司馬日記外伝 究極のメニュー?
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「ね、ねえ!本当に兄さまはこっちなの!?」

「うん!今度こそ間違いないから急いで!」

困った表情を浮かべている流琉の手を引きながら走り続ける。

ここに来るまでにわざと何度も行先を間違え、あちこち連れまわされた彼女の額にうっすらと汗が浮かぶのを見てボクは確信した。

時は来たと。

 

――――ここに辿り着くまでに溜め込んできた静かな怒り。

そう、ボクは怒っていた。

理不尽な暴言に心底怒っていた。

これほどの怒りはいつ以来だろう?兄ちゃんの膝を奪われた時以来だろうか。いや、その時でさえここまでは怒ってはいなかった。

 

 

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「あ、ちんまい子達の食べる方の子だ!」

「ほんとだー。はろはろ〜!」

「…こんにちは」

廊下の向かいからやってきた茶髪と金髪の、自分よりも少しだけ年上らしい女の子達にもうそんなに小さくはないんだけど、とは思いながら会釈を返す。

元気な人は嫌いじゃない。でもこの人達は兄ちゃんがあまり近付いちゃいけないって言ってた人達だ。いや、兄ちゃんだけじゃない。魏中の人たちが『あいつらと関わるな』と釘を刺してくるのでもう耳にタコだ。

悪い人には見えない、と言うか悪い人では無いらしいけれどとても迷惑な人達らしいので、すっと脇を通り抜けようとしたところに声をかけられた。

 

「あっ!ねえこれからあの子のご飯食べるの?」

「…そうですけど」

「そうなんだー、いーなー!」

「あの子のご飯すっごい美味しいよねー!」

「あ、はい」

いつだったか流琉が兄ちゃん(とボク)の為にご飯を作った処にこの二人がやって来て、味見させてと言ってぱくぱく食べ始めたことがあった。

元々多目には作っていたけど兄ちゃんの分が無くなっちゃわないか流琉がハラハラしていたのがありありで、美味しい美味しいと言って食べ続けた二人にもうやめて、とボクが声をかけようとしたところで劉備さまと関羽さんがやってきて二人を連れて行ったので事なきを得た。帰り際に関羽さんが『よそ様のご飯にたかっていないでこの義母の料理を食べなさい』と叱ると、途端にそれだけは許してと泣きながらも引きずられて行ったのが印象に残っている。

流琉の料理が褒められたのでつい甘くなってしまいそうだったけれど、ついて行ってもいーい?と聞かれたら今日は二人分しかありませんから、と断る心の準備をしていたら予想していない、しかも聞き捨てならない方向へと話が流れた。

 

「でもさでもさぁ、おにぎりだけは白蓮さんの方が美味しいらしいよ?」

「あー!そうだねぇ!」

自分の表情が硬くなるのを感じる。

流琉の料理は大陸一だ。華琳さまのも美味しいけど、誰が何と言おうと流琉が一番だ。兄ちゃんだっていつも美味しい美味しいって食べている。何より、ボクは流琉が兄ちゃんの為に一生懸命作ってるのを知っている。作っている最中だけじゃない。暇があれば料理の本を見ているし、試作も重ねて味見役のボクが『これでも充分美味しいよ』って言ってももっと美味しく出来そうだから、と言って研究の手を緩める事はない。

そして、兄ちゃんが食べているのを見つめているその表情。あの優しい瞳に流琉の深い愛情、彼女の料理の絶対的な尊さをボクは確信している。

 

「…そんなことないです」

「え〜?でも、ねェ?あの作り方チョー特別だからさぁ」

「んふふー、そぉだよねぇ?ちょっとあの娘には作るの無理って言うかぁ」

いやらしい目つきで笑い合う二人に、流琉の誇りを傷つけられたように感じる。

「絶対流琉の方が美味しいです。流琉に作れない料理なんてありませんから!」

そうだ。どんな難しい料理だって、華琳さまと同じ料理だって、見た事も無い筈の天の国の料理だって流琉は作ってみせて兄ちゃんを感心させてきた。

 

「えぇー、本当にぃー?」

「無理無理、無理だって♪」

「無理じゃないです!」

「あの娘もきっと出来ない、やらないって言うよぉ?」

「言いません!兄ちゃんの為の料理なら!」

 

ニヤニヤしながら絶対?と念を押してくるのに絶対です、と即答した。じゃあ作り方教えてあげるよ、と言った二人の瞳は邪悪だったと思うけれど、その時のボクはそんな事には思いが及ばなかった。

 

 

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やっと着いた。

白蓮さんに出来て流琉が出来ないなんてはずがない。

 

「えぇっ?ここなの!?」

「うん」

目的地の調理場に辿り着くと、お腹が空いたと言って作り方を教えてもらい、窓の脇に置いておいた御飯釜がほどよく蒸れているのをちらりと確認する。

 

―――でもあの子、絶対やろうとしないんじゃなぁい?

 

やろうとしないのなら手伝ってやればいい。ボクだってお手伝い位なら出来る。

「ほら、ここの窓から見て」

この時間は兄ちゃんは演習の閲覧で、この炊事場の窓から見える閲覧台にいる筈だと言う事は予め調べてある。

「あ、ほんとだ…でも呼んでたんなら向こうまで行かないと」

「おーい、兄ちゃーん!!ほら、流琉も手振って」

「え、うん」

 

流琉が疑問を挟む余裕を与えず、兄ちゃんを大声で呼ぶ。

白蓮さんの作ったそれが美味しいと言うのなら。

流琉が作ったならもっと美味しいはず。

兄ちゃんにとって、誰のものよりも美味しいはず。

流琉が兄ちゃんに手を振るために挙げた右腕の付け根にうっすら汗が浮かんでいるのを一瞬確認すると、湯気を立てる御飯釜から素早く一盛り掬い取り。

 

こぼさないよう、ぺたりと優しくそこへ押し付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みぎゃあああああぁぁぁぁぁっ!!??」

 

 

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「ほ、本当にいいですから!食べなくていいですからそんなの!私別にちゃんと作りますから!」

「…ボクは兄ちゃんに食べて欲しい」

「季衣は黙ってて!」

 

執務室の机を挟み、目の前に立つのは冷水で冷やした手拭いを右脇に挟み、真っ赤な顔して訴える流琉。チラチラと上目遣いでこっちを見るあたりに無意識の葛藤が感じられる。

隣にはその流琉からタンコブをもらった季衣がふてくされて並んでいる。

 

「ま、流琉。季衣は良かれと思ってやったんだし。さっきから何度も謝ってたんだから許してあげなよ」

「…そ、そこはそんなに怒ってはいないんですけど…。とにかくその…」

うん、今目の前に出された具なし海苔なしの御飯の塊ね。

 

(詠)

(何よ)

傍らに立つ詠とアイコンタクトする。

 

(二人からめっちゃ食べて欲しいオーラを感じる)

(食べるんでしょ)

(流琉は食べるのはおかしいけどでも捨てられたらショックって顔に書いてある)

(だから食べるんでしょ)

(いやうんそうなんだけど)

(最近ボク本当にあんた尊敬するわ、主に悪い意味で。お笑い芸人と太鼓持ちを足して二で割らないような皇帝よね)

(悔いはない。ただ後で水持ってきて)

(分かったわ)

 

ため息は見せない。

「ま、これはね。勿体ないし、季衣の気持ちが入ってるから――――」

 

 

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「子義姐さん子義姐さん!さっき天井裏警備から帰って来た周泰が教えてくれたんスけど、一刀兄貴をイチコロに出来るおにぎりの作り方があるらしいッスよ!」

「一刀兄貴これ大好物で、公孫?って奴と典韋って奴がこれ食わして朝までメッチャ可愛がられたらしいッス!で今、一刀兄貴腹減ってるから作ったらどうかって!」

「へ?おいマジかよ、すぐ作るから教えろよ!」

 

 

 

 

 

説明
その後の、とある流琉と季衣です。
白蓮の話ではありません。
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コメント
変態姉妹やりすぎwwだが他の子の可愛い姿が見れるし許す!w(オレンジ)
ああ^〜いいわよゾ^〜(よしお)
こんな子が嫁に来たらどんなにええでしょうな、場を乱すことにかけてはこの姉妹に並ぶのは居ないんじゃないでしょうww(味野娯楽)
某美食家「このおにぎりを作ったのは誰だぁ!?」(牛乳魔人)
腹筋うっすら割れてるそうだから効果薄そう……何か他の極刑を考えて貰わないと(rokueda)
もういっそ後宮追放でいいんでないかね、この姉妹(悠なるかな)
また一刀にあの極刑をやってもらわないといけないのかな?勿論義母様の毎日3食もしないとね^^(GANGAN)
いとも容易く行われる白蓮への風評被害www そして変態姉妹は本当自重しないとね(happy envrem)
まだ脇で良かった・・・(いじり)
変態姉妹マジで自重しろしw(未奈兎)
あぁ、また一刀のBMIが急上昇&BC兵器オチが……(飯坂裕一)
あの馬鹿共が! よくも、魏一の良心っ子の季衣や流琉を弄んだなーーーー!!!!(#゚Д゚)  これは、お仕置きだけじゃ済まさんぞ!!!!!(劉邦柾棟)
これはヒドいwww急いで手を打たないと被害拡大必至だコレw(kazo)
タグ
恋姫無双 司馬日記 近親上等☆姉妹の業も深い いつもの明命 白蓮に襲い掛かる圧倒的風評被害 

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