異能あふれるこの世界で 第十六話
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【阿知賀女子学院・麻雀部部室】

 

≪東四局の小走やえ≫

 

−東四局・七巡目―

 

小走『どうした末原さん。異常事態か?』

 

小走『戒能プロの親をしのぎ、赤土先生の親を流して、やっとたどり着いた親だろう。なのに、なんだその絶望に満ちた顔は』

 

小走『やる気のように見えていたが、何が起こった?少々のミスくらいでしていい顔じゃないぞ』

 

小走『あんな顔はインハイの中継以来だ。あの時はなかなかに酷い状況だったと記憶しているが、同じくらいのよろしくない状況に陥ってしまったのか?』

 

 

―七巡目・小走やえ手牌―

 

四五六六七八233(2267) ドラ西

 

 

小走『ならばこの局、私の手が整っているのが幸いとなるか』

 

小走『この手、初瀬のような新入生は面前を貫こうとする。リーチをかけて、一発や裏ドラ期待で高くしようと考える。しかし、だ』

 

小走『その考えは、リスクを背負うことも理解しておかねばならない。特にはるか格上を相手にしている今のような場合、一手の温さで即致命傷という可能性まで考慮しておきたい』

 

小走『よって、柔軟性の高いこの手を面前前提で考えてしまうのはナンセンスとなる』

 

小走『そもそもだ。ピンズの両面を引いてリーチをかけても、出やすい方の1ソウならメンピンの2,000点。シャボを引けばメンタンの2,600点止まり』

 

小走『もし最高の4ソウを引くことができたなら、リーチをかけて出あがり3,900点が確定する。これなら裏ドラで満貫級を狙うのも効果的と言える。しかし、六つある入り目のただ一つを期待して、面前に固執するのはどうだろうか』

 

小走『結局のところ、麻雀は状況次第。面子が格下でリスクを低めに見積もれる状況や、ドラが使えて確定点数を上げられる状況ならば考慮の余地もある。が、ここは見切ってリスクを軽減するべきだろう』

 

小走『もっと単純に考えてもいい。この手には、形が良すぎて安全牌が無いという問題がある。親からリーチでも飛んで来たら即座に詰む。子方のお二方にうっかりなど期待できん。生きる道はあがり切るのみだが、リスクばかりが大きくてリターンが皆無に近い』

 

小走『そんな最悪すぎる追い込まれ方など、ご免被るよ』

 

小走『……』

 

小走『とはいえ』

 

小走『開局前のプランでは、手を伸ばす予定だったのだ。基本的に、手作りが許されるのは末原さんの親か私の親のみ。隙あらばお二方の親でも頑張ってはみるが、手作り一辺倒の戒能プロと得体の知れない赤土先生が怖すぎる』

 

小走『末原さんは暫定トップだが、まだ気にする程の差ではない。最悪、もう一撃くらいならあがられてもいいと思っている。厳しくはなるが、お二方の牽制と考えてしまえば悪くはない』

 

小走『しかし、この手では意味がなさすぎるだろう。リーチ込みでも考えても、2,000点や2,600点止まりの可能性が高い。高め高めに来てもマックスで1,300・2,600。裏ドラでやっと満貫。そこまでいけば意味もあるが、確率が低すぎて期待値がなあ……』

 

小走『親の末原さんが気落ちしている今、私が悠長にしていてはお二方に好き勝手をされるかもしれん。そのリスクに見合うリターンと言えるのか?』

 

小走『……』

 

小走『うむ』

 

小走『こういう時は、場に合わせよう。タンヤオと両面が確定する(5・8)ピンに受けられる牌が出たのなら、リスク回避を優先して仕掛けていく。大きな変化があるまでは、この方針で行こう』

 

小走『共闘したい末原さんの親を流す意思を見せることにはなるが、あんな顔をする状況なら文句もあるまいよ』

 

 

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≪南一局の小走やえ≫

 

東家:小走 21,800  

南家:戒能 24,300  

西家:赤土 24,100  

北家:末原 29,800  

 

 

小走『300・500とはいえ、随分と楽にあがらせてくれる』

 

小走『つまるところ、あのお二方はお互いしか見ていないのかもしれん』

 

小走『東場の大人しさも、お二方が牽制し合った結果と考えてみればどうだ?私たちに無警戒なのも納得ができる』

 

小走『……相手にされていないというのは、あまり気分の良いものではないな。事前の話ではそういう感じでもなかったのだが』

 

小走『くっ。なんだか無性に悔しいぞ。敬愛する方々だからこそ、耐えられぬものもある!』

 

小走『この親だ。この親で一撃を加えることができれば。追われる立場になることができれば、あるいは……』

 

小走『配牌に期待するような麻雀は好みではない。が、ここは……頼むっ!』

 

 

―小走やえ・配牌―

 

七九4中

 

小走『む』

 

7(22)東

 

小走『悪くはないが』

 

五34(6)

 

小走『おっ』

 

(34) 

 

小走『形はよし。ドラがやや難しいか』

 

 

五七九3447(22346)東中  ドラ:九

 

 

 

小走『タンヤオかドラかの選択を迫られそうだ。仕掛けてドラ打ちの食いタンに意味のある状況でもなし』

 

小走『だが役牌が重なってしまえば仕掛けも考えなくてはならん……まだ何も決められんか。ツモ次第、ならば第一打は』

 

 

打:東

 

 

小走『このあたりか。重なれば痛い牌だが、南場なので食われる可能性も少ないし東以外の裏目がない』

 

小走『7ソウや(2)ピンを切りも否定はしないが、状況判断を加味するとやや劣るだろう』

 

 

ツモ:六

 

 

小走『こっちが先か。五六七九の形になったが、ドラの九マンはまだ処理できない。四・七マンや八マン、ドラ引きなどが痛すぎる。点数も欲しい状況だからな』

 

小走『少し悩むが、ここはタンヤオを残しつつ形を良くするための牌も残したい』

 

 

打:中

 

 

小走『単に字牌から切る麻雀というのはお勧めできない。が、取捨選択を吟味した上での打牌であれば良し』

 

小走『初心者を脱したあたりで、急に字牌の大事さに目覚める子もいる。しかし、やはり重なり難い牌ではあるのだ』

 

小走『状況如何によっては、字牌が何枚あろうが切り飛ばさねばならない。無論、その際には危険を承知で行うべきだ。あがりたい親で役牌を切り飛ばす時は、誰かが仕掛けることを覚悟しておくべきだろう』

 

小走『……ああ、しかしアレだな』

 

小走『いつも思うよ。気合を入れた局の無駄ヅモは、メンタルへの負荷がすごい。続けば続くほどに、加速度的な負荷がかかる』

 

小走『どれだけ打っても慣れることはない。恐らくはずっと、苦しみ続けることになるのだろうな。本当に苦しいゲームだよ。麻雀は……』

 

小走『また無駄ヅモか。数牌の八割以上は絡んでくる形なんだが。所詮、私はここまでの打ち手だということなのか?』

 

小走『……』

 

小走『……引いてくれよ』

 

小走『引いてくれっ!頼む!』

 

 

ツモ:(5)

 

 

小走『急所っ』

 

 

打:7      五六七九344(223456)

 

 

小走『こいっ!』

 

 

ツモ:四

 

 

小走『うっ、難しいところを』 

 

小走『いや、うろたえるな!迷うな考えろそして切れ!』

 

 

打:3     四五六七九44(223456)

 

 

小走『いざという時の仕掛けまで考慮して、三面待ちの部分を活かすならこうだ。シャンテンを落とす価値はない。不利のある切り方にも見えるが、ドラの利用やマンズの伸びもある。恐らくはこれが最もバランスが良い』

 

小走『そして、覚悟もしておこう。もしこの判断がミスとなるのなら、私はきっと――』

 

 

―戒能プロ・捨て牌―

(6)七32(8)(8)

二(9)北

 

 

小走『地獄行きだ』

 

説明
対局の模様(小走やえ視点)
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