紫閃の軌跡
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〜クロスベル自治州 オルキスタワー 35F国際会議場〜

 

「失礼します」

「はぁ……なんで私が身内を担がないといけないんだか……」

「ふふ、お前さんからすればそうなるな」

 

扉が開いて入ってきたのはレヴァイス、レイア、マリク。それに続くようにクルルとエドウィン、そしてテラトレイズの六人。このクロスベルを守っている面々の登場もそうだが、それ以上に担がれている人物の姿に一同は驚きを隠せずにいた。

 

(嘘だろ……レイアが担いでいるのって紛れもなく<赤の戦鬼>じゃねーか! それにとなりのおっさんが担いでいるのは<血塗れ>……てことは、<帝国解放戦線>はおろか<赤い星座>まで制圧したってことかよ。クロスベルが本当の意味での魔都になってるじゃねーか……)

 

驚きのあまり開いた口が塞がらないオズボーン宰相の隣で、その光景を見たレクターは内心冷汗が止まらなかった。<驚天の旅人>や<猟兵王>の実力自体その目で見ていても非常識なレベルだというのにだ。

 

『教団事件』の折、操られた警備隊によって強襲してきた装甲車を彼らは何の苦もなく破壊してのけた。戦車ほどではないにしろ、頑丈なその装甲をまるでナイフでバターを切るがごとく……その光景を思い出してしまったほどに。

 

「クロスベルは我が国からすれば経済的繋がりがあるとはいえ他国ですので、王国軍を動かすためには正規の手続きを踏まねばいけないうえに、下手をすれば内政干渉にあたります。なので、偶々親しき友人がクロスベル警察および警備隊にいたので、万が一テロリストの襲撃を受けた際の対処を相談しました。他国を訪れることになるわけですから、身の安全の保証を尋ねるのはごく自然な流れでしょう。その際、我が国がエレボニア帝国より頂いた『テロリストの拘束・処罰権限に関わる委任状』をアルフィン皇女にご助力いただく形で彼らに渡しております」

「!?」

「そうだったのか。というか、いつの間に……」

「先月私の姉―――エルウィンがテロリストに攫われかけた一件は、身内としても…皇族の一員としても看過できませんでした。この件に関しましては、ユーゲント皇帝陛下に意見を仰いだ上で彼らに委任状をお渡しいたしました。とあるお方のやり方を少しばかり真似させて頂いただけですけれど」

 

シュトレオン宰相の言葉にオズボーン宰相はまたもや驚き、オリヴァルト皇子もこれには感心したようにアルフィン皇女のほうへ視線を向けると、彼女はしっかりとした受け答えをしつつも、誰かの受け売りを真似ただけだと説明した。別に帝国政府がテロリストを処刑するために<赤い星座>を雇ったことに対して干渉したわけではなく、あくまでもテロリストの拘束を主眼に置いた形での委任状。それをクロスベルの治安を担う者たちに任せただけだ。

 

「そちらの皇女殿下のおっしゃる通りだ。我々で帝国側のテロリストを拘束したのですが、その際テロリストのリーダーは<赤い星座>によって殺されたどころか、帝国政府の委任状を持ち出してテロリストの移送を妨害したため『公務執行妨害』という形ではあるが、拘束させてもらった」

「で、これが証拠ってことね」

 

レヴァイスの説明に続くようにレイアが担いでいた偉丈夫の大男を皆の目の前に降ろす。そして隣にいたエドウィンが静かに担いでいた少女を降ろした。それは紛れもなくシグムント・オルランドとシャーリィ・オルランドであることにマスコミの面々は面食らうほどだ。大陸を揺るがすほどの実力を持つ<赤い星座>の実力者を退けた事実自体常軌を逸したこと。まるで夢でも見ているかのような騒ぎになっていた。

 

「それで、テロリストらは?」

「はい。彼らが自殺用の手段をもっていない保証がなかったので、厳重な体制で拘置所に移送した上で、必要な処置をとる方針だ。帝国側のテロリストは先ほど述べたリーダーに関しては遺体の回収、残りのメンバーは全員生きた状態で拘束している」

「そうですか……」

「いや、君たちはよくやってくれた。ところで、共和国側のテロリストに関しては?」

 

レヴァイスの報告に対してマクダエル議長とディーター市長が各々言葉を述べる。最良とは言わないまでも結果としてはかなり良いといえるだろう。そこで報告になかった共和国側のテロリストについて尋ねると、マリクが答えた。

 

「帝国側のテロリストが二手に分かれた場合を考え、別の逃走ルートを塞ぐ形で待ち構えていたのですが、一時的とはいえ帝国側と共闘していた共和国側のテロリストが強行突破を試みたため、已む無く拘束しました。その後、<黒月>を名乗る者たちが共和国の委任状を盾にしてテロリストメンバーを一名殺害し、さらには他のテロリストの身柄要求をしてきたため鎮圧いたしました」

「なっ、どういう事だ! 私の親しい友人達にそのような無礼な事をするとは! 事と次第によってはただではすまさんぞ!?」

 

マリクの報告に対して声を荒げるロックスミス大統領。だが、この状況において完全に分が悪いのは大統領に他ならないと言わんばかりに、マリクは説明を続ける。

 

「それに関しましてはお詫びのしようもございませんが、そもそも<黒月>も<赤い星座>同様国際犯罪組織であると関係諸国から連絡を受けていたことは事実ですし、余計な諍いを避けるべく彼らに対して退くよう警告したものの、それを無視して攻撃してきたのは彼らの側です。テロリスト拘束・移送の妨害は立派な公務執行妨害であり事実ですので。そして信頼できる筋から得た情報なのですが……十七年前カルバード共和国領海で起きた<エルテナ号沈没事故>に彼らと当時の共和国政府の内閣が関わっていたという事実が判明いたしました」

「なっ!?」

「!? (その情報は大統領を含めたごく少数しか知らない国家機密クラスの情報じゃない! いったいどこから漏れたというの…!?)」

 

追及を逸らす意味合いも含めての特大級の爆弾投下にロックスミス大統領は顔を引きつらせ、キリカもその情報が公に出てしまったことに対して驚きを隠せない。そもそも<黒月>絡みはきちんと説明をしているので追及を躱す必要などないのだが、これには理由もある。

 

「スウェンド局長、今の話は事実なのでしょうか?」

「はい。こちらでも信頼できる筋から裏取りも既に済んでおります。そういえば、その船にはクローディア殿下のご両親―――ユーディス王太子夫妻が乗船されていたとお聞きしておりますが?」

「ええ。ただ、物心つく前のことでしたし、私自身同行しておりませんでしたので」

「これは、とんだ失礼を」

「いえ、お気遣いなく。寧ろ私の側がその事実を伝えていただいたスウェンド局長に感謝せねばならない立場です」

 

ほぼ確証に近いところに加えてマリクの公式の場での発言で完全に確定。この一件はクローディア王太女だけでなく、クローディアの祖母であり現国家元首のアリシアU世女王にも大きくかかわること。何らかの形で西ゼムリア地方全てのパワーバランスをここで崩す―――これはマリク、レヴァイス、シュトレオン宰相、そしてアスベルの発案であった。そのことに関しては今話すべき内容でもないため置いておくことにする。シュトレオン宰相は彼らのやり取りを見たのち、真剣な表情でロックスミス大統領に向けて言葉を発する。

 

「……ロックスミス大統領。先ほどのオリヴァルト皇子の言葉を借りる形とはなりますが、まさかとは思いたくありませんが、<黒月>を使ってテロリストの処刑の“ついで”に私やクローディア王太女を亡き者にしようとしたのではありませんよね? そうでなくとも、王太子夫婦の件を十七年間秘匿していた事実と此度の一件に関しては我が国に対する“宣戦布告”同然の行為です。その意味が理解できないとは、仰いませんよね?」

「っ………!!」

 

ここでは口にしなかったものの、<百日戦役>と五年ほどのタイムラグがある。そしてその当の出来事においては共和国軍が援軍を出す暇もなかったとされているが、仮に当時の共和国政府中枢部と帝国主戦派の間で何らかの密約を結んでいたのでは、という推測も浮上してくることとなる。後継者の政治的損失は埋められても精神的損失は癒えにくい。一見『点』に見えてもそれが『線』と繋がることもある。仮にその疑惑が白だったとしても、十七年前の時点で共和国政府と<黒月>は何らかの関係を有していたという嫌疑がかかるのは明白。何せ、当のトップが彼らを『友人』と言った事実はここにいる面々全員が耳にしたことなのだから。

 

この状況でレヴァイスは更に一手となる発言を口にした。

 

「オリヴァルト殿下にアルフィン殿下、このような時に確認願いたいことがあるのですが?」

「私とアルフィンに?」

「ええ。実は偶然にも帝国側のテロリストのリーダーが<赤い星座>に殺される前に逃亡した折、何らかの書状を落としたようで。帝国の内情を知っている『友人』に確認したところ、エレボニア帝国に関係の深いものではと述べていたので、皇族であらせられますお二方ならばすぐに解るかと……こちらです」

 

そう言ってレヴァイスがオリヴァルト皇子に一通の封筒を手渡す。封を開けて中身を確認したオリヴァルト皇子の表情は瞬時にこわばるほどの反応を見せた。そのことを少なからず理解しているアルフィン皇女も驚かずにはいられなかった。

 

「!? お兄様、この手紙に押印されている紋章は……」

「ああ……間違いない。カイエン公爵家の家紋だ。(親友が動きを掴んでくれていたおかげで納得はしていたつもりだったけど……いざ目の当たりにすると、ほんと恐ろしく思うよ)この手紙は私の方で預かっても構わないかね?」

「ええ、元々そのおつもりでしたし。ただ、その引き換えという形となりますが……<赤い星座>が拠点としているルバーチェ商会跡地への家宅捜査ならびに一斉摘発の許可をいただけないでしょうか?」

「!?」

「なっ!?」

 

レヴァイスの言葉に対して更に驚きをあらわにするオズボーン宰相とロックスミス大統領。そう、これがマリクとレヴァイスの狙いそのもの。その二つの組織の罪状を明らかにし、クロスベルから完全に追い出してしまうこと。そうなれば元々ルバーチェの地盤を引き継いだ裏の治安維持がかなり安定化する状況に持っていける。

 

「ええ。ユーゲント・ライゼ・アルノールV世の『権限名代』として私アルフィン・ライゼ・アルノールが許可いたします。お兄様も、その方向でよろしいでしょうか?」

「ああ。本来ならば犯人逮捕並びに拘束を帝国正規軍で行わなければならないだけにね。エレボニア帝国の皇帝名代としてこのオリヴァルト・ライゼ・アルノール、クロスベル警察並びに警備隊に対して<赤い星座>の摘発を要請したい」

「ええ、承りました。そして許可に感謝いたします。オズボーン宰相殿にロックスミス大統領殿、国際犯罪組織である<赤い星座>ならびに<黒月>の家宅捜査および一斉摘発をしても構わないでしょうか?」

「………ああ、好きにするがいい」

「……誠に遺憾ながら仕方ない。彼らを捕えて構わん」

 

両国の首脳がそれぞれ険しい表情を浮かべつつも已む無く許可を出したことで、ダムから水が放流されるがごとく一気に慌ただしくなる。その際シュトレオン宰相は各国の報道関係者に言葉をかけた。

 

「そうだ。各国の報道関係者の方々、一通り事態が落ち着いた後で家族構成など必要な情報を教えていただけないだろうか?」

「え? それは一体……」

「なに、今回の出来事を報道させないよう様々な圧力をかけてくることが想定されますので、そのために必要なことですし、教えていただいた情報は厳重に管理させていただきます。あと、私は個人的に遊撃士協会とも伝手がございますが……エレボニアやレミフェリアのほうはそちらでお任せしても構いませんか?」

「ああ、承った。帝国時報の方々の身の安全はアルノール家が保証しよう」

「ええ、そちらは抜かりなく確りと」

「もしもの時は七耀教会をお訪ねになってください。皆様の身の安全を図るようアルテリア本国へと報告することを確約いたします」

 

報道機関の関係者はれっきとした“民間人”。その意味合いでも遊撃士を兼任しているシュトレオン宰相の存在は大きい。それだけでなくオリヴァルト皇子やアルバート大公、そして特使であるライナスも協力姿勢を見せることで存在感を大きくアピールすることにもなる。そののち、大勢の人が動き出して会議室に残ったのは各国首脳にライナス、アリオス、イアン先生とここでの事態を見届けようとしている報道陣であった。その中にナイアルも含まれていることを追記しておく。

 

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流石にロックスミス大統領が『謀略だ!』と騒ぎ立ててもマリクには効きません。これよりも面倒な人間を散々相手にしてきた実績があるのですから。面倒な大人というか、駄々をこねる子供の心を持ったまま成長した見栄っ張りというべきか……どう言おうとも別の意味で失礼だなこれ(ぇ

 

軌跡の中ではひょんなメッセージがキーワードになったりするかもわからないので……これはこれでありかなと。

 

次回、(社会的に)公開処刑の巻なんですが……(当社比的に)でかい楔を打ち込みます。そもそも、エレボニアはリベールに対して二つの借りを抱えることになるんですよね。ハーメルと二年前入れたら四つになりますが。

 

とうとう閃Vはティオとランディも登場ですか…え、ランディ学生なの?

…あの、閃バトルメンバーの出番はリィン、アルティナ以外なしとかはないよね?ね?(一番の疑問)

 

そして、オリヴァルト皇子の説明文の中に気になる文言を発見。原作だとマキアスが『決まりのために継承権から外れる』と言ってましたが、その中には『既に皇位継承権を放棄している』と書かれていることから、文言を信じれば皇子自身が継承権放棄をした意味にも受け取れるんですよね。

 

……まぁ、これで本作の方向性も完全に固まりましたがねw

説明
第99話 追い詰める側と追い詰められる側
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閃の軌跡 神様転生要素あり ご都合主義あり オリキャラ多数 碧の軌跡 

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