。その振るわれる刃に対して“S”は当然防御態勢をとる。見るからに見え透いた軌道の剣筋だが、その刃は相手の武器など初めからなかったかごとくすり抜け、確実に相手にダメージを与えていく。

 

「斬っ!!」

「くうっ………!!」

 

リィンが先日のアルゼイド侯爵との戦いの中で掴んだ一端をもとに編み出した技―――Sクラフト<残洸(ざんこう)の太刀>を繰り出して、“S”を退けることに成功した。これを好機と見たサラ教官は列車砲に飛び移り、コンソールを操作して列車砲の起動を停止させることに成功。先ほどまで唸りをあげていた列車砲は静かに佇むのみとなった。

 

「ふう……―――はい、サラ・バレスタインです。こちらは無事停止に成功しました。ええ、そちらもお疲れ様です」

「何とかなったみたいだな……」

「ええ」

 

そう言ってリィンらは“S”もといスカーレットのほうを見やる。だが、スカーレット自身は追い詰められたような素振りを見せていないことにラグナ教官は顰めるような表情を浮かべる。

 

「ふふっ、本当に貴方達とは縁があるみたいね。でも、クロスベル方面も含めてすべて“C”の思い描いたシナリオ通り」

「なに?」

 

すると無力化したはずのテロリストらがリィンらの背後にいた。

 

「いけ、同志“S”。必ずやあの男に正義の鉄槌を……」

「ええ、それじゃ女神の下で」

「そうは問屋が卸すと……」

 

逃げるそぶりを見せようとしたところに銃を向けようとした次の瞬間、突如格納庫に響く駆動音。その音源は―――先ほど停止させた列車砲からであった。その異変に驚くリィンらを尻目に、スカーレットは踵を返して列車砲の先端、つまり峡谷に向かって飛び降りる。傍から見れば自殺行為……だが、漆黒の高速飛行艇が横切り、スカーレットは自らの武器を伸ばしてヘリのスキッドに絡ませた。

 

『わが名は“C”。<帝国解放戦線>のリーダーを務めるものである。物足りないかもしれないが、私から諸君らにささやかな贈り物をさせてもらった。この局面をいかに潜り抜けるか、楽しみにさせてもらうとしよう』

 

左翼にいた幹部―――“V”も飛行艇に乗り移り、飛行艇は飛び去った。これでは追撃は厳しい……今はそれよりも兵士らへの対処と再起動した列車砲の対処が最優先だ。ラグナ教官やユーシス、ガイウス、エマの四人が兵士らの対処にあたり、残った面々で列車砲の対処をすることになったのだが……

 

「レン、列車砲のほうは……止められそう?」

「……無理ね。あのお姉さん、どうやら一時停止させた際に再起動するような仕組みが取り付けられたみたい。無理に操作しようものなら自爆するようにも設定されてる」

「なっ……!?」

「そんな……!!」

 

どうやら<帝国解放戦線>にも頭の切れる人物が潜り込んでいたようで、そのプログラムを組んだ人物に対してレンは思わず内心笑みを浮かべたが……不幸中の幸いは再起動したのが右翼の列車砲のみ。左翼は別系統の操作を要することぐらいだろう。無理に操作してガレリア要塞を自爆させればここにいるリィンらは確実にやばい。そのままでもオルキスタワーにいる各国首脳の命が危ない。連絡すればいいのだろうが、そんなことをすればこの事実が周辺諸国にも伝わることは必須。発射の残り時間はあと二分を切った……その中で、エステルはレンに問いかけた。

 

「レン、駆動部を強制的に止めたら、自爆はするの?」

「そうね……操作以外の方法なら自爆はしないはずよ」

「オッケー。なら、試すっきゃないわよね」

「エステル?」

「……!! まさか、アンタ!?」

 

レンの答えを聞いたエステルは自らの得物を手に持つと、ほかの人たちの言葉を聞くまでもなく高く飛び上がった。そして、彼女の持つ棒に神々しいオーラが纏われる。

 

「レイア、技を借りるわよ!! 活心撃・神雷!!!」

 

その一撃は外装を突き破って深く突き刺さり、そこから火花が上がるすんででエステルは得物を引き抜き、左翼側の通路に飛び乗った。爆発するかと思うような被害……だが、右翼列車砲は爆発することなくその駆動を停止させた。タイマーは残り三十秒を示したところで止まり、完全に電源すら落ちた。結果論ではあるが、停止に成功した。

 

「ふう、何とかなったみたいね……って、スコールじゃない」

「エステル!? ……まぁ、あの人物の差し金か」

「相変わらず無茶苦茶するね」

「フィーもこっちにいたんだ」

「……アルゼイド教官。誰なんだ、そいつは」

「カシウス・ブライト中将の娘、といえば解るだろ?」

「………成程」

 

本来ならばいろいろ事情を聴かねばならないはずなのだが、とりあえず列車砲を停止させたことに関してはお手柄というほかない。残るは先ほどやっと無力化した兵士らなのだが、彼らは突如血を吐く。

 

「なっ!?」

「これは……」

 

おそらくは余計な情報を漏らさないための自殺用の毒を予め仕込んでいたのだろう。完全な自爆特攻行為には、信じられないと思う人物もいるだろう。だが、これがテロリストの本質―――たとえ多くの人が捨て石になろうとも、一つの目的のために手段を選ばない連中なのだ。

 

するとエステルの持つオーブメントの着信音が鳴り、彼女はそれを手に取る。

 

「―――もしもし。って、父さんじゃない。そっちは大丈夫? ……うん、こっちは何とかね。あ、その絡みで已む無く列車砲の片方破壊しちゃったってことオリビエに伝えといてくれない? それじゃ」

「エステル、今の相手って……」

「え? うちの不良親父よ。そのせいでアタシなんかいつも『カシウス・ブライトの娘』って言われるんだから」

「っ……エステル・ブライトといったな。第四機甲師団ナイトハルト少佐だ。どうしてこの事実をカシウス・ブライト中将に伝えた?」

 

流石にこれは看過できぬとナイトハルト少佐はエステルのほうを向いて問いただした。

 

「何よ、文句でもあるわけ? 下手すればクロスベルにいた首脳たちが死んでいたかもしれないのよ!?」

「これは重大な国内問題だ。そもそも、たかが一介の遊撃士がこの事に関与していたこと自体重罪―――」

「言っておくけど、アタシやヨシュアに依頼したのはオリヴァルト皇子とアルフィン皇女よ。何だったら直接聞いてみるといいわ。一応父さんにも話は通してるから、今から父さんに通信はつなげるぐらいはするけれど?」

「……中将殿に連絡をつないでほしい」

「はいはい」

 

そしてカシウスとナイトハルト少佐で連絡を取り、あらためてエステルらが皇族からの正式な依頼でここにいることを知り、どうにもいたたまれない表情を浮かべることとなったのであった。

 

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人数が多いと戦闘をここまで端折らざるを得なかったといいますか……ターン制をリアルタイム風に描くというのは難しいorz

エステルがあの場でカシウスに伝えたのは、そのほうが確実にオリヴァルト皇子に伝わると考えたうえともいいますか……まぁ、そもそもその際の責任は問わないと明言していますからね。タワー破壊されたら首脳どころかクロスベルそのものを含め西ゼムリアがパニックになりかねないのは不可避です。

 

それにしても、アッシュの存在がまた謎を呼びそうです。愚連隊という時点で碧の前例がありますからね……あっちは愚連隊というよりは不良グループみたいなものですが。

説明
第97話 考えるよりも先に
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閃の軌跡 神様転生要素あり ご都合主義あり オリキャラ多数 

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